前線への出発について。
その後の観客席は、正にパニックだった。
ほぼ全ての観客が逃げ出そうとあちこちに走り回り、逆に出口を封鎖するという悪循環が発生していた。
俺はそうなった原因であるケイゴをジト目で見つめる。
「おい、ケイゴ」
「ん?って、ユウトじゃないか!どうしたんだい?」
「どうしたもこうしたも、なんであんなに大きい声で言ったんだよ……。こうなることは目に見えてただろ」
最初の会話で大分打ち解けたので、俺は容赦なくケイゴを責める。
ケイゴは流石に自分が悪かったと思っているのか、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
「はぁ、まあいい。
それで?魔物が攻めてきたって、どういうことだ?」
「ああ、そうなんだよ!月に一度はこの国に魔物の大群が現れるんだけど、いつもは軽くあしらって終わりなんだ。
だけど、今日の魔物は一味も二味も違ったんだよ」
相当やばい状況だったのか、ケイゴの顔に隠しきれないほどの恐怖が浮かんだ。
「………なんでそんな日に王がこんなとこに来てるんだよ」
「それが、いつも魔物が襲ってくる日程を教えてくれる婆が、明日がその日って言ったんだ。
婆の予知が今まで外れることは無かったから、明日に備えて俺達も準備してたんだけど……」
「何故か今日現れ、更にとんでもなく強くなっていたと」
「その通りだよ」
はぁ、と俺は深いため息をつく。
話に聞けば聞くほど、外部からの要因の匂いがプンプンするじゃないか。
流石にあいつが関わっていると考えるのは、考えすぎかもしれないけど。
「念の為聞いとくが、その婆とやらがわざと嘘をついた可能性はないのか?」
「いや、それはないと思うよ。婆は昔からずっと王家に仕えてきた人だから、そんなことをするメリットなんて無いはずだから」
「うーん、まあ、そうだよなぁ」
となるとやはり、誰かが意図的にこうなるようにした、と考えるのが自然だよな。
はぁ、本当にため息ばかりが出る。
折角優勝者として王に一言言ってやるつもりだったのに、現状的に不可能だろうし。
………いや、待てよ?
襲いくる魔物の大群に逃げ惑う国民、倒れていく兵士達、絶対絶命のピンチ。
そこを魔物使いが助けたら魔物使いの株も上がるんじゃないか?
思わずにやけてしまった俺に、ケイゴからツッコミが入る。
「ユウト、何にやけてるんだよ。今は国のピンチだよ?」
「いや、良い方法を思いついてしまってな」
俺がさぞや悪い顔をしていたのだろう。
ケイゴはやや引きつった笑みを浮かべながら俺に続きを促す。
「実はな、俺はもうこの国を変える力を手に入れてしまったんだ」
「え!?昨日の今日なのに!?」
「ああ」
そういえばまだこっちに来て二日目なんだよなぁ。
その間に舞と付き合い出して竜と戦って竜を眷属にして精霊を仲間にして舞と結婚してトーナメントで優勝して。
ちょっと濃すぎやしないだろうか?
まあ、今はそんなことはいい。
「だから、この機会を上手く活用しようと思ってな」
「上手く活用?」
「ああ、だから、俺と仲間をその場所に連れて行ってくれないか?」
俺のセリフに、ケイゴは少し考えながらも頷いた。
「まあ、勇者様の親友がそう言うんなら大丈夫なんだろうね。
わかった、連れていくよ」
「助かる、じゃあ、少し待っててくれ。仲間を呼びに行く」
「わかった」
俺は観客席で動かずに待っている舞達の方へ走る。
S+の敏捷値はとんでもなく、一瞬でたどり着いてしまった。
「舞、何やら緊急事態みたいだ」
「うん、そうみたいだね。何があったの?」
「それは後で移動しながら話す。ケイゴがその場所に連れていってくれるらしいから、一緒に行くぞ」
「うん、わかった」
俺はそこまで喋った後で、ハルノとティフィアに目を向ける。
「それで、ハルノとティフィアはどうするんだ?」
「えっと………私はここに残って、観客の方達の誘導をしようと思います。
私がユウトさんについて行っても、役には立てなさそうですし」
ハルノがそう言うと、ティフィアもそれに同意しようとする。
だが。
「すまないが、ティフィアは俺達と来てくれ。
魔物使いの印象を変えるためには必要なことなんだ」
そういうことなので、できればティフィアにはついてきてほしい。
そう言うと、ティフィアは案外素直に頷いた。
俺はそれを見てから、ハルノに気をつけるように告げ、ケイゴのもとに戻る。
もちろん、舞達がついてこれるようにスピードは落としてある。
ケイゴの元へと到着した俺は、急いで案内するように促した。
「うん、じゃあそこまで連れていくよ、でも待ってて、先に王様の護衛の人に場所とか教えとかないといけないから」
「ああ、そうだな。わかった、待っとくよ」
ケイゴが王様の方へ走っていった。
「それで、何が起こったの?」
舞が改めて俺に聞いてくる。
俺が大体の事情と作戦を説明すると、舞は苦笑いを浮かべ、ティフィアが困惑の表情を浮かべた。
その反応も当然だ。
一人で魔物全てを倒すことが出来る前提で話をしているからだ。
「そ、その、本当に出来るんでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ」
ティフィアが心配そうに聞いてくるが、俺が余裕な表情を浮かべているからか、少し緊張が緩む。
「まあ、出来ればティフィアにも手伝ってもらいたいけどな」
「わ、私もですか?」
「ああ、俺一人だけで倒してしまったら、魔物使いが凄いじゃなくて、俺が凄いってことになりかねないからな」
「な、なるほど、わかりました、私も頑張ります!」
ティフィアがぐっと拳を握りしめる。
その絵面が微笑ましくて俺が笑っていると、舞が頬を膨らましたのが見えた。
「なんだ?嫉妬か?」
「なっ、そ、そんなんじゃないもん!」
そう言ってぷいっと顔を逸らす舞。
それが可愛くて、俺が思わず舞の頭を撫でると、舞は不満げな表情から一転、満足気な表情に変わった。
「マイさんとユウトさんの関係って一体………」
ティフィアが何やら不思議そうな表情をしているが今は放置だ。
舞の頭を撫でるのに忙しい。
俺達がしばらく桃色空間を形成していると、視界の端に大柄な男達が歩いてきているのが目に入った。
俺は「ケイゴが護衛でも連れてきたか?」と思ったが、歩いてきているメンバーを見て「なんで?」という思考に変わる。
こっちに歩いてきていたのは、イノマやカール、チャーリーといった、トーナメント本戦出場組だった。
代表としてイノマが話し出す。
「ユウト、何かあったんだろ?俺達に協力出来ることはないか?」
「いや、あるにはあるんだが、どうして手伝おうと思ったんだ?」
「ははっ、そんなの、この国を守りたいからに決まってるじゃねーか」
「そうだそうだ!」とその他のメンバーから口々に声が上がる。
ティフィアはイノマの変わりように戸惑っているようだ。
「そうか、じゃあ、お前達も俺達についてきてくれ。今から、俺の知り合いの兵士に連れていってもらうんだ」
「おう!わかったぜ」
イノマ達が頷く。
「ゆ、ユウトさん、どうしてイノマを……」
「それに関しては後でわかる」
ティフィアが沈痛な表情を浮かべて聞いてきたので、とりあえず誤解だったとだけ伝えておく。
ティフィアは混乱した様子だったが、俺を信用してくれたのか、それ以上は何も言わなかった。
数分後にケイゴが戻ってきた。
「えらく遅かったな」
「いや、それが、魔物使いは弱いから無駄死にするだけだとか、そんなことばっかり言って話を聞いてくれなかったんだ」
「…はぁ、まだそんな事言ってんのかあの愚王」
王を愚王と言ったことに、舞を除く全員が驚きでこっちを見てくる。
俺はそれを無視してケイゴに質問した。
「それで、結局許可はもらえたのか?」
「うん、最終的に、囮になってくれるのならそれはそれでありがたいから、とかいう理由で許可をもらったよ」
「……とことんダメだなあいつ」
俺はもう一度、はぁ、と深いため息をついた。
「それで、そのユウトの後ろにいる人達は?」
「ん?ああ、こいつらは俺の手伝いをしてくれるらしい。一緒に連れていっても問題ないか?」
「うん、大丈夫だと思うよ。
それじゃあ、そろそろ行こうか」
「ああ、そうだな」
そして俺達は魔物が蠢く前線へと向かっていった。




