9・秘宝を守るボス
リリスを守りながらダンジョンを進んでいく。
「ぜえぜえ……リリス縛りってこんなにきつかったんだな」
こちらが攻撃しようとしたら「危ないので下がっておいでください!」と腕を掴んでくる。いざ攻撃している最中にも「一緒に戦います」とど真ん中に出てくるので、勢い余ってリリスに当たりそうになる。もう来るな戦うなと言っても「アキトさん。冒険者で一番怖いのが慢心ですよ」と下手なウィンクをしてきて決して退こうとしない。
そんなやる気スピリットをこんなところで見せなくてもいい。
「アキトさーん。なかなか宝? っていうのが見つかりませんね。もしかして……違う人が盗ったんじゃ!」
役に立たないくせに口数が多いリリス。
洞窟内部にも慣れてきたようで、キョロキョロと辺りを見渡しながらリリスが歩いている。
そんなリリスに殺意を覚え、今すぐウッドソードで斬りつけたい衝動に駆られてしまう。
「いや……それはない。いや、ないと思う」
「どういうことですか?」
「リリスも冒険者なら分かるだろ。それならクエストが取り下げられているはずだ」
実際、ギルド職員が知らないうちに他の人間が秘宝を盗っている……ということは現実的には有り得るだろう。
しかしゲームの時にはそんなことはなかったし、この世界でも同様ではないかと考えている。
それに……、
「大丈夫だ。心配しなくていい。もう少しで秘宝のある場所にたどり着くから」
「まるで見てきたかのように言うんですね」
見てきたからな。昔の話だが。
「言うの忘れていたが、秘宝の前にはそれを守るボスモンスターがいるんだからな」
「な、なんとっ!」
「そのボスモンスターはレベルも30あり、他のモンスターとは比べものにならない。ここまで言えば、俺が何を言いたいか分かるな?」
「わたしを囮にして逃げる気ですか?」
ああ、それでも良いんだがな。
それじゃあお宝が手に入らないので、
「違う——お前は戦いに参加するな」
「な、何を言っているんですか! 自殺するつもりですか」
「お前が、な」
正直——。
モンスターを倒していくだけで、俺のレベルは現在62。
いくらダンジョンのボスモンスターだろうが、瞬殺出来るレベルになっている。
しかし——それはリリスがいない、という限定を施して。
リリス縛りは生半可なレベル差など覆すのだ!
「ぶっちゃけ、ボスモンスターからお前を守ってやる自信がない」
「わたしがアキトさんに守られる? 何を言っているんですか。今まで散々、わたしの世話になっておいて」
「お前にまだ自覚がないのがビックリだ」
……といってもリリスを守る手段はいくつかある。
リリス縛りを効率的に進めていくのにあたって、とあるプレイヤーが考え出した方法である。
だが、それは出来れば最終手段として置いておきたい。
そんなことを考えながら歩いていると、
「ここ、だな」
通称『秘宝の間』。
開けた場所にたどり着いたのである。
「アキトさん! きっと、あの輝いているものが宝物ですよ」
「知ってる」
リリスが目を輝かせて、開けた間の奥側を指差す。
——箱から光を発していた。
勿論、それはただの箱であり光を発するわけではない。
ゲーム上の演出で光を放っているように見せているだけである。
しかしゲームが現実のものとなったこの異世界で、何の変哲もない(少し大きいが)宝箱が金色に輝いているのである。
「早く回収しましょうよ!」
宝箱に向かって走り出す。
「待て!」
リリスの首根っこを掴み、止めようとしたが遅かった。
開けた間の中央部分がいきなり隆起し出したのだ。
「へ?」
隆起し始めた地面の上に乗っているリリス。
そのまま地面は変形を続け、リリスが振り落とされてしまう。
やがて——それは地面の下から、モンスターが現れたのだと発覚する。
「クレイゴーレム……っ!」
レベル30のボスモンスター。
三メートル程の巨大な体をしており、俺の方が強いはずなのに威圧されてしまう。
「ボ、ボ、ボスですか! アキトさん。ここはわたしに任せてください。凄腕冒険者のわたしがこのボスを——ぐはぁっ!」
何やら戯けたことを言っていたが、後ろからクレイゴーレムの拳が襲いかかり吹っ飛ばされてしまうリリス。
俺の足元へと転がってくる。
「かかかか、敵うわけありませんよ! 早く逃げましょう!」
「たった一発で怖じ気づくなよ!」
といっても、このダンジョンでモンスターを倒すことによってレベルを挙げてきたリリス。
流石に一発では気絶することはなくなったか。
「くるぞっ!」
クレイゴーレムは拳を振り上げ、こちらに突進してくる!
俺はリリスを後ろに放り投げ、クレイゴーレムの前に躍り出る。
ウッドソードを取り出し巨大な拳を受け止めた。
「うぉぉぉぉおおおおお!」
クレイゴーレムの巨大な力。
ウッドソードで抑えているが、少し力を抜けばやられてしまいそうだ。
(いや俺はやられないけど、ウッドソードの方がな……)
この世界では最弱の武器であるウッドソード。
必敗勇者の世界の武器は一つ一つに耐久度がある。
それは使うことによって、どんどんと減っていき、最終的にゼロになった時。壊れてしまい二度と使えなくなってしまうのである。
俺とクレイゴーレムのレベル差は30程。
例えクレイゴーレムの攻撃をくらっても死ぬことはないと思うが……武器を失うのは避けたかった。
「はあっ!」
声を発し、クレイゴーレムの拳を弾く。
クレイゴーレムの巨躯が蹌踉めき、そこに俺は勝機を見出す。
「これで終わりだぁぁああああ!」
何だか気分が盛り上がって、大きな声を出してしまう。
ウッドソードを振り上げ、必殺の一撃をクレイゴーレムに放つ——。
「アキトさん、危ない!」
——のはずだったのに!
無駄に俊敏さを見せるリリスが俺の前に現れた。
「ちょ……お前っ!」
噛ませ犬!
また邪魔したのかよ!
そのまま攻撃を継続していれば、ウッドソードがリリスに当たってしまうので急停止させる。
「グゴォォォォォォオオオ!」
それを見て、クレイゴーレムが咆吼。
振り回した腕がリリスに直撃しそうになる——。
「リリス!」
気付けば名を叫んでいた。
——二発目の攻撃をくらえば、リリスが死んでしまうかもしれない!
その焦燥感が勝手に体を動かしていた。
「石化剣!」
俺はその奥義をリリスの体に向けて放った。
見事、奥義『石化剣』がリリスに直撃し、俺の企みが成功する。
「グゴォォォォォオオオ!」
声だけで尻餅を付いてしまいそうだ。
クレイゴーレムの巨大な腕がリリスへと当たる——。
しかし石化剣によって、石化状態となったリリスにはどのような攻撃でも無効!
石となったリリスが地面へと転がり、その隙に俺は剣の切っ先をクレイゴーレムに向けて突撃させる。
「今度こそ終わりだぁぁああああ!」
ウッドソードが折れながらも、クレイゴーレムの体を貫通する。
レベル62の一撃をくらい、光を放ち巨体が消滅していく。
——こうして俺はダンジョンのボスモンスター、クレイゴーレムを撃破したのである。




