第八十話 ジガルド街へ向かう勇者
ゼロ達がエキドナ・キス・スカーレットの拠点に向かっている時、勇者達の方では…………
「もうすぐでジガルド街に着く。街の中といえ、何が起こるかわからないから警戒しとけ。
もしかしたら、首謀者本人が襲って来る可能性があるからな」
「わかりました」
ガイウスが軽く警告してからジガルド街に向かう。
勇者パーティはカズト、マギル、テリーヌ、ガイウスの四人。
ギルド長代理のリディアからの依頼でジガルド街を調べて欲しいということで来ていた。
ジガルド街はゼロの配下が潰した街であり、たまたま外に依頼で出ていた冒険者が報告してきたのだ。
街に誰もいないと。
さらに戦った跡が残っていたので襲われたと予想しているのだが、一体、誰がやったのかは不明なので勇者パーティが調べることになったわけ。
「静かですね……」
「ああ。ここまで近付けば、商店などの賑わいで活気がある街なんだが……」
「やっぱり、報告通りに全滅したのね……」
場が暗くなる。最近は村や街が襲われているのに、未だ、まだ犯人が捕まっていない。
勇者パーティの中ではゼロではないのか? と怪しんでいるが、その目的が掴めていなかった。
死体がないのは兵を増やすためなのは予想しているが、その先がわからないのだ。
カズトは直接、ゼロに会って話を聞きたいと思っているのだが、なかなか会えないでいた。
勇者パーティが街への入口前に着き、周りを『魔力察知』などで調べながら入っていく。
「戦いの跡があったのは確か、広場だったな?」
「はい。広場と言っていました」
ガイウスとマギルが確認しあい、カズトとテリーヌは周りの様子を見ていた。
ただ一人もいなくて、街自体は襲われたにしては、綺麗なんだが静か過ぎて不気味だった。
そのまま、広場にまっすぐ向かうが、周りには『魔力察知』の反応はない。
ガイウスはここに敵を残していると予想していたが、全く反応がないので呆気なく広場に着いたのだった。
「ここで戦ったのか……」
「ええ、血跡が少し残っているわ。しかし、何故他の場所は綺麗のままなのかしら?」
「確かに、戦いの跡が全くない。なら、大群で攻めて来たわけじゃないな」
「まさか、少数だけで……」
「そうなるな……」
街が壊れてない様子から大群ではなく、少数で攻めてきたとわかる。
だが、どうやって街にいた全ての人がいなくなるのかわからないのだ。
相手からのアクションがないということは人質の線は薄くなった。
もし、相手が街にいた人を人質にしているなら何か言ってくるはずだが、それがない。
つまり、殺された可能性が高い。
死体に利用価値がある相手ならば…………
「他におかしいこと、気付いたことがあるなら言っとけ」
「やっぱり、どうやって街から人が消えたのか気になりますね」
「ああ。殺したなら血が残ってもおかしくはないんだが……」
「血さえも残ってなかった?」
マギルが建物の中に入って調べてきたが、血跡はなかった。さらに争った跡も皆無。
「くっ、敵がいたら捕まえて聞いてやるんだが……」
「ほう? 何か聞きたいことが?」
「っ!?」
「なっ!?」
声が聞こえた方向に目を向けると、一人の男が立っていた。
その姿は白の着物で髪までも白くて身体が僅かに透けていた。
そう…………、ヨハンだった。
『魔力察知』に引っ掛からずに急に表れたことに動揺するが、戦闘態勢に入る。
「何者だ……?」
「私? ここを潰した二人の内、一人ですよ。
名はヨハンと申します」
「貴様が……!」
ここを潰した人が目の前にいる。マギルは突っ込みそうになるが、それをガイウスが止める。
ガイウスは目に怒りが見えるが、冷静に話を続ける。
「で、ここを潰した奴が何故、ここにきているんだ?」
「ふむ、反応があったんで見に来ただけですよ」
「反応だと?」
ヨハンが指を指す場所にはただの屋台があるだけ。
ヨハンが指した指をクイッと動かすと屋台に付いていたたった一枚だけの紙がヨハンに向かってヒラヒラと飛んでくる。
「この紙が私の目であり、耳でもあります」
「会話さえも聞かれていたわけか……?」
「ええ、ここの人はどうなったか気になるのでは?」
「貴様、まさか殺したと言わねぇよな!!」
「はい、殺しました。街にいた者は一人残らずね」
「っ!!」
ただ感情もなくあっさりと答えるヨハンにカズトはギリッと剣を強く握っていた。
「お前らの目的は何だ? 目的ぐらいは教えてくれてもいいだろう?」
「世界征服」
「…………え?」
またあっさりと答えるヨハン。
スケールの大きい目的にカズトは混乱していた。まさか、現実に世界征服を目指す者がいるとは思わなかったからだ。
「そうか……、次はお前の首謀者は誰だ?」
「我が神です」
「やっぱりトーア街を潰した奴の仲間か……」
死体がない所がトーア街の件と似ている。
トーア街を襲った者も『我が神』と言っていたことから仲間だと確定したのだった。
「やっぱり名前までは話さないようだな。後は捕まえてから聞けばいいだけだ!!」
ガイウスがヨハンに向かって突っ込む。ガイウスの武器は自分自身であり、拳は岩さえも砕く。
その拳が僅かに光っていてただの拳ではないのがわかる。
それがヨハンに打ち出されたのだが…………
スカッ!
すり抜けていた。
ヨハンが霊体だからすり抜けたわけでもなく、ただ本体がここにいなかったのだ。
ヨハンが本体で『透過能力』を使っていてもガイウスは聖気というモノを纏まって殴っていたからすり抜けることはない。
聖気は魔力や妖気と違ったモノであり、数少ない者が使えるモノだ。
「お前は本体じゃないな!!」
「そうですよ。わざわざ本体で出て来るわけないでしょう? さて、様子を見に来ただけで貴方達をどうとしようではないので安心して下さい。私はもう消えますね」
ヨハンは勇者パーティに何もせずに帰るようだ。
その前にカズトが待ったをかけた。
「待ってくれ! お前の我が神と言う者はゼロなのか……?」
「…………我が神は我が神です。では」
ヨハンは答えになってないことを言い残し、消えたのだった…………
ヨハンが消えた後もしばらく呆けていた勇者達だったが、カズトは確信していた。
いや、してしまったに近いだろう。
首謀者がゼロであることに…………