第九十二話 決闘申請
黒い聖獣、ナルカミを配下に入れた翌日。
本当なら、今は聖獣を探しに未踏地にいるはずのゼロ達だったが…………
「ホホッ、また会いましたな!」
拠点の外に出たら、いつもの笑い声を出してくるミディ・クラシス・ローズマリーの執事をやっている悪魔の老人、ロドムの姿があった。
「お前はな……、最近、出番を取り過ぎじゃねぇ?」
「ホホッ、出番? 面白いことを言う方ですな!」
「はぁっ……」
正直言って、ゼロはロドムが苦手だ。なんか話すだけでも疲れるからだ。
「で、何の用だ? ……ナルカミ、コイツは敵じゃないから落ち着け」
「グルゥゥゥ……」
初めて出会うロドムに警戒をするナルカミ。
ナルカミは実力を隠しているといえ、ロドムから何かを感じとっているようだ。
そこにゼロは感心していた。ある程度は実力を計れるようですぐに飛び掛からなかったことを誉めてあげたいと思う。
「おやおや、初めて出会いますね? ……黒い鱗に、額に角がある……はて? 聖獣の麒麟に見えますが……、黒い麒麟なんて聞いたことがないのですが……。って、なんでここに聖獣がいるんですか!?」
ようやく聖獣だと気付いたロドムは驚愕の表情を浮かべていた。やはり魔王と聖獣は仲良くなると言うのは聞いたことがないようだ。
「コイツは俺の配下だ。聖獣を仲間にすることは、やはり珍しいか?」
「ホホッ、珍しいだけではないのですが……」
「どういうことだ?」
「ホホッ、聖獣とは魔を打ち払う獣とこの世に生まれたと聞いています。魔王となれば、水と油のような存在なんですが…………、貴方に懐いていますね……」
ロドムはゼロとナルカミの顔を交互と見ながら言ってくる。
やはり、聖獣は魔王というより勇者側みたいなものだったようだ。
「まぁ、ナルカミは俺が育てたから聖獣じゃなくて堕聖獣と言う種族になっている」
「堕聖獣……、それも初めて聞きますね。さすが、ミディ様に認められたお方! ミディ様への面白い土産になりそうな話が出来て喜ばしいですな!」
「……で、何の用か聞いていたんだが? さっさと話さないなら行くぞ?」
なかなか用件を話さないロドムを無視して出発しようかなと考えていたが…………
「お待ち下され! 私は貴方にある申請を伝えに来ました」
「申請だと? ミディからか?」
もう戦いたいのか? あの幼女は…………と思っていたが、違ったようだ。
「ミディ様からではありません。別の魔王から申請がありました」
「別の魔王だと? 俺が屋敷で出会った奴か?」
「いいえ、今回は参加されていませんでした。ただ変な魔王なので……」
「どういうことだ? 詳しく説明しろ」
「長くなりそうなので、中で構いませんか?」
「…………影に寄生しとけ」
また聖獣探しは中止だ。くだらない用件だったら断ろうと思ったが、ゼロが会ったことはない魔王からの用件では簡単に無視出来ないことだと判断した。
ナルカミは残念そうだったが、黙ってゼロに着いていく。フォネス達もゼロに習って拠点に戻っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは魔王の間ではなく、全員が座れる場所であり、会議室みたいな部屋になる。
全員が椅子に座り、ナルカミはゼロの隣で座って待機していた。
ソナタにお茶の準備をさせてすぐに下がらせた。
「……で、説明してもらおうか?」
「ホホッ、この茶は美味しいですな。魔王からの用件でしたな、名はガンスロット・ジ・ノールド様。他の魔王と違って魔物討伐を主に世界を回っております」
「魔物を討伐だと? 俺も魔物を討伐するが、それは手段であって目的ではない。それを目的にしているなんて、人間みたいだな?」
「ええ、ガンスロット様は元人間でありますから」
「は? 人間が魔王になったと言うことか?」
「ホホッ、驚きになりますね。そう、ガンスロット様はゼロ様みたいに魔王を倒して自力で『魔王の証』を手に入れました」
「『魔王の証』についての謎がまた増えたな……」
レイの力を持っても、『魔王の証』の全てを解析出来なかったのだ。どうすれば『魔王の証』が生まれるのか? それに、なんのために存在しているのか? そして…………
(人間も『魔王の証』を手に入れたら魔王になるのか……)
『……もし勇者が魔王を倒したら、勇者が魔王になるよね……?』
(それでは魔王は減らないままになるじゃないか。……いや、何か封印とかしているか?)
『……かもしれない。情報が少ないから判断は出来ない……』
まだ情報が必要だ。だが、その前に何故その魔王ガンスロットが俺になんの申請をしたのか聞かなければ…………
「ホホッ、申請の内容ですが、決闘をしたいというものでした」
「決闘だと? 何故、俺を狙うんだ」
会ったこともない魔王から狙われる心当たりが…………いや、まさかエキドナ関連か?
「いえ、エキドナ様とは関係ありません」
「よくわかったな……。なら、心当たりはないな」
「ホホッ、一つありますよ」
「は?」
一つだけ? ゼロはまだわからない。と、そこにレイが一つの推測を思い付いたのだ。
『……ガンスロットは元人間…………、宣戦布告したことが……気に食わない?』
(あ、元人間だと言っていたな? なら、仲間に人間がいてその情報を聞いたからか?)
その可能性が高い。早速ロドムに聞いてみたら…………
「ホホッ、気付きましたな。そうです、ガンスロット様は人間を愛する魔王です。なので宣戦布告したことや街を潰されたことに腹を立てていました」
「そうか、それで決闘わけか。しかし、何故決闘なのだ? 拠点を探して攻めればいいだけじゃないか?」
「それは、そうですが…………」
ロドムの話では、魔王ガンスロットは人間と敵対していないなら、魔王でも放って置くという。
ミディとも面会があり、ミディは人間を全滅させる趣味はなく、ただ攻めてきた敵を消しているだけなのでガンスロットはミディを敵ではないと判断している。
そこで、ゼロと言う魔王が人間と敵対している情報を手に入れたので、魔王ガンスロットがゼロを消すために行動したのはいいが、拠点の居場所がわからなかった。
だから、ミディなら知っているのでは? と思い、頼ってきたようだ。
もちろん、場所を知っているロドムは教えるにはいかないので、今、こうして伝言をして決闘という形で挑むと言ってきたのだ…………
「……ったく、魔王なら自分で拠点を探しに来いよと言いたいな」
「ホホッ、私はただの伝言役なので意見は言いません」
「そうか……。そういえば、決闘はどう考えているんだ? 内容は決まっているのか?」
「ガンスロット様が決闘を了承するなら、ミディ様が立ち合いの下で戦うと言うこと。ルールはミディ様が考えています」
「ミディはやる気満々かよ……」
もう準備を始めているようだ。まるで、ゼロが断らないとわかっているように…………
(……レイ、お前の身体はまだ未完成だったよな?)
『……うん、長時間は戦えない。壊してもいいなら、全力でも三時間ぐらいなら堪えれる……』
(いや、壊すのは勿体ない。もしガンスロットと言う奴の死体があったら? そして『魔王の証』をまた手に入れたら?)
『……成る程、材料を集めるにはちょうどいいね……。さらに人間と戦っている時に割り込みされたら……、ウザいしね……』
(なら、決まりか?)
『……うん!』
その後のことを考えると、魔王ガンスロットはゼロの目的の邪魔になると予想出来るので、この決闘で殺して死体を手に入れるのもいいだろう…………
「いいだろう。受けると伝えろ」
また魔王と魔王の戦いがこの世界で起こるのだった…………




