第九十話 客人
聖獣から卵を託されてしまい、このまま別の聖獣を探しに行くにもいかず、拠点に戻ることにしたのだ。
「はぁ〜、まさか卵を託されてしまうとはな……」
「この世は思い通りに行きませんね」
「でも、聖獣に卵を託されるなんて人間内では聞いたことがありませんよ」
「ん、そうなのか?」
てっきり、前の歴史の中で一、二度はあると思ったが、ゼロが初めてのようだ。
それとも知られなかっただけなのか…………
「まぁいい。生まれたらコイツにも働いてもらうさ」
育ててあげるには、この聖獣にも働いてもらおうと考えているのだ。魔王のペットとしてな…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
拠点に着いたら、ちょうどクロト達が帰ってきた所で、拠点の前で待機している姿が見えたのだった。
「早いな?」
「ククッ、行きは普通に走って行きましたが、帰りは奇術で転移して帰ってきましたので」
「成る程な……」
『奇術』は回数の制限があるが、凄く便利な技だなと思ったゼロだった。
「……で、コイツらがドワーフってやつか?」
「うん! そうだよっ!」
見た所、10人程のドワーフがいて、荷物を持ってこっちを見ていた。
……ん? 思ったより少ないな?
人数が思ったより少なくて、こっちを見る目に思ったより怯えが少なかった。
「もしかして……」
「はい! 配下になりたいって!!」
ミーラが答えてくれる。ゼロはそれで納得した。奴隷にしなくても、協力的にこっちに加担してくれているようだ。
だから、協力的なドワーフだけ連れて来たと言うか…………
「わかった。クロト、中に案内してやれ。で、ドワーフの中にリーダーはいるか?」
「ワシがリーダーだ。アンタがコイツらのボスってわけか?」
「ゼロ様になんてな口をっ!!」
「よせ……、そうだ。詳しくは中で話そうではないか」
ゼロは怒るフォネスを止めて、ドワーフを拠点の中に入れた。
そして、魔王の間に全員が集まっている。
「クロト達から聞いていると思うが、俺は魔王になったばかりのゼロだ。協力して欲しいことがあったから呼んだのだが…………」
「ああ。俺はドワーフのリーダーをやっているヤムだ。
詳しくは仮面男から聞いている。世界征服が目的だとな」
「うむ、そこまで聞いているなら早いな。で、協力してくれるのか?」
ゼロはヤムの目を見て、問う。
ゼロは協力的な態度でいてもすぐに信じないのだ。相手の目を見て、判断するつもりだ。
ヤムも目を逸らない。しかも、何か覚悟を持ったような強い目をしてくる。
「……だが、条件がある」
「ほう?」
ただでは従わないと言っているようだ。
よく見ると、ヤムは脂汗をかいていた。ゼロ達は自分達では太刀打ちさえも出来ないほどの実力を持っているとわかっているようだ。
それでも、覚悟を持ってゼロに進言してくる。
「アンタは強い。目的が世界征服だと聞いている。
俺達が束になっても太刀打ち出来ないのはわかる。俺達10人はアンタの配下に入るから、自分達の村を庇護に入れてくれ」
「…………成る程。村を守るために自分達が犠牲になるということか。
しかも村を庇護に入れろと言う条件もつけるか」
「ああ……」
身体が震えるドワーフ達。
内心、良く考えたなと思ったゼロだった。それなら逆らって奴隷にされるよりマシだと判断できる。しかも、村を庇護する条件も付けてきた。
それが10人の労働を対価として…………
「ふふっ、ふはははっ!!」
「ゼ、ゼロ様?」
隣で待機しているフォネスが心配してくるが、ゼロは気にしない。
「面白い! 悲観的な状況に陥っても、お前達は良く考えて行動してくるとはなっ! いいだろう。お前達を配下として、村を庇護に入れてやろう」
「ほ、本当か?」
「ああ、村は一日で行ける距離だし、構わん。だが、ちゃんと働けよ?」
「あ、ありがとうございます!」
ドワーフ達が頭を下げてくる。
ヤムは賭けに勝ったような顔をし、ホッと安心していた。
もし逆らったら奴隷にされるか殺されるのは決まっていたのだから、ヤム達は自分達が安全に暮らせるようにするために交渉することに賭けたのだった。
結果、10人が配下になるだけで済み、さらに村を庇護してくれる存在を手に入れたのだった。
クロト達だけでも充分、強者だけなのに、さらに上がいると知ったヤム達はその案を思い付いていた。
「さて、お前の上司となる者を紹介する。ソナタにヨハン!」
「「はっ!」」
二人が呼ばれて前に出て来る。
二人にドワーフを任せることにした。ソナタは生活面のことを任せているし、食糧係の人手が必要だったから何人かは畑を耕すことになるだろう。
ヨハンは研究を任せているが、鍛治にも興味があるようなのでリーダーのヤムと何人と一緒に、武器を作らせることにする。
ヨハンも一緒なら、ただの武器ではなくて、魔法が付加された武器を作り出してきそうだなと思ったのだった。
「言っておくが、裏切りは許さないからな?」
「は、はい!」
「よし、頑張れば何か褒美を取らせるから楽しみにしていろ」
褒美と聞いて、少しはやる気が出たようだ。
その後、詳しく内容を話して、配下と言われても下っ端には変わらないので扱いを心配していたが、奴隷ほどに働かされるわけでもないとわかったのでドワーフ達は安心していた。
「ソナタ、ヨハン。任せたぞ」
「任せて下さい」
「いい結果を出して見せよう!」
二人も、働き手を手に入れてやる気満々だった。
ソナタ、ヨハン、ドワーフ達が魔王の間から出ていって…………
「ゼロ様、その卵は……?」
クロトが今まで気になっていたことを聞いてきた。シル、ガルム、ミーラも気になっていたようだ。
「ん? これか、本当は聖獣相手に力試しに行っていたんだが、既に傷だらけだった聖獣から卵を俺に託して死にやがったんだ」
「ええと、その卵は聖獣の卵ってことですか?」
「そうだ」
「ククッ、さすが我が主! 聖獣でさえも認めるほどですなっ!」
「それほどに凄いことなのかわからんがな……」
「充分、凄いことだとマリアは思いますが……」
今まで聖獣から卵を託されたことなんて聞いたことがないから凄いことだと思うが、そんな実感がない。
あの麒麟が敵でもないなら、誰でも良かったと思われていたからなのか……?
考えてもわからないので考えるのを辞めて、卵を撫でるゼロだった。
『……あれ? 卵が魔素を吸収している?』
(そうなのか?)
『……本人に気付かないぐらいに少しずつだけど……』
(もしかして、魔素で成長しているとか?)
『……その可能性はある。魔素を込めてみて?』
(……やってみるか)
レイが卵は魔素を吸収していることに気付いたのだ。この場にある魔素だけではなく、ゼロの魔素も吸い取っていたので、さらに魔素を込めてあげれば、成長が進むのでは? と思ったのだ。
『……やっぱり吸収して成長している』
(まだ吸収出来るみたいだな?)
ゼロはさらに魔素を込める。周りにいた配下が魔素の濃さに何事か!? とゼロの方に向く。
ピキ、ピキッッ…………
卵が僅かに揺れたと思ったら、卵にヒビが入って…………
「……ピキッ!」
何か黒いモノが卵から出てきたのだった…………




