第八十五話 勇者の覚悟
ついに200万pvを越えたー。
いつも感想をありがとうございます。
なかなか返事が出来ないけど、全て読ませてもらっています。
ゼロの宣言から、一週間経った。
宣言を直接受け、広告塔と扱われてしまっている勇者達は、カズトを召喚した国、ルーディア帝国に戻っていた。
しばらく拠点にするつもりだったメイガス王国はもうないので、カズトを召喚したルーディア帝国に戻ることにした。
強くなるまでは戻らないつもりだったが、今になっては新たな魔王が生まれたことを知らせなければならないのだ。
ルーディア帝国は最前線で未踏地を開拓していくことに力を入れている。だが、召喚されたカズトは戦いの経験もないので、まず力を付けてもらうために新人冒険者が集まるメイガス王国に向かってもらっていたのだ。
ここで鍛えるには、魔物が強すぎるのだ。召喚されたばかりのカズトだったらスキルを発動する間もなく、殺されてしまうだろう。
だが、メイガス王国を潰され、世界征服を宣言された日から急いで自分を召喚した国に四日間かけて戻っていた。
帝王との面会も着いてすぐに新たな魔王が生まれ、宣戦布告されたことを報告してある。
今は上の方は大慌てだろう。他の国に使者を送り、対策するために指示を出したりと忙しく動いていた。
その中、カズト達は今までの疲れを癒すために休んでいた。
本当ならメイガス王国とルーディア帝国の道を一週間はかかる所に、四日で急いで帰っているし、それから依頼帰りだったので昨日、一日気絶するようにベッドに倒れたのだった。
カズトの部屋になっている一室、当のカズトとマギルがいた。
「カズト、大丈夫か……?」
「……ああ、昨日、一日寝ていたからもう疲れはないさ」
「いや……、ゼロのことだ」
「…………」
昨日は考えることもなく、気絶するように眠っていたため、マギルは今に聞いておこうと思ったのだ。
「カズト、お前は人を殺した経験はないだろう? ゼロは魔物だが、元日本人でもある。そいつを殺す覚悟はあるのか?」
そう、カズトはこっちの世界でも人殺しは経験したことはない。
魔物なら殺せるが、人間ではどうだろうか……、もしゼロと戦うことになっても殺せないようなら、カズトを戦線から外して貰おうとマギルは考えていた。
向こうは殺人に躊躇はないだろう。街を潰してきたことからわかる。
もし殺す覚悟がないなら、カズトはすぐに殺されてしまうだろう。
マギルはカズトに死んで欲しくはないから、問い掛けるのだ。
殺す覚悟はあるのか? ないのか? と…………
カズトはマギルが心配からの問い掛けだとわかっている。
正直に言えば、人間を殺す覚悟はまだ出来ていなかった。
ゼロは魔物として生まれたようだが、元日本人で人間だったことを知ってしまっている。
カズトはルーディア帝国まで走っていく時、どうしてゼロは殺しに躊躇はないのかも考えていた。
おそらく、ゼロには目的があるから、人を殺す覚悟なんてとっくに決めていたと思う。
だが、カズトは目的がない。
召喚された時は驚いていたが、話を聞いてからカズトは困っている人達を助けたいと思って、勇者になることを了承したのだ。
今思えば、ただ流されただけだなと気付いた。
なら、カズトは本当に何がしたいのか考える。
困っている人を助けたい? それだけでは人を殺す覚悟には弱い。
マギルは黙って考えつづけるカズトを待つようだ。
今はまだ時間があるのだから、カズトは考える。
殺さなければ、自分が殺されるのはわかる。
自分だって死ぬのは怖いから殺される前に殺すことは有り得るかもしれない。
だが、問題はその後だ。
罪の意識に堪えられるのか……?
「罪を背負うのが怖いか?」
「っ!?」
マギルから考えていたことを言い当てられて驚いた。
顔に出ていたのか? と思っていたが、マギルは続ける。
「もし殺すことになってもお前だけに背負わせるつもりはねぇ。俺達がいる。仲間はそういうものだろ?」
「マギル…………」
「この言い方だと強要しているように聞こえるが、俺はカズトと一緒に戦って平和を掴みたいと思っている」
さっき殺す覚悟がなかったら戦線から外すと考えていたのに、矛盾しているなとマギルは思っていたが、やっぱり短い期間と言え、仲間だと思っているのだ。
カズトと一緒に平和を掴みたい気持ちが強かった。
「……僕もそう思いますよ。周りが命懸けで戦っているのに、自分だけ退いているのは嫌ですから」
カズトの目には覚悟を決めたような強さが現れていた。
その目を見たマギルは言葉はいらないとわかった。
「これからも宜しくな」
「はい。まだ僕は弱いけど、やれることはやっていきたいと思います」
お互いが手を出し、握手する。
カズトは戦うことを選んだ。もちろん、殺しに躊躇はあるが、仲間と一緒なら大丈夫だと信じている。
そこでドアからノックの音がして、カズトは「入ってもいいよ」と答える。
入って来たのは、テリーヌとガイウス……………………後ろには、リディアがいた。
「リディアさん!?」
「生きていたとはな」
リディアはメイガス王国でギルド長代理と受付嬢を勤めていたから街ごと消されてしまったと思ったが、どうやら運が良かったようだ。
「私は貴方達を依頼で送った後、すぐに聖アリューゼ皇国に向かっていたので助かったの」
「そうだったんだ……」
一人でも生き残りがいたのは嬉しいことだった。だが、当の本人の目は僅かに赤くなっていた。
リディアの家族もメイガス王国に住んでいたが、今はもうメイガス王国がない。
リディアみたいに運よく何処かにいたとかはないだろう。
「リディアさん……」
「貴方が悪いわけでもないのに、そんな顔はしないで下さい」
「……はい」
「私は運が良かったから生き残れたけど、やっぱり死を見るのは慣れないわね……」
リディアは受付嬢もやっているから冒険者の死を触れ合うことが多い。
この世界は弱者に優しくないのは知っているが、死に慣れることはないだろうと思っている。
メイガス王国を潰した者は憎いとリディアは心の中で思っているが、復讐は何も生み出さないのは知っているので、カズトに殺して欲しいとかは頼まない。
ただ、平和を呼び寄せて欲しいと願うだけ…………
「カズト、さっきまでと様子が違うんだが、何があった?」
「そうよ、前より男らしくなった?」
二人はカズトの様子が前と違うと気付いたようだ。覚悟を決めたらそんなに変わるんだな。と思うカズトだった。
「確かに、前は迷いがありました。だけど、今は大丈夫です」
「ああ。俺が保障するぜ」
「ふーん、暗いままよりはマシかな?」
「まぁいい。これからのことを話し合うが、ここでいいよな?」
「私は戦うことは出来ないのですが、何か提案させて下さい」
リディアも混ざって、今後のことを話し合うことに。
カズトは仲間達を見て、自分を信じてくれている仲間を決して死なさせたくないと思う。
その覚悟が心にさらなる光が燈すことになるのだった…………




