日常について。
初めての方は初めまして、前作を読んでくださっていた方はお久しぶりです。
楽しんで読んでもらえると幸いです。
本日も毎日は平常運転だ。
学校への登校途中、俺はその憂鬱さに軽くため息をつく。
「はぁ、なんか面白いことでも起きないかな……」
それは軽く零した愚痴のように見えて、そこそこの切実さを伴ったものだ。
それほどまでに、今の俺はありとあらゆるものがめんどくさく感じられていた。
今は高校二年の秋初め。
夏休みから現実へと引き戻されてから約二週間が経過した頃で、未だにその気分が抜けることがない。
正直、このまま学校行かずに引きこもってやろうかとかも考えたくらいだ。
なんなら今も割と頭をよぎってるレベル。
まあ、それは今も隣で一緒に登校している悪友に阻止された訳だが。
「おいおいどうしたよ優斗、ため息なんかついて辛気くせえなぁ」
俺の気も知らずに、その悪友である三山一樹がいつもの豪快な笑みを携えながら俺に話しかけてくる。
「んや、今日もいつも通りだな〜とか思ってただけ」
「はっはっは、いつも通りでいいじゃないか!
普通が一番って言うだろ?」
そう言って豪快に笑うところが、この男の性格を表していると言ってもいいだろう。
常に非日常的な出来事が起こるのを待ち望んでいる俺とは違い、一樹は普通の生活を楽しんでいるタイプだで、性格にもその辺が影響している。
実際、俺は陰キャでクラスの空気的な存在だが、一樹は明るくクラスの人気者。
容姿に関しても、俺は特にこれといった特徴のない普通顔なのに対し、一樹はキリッとした目にまっすぐ通った鼻筋、全体的に整った顔のパーツと、明らかに恵まれた姿をしている。
このように、俺と一樹は完全にと言っていいほどタイプが違うのに、不思議と昔から仲がいい。
S極とN極が引き合うみたいな原理なのかもしれない。
「全く、そんなにため息ばっかりついてたら、川口さんにも見限られるぞ?」
と、そんなことを考えていると、突然一樹が爆弾をぶっ混んでくる。
「…………何の話でしょうか、わたくしさっぱり分かりませんわ」
「いや、嘘つくの下手か!
ま、俺には全部お見通しってことだな」
白々しくニヤニヤと笑う一樹に、俺は若干イラッとする。
が、それも一瞬。
その苛立ちはすぐにやるせなさへと変換される。
一樹の言う川口さんとは、俺のクラスメイトの川口舞の事だ。
身長が160cm程のショートカットの女の子で、つぶらな瞳に少し幼さを残したその可愛らしい容姿は、学年だけでなく学校全体にまで及んでいると言われるほど。
間違いなく学校で1番可愛い女の子と言える。
そんな子に俺は惚れているわけだが。
「……見限られる程も仲良くないよ」
俺のこの性格上、そんなに仲良く話せるはずもない。
クラスで人気度的にナンバーワンと言える一樹ならまだしも、ワーストワン辺りを競ってる俺なんかが川口と話していたら、まず間違いなく虐めの嵐に合う。
大袈裟な、と言われるかもしれないが、お世辞にもうちの学校の素行はよろしいとは言えないからだ。
まあ、実際はそれも現在進行形な訳だが。
「おいおい、そんな簡単に諦めていいのか?」
「………余計なお世話だよ」
俺は嫌なことを思い出させた一樹に若干苛立ちを感じながら、自然と歩みを早める。
だが、当然のように合わせて横で歩く一樹を尻目で見ながら、俺は再度、諦観するように深く長いため息をつくのだった。
△
▽
△
「はい疲れたー、もう帰っていいよね?」
「ははは、教室に入って開口一番にそれかよ。
まだ学校に来たばかりじゃねえか」
「俺的にはもう六時間目位の気分なんだけど」
「優斗の身に何があった」
そんな軽口を叩きあいながら、俺達は各自自分の席へと向かう。
俺の席は1番後ろの左から二番目。
一樹の席がその右斜め前だ。
何の因果かは知らないが、俺と一樹は高校で近い席になることが多い。
友達が少ない俺にとっては有難いことだが、変なやっかみをかけられることもあるのでどっこいどっこいってところだ。
席に着いた俺達が駄弁っていると、二人の女子が俺達に近づいてくる。
一人はさっきも出てきた川口で、もう一人はクラスのまとめ役である西本華凛だ。
西本は見た目で大和撫子的な雰囲気を醸し出しており、つり目と大人びた顔つきで川口とはまた違った人気を得ている。
更に性格も結構クールで、165cm程もある身長と長い髪、そして制服の上からでも主張してくる胸もその人気に拍車をかけているという。
そんなことを考えている間に、いつものように一樹と西本の言い争いが始まっていた。
この二人は喧嘩するほど仲がいいを体現しているような関係だ。
最早少しの争いなんて日常茶飯事である。
そして、これまたいつも通りに、川口が二人の様子を見てウロウロしていた。
川口にとって、この二人のやり取りは何度見ても慣れないらしい。
その仕草自体はめっちゃ可愛いのだが、出来れば俺の目の前でやるのはやめて欲しいところだ。
だって考えてもみてほしい。
クラスで1.2位を争う美少女二人にクラスの人気者に空気。
明らかに俺だけ浮いてるじゃないか。
むしろ空気だからみんなを浮かせているまである。
最近なんかでは、今も俺のことを睨んできてる上島剛を筆頭に、直接俺に言いに来るやつらもいるくらいだ。
あいつら、外からは見えないところばっかり殴るあたりタチが悪い。
川口に知られたら絶対嫌われるよな、と思いながらも、そんなことをしたら余計めんどくさいことになりそうだからしていない。
まあとにかく、この二人もどうせ一樹狙いなんだろうから、俺に文句を言っても何も変わらないのを分かって欲しい。
実際、西本は普通に一樹に好意を持ってるっぽいし、川口も俺と一樹が話しているのをチラチラ見て顔を赤めていたから。
まさかBL好きってわけでもないだろうし。
え、ないよね?
「だから、優斗は別に嫌だなんて一言も言ってないだろ?」
「表情で察しなさい表情で!」
俺がちょっとした疑念に頭を悩ましている間に、何やら言い争いがエスカレートしたみたいだ。
一体何の話をしていることやら。
「なあ、優斗!別に俺と一緒にいて嫌じゃないよな!?」
「芝崎、正直一樹にまとわりつかれて迷惑よね?」
え、まじで何の話?
こういうときなんて言うべきなんだろうか。
全然状況が把握出来てないけど、とりあえず『私の為に争わないで!』とか言ってみる?
「私の為に争わないで!」
「「ふざけず答えろ(なさい)!」」
「はい、ごめんなさい」
思わず本気の謝罪が出てしまった。
いやだって滅多に見ないガチトーンの二人怖いんですもん。
豆腐メンタルなんだからもっと優しくして欲しい。
まあ、よく分からないけど真面目に答えよう。
「いやさ、普通に考えて俺が一樹を迷惑だと思うと思う?
唯一の友達だよ?」
………自分で言ってて泣きそうになってきました。
いや、ほら、すれ違ったら挨拶するくらいの人なら多少はいるからね?
それを世の中は友達と認めてくれないだけ。
つまり世の中が悪い。
QED!
「ゆ、優斗!ありがとな!」
「言うじゃない芝崎、少し見直したわ!」
え、なんで感動の雰囲気?
マジでどんな話だったんですかね。
何故だか無性に気になり、俺はこっそり川口に耳打ちする。
(ちょっと考え事してて聞いてなかったんだけど、どうやってあんな話になったの?)
(え?
えっと、なんか最初に華凛ちゃんが、芝崎君が迷惑がってるからやめろ、みたいなことを言って、それで三山君がそんなことないって言って、そこから言い合いになっちゃって)
あー、うん、まあ大体想像通りだね。
本当に、あいつらしょっちゅう喧嘩しすぎでしょ。
(まさしく、喧嘩するほど仲がいいだね)
なんとは無しに言っただけだが、言ってしまってからはっと気付く。
これ、川口も一樹のこと好きなんだったら落ち込むんじゃ。
(あ、ごめん)
(そうだね。本当に仲いいよね)
あれ?
気にしてない?
(ん?
芝崎君どうかした?)
(い、いや大丈夫)
(ふふ、そっか)
そう言って川口はまた二人の様子を見て、今度はクスクスと笑い出す。
言い争いも落ち着いてきて、今度は急に微笑ましくなったみたいだ。
そんな姿を見て、俺は首をひねる。
どういうことなのだろうか。
普通、自分の好きな相手が別の人とお似合いと言われたら、嫉妬してしまうもんじゃないの?
……もしかして、川口の好きな人って一樹じゃない、とか?
いや、まあ今はそれはいい。
それより、さっき川口と親しく話したせいでクラス中の男子から睨まれてることの方がよっぽど気になる。
とりあえず、俺は睨まれているのに気が付かないふりをしながら二人のやり取りを見守ることにした。
一樹と西本の安定の夫婦漫才。
それは本当にいつも通りの風景で。
何の蛇行もない平常運転で。
だからこそ、俺は。
いや、俺達は。
『キーーーーーーーーン』
突然、よくあるライトノベルのようにクラスまとめて異世界に飛ばされることになるとは、想像だにしていなかったのだった。
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現代恋愛ものにチャレンジしているのでよければ。
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