謝罪について。
「それではこれより、此度の戦いにおいての、勲章を送ろうと思う!」
広い広場に密集した大勢の国民を見渡し、王は『音声拡張魔法』を使われた道具でそう言う。
今は11時。
現在広場高台に、俺、舞、ティフィア、イノマ、カールを筆頭にした、魔物を撃退した面子が揃っている。
その高台の端でふんぞり返っているのが貴族で、そして今俺達の目の前で国民に向かって何らかの演説をしているのが王である。
俺と舞以外の面々は、目の前に王がいることにかなり緊張した様子で、肩やら足やらをブルブルと震わせている。
………さて、このまま予定通りに進めばいいが。
「それではまず、イノマ、カール、ティフィア……………」
王がイノマ達の名前を呼んでいく。
俺と舞以外が、緊張した面持ちで1歩前へ出た。
「この度、我が国の危機に率先して立ち向かったこと、そして見事に魔物の大群を退けたこと、私から感謝する」
「い、いえ、そんな、恐れ多いです!」
いつもは綽々とした態度のイノマも、王からの直接の礼に思わずといった様子で謙遜する。
みんな同じような様子を見せているが、ティフィアだけが少し複雑そうな表情を浮かべている。
それも仕方が無いことだろう。
実際に二人は、王の政策のせいで人生を潰されかけたのだ。
だが目の前にいるのは王様、何か言いたくても何も言うことは出来ない。
だからこその複雑な表情なのだろう。
「よって、この場をもって表彰しようと思う!」
俺は着々と進んでいくイノマ達の表彰を聞き流しながら、王の声を聞いている国民の様子を眺める。
その多くは、雲の上の存在である王に尊敬の目を向けながら、俺達に憧憬、及び嫉妬の視線を送っている。
だが、もうじきこの様子が様変わりする時が来るだろう。
俺が心の中で悪い笑みを浮かべている間に、イノマ達の表彰が終わる。
次は俺と舞の番だ。
「では次に、ヨエナ、ミウ」
だが、そう簡単には終わらせない。
俺は王に視線で意思を伝える。
曰く、『早くしろ』と。
それを察した王は、明らかにたじたじとしつつ、少し緊張の面持ちで軽くうなずいた。
「………と言いたい所だが……その前に一つ、私から皆に伝えなければならないことがある」
俺と舞の表彰が始まると思っていた国民は、きょとんとしながら周囲と話し、ざわめき始める。
それが少し落ち着いたところで、王は言った。
「今日、この日までの皆への仕打ち、深く謝罪する!」
その瞬間、時が止まった。
いや、正確にはそう感じられただけだ。
王が謝罪と共に頭を下げた瞬間、全ての国民が、貴族も、例外なしに口を噤んだのだ。
国の象徴たる王の謝罪、その一大事に、数秒の沈黙の後、一斉に国民が騒ぎ出す。
貴族が「一体何を!」とか、「早く頭を!」とか言っているのを敢えて無視しながら、王はそのまま話し始める。
「ここにいるヨエナ、皆の言う英雄と話し、わたしは気づいたのだ。
今まで、どれほどのことを皆にしてきたかを」
その言葉を聞いた瞬間、ハルノやティフィアを含む、国民の視線が俺に集中する。
俺はそのあからさまな反応に軽く苦笑しつつ、王の言葉を待った。
「五年前の終戦の後、この国で始めた政策、弱き者を貶める政策。私はそれが持つ意味を、よく理解していなかった」
あんなに騒がしたかった国民は、皆王の言葉に耳を傾ける。
「いや、正確には、理解していても何も問題視していなかった、と言うべきだろう。
弱い者が妨げられ、貶められていく中で、私はどこかそれを当然だと思っていた。
だが、それも、今回の件で改めることとなった」
まあ、正しくは『昨日の俺との会話で』だろうけどな。
「だからこそ、私はこの場でその事を謝罪する。
そして同時に、『弱き者を貶める政策』から、『弱き者を守る政策』へと変えることにした。
それが私の誠意だからだ!」
そう王が言い切った瞬間、国民は様々な反応で阿鼻叫喚に包まれた。
それを見てほくそ笑む俺に、舞が寄ってきて聞いてくる。
「優斗君、何を話したの?あんなに私達のことを嫌っていたのに」
その質問を聞いていたのか、イノマやティフィアも俺に興味深そうに近づいてくる。
既に勲章授与式はおかしな展開に進んでいるので、少し話しても問題はないだろう。
「わかった、話すことにするよ。
あれは昨日のことだ………」
そして俺は、周りが聞いて呆れるような話をし始めた。
王が頭を下げることがどれほどの一大事が知っているつもりなのでご安心ください