14・仲間になりたそうにこちらを見ている!
カジノから外に出る。
「んー! それにしても良い天気ですね!」
背伸びをするリリス。
そのせいで大きな胸が強調されてしまっていた。
「ハルビア城か……」
澄み渡る青空。
何気なく見上げたら——そこには帝国を見下ろす、巨大な建築物が見えた。
ハルビア城。
帝王が住み、騎士団も常駐している帝国の象徴である。
「この調子だったら、S級冒険者になってお城に呼ばれるのも近いかもしれないですね!」
リリスが顔を近付けて言ってきた。
——リリスが言う通り、このままクエストポイント上げていきS級冒険者になれば、お城に呼ばれることになるのだ。
そこで直に王様と喋ることが出来、さらに飛行船を貰うことが出来る。
飛行船を手に入れ、悪竜が住むと言われるラフガレント山脈を越えることが出来、冒険の幅が広がるのだが……、
「いや——もしお城に呼ばれることになっても、行かねえよ」
「えっ! 何でですか。お城に呼ばれるんですよ。冒険者にとって、これほど名誉なことはないですよ」
リリスが驚いている。
確かにゲーム時においても、クエストを地道にこなし、お城に呼ばれた時は自分の実力が認められたようで嬉しかった。
飛行船以外にもレアなアイテムを貰うことが出来、『魔王を倒す』という俺の目的を達成するためには、通らなければならない道かもしれない。
しかしそれ以上に、
「城ん中に苦手なヤツがいるんだ」
「苦手なヤツ? アキトさん。お城に知り合いがいるんですか?」
首を傾げる。
——そう、俺が言った苦手なヤツとは、
「ああ。ちょっと騎士団の中にな」
脱ぐ負けイベントとも称されるオルティア騎士のことだ!
イナーク村が滅ぼされようとした時。
全てが終わってから、ノコノコと現れたちょっと間抜けな女騎士。
——俺はこのオルティアのことが、ゲーム時から大の苦手にしていた。
いや必敗勇者をプレイしていくモノの中で、オルティアのことを得意としているモノはいないだろう。
このオルティアはハルビア城の中にいる。
それだけ聞くと、当たり前なことで無害なように思えるが、このオルティア……場所を問わずに下着姿になっているのだ。
「み、見たな! 決闘だ!」
自室で着替えているならまだマシな方。
一回、廊下のど真ん中で着替えていたこともあったらしい。
とにかく、どんなに理不尽なことであれ、オルティアの着替えシーン……つまり下着姿を見てしまった場合。
激怒した彼女から決闘を申し込まれるのである。
そしてこの決闘。
なんと負ければ死んでしまう。
「わたしの剣捌きに付いてこれるかな?」
……ああ!
バルコニーで着替えていて、それをたまたま見てしまって決闘を申し込まれた時のことを思い出したらイライラしてきた。
さらにこのオルティア。滅茶苦茶強く、レベルが150くらいあっても勝つことが出来ない。
魔王を倒す際の平均レベルが150くらいなので……「いや、お前が魔王を倒しに行けよ」と言わんばかりの実力である。
謂わば負けイベント。
魔王を倒せるくらいのレベルがあっても、オルティアには歯が立たない……ということは、スタッフが最初からこれを負けイベントとして作った、と考えるのが自然であろう。
「二度と不埒な真似をするな!」
首を斬り落とされてから、剣先を突きつけてそう叫ぶオルティア。
いやあんたに殺されたから、そんなこと出来ないけどね!
——つまりここまでで俺が何を言いたいのか、というと。
お城で彷徨いているだけで、オルティアの着替えシーンに遭遇し、殺されてしまう可能性を秘めているのだ。
これがオルティアが『脱ぐ負けイベント』『最強の露出狂』という二つ名で呼ばれることとなった原因である。
「……とにかく、俺は城になんか行かない!」
それをいちいち説明しても仕方ないので。
一言でリリスにそう説明する。
「ふーん、まあ生きていれば気まずい人は一人や二人いても可笑しくないですもんね」
バカなリリスはそう言って納得してくれた。
気まずい、というレベルじゃないけどね!
(オルティアに勝ったら、彼女を仲間に出来るという噂もあるが……)
尤もチートを使わない限り、彼女には勝てないと考えられるため、都市伝説的なものだと思うが。
「とにかく武具屋に向かうか」
装備品を整えるため、勝手に付いてくるリリスと共に武具屋へと向かうのであった。
◆
「ふむ、まあこんなもんか」
所狭しと装備品が並べられている店内。
俺は鏡の前に立ち、装備した姿を眺めていた。
「アキトさん! カッコ良いです!」
リリスが手を組んで、キラキラと瞳を輝かせている。
今まで説明していなかったが、今まで元の世界にいた時の服装のままだったからな。
ちゃんとした冒険者らしい服装になっていると、気持ちまで引き締まっていくようであった。
クルリ、と鏡の前で一回転してみる。
腰から下げられた鞘に入った剣の名は『レーヴァテイン』。オードゾックスなロングソードであり、使い勝手もよく攻撃力補正も高い。
鎧に身を包んでしまえば、防御力は高くなるが、敏捷性は著しく下落してしまう。なので籠手と肩当てくらいは身につけているが、他はゲーム時では防御力の補正・優秀なスキルがある、動きやすい服装にしている。
「よし、これでやっと魔王を倒しに行く準備が出来たな」
具体的にはもう一つ工程が必要となってくるわけだが——。
それは今からしていけばいいだけの話だ。
そう思って、早速俺は武具屋から出ようとすると、
「あれ? わたしの装備は?」
リリスの声が後ろから聞こえてきた。
「お前の装備? 別に今でもそれらしい装備はしているじゃないか」
「いや……そうじゃなくて……わたしの装備品は安物ですし。どうせなら装備を新調したいと思いまして。それにこんなセール品で魔王を倒しに行くのは流石に無謀といいますか……」
「セール品だったのかよ」
ふう。
リリスは一体、何を勘違いしているのだろうか。
モジモジと体をくねらせている彼女の頭にポンと手を置き、
「魔王を倒しに行くなんて、そんなことするな。魔王は俺が倒してやるから……今まで世話になった。じゃあな」
そう言って、手を振りリリスに別れを告げる。
——短い間だったが、人と冒険することが出来て楽しかった。
秘宝の洞窟では勝手にリリスが前に躍り出てきて死にかけるし、正直噛ませ犬で役立たずだし、朝起きたら隣で寝ていて無駄にビックリしたし……。
うん、あんまり良い思い出ないわ。
なので別れを惜しむ気持ちもなく、武具屋の扉に手をかけ、
「えーっ! わたし! まだアキトさんとパーティーじゃなかったんですかーっ!」
甲高い声が店内に響き渡った。
チッ……やっぱりそう来るか。
リリスの説得はいくらチートスキルがあっても、難航しそうだ。
俺はスロットを回し続けている最中、ずっと考えてきたことを口にする。
「リリス。俺のためならどんなことでも出来るか?」




