真っ赤なお鼻のかわいい人
真っ赤なお鼻のかわいい人。
バイト先のお店の前で。
白い景色に一人佇み誰かを待ってる。
寒くないの? いや寒いよね、お鼻じゃなくて耳まで真っ赤。
「中に入りませんか?」
そう言えば、俯いてしまった。恥ずかしがり屋のかわいい人、今は顔も真っ赤だね。
誰を待ってるのかは分からない。 決まった時間にいつも来て、いつの間にかいなくなってる。
そんな彼を待たせる人は、きっとワガママな幸せ者だね。 きっと彼は、そうしたいから待っている。 その人を大切に思うから、真っ赤なお鼻も我慢できる。
彼の待ち人、一度でいいから見てみたいな。
静かな夜に、今日も彼は一人佇む。
そんな彼の後ろ姿を、私はぼんやり眺めてる。
不意に見えた横顔は、今日も鼻を赤くしてる。
健気で、真面目で、とても優しい。
何も知らないけれど、それだけはなんとなく分かる。
バイトが終わる頃。 いつもと違うことに気づく。
彼がまだ外にいる。 いつもはこの時間にはいなくなるのに。今日は待ち人さん、遅いのかな?
そのまま帰ってもよかった。 多分、彼は私のことなど知らないだろうし。
それでも。彼に声をかけたのは。 単純に、気になるからだ。
「寒く、ないですか?」
彼は少し驚いた顔をした後、小さく頷いた。また、顔まで真っ赤になる。 本当に、かわいい人だな。
「いつも、誰かと待ち合わせてるんですか?」
答えたくなければ、無理に返事はいらないですけど。
「………待ち合わせというか。 その、勝手に待ってるというか……」
初めて聞いた、意外と低い彼の声。 それにしても、やっぱり少し変わった人だね。 勝手に待ってるって。 頼まれてもないのに、そんなにお鼻を赤くしてるの? なんだかおかしいね。
「好きな人、ですか?」
「………一目惚れ、ですね。 僕の勝手な、片想いです」
どんどん顔は赤くなってく。 言わせておいてなんだけど、相当照れ屋さんだね。
「そうですか。 でも、その人は幸せだと思います。 こんな風に、想ってくれる人がいるんですから」
「………気持ち悪く、ないですかね。 その、ストーカーとか、思われたり」
「んー。 何も知らない人が見たら、ちょっと……… でも。 あなたが真面目な人なのは見てて伝わってきたので」
彼が真面目なのは見てて分かった。 それに今こうして話したことで、自分の気持ちに正直なんだって感じたから。
「それじゃ。 寒いけど、頑張ってください!」
「あ。 あの、これ」
振り向いて、首に温もりを感じた。 彼がしていたマフラー。 それが首に優しく巻かれた。
「………さ、寒いので」
「え、っと。 あ、ありがとです」
そう言うと、彼は笑った。 真っ赤なお鼻のかわいい人。
つられて私も、赤くなった。