支給品について。
本日3話目です
目次にはこう書かれていた。
『1.この世界について
2.支給品について
3.職業について
4.ステータスについて
5.パーフェクトな神、オミスについて
6.その他の項目について』
とりあえず、ツッコミどころ満載の5番についてはひとまず置いておくことにする。
ツッコんだら負けな気しかしない。
「まずは1番の『この世界について』を読んでいくね」
「うん」
文字は大きめに書かれていて、比較的読みやすくなっている。
俺は題名の下に書かれる文章を順番に読み進める。
「この世界は君達の住む世界とは異なる世界である」
うん、そうだろうね。
「元の世界に帰るためには、君達をこの世界に転移させた張本人を見つけ出し、条件を達成させる必要がある。
ヒントは無いので、なんとか自力で正体にたどり着いて欲しい」
うん、俺はツッこまないからね。
5番に載ってそうとか言わないからね。
「また、この世界の言語については、この世界に転移させた際に自動で脳に刷り込ませてあるので安心して欲しい。
ただ、この本は特別な文字で著されているため、所有者以外は読むことができない」
脳に刷り込むという表記が少し怖い。
何も異常が起きてなかったらいいけど。
「あー、だから芝崎君だけ読めるんだね」
「そういうことらしいね」
言語に関する説明に、川口が納得したような声を出す。
今の文面から考えられる限り、誤って他人に見られるという心配はしなくてもいいようだ。
その事実は結構安心だ。
この世界の人に見られたらめんどくさいことになりそうだし。
「この後には、この世界の歴史とか、まだ俺達にわからないことが書いてあるから、一旦省略するね」
「うん、わかった」
正直、この世界がどう作られたのかとかは今のところ全く興味がない。
地球の歴史でさえ興味が出ないのに、異世界の歴史とか本当にどうでもいい。
しかもチラッと見た感じだと、なんかオミスの自慢っぽいことばっかり書いてあるし。
会ったこともないのに既にオミスの印象がかなり悪い件について。
「あと、この世界は大陸が1つしかないらしい。
ミカラム大陸っていうそうだ」
「わかった。
何かに使えるかもしれないし、覚えておくね」
というか、さっきから川口の適応能力がすごい。
普通もっと戸惑うもんじゃないの?
今も一樹が頑張って説得してるけど、他のみんなは未だに困惑してる人が多いし。
そう考えたら一樹も凄いのか。
俺はそう思って素直に口に出してみる。
「川口はすごいね。
こんな状況、普通もっと戸惑うと思うのに、すぐに適応してるから」
「え、いや、それは………(芝崎君が見てるアニメとかをよく見てたから)」
「ん、ごめん聞こえなかった、もう一回言ってもらえるかな?」
「あ、ほら、芝崎君のこと頼りにしてるんだよ。
今も私のこと引っ張ってくれてるし」
それは嬉しい言葉だね。
好きな子に頼りにしてるとか言われたらもっと頑張ろうという気になれる。
「ありがと、もっと頼りにしてもらえるように頑張るよ。
じゃあ、次は2番の『支給品について』を読んでいくよ?」
「うん」
何故か川口の顔が少し赤い気がする。
森の中とはいえ時間は真昼間だし、多分暑さのせいだろう。
長居するのは危険かなという思考まで至ったところで、俺は続きを読み進める。
「支給品は身につけている間、所有者に能力を与える道具である。
この支給品には、能力の上昇効果が付属している」
「じゃあ芝崎君はその能力っていうのが上がってるんだね」
「そういうことだね。
まあ、その能力が何を指すかはまだわからないけどな」
「ステータスについては何か書かれていないの?」
「ん、4番に書かれてるっぽいね。
後で確認しよう」
「うん」
再確認したが、この本は中々に万能だ。
もしこの本が無ければ、俺達は右往左往するしか無かっただろう。
それを意図して支給品として与えているのかもしれないけど。
「あとは、全ての支給品の大まかな効果も書かれているみたい」
「え、すごい。
それじゃあこの指輪のことも書かれてる?」
「待ってね、ちょっと探してみる」
指輪か、これはなんてアイテムなんだろう。
地球にあったままの名前とは思わないけど、とりあえず指輪で探してみよう。
支給品の一覧はまるで辞書のようにあいうえお順に並べられている。
その中のや行をとりあえず探す。
や……ゆ…………よし、見つけた。
「指輪は『ある条件を達成すれば効果を発揮する指輪』としか書かれてないね。
自分で条件を見つけろってことかも」
「じゃあ今は効果を発揮しないんだね」
川口が落胆したように肩を落とす。
現状が不安な手前、頼りにしたい支給品が未発動なのは心許ないものがあるのだろう。
「まあでも、条件を達成した時の効果がすごいんじゃない?
そう考えれば当たりかもしれないよ」
辛い過程を経るほど、後々いい報酬が待ち受けているものだ。
「そうだね、うん、頑張って条件を探してみるよ」
「ん」
俺の言葉に、川口が力強く頷く。
それに俺も頷き返したところで、一樹がこっちに走ってくるのが目に映った。
「お、演説は終わったのか?」
「演説って。
ただ説明してただけだろ」
一樹が苦笑する。
でも、少しは自覚があるようで、若干恥ずかしそうにはしている。
「みんな、俺に任せる、って言って指示を待ってるんだけど、どうすればいい?」
おお、さすが人気者。
これもし俺が説明してたら「お前の言うことなんか知るか!」的な展開になって、収集が付かなくなっていたことだろう。
普段からちゃんとやるべきだったと今更後悔している。
「じゃあ、みんなに支給品を確認してもらえないか?」
「支給品?」
「ああ、一樹のその剣もそうだ」
俺はそう言って一樹の腰につけてある剣を指さす。
「えっ、うわ、ほんとだ!いつの間に…」
「いや、それは気づけよ」
指輪とかならともかく突然剣を持ってたら気づくだろ。
まあそんなことにも気づかないほど切羽詰ってたってことかもしれないけどさ。
…………うん、それでも流石に気づくとは思うが。
「この本には支給品の詳細が書いていてな。
全員が支給品の詳細を知りたいって言うんなら、呼んできてくれ」
「そういうことか、わかった」
俺の言葉に納得したように頷くと、一樹はまたいそいそと走っていった。
あいつ、忙しいな。
まあ、一樹が働いてくれている間に、あいつの剣の詳細でも見るか。
その前にあの剣の名前を知らないといけないんだよなぁ。
でもまあ、そんな事はわからないし、一旦『剣』で調べてみるか。
俺は索引の所からカ行の部分を開き、探してみるが、『剣』は見つからない。
やはり、特有の名前があるようだ。
まあでも支給品の数はクラスメイトの数と同じはずだし、探せば見つかるだろうと思い直し、俺は上から順に探していく。
あ行…か行…さ行…た行…なかなか無いな。
途中で『呪いの首輪』とか不吉なものがあった気がしたけど、一旦置いとこう。
そのまま大分下まで行ったところで、ヤ行の所にようやく見つける。
名前は『勇者の剣』。
そんな気はしてたが、やっぱり一樹が勇者か。
効果は『所有者が悪と定めたものと戦う時、攻撃値と敏捷値が3ランクずつ上昇し、その他のステータスも1ランクずつ上昇する。また、剣に魔力を貯めることで剣の威力を上昇させることができる』と。
ほうほう。
なにこれ、チートすぎない?
いや、まだステータスについて分かってないからなんとも言えないんだけどだけど、これ確実に強いよな。
さすがは勇者の剣ということか。
「芝崎君どうかした?」
俺があからさまに変な顔をしているのを不思議に思ったのか、川口が聞いてくる。
「ん?ああ、ちょっと一樹の剣を調べててな。
少し強すぎるんじゃないかと、神様に文句言ってたとこだ」
ほんとに、オミスの野郎何考えてんだ。
「どんな感じなの?」
川口が聞いてくるので、俺は本に載ってた内容を説明する。
「……確かに、それは強いね」
「だろ?………俺の本が1ランクアップなのに、この格差はなんだ」
まあその分有益な情報を貰えてるし、まだまだありそうだからいいかもしれないけど。
そんな風に俺が若干拗ねていると、一樹がこちらに歩いてくるのが見えた。
正確に言えばクラスメイト全員が、だが。
一樹の来るタイミングがさっきから良すぎるな。
見計らってないよな?
「ん?どうかしたか?優斗」
「いや、なんでもない」
まあそんなわけはないか。
「おい芝崎!この道具の詳細がわかるって本当か?」
俺が一樹とそんな会話をしていると、俺を虐めてたやつ代表の上島が、俺に高圧的にそう言ってくる。
「まあ一応…」
「じゃあさっさと教えてくれ!」
上島がそういったのを皮切りに、その他のクラスメイトも口々に言ってくる。
どうしてこいつらはこんなに偉そうなのだろうか。
かなり腹が立つのだが、もう慣れてしまっているから、俺は一々何かを言おうとはしない。
「ちょっとみんな!教えてもらうのにその態度は何なの!?」
しかし川口はそれを許せなかったようだ。
突然俺を庇いだした川口に、女子は戸惑い、男子は俺のほうを睨みつけてくる。
まあ、学校のマドンナが俺なんかを庇ったりしたらこうなるよね。
「いいよ、川口。別に気にしてないから」
「で、でも」
「大丈夫大丈夫」
そう言ってまだ不満そうにしている川口を押し黙らせる。
じゃないと、周りの視線で殺されてしまいそうだったからだ。
俺は気を取り直して、まだ比較的悪意がなさそうな男子から順に聞いていく。
「えっと、及川君、だったよな?及川君の道具は何だったんだ?」
「俺の道具はこれだ」
そう言って俺に念珠を見せてくる。
その表情は、少し困惑しているようだった。
………うん、分かるよ。
普通に考えて、支給品が念珠って戸惑うよね。
何故念珠を選択したんだオミスよ。
そんなことを考えていると、黙っている俺を訝しんだ及川が聞いてくる。
「それでこの道具はどんな力を持ってるんだ?」
「あ、ああ、念珠ね。ちょっと待ってくれ」
な行の、ね…ね…お、見つけた。
「念珠は腕につけている間、神聖魔法を使えるようになるらしい。状態異常を治したり、魔物に大ダメージを与えたりできるそうだ」
なんか見た目通りだな。
「神聖魔法か、ちょっと練習してこよかな」
そう言って及川は近くの木に歩いていった。
別にいいんだけどさ、人になにかしてもらった後は礼くらい言おうぜ。
また川口怒り出してるしさ。
その後も、怒りのボルテージが上がっていく川口をなんとか抑えながら、クラスメイトに道具の詳細を教えていく。
ちなみに一樹はちょっと調子に乗っていた。
もちろん他のクラスメイトもだ。
まあほとんどのやつが魔法を使うことが出来るっていう能力だったしな。
中には音を消す能力とか珍しいのもあった。
俺は今も木を剣で斬りまくっている一樹や、魔法で岩を攻撃しているクラスメイト達を遠目に見つめる。
何故あいつらは魔力の込め方知ってるんだろう。
そんな疑問も挟みながらも、遂に支給品を教える最後の1人になった。
ちなみにクラスは全部で40人である。
「芝崎、疲れてるかもしれないけど、私もお願い」
「大丈夫。それで西本はどんな道具だったんだ?」
最後の1人は西本だった。
「私のはこれ」
と言って、首につけている首輪を指さす。
「これどこにも外すところがないんだけど、どうすればいいの?」
「うん、ちょっと待ってくれよ」
首輪か………ん?首輪?
もしかして…いや、まさかな。
『呪いの首輪』・・・所有者の1番の願望を果たすま で外すことができない。また、その願望は心の奥底で思っている事なので、所有者が知ることはできない。
この首輪を外すことが出来た時、所有者の叶えた望みにあった能力が発動する。
なお、この首輪を付け続けると体が衰弱していき、最終的には死に至る。
………『呪いの首輪』持ってたの西本かよ!!