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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

吸血の短剣 

作者: ひつき

前半数百字ほどが序章。その後本章となっています。


 昔々、とある村に、敵国の軍隊が襲いかかりました。

 非情な軍隊は、無抵抗の村人を次々と殺し、犯していきます。


 少女は、両親の手で床下に匿われました。

 兵士の恫喝どうかつに、両親の悲鳴にも似た懇願。我慢できなくなり、ついに隙間から、その光景を見てしまいました。


 父親が無数の刃に切り刻まれ、その傍ら、全裸に剥かれた母親が、死にながら兵士たちに犯されている。優しかった顔は、見るも無残に歪まされています。

 

 余りのショックに声も出なかったのは、幸いだったのでしょうか。

 床下の少女に気付きもせず、やがて金目の物と食料を抱えて去っていく兵士たちを、彼女は涙を流して睨んでいました。



 その夜、涙も枯れ、やがて目から血が流れる頃、少女の目の前になんの変哲もない直刀の短剣が現れました。

 呆然としたのち、それに手を伸ばすと、頭の中に声が流れます。


(ケイヤク、ダ)


 反射的に手を引きそうになって、続く言葉に、すぐ、止めます。

 

(チカラ、ヤル。ヒトノ、チ、タマシイ、ヨコセ)


 チカラ、力。

 その一言に、少女の意識は奪われました。


 力があれば、あの憎い兵どもを皆殺しに出来る。両親の敵を討てる。

 

「代価は?」


(ギシキ。オマエ、タマシイ、ハンブン) 


 代価は儀式を行うこと。それから自らの魂、半分。

 少女は一も二もなく了承し、儀式を始めました。



 それから数日。

 村に駐留していた兵士たちの間で、奇妙な噂が流れていました。

 なんでも、夜中、呻き声に交じって、どこからともなく女の声がするというのです。


 コロシテヤル。コロシテヤル。


 最初の内は気のせいだと、誰もが相手にしませんでしたが、やがて広まるにつれ、どうやら本当らしいと怯え始めます。


「きっと、生き残りがいるんだ。捕まえてひん剥いてくれる」


 とある男が言い放ちます。

 男は筋肉隆々の巨漢で、軍の中でも随一と呼ばれる実力の持ち主です。この戦でも、すでに三ケタにも上る敵兵を蹴散らし、『暴漢』という二つ名で恐れられていました。 

 

 兵たちは拍手喝采、悠々出かける彼を送りました。

 誰一人、彼の心配はしていません。彼なら、たとえ相手が化け物だろうが死神だろうが、笑いながら一蹴できると、そう思っていました。


 翌朝、丹念に引きちぎられた肉塊が、打ち捨てられていました。

 それを見た軍の指揮官は、この後に控えている進行作戦も忘れ、すぐに撤退命令を出しました。兵士たちは顔を青くして、一目散に逃げていきます。


 逃げ出した兵士たちの消息は不明。

 ただちょうどそのころ、村の近くで、手首に無数の切り傷を負った、返り血まみれの少女が軍に保護されました。

 若干歪んだ短剣を、彼女は大切そうに抱え、兵を志願したそうです。


 愛らしい笑顔を振りまき敵軍を蹂躙していく短剣使いの少女が現れる、ちょうど一年ほど前の話です。






 とある国に、短剣使いの女兵がいました。

 背丈は低く、笑顔の愛らしい、一見するとおとなしい美少女です。事実、普段の振る舞いは少し人見知りする、控えめな乙女といった雰囲気でした。


 しかし、ひとたび戦場に出ると、いや、ある敵国の人間を目にすると、豹変します。

 鋭く細めた目を真っ赤に染め、しかし口元に薄く笑みを浮かべる相貌は、まさに悪魔。そしてその雰囲気の通り、まるで草を刈るようにあっさりと、無慈悲に、敵兵の急所を抉り、その命を絶っていきます。


 少女の持つ短剣は、人を斬るたび赤く光り、その形を徐々に変形させていきました。まっすぐだった短剣は、いまや見る影もなく歪んでいます。

 しかし切れ味はむしろ増していき、鉄の装甲など紙切れのように貫きます。


 少女の人間離れした運動神経と相まって、並の兵士では、もはや時間稼ぎすら叶いません。


 少女が出る戦場では必ず血の雨が降るそうで、そのうち彼女は『ヴァンプ(女吸血鬼)』と呼ばれるようになりました。



「おつかれさまです。今日も大活躍でしたね」


 少女が千人斬りを果たしたとある戦のあと、部下の兵士が労ったところ、少女は意外そうな顔をして、こう答えました。


「あら、たった千人でしたか……満足できないはずです」


 硬直する兵士をよそに、やわらかく微笑みながら、少女は足元にある死体を踏みつけ自陣へと帰っていきました。




 ある日、そんな彼女の功績を湛え、王様から褒美が与えられました。

 褒美の内容は、少女を軍の大将に任命するというもの。この若さで、しかもまだ軍隊に入って幾年も経たない少女が軍のトップとは、異例中の異例と言えました。


 当然、様々な反発がありました。

 少女をあえて危険な地域へ送り込んだり、時には暗殺なども試みられるほどです。少なからず、その国にも汚い面がありました。


 しかし、どれも失敗に終わりました。


 どんな戦況でさえ、少女は一人で覆してしまいます。

 人を斬り続けた結果、短剣は恐ろしく歪み、それに比例するように少女もまた、人間離れした動きを見せるようになりました。

 何キロも先にある戦場へ一瞬で現れたり、隠れている敵を野生の猛獣が如く索敵したりと、文字通り、人間ではありえません。


 もはやただの怪物と言っても差し支えない少女に、暗殺など通じるはずもなく、試みた翌日には、暗殺者含め内通者まですべて、肉塊と化しました。

 明らかに少女以外ではありえない。

 しかし、誰もそのことを指摘できません。

 敵対すれば、次は自分だ。

 そんな恐怖が根付いたのは、毒殺含め五回にも及ぶ暗殺と、その報復を目の当たりにしてからです。

 

 悠々玉座に座る王様は、しかしかすかに震えています。

 目の前で跪く、この場の誰よりも若く小さな少女を、誰もが恐れていました。


 王様が儀式を着々と進めていきます。

 しんと静まり返った場内は、一見、平和そのものでした。


 そんな仮初めの平和が破られたのは、意外な時です。


 大将について、その役割が説明されている時、ピクリと、少女の整った眉根が動きました。

 たったそれだけで、会場が緊張に包まれます。


 なにが気に障ったのか。

 王様は冷や汗を流し、おそるおそる、少女に尋ねます。

  

 すると少女は、こう答えました。


「大将の任、誠に申し訳ございませんが、降りさせていただきます。私は、戦場に出たいのです」


 大将は基本、自陣で指示を出す役割。

 そんなことよりも、自分は危険な敵陣へ飛び込み、一人でも多くの敵兵を殺したいのだ。


 誰もが呆気にとられる中、少女はさも申し訳なさそうにそう言い、頭を垂れました。 




 誰よりも敵兵を狩り、誰よりも危険な地へ飛び込んでいった、誰よりも若く小さな少女のおかげで、ついに国は勝利しました。

 

 決め手は、少女の単身による、敵国中枢への特攻です。

 敵国は戦える兵を失い、全面降伏。少女は一人で万にも上る敵兵を狩りつくし、敵国トップの首を脇に抱えて凱旋しました。


 敵国の統治は、苛烈を極めました。


 敵兵は全員、少女の手によって処刑。

 住人には寝る間もないほどの強制労働が課せられます。


 それは誰もが目を潜めるほど、悲惨なものでした。


 決して、これは上策でない。

 すぐに報いを受けるだろう。


 仮にも一国のトップである王様は、そんなこと百も承知でした。当然、この統治は彼の意志ではありません。

 バックには、変わらず無邪気な笑みが特徴の、愛らしい少女がいます。


 少女は微笑みながら、敵国の住人が苦しむのを眺めました。


  


 とある日、住人の居なくなった植民地に、短剣を持った少女が立っていました。

 昨日起きたクーデターの際、少女は住人を皆殺しにしたのです。


「あはっ」

 

 突然、少女は吹き出しました。


「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」 


 無限にも続く笑い声のあと、少女は自らの首へ短剣を突き立ち、崩れ落ちました。

 

 残っていた死体は、まるでミイラのように干からびていたと言います。





三人称の練習のため、書きました。

対した捻りもありませんが、なにかあれば、感想欄に書いていただけるとうれしいです。

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[一言] シンプルでしたが面白かったです
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