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プロローグ

「よくぞ……ここまで……っ!」


 体から光を放ち、魔王の体が消滅していく。


「やった……とうとうやったんだ!」


 込み上げる達成感。

 数々の苦しい出来事を乗り越え、俺はとうとう魔王を打倒したのだ。

 今までの思い出を振り返り、自然と涙が浮かんでくる。


「俺も……帰らないとな」


 この世界から魔王が完全に消滅していったのを見届け。

 意識が薄くなっていき、ゆっくりと瞼が閉じられていく……。



「ふう! 楽しかった!」


 俺は専用のヘッドギアを外し、そう言った。

 俺は神楽明人かぐら あきと

 どこにでもいる極々普通のゲームが趣味の高校生だ。

 俺がしていたゲームは『メイク・インフィニティ・ブレイズ』。

 今、一番流行っているVRゲームである。

 VRゲームというのは平たくいえば、ヘッドギアを付け、こことは違う仮想現実に身を浸すゲームである。

 つまり……ゲームでありながら、現実さながらの臨場感。感動を得ることが出来るゲームなのである!


「それにしても、魔王を倒したらスタッフロールも何もなしに強制ログアウトだなんてな……」


 ぼそっ、と不満を呟く。

 しかしメイク・インフィニティ・ブレイズの楽しみ方は人それぞれ。

 再度、ヘッドギアを付け、魔王に挑む前のセーブデータを読み込んで冒険を再開しようとする。


「ん?」


 メニュー画面。

 何もない空白の空間に、冒険者『アキト・カグラ』は現れたお知らせニュースに思わず前のめりになってしまう。


「『強くてニューゲーム』『新イベント』の追加……だと?」


 アップロードのお知らせだ。

 俺は迷うことなく、強くてニューゲームという惹かれる項目をタップする。

 ウィンドウが空間に浮かび、そこに文字が表示されている。


「なになに……。


『メイク・インフィニティ・ブレイズをお楽しみ頂きありがとうございます。この度は先日から検討しておりました『強くてニューゲーム』モードが完成しましたのでお知らせ致します。このモードは一度、ゲームをクリアしている方のみ選ぶことの出来るものとなっております。スキルやクリアボーナスを得て、新たな冒険を始めて見てはいかがですか?』


 だとぉっ!」


 それは僥倖である。

 何故ならたった今、魔王を倒して手持ち無沙汰になっていたからである。


「強くてニューゲームといったら、経験値10倍とかに出来るのかな」


 興奮したまま、次のページを開く。

 そこにはいくつかの文字が並んで表示されている。

 右上にはボーナスポイントの文字、そして数値が。

 ボーナスポイントとは、ゲームのイベントをクリアしていく毎に貰える達成度のようなものである。

 ただ単にやり込み要素として存在しているだけだと思っていたが……まさかこんなところで使うとは。


「ボーナスポイントは一杯あるからな。ゲーマーで良かった!」


 友達もろくに作らず、ゲームばかりしてきた。

 特にメイク・インフィニティ・ブレイズにいたっては、サブイベントも含めゲームを網羅にしているのでプロの域に達しているといっても過言ではない。

 ウィンドウには上部に『スキル』、下部には『クリアボーナス』という欄があった。

 まずはスキル欄を見ていく。


「やっぱり強くてニューゲームといったら、経験値上昇でしょ!」


 見ていくと【経験値2倍】【経験値10倍】……さらには【経験値100倍】のスキルもある。

 ボーナスポイントにいたっては、余る程あるので当然【経験値100倍】を選択する。

 その後、他のスキルも習得していく。


「ふう……こんなもんか」


 俺が選んだスキルは【経験値100倍】も合わせて、【即死無効】【女神からの祝福】の三つ。


『【経験値100倍】

 得られる経験値が100倍になる。

【即死無効】

 敵からの即死攻撃が完璧に無効になる。

【女神からの祝福】

 幸運になる。具体的にはアイテムドロップ率100%、ギャンブル運の向上等』


【経験値100】倍以外は地味なスキルだと思われるが、どれも大事なスキルである。

 それについては追々説明していくとしよう。

 次にクリアボーナスの欄を見ていく。


「面白そうなクリアボーナスがたくさんあるな……」


 そこにはネタ的なものも多く含まれている。

 例えば『絶対水着宣言』は主人公や女性のヒロインも含めて全員のグラフィックが水着姿となり、『ハーレム主人公マジ最高』はヒロインの好感度がMAXとなる。

 どれもこれも、一周目とは違う楽しみ方が出来そうだが……。


「やっぱりこれは気になるよな……『異世界転移』」


 一番右端に書かれてある『異世界転移』の五文字。

 説明欄にも


『異世界に転移します。簡単には元に戻れないのでご注意を』


 としか書かれていない。


「ハハハ。消費するボーナスポイントも0だし、完璧にネタボーナスだな」


 相変わらず茶目っ気のあるスタッフである。

 まあ良い。

 このつまらない現実世界に飽き飽きしていて、どうせならゲームの世界に入って『俺TUEEE』したかったところだ。

 ニヒルに笑い、『異世界転移』も選択する。


「さあて……そろそろ新しくゲームを始めるか」


『新しい冒険へ!』をタップ。

『あなたの選んだ異世界転移は、簡単には現実世界に戻れなくなってしまいます。本当に良いですか?』

 はいはい。

 なかなか凝った演出である。

 迷わず『YES』の文字をタップする。


『ようこそ——メイク・インフィニティ・ブレイズの世界へ』


 その瞬間。

 今までとは違った——謂わば魂が引っこ抜かれるような感覚が体中を襲う。


(これは……違う? 一体、何が起こっているんだ!)


 パニックになる。

 身の危険を感じて、すぐにログアウトをしようとする。

 しかしそれをする前に、意識が完全に曖昧となり、目の前が真っ白になっていく——。



 この瞬間——。

 負けイベントが乱立し、『必敗勇者』とも呼ばれるゲームの世界で。

 アキト・カグラとして——後に必勝勇者とも呼ばれる俺の冒険が始まったのである。


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