13・カジノを台無しにする
「うぉぉぉおおお!」
——現在、、俺はスロットを回し続けていた。
「お、お客様! 許してください! 店が潰れます!」
服の裾を掴み、涙を流しているのはカジノの店員らしいが、そんなの知ってられっか!
——ここはハビエル帝国のカジノ。
過剰な光や装飾の数々。鼓膜が揺らされ、耳が変になってしまいそうな大音量。
玩具箱を引っ繰り返したような施設。
ゲーム中も圧倒されたが、それが現実のものとなると施設に足を踏み入れただけで射幸心が煽られていくようであった。
スロットの周りには人だかりが出来ている。
「あいつ……何であんなに当てられるんだっ?」
「イカサマだ。そうに違いない」
「いや……店員が負けを認めているということは、イカサマなんかじゃなく……」
「アキトさん。お金儲けってそういうことだったんですね」
周囲から羨望・嫉妬、そして失望の声もちらほら。
しかし知ったこっちゃない!
スロットマシーンにコインを入れる。
スロットが目まぐるしく回っていき、俺は指運に任せて適当に三つのボタンを連射する。
すると『777』の数字が並び、またもや『パンパカパーン!』といった音が流れ、機械が光を発し出す。
「ガハハ! ギャンブル王に俺はなる!」
マシーンから吐き出されていくコイン。
最早、受け皿は機能しておらず、床にも何枚かのコインが落ちてそれを乞食共が血眼になって拾う。
(負けイベントをチートスキルで台無しにする!)
——このハビエル帝国のカジノ。
ゲーム中ではあまりにも還元率が低く、稼ぐどころかどんどんお金が消えていく魔のカジノであったのだ!
そんなカジノに幾多のプレイヤーが挑み、そして散っていったが……、
(しかし今の俺には【女神からの祝福】っていうチートスキルがある!)
幸運になるチートスキル。
これにより、ただボタンを押すだけでコインが増えていく——謂わば流し作業の如く、負けイベントを粉砕しているのだ。
積み重なっていくコインを前にして、俺は俺という自我がなくなっていくようであった。
「お客様—! 勘弁してくださーい! 私には三歳になる子どももいるんですよっ!」
「ガハハ! じゃあ俺がその子どもを奴隷にしてやる。心配するな。金ならたくさんあるから」
店員に向かって、そう言葉を投げかける。
「鬼畜だ……」
「あいつはカジノを支配する、いや——世界さえも掌握出来るかもな」
ガチャガチャと音を奏でながら、自動的に金持ちになっていく俺。
——ギャンブル王の頂は近い。
あれ? 俺の最終目的ってこれだっけ?
山盛りになったコインをトレイに乗せて運搬する。
「ふぇえ……やっぱりギャンブル王には勝てなかったよぉ」
顔が真っ青になった店員の口から魂が抜け出ている。
「全部で200万Gある! アイテムの交換をお願いしよう!」
金があると、ついつい口調まで偉そうになってしまう。
帝国のカジノでは10ミナを1Gにして、ゲームを楽しむことが出来る。
俺は秘宝の洞窟クエストで得た50万ミナを、全てGに換金——5万Gも使って、コインを回し続けた。
回せば回す程、水が流れるようにしてなくなっていく——ゲーム中ではそう称されていたスロット。
しかし!
【女神からの祝福】スキルがある俺は、何と一時間で5万Gを200万Gまで増やすことが出来たのだ。
「ふぇえ……何に換えましょうか?」
最初は抵抗していた店員であるが、最早全てを諦めて話に応じる。
……さて、このGを再度ミナに換金することも出来る。
しかしGだけでしか買えない、貴重なアイテムがカジノにはあるのだ。
カウンター奥の棚を見て、
「一つの武器で七属性が使いこなせる『七徳ソード』も魅力的だが……」
他にも『ふんどし』『黒タイツ』『穴あき靴下』『身長底上げブーツ』『お邪魔なパジャマ』といった一見、役に立たなそうなアイテムが並んでいる。
だが、それらは一部を除いては隠しスキルが備わっている優秀なアイテムであることが多い。
正直、全てのアイテムを交換することも出来るのだが……いくらかはミナに換金して、手元に置いておきたい。
なので俺が選択したアイテムは、
「『エンドレスキー』を貰おう」
ここカジノの中でも最高級品のアイテム。
80万G——ミナに換算すれば、秘宝の洞窟クエストを十回クリアしても、まだ足りない高額のアイテム。
金色で複雑な形をしている鍵をコインと引き替えに受け取る。
「アキトさん。それは何ですか?」
覗き込んでリリスが言う。
このエンドレスキーは——鍵がある扉ならば、全てを解錠出来るチートアイテムなのである。
これがあれば隠し部屋であったり、イベントを簡単に進めることが出来る。
そう説明すると、
「す、凄いんですね! アキトさん。良かったら、わたしにも何か買ってくださいよ」
服の裾を掴んで、リリスが目を輝かせる。
「断る」
「あっ、わたし! あの『緑龍の指輪』っていうのが良いです。キラキラしてキレイですし!」
「断る」
「えー? 買ってー買ってー」
駄々をこねるリリス。
左右に体を揺さぶるリリス……それに連動するように豊満な胸も揺れる。
「そうだ」
そんなリリスを見て、俺はとあるアイディアを思いつく。
「あれなら買ってやってもいいぞ」
アイテムが並んでいる棚を指差して提案する。
「あれは……?」
——俺が指差す方向には一見、水着にも見える装備品が飾られていた。
黒色の水着にタイツ。
さらには装着するウサギ耳まで用意されていて……、
「あれは『バニーガールの衣装』だ」
リリスに向かって、説明してやる。
「ア、アキトさん! 一体何を……!」
身の危険を感じたのだろうか。
リリスが胸を隠すようにして、両腕をクロスさせる。
全く……何を怖がっているんだ。
「断じてエッチなことをしようとして、言っているわけじゃないぞ! あれは優れものなんだ。あんな軽装には見えるが、あらゆる属性の魔法の耐性が付いており、防御力の上昇幅も大きい。
あれを身につけることによって、リリスがまたワンランク上の冒険者を目指せると思うが……」
「ワンランク上!」
「そうだ。出来る女はみんな持っている」
「出来る女!」
説得に考えが揺らいだのだろうか。
リリスの黒目が悩むようにして右往左往している。
——そんなリリスを見て、妄想する。
バニーガールの衣装に身を包んだリリス。
はち切れそうな胸は今にも衣装から溢れてしまいそうだ。
中身が一杯詰まっている果実のような太股。そしてお尻。
黒いタイツは直接、白肌を露わにしているわけではないが、だからこそ余計にエロい。
そしてリリスはこう言うのだ。
『アキトさん……いっつも迷惑かけてすみません。お詫びにわたしを自由にしてください』
「むっほぉぉおお!」
おっと。
思わず、興奮して声を発してしまった。
「アキトさん……」
そんな俺を見て、邪な気を感じたのだろうか。
リリスは後ずさりしながらこう叫んだ。
「変態—っ!」
——結局、バニーガールの衣装をリリスに着させることは出来なかった。
残念。




