勲章授与式前日について。
俺が王に何をしたのか。
それを詳しく言うとかなり長くなってしまうので、簡単に説明するとしよう。
俺は勲章授与式が行われる前日の夜中、リースと一緒に城へと向かった。
音を消す障壁の魔法を使って門番に気づかれないように城へと入り、窓から王様の部屋に入り込んだ。
既に夜遅くになっているというのに、王は次の日の勲章授与式のことを考えて憂鬱になっているのか、体を起こして考え事をしていた。
「王様」
「……ん?
って誰だ貴様!どこから入り込んだ!」
真っ暗闇の中、誰かわからない人に突然声をかけられた王は軽くパニックに陥る。
「おい!誰か来てくれ!侵入者だぁ!」
「無駄だ、外に音は漏れないようになっている」
勿論、王が叫び出す対策をしていなかったわけはない。
リースの万能障壁でこの部屋を包んでいるため、どれだけ騒ごうと外に音が漏れることはない。
「ぐぬっ…………貴様は誰だ。一体何が望みだ」
「ふう、最初から素直になれば良かったのに」
「黙れ!私の質問に答えろ!」
俺が少し茶化すと、王は怒りの感情を多分に含んだ声で叫ぶ。
………なんかこれ、俺めっちゃ悪者みたいだな。
調子に乗るのは止めとこう。
「俺の名前は優斗だ。王様もよく知っているな」
「……なっ!」
俺が名前を言うと、王様は先程までの威勢をすっかり削ぎ、言葉をなくす。
俺は身体強化の影響で暗闇の中でも目が見えるので、王がどれだけ顔を青くしているかがわかる。
「いや、そんなに怯える必要はないだろ。
別に、理不尽な追い出され方をしたわけでもないしな」
「……な、なら、何をしにここに!」
「明日の相談だよ」
普通に考えたら分かるだろうに。
こんな、明らかに俺や他の魔物使いを見る目に敵意が満ちていたら誰でも気づくだろう。
……いや、実際はみんな気づいてなかったけどさ。
まあ、それはともかくとして。
「明日の勲章授与式。
そんな鬱な顔で出る気なのか?
国民のほとんどが集まるんだぞ?」
「……ぐっ!」
俺に痛いところをつかれたのか、王は唸りっぱなしで声を発さない。
「まあ、多分魔物使いに何かしらの恨みがあるんだろうけどさ。
俺は魔物使いといっても、異世界人だ。
だから、俺に恨みを向けるのは筋違いだぞ」
俺はさりげなく勇者一向が異世界人であることを伝えるが、そんなことは既に耳にも入っていない様子だ。
「だから、何があったかを教えてくれよ。
じゃないと、俺も何も出来ない」
俺は王の過去に何があったかを聞くために、極力優しい声を出す努力をするが、王は変わらず黙り続ける。
それもそうだ、突然やってきた魔物使いに、心を簡単に許せるわけが無い。
……王の性格的に、これは少し挑発した方が良さそうだ。
「まあ、どうせくだらない理由だろうけどな」
「………っ!」
ピクッと、王の体が震える。
……もう一押しだ。
「大方、魔物使いにプライドでも傷つけられたんじゃないか?
俺の知ってる王様ってのは、基本自己中心的で、プライドの高いやつが多いからなぁ。
たかがそんなことで恨むなんて、王様も-----」
「黙れぇ!!」
俺の言葉を遮って、王様が怒号を上げる。
「お前にわかるのか!友の村が、魔物に滅ぼされた時の気持ちが!」
遂に堪えきれなくなったかのように、王が自分の感情を露呈していく。
「小さい頃からの、かけがえのない、唯一の親友を失った気持ちがわかるのか!」
その声は、まるで怒りの塊だった。
憤怒、悲観、憎悪。
その全てを混ぜ合わせたような感情を、王は次々に叫んでいく。
「そして、その魔物達が全て、魔物使いによって操られていると知った時の、私の気持ちがお前にわかるのか!」
防音障壁を知っているとわかっていても、外に漏れ出さないか不安になるくらいの大声で王は最後にそう叫ぶ。
「……つまり、魔物使いに友人を殺されたと?」
「……ああ、そうだ。私が次期王様と知ってもなお、私に態度を変えずにいてくれた、昔からの友だった」
そう告げてから、再び王は口を閉ざす。
その言葉には、さっきまでとは違う、深い悲しみの感情が含まれていた。
「なるほどな。それは確かに、魔物使いを恨むっていうのもわかる気がするな」
親友の村を滅ぼされる。
もし俺がその立場になった時、その相手を恨まずにはいられるだろうか。
いや、おそらく無理だろう。
「でも、王様の行動は間違っている」
「……なんだと…っ!」
俺の言葉に再び憤りを見せようとした王が、俺の顔を見て声をなくす。
いや、俺の殺気に当てられて、というのが正しいだろう。
それほどまでに、俺は王の勝手な言い分に腹を立てている。
「王様は魔物使いに大事なものを奪われた。
だから魔物使いを恨む。確かに間違ってはいない言い分だ」
「……何を」
「だけどさ。
王様のやってる行動って、その魔物使いとほとんど変わらないぞ?」
「なんだとっ!」
憎き相手の魔物使いと一緒にされる。
その事に怒る王だったが、俺は無視して続ける。
「王様は怒りのあまり、魔物使いを排除しようとした。でも、いくらなんでも『魔物使いを差別する』なんて政策を出したりしたら、私情を挟んでいると周りから思われてしまうだろう。
だから、ちょうど終戦であることを利用して、『弱者を差別する』なんて政策を出したんだろ?」
「………そ、それは……」
どうやら図星だったようで、王は言葉をつまらせる。
俺はその間に、決定打になる言葉を言い放った。
「でもな、その政策のせいで、お前と同じように大切なものを失う人も出たんだよ!」
「な……に?」
「例えばある姉弟。
姉も弟も弱かった、それだけの理由で弟はどこかへ連れていかれ、姉はその弟のために必死に三年間を修行に費やした。
その期間、その姉はどれほど辛かっただろうな」
「……な、な…」
「例えばある宿屋の少女。
誰でも、弱い人でも泊めてあげたいという優しい気持ちがあったせいで、従業員も幸せも、全てを失った。
どうして優しいからって理由で、不幸になってしまったんだろうな」
「……」
「他の人も同じだ。
今上げたのは極端な例かもしれないが、確かにそういう人もいるんだよ。
なのに……どうしてお前だけ被害者ぶってんだよ。
その政策が、どんな影響を与えるのか、お前には分からなかったのかよ!」
「…」
「それにな、そもそも、相手が魔物使いだったからって、全ての魔物使いを恨むこと自体が間違ってるだろ。
お前は、嫌なことをしてきたやつが女だったら、全ての女を恨むのか?要はそういうことだろ。
生まれつきの職業が魔物使いだったとしても、それ以外だったとしても、そいつがどんな行動をするかはそいつ次第だ。
お前の私念のために、他の奴らを巻き込むな!」
俺は久しぶりの怒りと共に言いたいことを吐き出す。
王はしばらく呆然とした後、俺の言った意味を噛み締めたのか、徐々に青い顔を真っ白に染めてゆく。
「わ、私は、なんてことを……。
これでは、これではあの男と同じではないか…」
「だからそう言ったんだろ」
俺がぶっきらぼうにそう言い捨てると、王はこの世の終わりのような表情を浮かべた。
でも、その顔をするのはまだ早い。
「明日の勲章授与式で、国民にそのことを謝罪しろ」
「っ!……だが、そんなことをすれば」
「ああ、馬鹿な貴族達が、これ幸いと下克上しようとするだろうな。
それでも、だからこそ、お前の本心が伝わるんじゃないのか?」
「……それは」
「それに、もしそうなったとしたら、俺が適当に言いくるめてやるよ。
一応俺は、『カラマ王国の英雄』らしいからな」
俺が少しおどけた感じで言うと、王は少し呆けた後、可笑しそうに笑い出した。
「はっは、……そうか、英雄か。
………始めに君が魔物使いだとわかった時は、強い敵意を覚えたものだが、まさかその君に助けられることになるとは。
人生もままならないものだな」
「まあ、俺はあの時外に出たかったから、好都合だったんだけどな」
「そ、そうだったのか…」
王が呆気に取られたように頷く。
「それと、俺のことは優斗と呼んでくれ……ください。君、とか呼ばれるのあんまり慣れていないんで」
「ああ、わかった………って、何故突然敬語なのだ?」
「いや、俺……僕は目上でも、敬意を払う必要のないと思った人には敬語を使わないし、その逆で、敬意を払うべきだと思った人にはちゃんと敬意を払いますよ」
「と、いうことは、前までの私は敬意を払う必要のない大人だったということか……」
「……まあ、そういうことになります」
正直、敬語を使うのは全く慣れていないが、ハルノのお父さんのジェストさんと話した時と同じだ。
どうやら王様も心を改めたみたいだし、偉そうに言う必要も無いだろう。
正直、今更感は拭えないが。
「……その気持ちは嬉しいが、できればユウト殿には普通に話してもらいたいものだな。
対等な立場の相手というのは、さっき話した親友くらいしかいなかったからな」
「………わかった、そうさせてもらうよ」
一度敬語を使い出した手前、戻すのも若干恥ずかしいが、そういう事情なら仕方がない。
前までと同じ話し方に戻すとしよう。
「ま、そういうことで、明日のことは任せてくれ。
だから、王も明日の勲章式では、ちゃんと謝罪するんだぞ。
あ、それと、明日は、俺の名前はヨエナ、嫁はミウでたのむぞ」
「……わかった。
その名前にも、何か理由があるのだろうな。
それと、あの時は心がこもっていなかったからな。
改めて、名乗らせてもらおう。
私の名前はオウマ、カラマ王国の王だ。
これからも、よろしく頼む」
「ああ、俺は芝崎優斗。ギルド名はヨエナ。
これからもよろしく」
俺達は握手を交わす。
そして、オウマはふと気づいたように言った。
「明日、ユウト……ヨエナ殿と一緒に戦った魔物使い全員を表彰したいと思う。
だから、名前を教えてくれないか?」
「ん?どうした、凄い心境の変化だな」
「……今までの分をすべて返すとまでは思わないが、少しでも誠意を見せたくてな」
「なるほど……わかった」
俺はオウマにイノマ達の名前を教える。
そしてその後、結構仲良くなったところで、適当に雑談して宿へと帰った。
そして次の日になった。




