本戦1回戦について。
本戦の一回戦については特に言うことはない。
イノマとチランの戦いで、イノマが圧倒的な強さでチランの魔物を瞬殺し、準決勝へと駒を進めた、というだけだ。
ちなみに、相変わらずイノマは熊鰻しか出していない。
イノマの持っている中で一番強い魔物なのだろうか?
「それじゃ、行ってくるわ」
「ああ、頑張れよ」
「ふっ、当たりめーだ」
俺はそう言うカールを見送り、二回戦を見守ることにした。
カールの対戦相手はノムルという男だ。
予選ではそこまで目立った選手では無かったので、まあカールの圧勝だろうな。
しかし、その予想とは裏腹に、戦いはまさかの展開を迎えた。
カールがオークを出したのは分かる。
予選でも大分強かった魔物だからな。
だが、本当におどろいたのはノムルの出した魔物だ。
『な、なんと!ノムル選手!ここで熊鰻を使ってきた!どうやら、イノマ選手と同じく、Cランク並の実力者だったようです!』
そう、ノムルはなんと、イノマしか使えないはずの(俺は除く)Cランクの魔物を使ってきたのだ。
突然の出来事に観客は湧き上がる。
おそらく、この対戦まで温存してきたのだろう。
カールには焦りの表情が浮かぶ。
D+ランクのオークに、Cランクの熊鰻は荷が重いだろう。
そして、遂にノムルの熊鰻がオークに攻撃を始めた。
俺は本気でカールの負けを確信し、そして、その次の瞬間に起きた出来事で更に驚きに包まれた。
『な、なんと!カール選手のオークが、ぶ、熊鰻の攻撃をすべて避けております!ランク差を覆さんとする攻防!目が離せません!』
なんと、カールはオークに短い指示を出すことで単調な熊鰻の攻撃をすべて避け、逆に押し返していたのだ。
これはノムルがまだ未熟というのもあるが、どちらかというとカールの修行の成果といったところだろう。
既に、ノムルは先程までの余裕を失っている。
だが、やはりランク差というものは中々覆すことはできず、カールもまた、熊鰻に有効打を与えることが出来ない。
そして、試合はまたしても驚きの展開を迎えた!
『試合終了!えー、15分経って決着がつかなかった為、両者敗北ということになった!みんな!両選手の猛烈な攻防に拍手だー!』
パチパチパチと、まばらだが拍手が起こる。
俺はまさかの展開に唖然としていた。
同じくらいの実力だと引き分けになる場合があるのか……。
これは二人とも悔しいだろうなぁ。
俺がそんなことを考えていると、カールとノムルがフィールドから戻ってきた。
俺はカールに声をかける。
「お疲れ、カール。いい戦いだったよ」
「ああ、サンキュー、ユウト。負けちまったぜ。だが、俺のノンノが死ななかったから、結果的には良かったのかもしれねーな」
一瞬「ノンノって誰だ?」と思ったが、カールがオークにつけた名前だと気がつく。
無駄に可愛い名前付けやがって。
「そうかもな。まあ、俺もカールの魔物を殺してしまうのは嫌だったから、俺的にも良かったよ」
「おいおい、どれだけ余裕なんだよ…。これでチャーリーなんぞに負けやがったらただじゃおかねーぜ?」
「当たり前だ。10秒でケリをつけてやるよ」
「ははっ、そりゃあ無理だ。あいつも一応D+並の実力者だからな」
「それは試合を見てたら分かるさ」
「まあ、それもそうだな」
そんな会話をしていると、俺とチャーリーの名前が呼ばれる。
俺はカールに行ってくると告げ、フィールドに入った。
『それでは、予選で、スライムのみで圧倒的な力で本戦へと進んだユウト選手と!対するは、あ、チャーリーか。じゃあいいや。それでは、試合開始!』
なんかチャーリーの扱いが物凄く雑いな。
過去に何かやらかしたのか?
俺がカリンを召喚したところで、チャーリーが俺に話しかけてくる。
「ヘイヘイ!ウルフで挑むなんて僕を舐めてるのかなぁ~?おこちゃまはさっさと退場してねぇ〜。じゃあ、特別に僕ちゃんはシルバーウルフでも召喚してあげるよ~。『召喚』《サモン》“ミルミルちゃ〜ん”」
扱いが雑い理由が分かった気がした。
まさか名前に『ちゃん』まで入れるとはな。
しかも『ちゃん』じゃなくて『ちゃ〜ん』っていってるところが余計に腹立つな。
ちなみにあいつ(鬱陶しいので呼び方をチャーリーからあいつに格下げ)の言っている『シルバーウルフ』はウルフの上位交換と言われている魔物だ。
ランクはD+ランク。
確かにE+ランクのウルフの上位互換と言われても仕方が無いだろう。
だが、『進化』という現象を知っている俺は知っている。
シルバーウルフは進化が無いただの雑魚だと言う事を……。
「そんじゃ、ちょっくらぶち殺してやるよ~。絶望に歪んだ顔を僕ちゃんに見せてねぇ〜」
その言葉にちょっとガチでイラッときたので、俺は手加減せずにシルバーウルフ(意地でもミルミルちゃ〜んとは呼ばない)を倒すことにした。
「いけ、カリン」
カリンは敏捷値だけならB-ランクという、シルバーウルフではとてもじゃないが目に追えないスピードでシルバーウルフへと突っ込む。
ドゴォン!という凄まじい音がしたと思うと、チャーリーのシルバーウルフはフィールドに叩きつけられ、ゆっくりと消えていった。
「そ、そ、そんな、み、ミルミルちゃ~んが……」
チャーリーが呆然とした表情を浮かべている。
当然観客もだ。
そこで、慌てたように実況が入った。
『え、えーっと、な、なんと、ユウト選手!チャーリーのミルミルちゃ~ん(笑)を開始時間僅か五秒で瞬殺!勝者はユウト選手だ!これには私も気分がウキウキ……じゃなかった、驚きを隠せないぞ~!』
いや、本音を隠せてないじゃん……。
まあ、あいつのあの喋り方を見てたらそりゃあイラつくわな。
「こ、こんなの何かの間違いだっ!」
俺がフィールドから立ち去ろうとすると、チャーリーが凄い勢いで詰め寄ってきた。
俺は隠そうともせずため息をつくと、チャーリーの方へ振り返る。
「何がだ?俺が勝って、お前が負けた。それだけじゃないか」
「ぐっ、そ、それはそうだが!ウルフがシルバーウルフに勝てるわけがない!」
怒りで我を忘れているのか、完全に素の状態のチャーリー(話し方が戻ったので少し格上げ)。
「まあ、ウルフじゃないからな」
「はっ?」
「良く見てみろ。魔物に詳しいやつなら、わかるかもな」
俺はカリンに、少しの間だけチャーリーに見られるのを我慢してくれと念を送った。
カリンからは『そんな…………………まあ、ご主人様の命令ならば』と、明らかに嫌々といった感じの念が届いた。
さっきの話し方でチャーリーは完全にカリンに嫌われてしまったみたいである。
そんな会話(念話?)をしている間に、チャーリーはカリンを注意深く観察している。
そんなに良く見なくてもわかると思うのに。
「気づかないのか?」
「全然わからん………」
そうか、案外違いとかわからないもんなんだな----
「体が大きいことと目付きが少し鋭いことと手足の爪が通常のウルフよりも少し長いことと毛並みが微妙に違うことくらいしかわからん……」
「いや、分かってるじゃねーか」
びっくりしたわ。
逆に、ここまで分かってて何で分からないんだ?
もしかしてワーウルフって進化でのみしか入手不可とかか?
「その特徴に当てはまる魔物を知らないのか?」
「うーん、ワーウルフくらいしか知らねえなぁ」
「いや、当たってるじゃねーか」
びっくりしたわ。
何なのこの人。まさかの天然?
「はっ?ワーウルフ?いやいや、何言ってんだ。ワーウルフってC+ランクの魔物じゃねーか」
「だからそのワーウルフって言ってるだろ」
「………はぁぁぁ!?」
チャーリーが凄い叫び声を上げる。
それと同時に観客や待機場所からもざわつきが聞こえだした。
『ど、どうやら、ユウト選手の魔物はE+ランクのウルフではなく、C+ランクのワーウルフだったようだ!ま、まさかのイノマ選手越えの実力者!今回の大会はどうなっているんだぁー !』
その実況の言葉に、観客席が更に騒がしくなる。
そりゃそうだ。
今まで雑魚だと思っていた魔物使いが、まさか自分達を簡単に倒せてしまうようなC+ランクの魔物を使用しているんだからな。
俺は心の中でニヤニヤしながら、呆然としているチャーリーを放っておき、フィールドを出ていこうとする。
すると、そこで国王と目が合った。
俺を見て、俺の事を思い出したのか、目を見開く王に俺は不敵な笑みを浮かべる。
そして満足げに意気揚々とフィールドを出ていくのだった。




