真実について。
「王様を絶対に説得してみせる!」と意気込んで先に戻っていった団長と兵士達を見送り、俺達は街の中を歩いていた。
午前中にも歩いたはずの街並みなのに、そこには人気が全くなく、俺達は不気味さを感じていた。
「優斗君………なんだか静かだね」
「ああ、魔物が襲撃してきたことを知って、逃げ出したのかもしれないな」
いや、それにしても不自然だ。
もし逃げ出したとしてもそう遠くまでは行けないはずだし、既に倒したという知らせも届いているだろう。
なのに何故一人もいないんだ?
「もしかしたら、アルナが何かしたのかもしれないな」
俺は、あの戦場に現れなかったアルナが何かしたのではないかと思い、独り言を呟く。
だが、それはすぐ隣を歩いていた舞にはばっちり聞こえたようだった。
「あの人が?どうして?」
「いや、今回の魔物襲撃はいくらなんでも不自然すぎたからな。本当は明日の予定だったらしいし、魔物の強さもいつもと桁違いだったらしいからな」
俺はそこまで言ってから、「それに」と続ける。
「ティフィアとイノマの話を聞いたら、明らかに二人の話はすれ違っていた。だから、アルナが何かをしたんじゃないかと思ったんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってください!す、すれ違っていたって、一体……」
ティフィアが慌てた様子で聞いてくる。
俺はそれに答える前に、イノマの方に目を向けた。
「イノマ、俺が決勝戦で戦った時、お前に聞いたよな?アルナを知っているかって」
「あ、ああ」
「その時、イノマはそんなやつ知らないって言ったけど、本当のことを教えてくれないか?」
俺が少し強めに言うと、イノマは少しの間顔を伏せた後、意を決したように俺の方を向いた。
「本当はあまり思い出したくないことなんだが……重要なことなんだよな?」
「ああ」
「……わかった、じゃあ、教えるよ」
そう言って話し出したイノマの過去は、思っていたよりも壮絶な過去だった。
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イノマは人間族と獣人族の間に生まれた子である。
異種族の間で生まれた子は、その二種族のハーフになるわけではなく、両親のどちらかの種族が子に引き継がれる。
イノマは人間族として生まれ、イノマの弟のサジクは獣人族として生まれた。
イノマが12歳の頃、つまり今から10年程前に、イノマの両親は重い病にかかった。
イノマは当時9歳のサジクと二人で必死にお金を貯めて医者に見てもらおうとしたが、間に合わず、二人は両親をなくしてしまった。
そこから二人は、生きるために、冒険者になることを決意した。
だが、この時は獣人族等の人間族以外の種族にとっては地獄のような時代。
だから、サジクは周りにバレないように日々フードを被って過ごしていた。
そんな日が一年程続いたある日、二人はある男に出会った。
その男はいやらしい笑みを浮かべて、フードを被ったサジクをジロジロと見たかと思うと、イノマに向かってこう言ってきた。
「弟が奴隷になるのと、二つ程頼みを聞くの、どちらがいい?」と。
何故そのことを知っているのか、何のためにそんなことを聞くのか、色々と聞きたいことがあったイノマだったが、男の言うことを聞く以外に選択肢は無かった。
そこで言われた頼みは二つ。
一つは、サジクを少しの間預からせて欲しいということ。
もう一つはイノマの頭髪を一本貰えないかということ。
後者はともかく、前者はサジクの安全を保障できない以上受けるわけにはいかない。
もちろん害は加えないという男だったが、イノマには到底信じることが出来なかった。
そこで断ろうとしたイノマを遮ったのがサジクだ。
サジクは呆然とするイノマの代わりにその条件を受けてしまったのだ。
何故かと問うイノマに、サジクは「この条件を受けないと奴隷にされちゃうからね」と泣きそうな表情で言った。
イノマには、どうすることも出来なかった。
そこから先はとんとん拍子に話は進んでいき、あっという間にサジクが連れていかれる流れになってしまった。
そして、イノマに暫しの別れを告げ、サジクは男と歩きさっていった。
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「まあ、その後すぐにサジクは帰ってきて、今も普通に生活してるんだけどよ。未だに何のために連れていったのかは分かっていないんだ」
「……そうか。それで、その男っていうのが」
「ああ、別れる前に、自分のことをアルナって言ってた」
イノマの過去の話を聞いて、全員が悲しげな表情で顔を伏せている。
そんな中で、ティフィアだけは別の驚きに包まれていた。
「そ、それって、わ、私と同じ……」
「ああ、ティフィアとほとんど同じ状況だな」
……これで大体の答え合わせはすんだ。
まあ、イノマの過去が思ってたより暗かったことは想定外だったが、殆どが俺の予想とあっていた。
「つまりだ。ここからは俺の予想だが、まずイノマの頭髪をアルナが持っていった理由。これはアルナがイノマの変装をするために用いられたと考えるべきだ。これはイノマも予想してたんだよな?」
「あ、ああ、俺に身に覚えのないことをよく言われたからな。多分そうかなと」
つまり、トーナメントで本物かと聞いて驚いたのは、何故偽物がいることを知っているのか、という疑問からだったわけだ。
「まあ、その変装を何のためにしていたかはまだわからないが、そうすれば全ての辻褄はあう」
そして俺はティフィアに目を向ける。
「結論を言うと、ティフィアが過去に会ったイノマは本物じゃなくて、アルナだったってことだ」
「え……そ、それって……」
「ああ、ティフィアの誤解だったってことだな。それも、全部イノマに恨みがいくようにした、最悪の手口だな」
俺がそう言うと、イノマが慌てたように聞いてくる。
「お、おい、ユウト、それってどういうことだよ」
「ん?ああ、簡単に言うと、ティフィアが昔、イノマに変装したアルナに酷いことをされて、ずっとイノマを恨んでたってことだよ」
「な、なんだよそれ……」
イノマが怒りに打ち震える。
そして、他の全員もまた、似たような感情を表に出していた。
唯一、ティフィアだけは悲しげに俯く。
「と、ということは、私が今日イノマさんに言った酷い言葉は、全部私の誤解から生まれたっていうことですよね?」
その言葉からは深い後悔が漂ってくる。
「まあ、そういうことになるな」
「わ、私なんてことを…」
そう言って深い嫌悪に陥りそうになったティフィアの言葉を俺は遮る。
「何を言ってるんだ。悪いのはティフィアでもイノマでもなくて、アルナだろうが。だから、別に自分を責める必要はない」
「そ、それでも」
「それでも納得出来ないのなら、目の前にいるイノマに謝ればいいだけだろ?イノマは、こんなことで怒るような器の小さいやつじゃないしな」
俺がそう言うと、ティフィアははっとした表情を浮かべてから、イノマに必死に頭を下げる。
俺はそれを見て、ティフィアの性格がようやく分かった気がした。
彼女は優しすぎるのだ。
それこそ、本当は悪くない自分の罪で、自分を壊してしまいそうになるほどに。
実際、この件は完全にアルナが悪い。
俺の予想とはいえ、犯人はほぼアルナだと俺は確信している。
なのに、ティフィアはそれを分かって尚、謝らないと気が済まないと言っているのだ。
正直、その考えは俺にはできないだけに素直に尊敬できる。
俺は感心しながら、同じく悲しそうにしている舞の頭をぽんぽんと撫でて気持ちを落ち着かせる。
俺に出来るのは自分の大事な人を守ることくらいだ。
「それと、アマルーナ」
『なんじゃ?主殿』
「お前を嵌めて俺達を襲わせたのも、アルナだぞ」
『な、何じゃと!?そ、それは誠か?』
「ああ、これは確定だ。実際に、聞いたからな」
『む、そうじゃったのか……。これは確実にアルナとやらをとっちめないといけなくなったの』
と、ここで1つ疑問が生じた。
もし変装に頭髪が必要なんだったら、どうして俺に変装できたんだろうか。
転移直後の抜け毛でも拾ったのだろうか。
それだったらガチでアルナ気持ち悪いけど。
まあ、これはまだ予想の段階だからわからないのも仕方が無い。
とりあえず、だ。
「だから、今回の件は全てアルナという男が仕組んだこと。そして俺達はまんまと騙されたわけだ。
まあ、アルナは次にあった時、確実に始末するから安心してくれていい」
「始末って…」
舞が俺の言葉に苦笑する。
確かに自分でもこの世界に染まった感じはある。
まあ、奴隷やら殺しやらがゴロゴロと溢れている世界だからそれも仕方がないのかもしれないが。
「それでも、俺達はこの国を守りきったんだ。アルナの手から。だから、結局は誇ってもいいと思う。だから、ティフィアもアルナに一泡吹かせたとでも思っていればいい。
あいつは何故か計算が狂うことが一番嫌いっぽいからな」
森の中で読みが外れた時のあの様子は、尋常ではなかったからな。
「それじゃ、そろそろ城に戻ろう。
流石に団長も待ちくたびれてる頃だろうしな」
俺は無理矢理話を戻した。
実は、まだ言っていないこともあったのだが、特に重要なことでもないので今は置いておこう。
まだみんな少し悲しそうにはしていたが、俺の言葉で少しは自身を持ったのか、途中からは普通に話しながら俺達は城へと向かっていった。




