黒竜アマルーナ投入について。
俺が舞達の元に戻ると、イノマ達が一斉に安堵したように息を吐いた。
「はあ、よかった、マジで死ぬかと思ったぜ」
その言葉から察せられる通り、舞を除く全員が窶れた表情を浮かべている。
その周りには、大量の魔物の死体があった。
「おお、かなり倒したな、やるじゃないか」
「いや…これは俺達がやったっていうか」
『私がやったのよー!』
イノマの言葉を遮るようにしてリースが俺の方に飛んでくる。
「そうか、リースか。なら納得だな」
『ふ、ふふん!こんなの、お茶の子さいさいよ!』
普段は頼りないように見えるが、こう見えてAランクの精霊なのだ。
そこらの魔物に引けをとる筈がない。
俺がリースの頭を撫でてやると、リースは照れくさそうにしながらも、嬉しそうに目を細めた。
すると、カリンから念が届く。
『ご主人様、私も頑張りました』
撫でろということなのだろう、必死に主張してくるカリンに苦笑いを浮かべながら、もう片方の手でカリンの背中を撫でてやる。
ちなみにこの間俺が殺気を周り飛ばしているため、近づいてくる魔物はいない。
そんな平和な空間を楽しんでいると、前方から兵士達が一斉にこちらに走ってくるのが見えた。
大量の魔物に追われながら。
「おい!こっちに来い、兵士共!」
俺が呼びかけると、兵士達はなけなしの力を振り絞って俺達の方に走ってくる。
俺はリースに、あの魔物達がこちらに入れないように障壁を張ってくれと頼み、兵士達を受け入れる。
「はぁ、はぁ」
「た、たすか、ったのか」
息絶え絶えな様子の兵士達を舞が回復魔法で回復させると、ティフィア達が驚いたような顔を浮かべた。
「凄いですね……マイさん、回復魔法を使えるんですね」
話に聞いてみると、どうやら回復魔法を使える人間はかなり少ないらしい。
回復させる概念を想像すればいいだけなのになぁと思うが、こっちの世界の人間にとってはそれが難しいのだろう。
俺がその話を聞いている間に回復したらしい団長が、俺に尋ねてくる。
「それで、俺達を退かせてどうするつもりなんだ?何か策があるんだろうな?」
何を当たり前なことを、と思うが、常識的に考えたら、この状況を覆すことは不可能だ、と考えるのが普通だろうと思い直す。
「ああ、その為に兵士達を退かせたんだしな」
「そうか……それで、その策というのは?」
「俺の魔物で一斉に滅ぼす」
俺が即答すると、団長も兵士も全員ポカーンとした表情を浮かべた。
「えっと……それは冗談、か?」
「何言ってんだ、こんな時に冗談なんか言うわけがないだろう」
あくまで真顔で返すと、団長は絶望の表情を貼り付かせ、もう一度魔物の方に向かっていこうとした。
「いや、おいおい、何故もう一度向かおうとする。死にたいのか?」
俺が慌てて止めると、団長は死を覚悟した表情で振り向いた。
「何を言っている、俺達が死ぬことで国民が助かるのなら本望だ」
「いやだから、俺の話を聞けっての」
「そんな馬鹿な話を信じるやつがどこにいる。お前が魔物使いだと知っていれば退くことも無かったものを」
悔しさで歯ぎしりする団長を見て、ああ、こいつもやっぱり法に縛られてる類のやつか、と俺はため息をつく。
「はぁ、まあ、そう思うのも仕方ないか……あの王の傍に普段いるんだしな。でも、今は俺の指示に従ってもらうぞ」
「何だと?誰が魔物使いなんかに---」
「その魔物使いに助けられたのはどこのどいつだ?」
俺が鋭い視線を向けると、団長は反論の仕様がなく押し黙る。
「とりあえず、一旦その様子を見て、それで無理そうだったら直ぐに向かえばいいだろ?」
「……まあ、それならいいが」
「ならこの話は終わりだ。時間が勿体ない」
俺は徐々に近づいてきている魔物の大群に目を向ける。
このままでは数分と持たずに国は魔物に占領されてしまうだろう。
「とりあえず、ティフィア達と兵士達は俺が取りこぼした魔物を倒してくれ。舞とリースはその援護を頼む」
「は、はい、わかりました」
「うん、任せて」
『ふっ、私に任せなさい!』
全員が頷いたのを見て、俺はリースの障壁の外に出る。
近くにいた魔物が一斉に襲いかかってきたが、それを回し蹴りで一蹴する。
当然のように眷属にするかの質問は『いいえ』である。
「お、おい、お前、本当に魔物使いなのか?」
イノマが呆れたように言ってきたのに対し、俺は首をひねる。
「何言ってるんだ?俺が魔物を眷属にしているのは分かってるだろ」
「い、いや、だってよ、Dランク級の魔物を一瞬で倒すって……普通は出来ないだろ」
ん?
イノマが何を言っているのかがわからない。
「いや、お前もC+ランクの魔物を眷属にしたんだったら、それくらいはできるだろ?」
俺がそう言うと、今度は逆にイノマが「は?」という表情を浮かべた。
「そんなの、寝ているとこを隙ついて罠で倒したに決まってるだろ」
「え?そうなのか?真正面から殴り合うんじゃないのか?」
俺の言葉に今度こそ言葉も出ないようだ、一様に唖然とした表情をしている。
「とりあえず、今はそんな話をしてる場合じゃないから、話があるんならまた後でな」
「お、おう」
まだやや信じられない様子のイノマ達を放置しつつ、俺は魔物を減らしていく。
………そろそろいいかな?
「それじゃ、始めるぞ」
全員が頷いたのを見て、俺はあいつを召喚する。
「『召喚』“アマルーナ”」
空間が歪む。
その中から出てきたのは
幼女だった。
「おい」
俺が思わず突っ込むと、アマルーナは不服そうに言う。
『主殿、妾を竜の姿で呼びたいのであれば名前に『黒竜』をつけてくれ』
「ああ、そういうのも関係あるのか」
どうやら、『アマルーナ』で召喚すると前に応召した状態で出てき、『黒竜アマルーナ』で召喚すると竜の姿で出てくるらしい。
何が出てくるのか期待していたのだろう、イノマ達の表情が面白いことになっている。
「すまん、ちょっとミスったから仕切り直しだ」
そう言って俺はアマルーナを応召する。
「それじゃ、始めるぞ」
俺がさっきのを無かったことにしたいと分かったのか、イノマ達は戸惑いながらも頷く。
よし、今度こそ。
「『召喚』“黒竜アマルーナ”!!」
俺の右側からさっきと比べ物にならない大きさの空間の歪みが生じる。
そしてその中から、一体の黒竜が飛び出した。
その威圧感に呑まれたのか、魔物達は一斉に動きを止め、体をガタガタと震わせる。
それはこっちの仲間も同じだった。
舞とリースは大丈夫だが、イノマと団長は腰を抜かし、その他男性陣はもれなく気絶している。
ティフィアに関しては失禁までしてしまっている。
これは少し配慮にかけたかなぁと俺が少し後悔していると、腰を抜かしたままのイノマがなんとかという感じで俺に聞いてくる。
「ゆ、ユウト、お、おま、それ」
「ああ、俺の眷属のアマルーナだ」
『黒竜アマルーナじゃ。よろしく頼む』
アマルーナが律儀に挨拶するが、イノマはもういっぱいいっぱいという感じで呆然としている。
気絶していないだけ凄いと思う。
「それじゃあアマルーナ、とりあえず、この魔物達を一掃してくれ。
あ、強そうな魔物はおいといてくれ。眷属にするかもしれない」
『うむ、分かったのじゃ。じゃが、もしかしたら殺ってしまうかもしれんぞ?』
「まあ、その場合は仕方がない。気にせず殺れ」
『うむ、了解じゃ』
心なしか、アマルーナは目をキラキラとさせている。
いや、気のせいじゃない、完全に戦闘を楽しみにしている目だ。
正直、戦いにもならないと思うが、まあアマルーナ本人がやる気なんだし俺が口を挟む問題でも無いだろう。
アマルーナが上空へと飛び上がる。
俺は念の為に舞達の周辺で待機だ。
さて、戦闘開始だ。




