帰宅について。
本日2話目です
~~〜一樹~~〜
「ハァァァァー!」
「腰が甘いですよ!」
俺が振り降ろした剣はすぐにはじかれ、俺は剣を床に落とす。
「はぁ、はぁ、……降参です」
俺は両手を挙げて降参の意を示した。
俺は今、兵士の人達によって、剣の特訓を行っている。
他のみんなもそれぞれのジョブに合った特訓をしているらしい。
それも全部魔王を倒して元の世界に戻る為だ。
「勇者様、どこか冷静さが欠けているように思えますが、どうかしましたか?」
俺の特訓相手の副団長さんが言ってくる。
ちなみに、団長さんは何故か倉庫で縛られているのが見つかって、今、『魔物使い』のイノマさんと一緒に事情聴取を受けている。
誰の仕業なのかは気になるが、俺が平常心でいられないのはそれが原因ではない。
「いえ、やっぱり今朝の言葉が気になりまして…」
「ああ、明後日に魔物がこの街に襲ってくるって話ですか。大丈夫ですよ、あれは月に一度の恒例行事のようなものですから」
その原因は、今朝王様に言われた言葉だ。
今、この街に魔物が近づいていて、明後日にはこの街を訪れる、と。
クラスメイトは俺を含め全員動揺していたが、兵士の『毎月一度は来ますが、数が少ない上に、死人が出たこともないので心配しなくても大丈夫ですよ』という言葉で落ち着きを取り戻していた。
でも、俺には何か嫌な予感がするのだ。
「それに、勇者様方はもうすぐ『クルーネル王国』に移動するのですから、そこまで心配する必要は無いのでは……?……あっ!市民の方々の心配をされているのですね!大丈夫ですよ、私達が全て撃退しますから!」
兵士が勝手に話を進めているが、あながちその言葉は間違いではない。
俺が心配しているのはこの城を出ていった親友のことだ。
(優斗、川口さん、今どうしてるんだ?)
俺達は、ステータスを上げるために次の街『クルーネル王国』へと移動する。
そこにはここよりも強い兵士達がいるからだそうだ。
でも、優斗達はこの街に滞在し続ける。
もしかしたら何かの間違いで優斗達に危険が及ぶかもしれない。
俺はそれを懸念しているのだ。
「勇者様方、もうすぐ出発ですので、ご準備の方をお願いします」
そこで、兵士の一人が俺達を呼びに来る。
「ふう、やっと出発ね。…………一樹、そんな心配しなくて大丈夫よ。舞も芝崎もそんなヤワなやつじゃないわよ」
それと同時に、華凛が俺に心配するような言葉をかけてきた。
「お、おう、そんなに顔に出てたか」
「ええ。それに、いつもの一樹が副団長さんに負けるはずがないもの」
確かに、いつもは副団長さんと戦ってもほとんどは俺が勝つ。
なのに、今日は俺が何度も副団長さんに負けているのを見て心配してくれてるんだろう。
「そう…だな、優斗のことだし、案外最強の魔物とかを仲間にしてるかもしれないな」
「ふふ、そうね。あの二人だもの、最弱のままでいる訳が無いわ」
俺達はそう冗談めかして笑い合う。
華凛のおかげで、少しは気持ちが楽になった。
「ほら、分かったらさっさと準備しなさい。勇者が遅れたらカッコがつかないわよ」
「おう、わかったよ」
もしかしたら、優斗はこういう時のために華凛と一緒にいろって言ったのかもな。
俺はそんなふうに考えながら改めて誓う。
(よし、とりあえず、俺にできることをしよう。)
次に会ったときに優斗をサポートできるように。
そして、心の中で優斗へメッセージを送った。
(優斗、絶対生きて、また会おうな)
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----ー優斗-----
「いけそうか?アマルーナ」
「もちろんじゃ、主殿に迷惑はかけんよ」
俺は今、『人化』させたアマルーナの調子を見ている。
具体的に言えば、力加減のことだ。
「ほっ!」
アマルーナはそう小さく声を上げると、野生の熊鰻を一撃で倒してしまった。
………幼女の姿で。
「流石だな……ただ、その格好は未だに慣れないけどな」
そう、アマルーナは『人化』で小さい女の子にしか変身できないのだ。
俺がその理由を聞いたところ、『妾は力を持っていたが故王になったが、まだ子供じゃからな』と笑っていた。
ちなみに年齢は3218歳だそうだ。
つまり、竜は5万年近くは生きるということになる。
その事を聞いた時は、俺も舞も呆気に取られたものだ。
ちなみにリースは『あら?普通じゃないの?』と言っていたため、やっぱり魔物と精霊は特殊なのだと実感した。
「こんなもんで大丈夫じゃろうか?」
「ああ、後は怒ったりして元の姿に戻らないようにしてくれればいい」
そして、俺がアマルーナに『人化』させている理由だが
『妾はあまり外の世界のことを知らぬ。じゃから妾も外に出しておいてくれないか?』
とアマルーナ本人にお願いされた為だ。
ただ、アマルーナはあまり『人化』したことが無いらしく、ただ握手するだけで腕の骨を折る勢いだったので、力加減を覚えさせているという訳だ。
「それじゃ、日も暮れてきたしそろそろ街に戻るか」
「うん!」
『分かったわ』
『うむ』
『分かりました』
『こくり』
俺は舞とリースと眷属に声をかける。
「よし、じゃあライムとカリンは『モンスターボックス』の中に戻っていてくれ」
『分かりました』
『こくり』
俺は頭の中で『応召』“ライム、カリン”と念じる。
すると、空間が歪み、ライムとカリンは『モンスターボックス』の中に吸い込まれていった。
「リースは外に出たままでいいのか?」
『大丈夫よ、舞と優斗以外には姿が見えないようにするから』
「へー、そんなことができるのか」
『ちょっと待て、妾にも見えるようにしろ』
『嫌よ、あなた嫌いだもの』
『なんじゃと!』
「アマルーナ、落ち着け」
「リース、落ち着いて」
アマルーナとリースが喧嘩を始めそうになったので俺と舞が止める。
あの戦いの一件から、リースはアマルーナの事が嫌いになってしまったらしい。
なんとか仲良くして欲しいものだが、すぐにというのも無茶な話だろう。
とりあえず、リースとアマルーナの件も解決したし。
「舞、帰ろう」
「うん!」
俺は舞に声をかけ、手を繋ぐ。
後ろからリースとアマルーナの言い合いが聞こえる中、二度と帰ることが無いと思っていた街に妻と一緒に戻れる喜びを噛み締めながら、俺達は街へと戻ったのだった。