君は未来が見えるかい?
「まぁ待てよ。しばらく俺の話でも聞いてかないか?」
俺はベンチの横に居る相手を見るなりそう呟く。そのお相手は退屈なんだか興味無いんだか良く分らない表情をしている。ははは、まあいいさ。
今は深夜で周囲には誰もいない。いるとしたらこんな深夜に歩きまわる好事家か不審者くらいだ。
「さて、と……実は俺にはな、未来が見えるんだ。」
チラっと隣を見る。何言ってんだこいつといった表情で俺を見ているな。まあいつものことだ。どれ、じゃあ実証してやるか。
「いや本当さ。……そうだな、じゃあお前の未来を見てやるよ。」
そう言って俺は持っていた缶コーヒーを一口飲んだ後、深く目を閉じる。
初めは真っ暗だった頭の中にだんだんと光が見えてくる。そしてその光はいつしかこぼれんばかりに溢れて、見えなかった物を可視化していく。そしてそこにあったものは……なんとも暖かくて幸せな風景だった。
「喜べよ、今のお前は底辺まっしぐらって感じだけどそのうち家族を持つぞ。しかもお前たちを見守ってくれる人もいる。はは、こんなに良い事はないぜ?見てる俺も嫉妬しちまうよ。」
はははと俺の乾いた笑いが空気を震わせる。隣のアイツはキョトンとしてる。なんだよ、もうちょっと反応があったっていいんじゃないか?
ははは、さてと。それじゃそろそろ行こうかな。あんまりに反応がないんでしらけちまった。
俺はそうして腰をあげようとしたが……アイツが俺をずっと見ていた。
その目はまるでお前自身の未来を見てみろって感じだ。
……まいったな。
俺は困った。そう、俺は今まで自分自身の未来は見たことが無かったのだ。
「いいよ、やってやるよ。」
よしきたと感じでアイツは見る。
俺はまた缶コーヒーを一口飲む。未来を見る前には缶コーヒーを飲むのが仕来たりになってるんだ。
「……」
そこは相変わらずさっきのように闇が支配している。そして、その静寂の世界にやがて一筋の光が――。
「やめた。」
俺は持っていた缶コーヒーを近くにあったゴミ箱へと放り投げる。
カラン
周囲に無機質な音が響いた。するとその音に驚いたのかアイツは一目散にどこかへ行ってしまった。
はは、猫っていうのは気ままなヤツだな。
俺は腰をあげて街灯一つない町へと歩きだす。
未来が見えるのは本当かって?
さあてね。それは御想像にお任せしますよ。
しかし本当に暗いな。街灯一つくらい建てても良いんじゃない?
けどこのまま建つことはなさそうだな。
俺は何故か強くそう思った。
連載小説を書いてる途中で詰んだので気晴らしに書きました。