1回戦終了について。
本日2話目です
俺はフィールドに入ると、どこか奇妙な感覚に包まれた。
観客が拍手と共に迎えてくれるのはいいが、その視線がどこか冷たい気がするのだ。
俺が訝しげな目で観客を見渡していると、出場者の内の一人が俺に声をかけてくる。
「おい、あんた、どうしたんだ?」
「いや、なんか観客の視線に違和感を感じたんだ」
「ん?ああ、あんたもしかしてこれに出るのは初めてか?」
「ああ、そうだ」
「なら仕方ないか。いいか?この試合はあくまで見世物だ。正直、観客にとっては、俺らの誰が勝つかなんて興味が無いんだよ。等しく弱いってことだろうな。まあ、よっぽど強いやつなら別だけどよ」
そう言って男はチラッとCブロックに出ていた選手に目をやる。
おそらく、イノマの方を見ているんだろう。
「そういうことか、分かった。感謝するよ」
「いいってことよ。俺はカールだ。お互い頑張ろうぜ」
「ああ、俺は優斗だ。よろしく頼む」
「わかったよ、じゃあな」
そう言ってカールは自分の場所へと歩いていった。
イノマやその周辺の奴らだけ見てたから冒険者のことを勘違いしかけていたが、やっぱりああいう人もいるんだな。
俺がカールに少し好感を抱いていると、実況の声がフィールドに響き渡った。
『さあ、それじゃあ今から、Dブロックを開始する!選手は自分の場所に着いた後、それぞれ自分の魔物をフィールドに出してくれ!』
イノマの試合の後ということもあってか、妙にテンションの高い声で選手に言う実況。
Aブロックで『えー、それではー、魔物を出してくださいー』と言っていた人とは思えない変貌ぶりだ。
実況の声を聞いた選手が一斉に魔物を召喚する。
もちろん俺も召喚した。
ちなみに俺の場所はカールとはかなり離れている。
正直あまり戦いたくはないので良かったのかもしれない。
全員が一斉に魔物を召喚し、これでフィールドには、99体の魔物が存在することになった。
『はい、魔物も出揃った様なので……って……ん?そこの選手、一体足りないように見えるけど大丈夫か?』
実況が俺を見てそう言ってくる。
まあ、俺はライムしか出してないからな。
でも、一応これが今回の制限だ。
ぶっちゃけ、Cランクの魔物であまり負ける気がしないしな。
俺は実況席に向かって大丈夫だと手で丸を作った。
『そ、そうか。
そ、それでは、気を取り直して、試合スタートだ!』
実況がそう言った瞬間、一気にフィールド内が熱気に包まれた。
なお、観客席は俺を見て嘲笑している。
客観的に見たらスライムしか出してないただの雑魚って感じだもんな、俺。
まあ、こんなに弱そうな感じを見せたら誰も攻撃して来ないだろ。
俺が余裕をこいていると、周りの魔物が一直線に俺に走ってきた。
………え?なんで?
「余裕こいてんじゃねえぞ新人がぁ!」
「何ギルド内でいちゃついてくれとんじゃボケェ!」
「ははは、全くだぁ!」
なるほど、どうやらスライムしか出していないという態度と、昨日ギルドで舞といちゃついていたことが原因みたいだな。
そして『ははは、全くだ』男、ロックオン。
後で倒そう。
ちなみに観客は俺の方を見て、「あっ、終わったな」みたいな表情を浮かべている。
まあとりあえず、めんどいから俺に向かってきたやつ全員倒すか。
「ライム、手加減して突進」
俺がそう短く指示を出すと、ライムは普段の30%程の力で近くのコボルトに突進していった。
「はっ!俺のボルトがそんな攻撃で倒されるわけがって、はあっ!?」
コボルトの主が余裕を浮かべた表情から一転、驚愕の表情を浮かべた。
それもそのはず、ただスライムに突進されただけのコボルトが、吹っ飛んで消えていったからだ。
コボルトはE+ランクなので、普通に考えたらおかしいと思うだろう。
「お前……何をした?」
「何って、突進させただけだが?」
「嘘だ!ただのスライムにそんなことができるはずがっ!」
「ただのスライムじゃないからな」
「………っ!」
俺のただ事実を述べるだけと言うような、淡々とした言葉に男は言葉を止める。
「やっぱり知らないのか、進化…」
これは俺の独り言だ。
どうやら、本当に進化という事実自体を知らないらしい。
「お前、格上の魔物と戦った経験は?」
「は、は?そ、そんなのあるわけねーだろうが」
突然の俺の質問に言葉を詰まらせながらも答える男。
「なるほど、そりゃあ『最弱』って呼ばれるわけだな」
「おい!なに余裕ぶっこいてんだ!どうせ、さっきのはまぐれだろ!?今度こそ俺のゴブリぐはぁ!」
……男は最後まで言い切ることが出来ずにライムの突進の餌食となった。
その光景を見ていた観客が俺を笑うのをやめて呆然としている。
『こ、これはどういうことだぁ!?ただの雑魚だと思っていたユウト選手のスライムが、コボルトを吹っ飛ばしたぁ!?まさかの展開だぁ!』
実況も興奮したように叫ぶ。
……その前に何で俺の名前知ってるんだよ。
受付の時に全員分メモったりでもしたのか?
しかもただの雑魚て。
そんな風に思ってたのか。
まあいい、とりあえず、これで少しは注目を引くことが出来ただろう。
男を倒した俺は次のターゲットへと目を向ける。
もちろん、『ははは、全くだ』男、略して『はまった男』である。
俺と目が合った『はまった男』は「はっははぁ!」と情けない悲鳴(?)を上げた。
おそらく、俺を異質な存在だとようやく認識したのだろう。
だが遅い。
俺はライムに短く命令を出して、容赦なく『はまった男の腹に突進させる。
『はまった男』はなすすべなく気絶してしまった。
眷属を倒さなくても、魔物使い本人を倒せば良いので結構楽である。
ちなみにここまでで、僅か一分しか経っていない。
『おっとぉ!ここでユウト選手が優勝候補の一人、ハマタ選手を倒してしまったぁ!まさに波乱の展開!どうなるDブロックぅ!』
実況が上手いこと雰囲気を戻そうとするが、フィールド内の空気は変わらない。
ほとんどの人間が、俺の方を畏怖の表情で見ている。
しかし、少数の人間は違った。
「俺も負けてらんねえなぁ!」
そう言って近くの男をダークウルフで倒したのはカールだ。
「だがてめぇら!あいつの方ばかり見てると足下救われるぜぇ!?」
そう言って次々に魔物も魔物使いも構わず蹴散らしていくカール。
どうやらカールは相当の実力者だったようだ。
そして、そのカールの言葉に触発された他の参加者も、負けてられないとばかりに戦いを再開し始める。
そして、また最初の熱気に包まれ出した。
俺は心の中でカールに感謝しながら、俺に攻撃を仕掛けてくるやつらをライムで倒していく。
そして始まって数分の内に、フィールドには俺とカールを含め、四人しか残っていなかった。
「そのスライム、確かに通常のやつとは比べ物にならない強さだ。だが、突進しかできない。違うか?」
そう言ってきたのは、カールの次に立ち直りの早かった男だ。
「こう見えて、俺は前大会三位なんでね、いくら強いとは言え、スライムに負けるわけにはいかないんだ。ということで、倒させてもらうよ!」
男は左右から挟むように二体のオークを俺に仕向けてくる。
オークはD+ランクの筈だから、実力者というのは間違いないようだ。
まあ、そんなのは関係ないけど。
俺は普通に跳んで軽く攻撃を回避する。
Sランクの俺にとっては、オークの攻撃は止まって見える速度だ。
それを見た男は驚愕の表情を浮かべる。
「は、はぁ?今、何を!?」
「さあな。まあ、俺を倒すのは諦めた方がいいと思うぞ」
俺が善意で言うと、男は挑発と捉えたようで顔を真っ赤にしてオーク達に命令する。
「そ、そうだ、なら普通にスライムを倒せばいい!行け!お前ら!」
男は今度はライムを挟むようにオークを仕向ける。
確かに間違いではない判断だが……
「ライム、『分裂』」
俺がそう言った瞬間、ライムは二体に分裂して、それぞれがオークを撃破していた。
「……は、はぁ?」
これには男も訳が分からなかったようだ。
「いいか、魔物だって進化する。俺のスライムのようにな」
「し、進化?」
「そうだ」
「な、何を言って」
俺に質問しようとする男だが、その時に審判の声が響き渡った。
『こ、ここで試合終了!勝ち残ったのは、圧倒的な強さを見せたユウト選手と!安定の実力を見せたカール選手だぁ!』
どうやら向こうでも戦いが終わったようだ。
観客から拍手が送られる。
どこか遠慮した様子なのは、俺に対する未知さからだろう。
「優斗君ー!かっこよかったよー!」
『ま、まあ、あれくらいはしてもらわないとね!』
「ユウトさん、本当に強かったんですね……」
俺がフィールドから出ようとすると、舞達から声がかかる。
俺はそれに手を振って返しながら、フィールドを後にするのだった。
〈本戦出場者〉
Aブロック:ティフィア・チャーリー
Bブロック:チラン・ノムル
Cブロック:イノマ・スブレ
Dブロック:ユウト・カール
試合開始は午後3時から。
対戦相手はランダムに決められる。




