Sランク試験決着について
とりあえず2日連続更新です
その反応速度の速さに、俺は思わず唖然としてしまう。
むしろ、これが何かの罠だと思ってしまうくらいに。
「あー、今からが本当の勝負って雰囲気だったと思うんだが」
「いやいやいや、なんなのアマルーナ使うとか聞いてないんだけど!?
いくら僕がSランクって言ってもさすがに勝てるわけないんだけど!?」
そのカインドの姿は物凄く哀愁が漂っている。
そして、何か俺はとんでもない思い違いをしているような気がしてきた。
「なあ、アマルーナ」
『なんじゃ?』
「冒険者のSランクとアマルーナってどっちが強い?」
俺は、Sランクの冒険者が4人しかいないと聞き、怪物みたいな力を持っていると知って、想像の中のそいつらを過大評価していたのかもしれない。
そう思ってアマルーナに聞いてみると、アマルーナは案の定特に迷う様子もなく答える。
『妾じゃが?』
「あー、ソウデスヨネ」
『むしろ、この世界で妾よりも強い存在に出会ったことがないの。
勿論、主殿を除いて、の話じゃがな』
つまり、俺の力がかりそめのものだということを除けば、アマルーナは地上に生きている存在の中で一番強いということになる。
………なんか、あんな軽く眷属にしたのが今になってやばい事のように感じてきたぞ。
『じゃが、あのカインドという男。
中々の強者じゃ。
妾でも多少手こずるかもしれん。
だからこそ、一度戦ってみたかったんじゃがのう』
「……ほう」
戦闘狂のアマルーナがカインドと戦いたがっている。
それは、カインドの強さを証明するのにふさわしいセリフだ。
つまり、結論づけるなら、アマルーナは最強だがSランク冒険者もかなり強い、ということになる。
「ねえねえヨエナ君、そろそろその黒竜さん応召すか女の子の姿にするかどっちかにしてもらえないかな??
僕はともかく、観客のみんな気絶しそうだから」
「おっと、悪い悪い」
カインドの言葉を受けて観客席の方を見ると、カインドの言う通りのグロテスクな状態になっている人が大勢いる。
ついでに舞と目が合うと微笑んで手を振ってくれる。
可愛い。
俺はとりあえず試合が終わったため、アマルーナに許可を得て応召。
カインドの元に歩みよる。
「それじゃ、俺の勝ちってことでいいんだよな?」
「もう勝ちっていうか勝負にならないって言うか。
ていうかアマルーナとかどうやって眷属にしたの!?
なんで!?どこで!?やばいよね!?」
カインドが興奮でおかしくなっている。
全部を話すとめんどくさいため適当に流していると、応援席からタウリとみんなが降りてくるのが見える。
「えーっと、ヨエナ君、お疲れ様!」
舞が近づいてハイタッチをしようとしてくる。
まだヨエナと呼び慣れていない感じが出ていて、若干舌っ足らずだ。
なんとなく可愛かったので、ハイタッチのために差し出してきてる手をぎゅっと握ってみる。
「ふぇっ!?ど、どうしたの?」
「や、なんかやりたくなって」
「そ、そっか。それじゃ仕方ないね。えへへ」
握った手を更にぎゅっと強く握り返してくる舞。
両手で恋人繋ぎしているみたいで、俄然幸せな気分をあじわえる。
そんなことを考えながら軽くトリップしていると、ティフィアが恐る恐ると言った感じで声をかけてくる。
「あのー、お師匠様。
タウリさんが来ているのでそのー、それくらいにしといた方が……」
「「あっ」」
俺と舞が慌てて手を離すが時すでに遅し。
タウリは明らかに呆れたような表情を浮かべている。
「とんでもない試合を見せられた後はとんでもないイチャイチャを見せつけられて、俺はどうしたらいいんだよ?」
「いや、どうもしなくてもいいけど」
俺がそう告げると、タウリは「はた迷惑なカップルだ」と悪態を吐く。
「とりあえず、お前がSランクの力を持っていることはよーく分かった。
あんなもん見せられたら、迷う余地もなくSランクに上げるしかねえだろ。
ったく、仕事増やしやがって」
そう言いながらも仕事をしようとしてくれているタウリは普通に良い奴である。
「Sランクに上げる諸々の処理は俺がやっとく。
だから、それを証明するためのカードは後々ギルドまで取りに来い。
いつ出来るかはわからないからちょくちょく顔出せ」
「カード?」
「はぁ、あの野郎、それも教えてねえのかよ」
冒険者がカードを持っているとか、初めて聞く情報だ。
タウリは遠くで笑顔を浮かべていそうな、カルマ王国のギルド長であるウルドに舌打ちしながら説明する。
「カードってのは、Bランク以上のやつが自分の身分を証明したり便宜を図ってもらうためにあるものだ。
特にSランクなんかは影響力もすげえからな。
慎重に扱えよ」
「わかった、色々と助かる」
「それが俺の仕事だからな。
ったく、めんどくせえ立場だぜほんとによ」
文句を言いながらも仕事はできる。
そんな人柄に、俺は好感を覚える。
「話はそれくらいだ。
今日はわざわざ来てもらってすまなかったな」
「あ、そうだ、俺からもひとつ話したいことがあったんだがいいか?」
「ああ、なんだ?」
「『ストルノ荘』のジェストって人の料理について。
あれを教えたのがタウリだと聞いているんだが」
「……ほう、興味深いな。
俺に何を聞きたいのか、そして何を知ってるのか。
いいだろう、今日はやることが増えて忙しいが、明日なら大丈夫だ。
明日、ギルドまで来い。その時に話してやろう」
「わかった」
やはり、この人は何かを知っている。
それが元の世界に帰る手がかりになるのかどうか、それは定かではないが、ほとんど情報がない以上、タウリの手を借りるしかない。
「話は終わったかい?」
「カインドか」
俺とタウリの話が終わるのを待っていた様子のカインド。
初対面でいきなりハルノに告白した時はヤバいやつだと思ったが、話してみると意外と良い奴である。
「いやー、勝ちたかったんだけどね。
ヨエナ君の旅について行きたかったんだけど」
「それにしては諦めるのが早かったけどな」
「あはは、こりゃ手厳しいや」
そうおどけたように笑うカインドに、ハルノが冷たい口調で言う。
「結局、その程度の想いだったってことなんでしょ。
本当に私のことが好きって言うなら、諦めないで最後まで戦って欲しかったかな」
「いやー、あはは」
これにはカインドも返す言葉がなかったようで、ハルノの辛辣な言葉に、好きな相手から言われたということも相まって笑うしかなくなる。
「………うん、そうだね、僕には覚悟が足りなかった。
色んな意味で。
もう少し、頑張ってみるよ」
「まあ、よく分からんが頑張れ。
とりあえず、旅に連れてくって話は無しな」
「さすがに、この状況でそんなこと言えるほど強いメンタルしてないよ」
勝負に負け、ハルノにも口撃され、カインドのライフはもうゼロらしい。
それにしても、ハルノの言い方がいつもよりきつい気がする。
なにか思う所があったのだろうか?
「じゃあ、僕はまた旅に出ることにするよ。
また出会えたら、その時はよろしくね」
「ああ、また会おう」
そう告げると、カインドは軽く手を振りながらその場を去っていく。
Sランク冒険者は放浪人。
普段から様々な場所を冒険しているらしいし、この町で会えたことも奇跡に近いのかもしれない。
そう思うと次に会う機会が来るのかは微妙だが、会ってみたいという気持ちもある。
カインドの性格は、好ましいと思ったからだ。
そうして別れた俺たちが、あんな形で再会することになるとは、俺はまだ知るよしもなかったのだ。




