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第四十八話 『風塵の勇者』と戦闘 後半

はい、どうぞ。



 切り札を切った勇者タケシは、周りの空気を震わせ、素手でクロトに向かう。

 ”風装迅雷ウィズトール”は、武器を持てないデメリットがあるが、攻撃が強化された拳には、そのデメリットを吹き飛ばしていたのだ。




「ククッ、速いですねっ!!」


 クロトは受けてはならないとすぐに判断して、トランプを投げてから横に避ける。

 だが…………




「無駄だ! この程度では破れる弱い風ではない!!」


 タケシは迫って来るトランプを防御もせずに、横に避けていたクロトに向かっていた。

 トランプがタケシの身体に迫るがシュルッと、風の鎧に流されていた。

 凄まじい風がタケシの身体まで届かせなかったのだ。




「ムッ! 厄介ですね……」

「切り裂け!!」

「させるか!! ”鉄槍地獄スチールヘル”!!」


 いつの間にか、ガルムの砂鉄が設置されていて、手刀で掛かるタケシに向かって黒い槍が発現された。




「邪魔だっ!」


 だが、それも通じなかった。

 砂鉄の槍が風の鎧に触れた瞬間に、粉々になって分解していった。

 ガルムは攻撃が効かなかったことに驚愕していたが、攻撃をずらすことは出来たようで、クロトは狙われていた胴体ではなく、斬られたのは右手だけで済んだ。




「ククッ、胴体を真っ二つにされたらすぐに動けなかったから助かりましたよ」


 斬られた右手を掴んで、ガルムの元まで移動していた。

 そして、右手をすぐに繋いだ。

 ガッと斬られた断面の所に当てただけで、すぐに繋がれた。

 その様子を見たタケシは目を開いていた。




「……まさか、お前はゾンビなのか?」

「ククッ、理性無きのゾンビと一緒にしないで頂きたいですね。それに、私だけではありませんよ?」

「ああ。俺も死体集合体と言う種族だ」

「死体集合体だと……?」


 聞いたことがない種族だと思ったのだ。

 クロトはタケシが疑問を浮かべたことを喜び、話を続ける。




「ククッ、聞いたことがないでしょうね。何せ、我が神が初めて生み出した種族でありますからねっ!!」

「生み出しただと……? お前の主はお前らみたいな死体集合体を何十人も生み出せるというのか?」

「ククッ、材料があればねっ!!」


 話ながらも、トランプと妖気のナイフを投げる。




「……なるほどな。その主やらを、生かして置けないな……」


 タケシはトランプは無視して、妖気のナイフだけを避けていた。

 それを見たガルムも妖気で作った武器、ブーメランを作り出した。

 投げて応戦するが、強化されたタケシには、遅いぐらいだった。




「ククッ、なかなか当たりませんね」

「お前の主は何処だ?」


 ゼロは生かして置けないとわかったタケシは再び、居場所を聞いていた。

 もし、放っておけば目の前のような者が増えてしまい、討伐が難しくなるのだ。

 だから、少ない内に死体集合体を作れるゼロだけは殺しておきたいのだ。




「ククッ、そんなことよりは自分達と楽しましょうよ……」

「クソッ! 当たらねぇな!!」

「そうか……、なら動けなくなるまで相手してやろう!!」


 また吹き荒れる風が強くなり、クロト&ガルム&キメラと勇者タケシの戦いが始まった…………









◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 魔王ラディアの元拠点、そこに立っていたのは、ただ一人だけ…………









 勇者タケシだった。




 タケシだけが無傷で立っており、キメラは塵一つも残っておらず、クロトは手足がもがれて、今も再生しているが、その再生スピードは遅かった。

 奇術を二回使っており、魔力が空っぽで妖気を使っているが、再生には向かず、再生スピードが遅いのだ。

 ガルムは岩壁に嵌まっており、意識はハッキリしているが、風の枷によって動けなくなっていた。




「ククッ、ここまで相性が悪いとはね……」


 圧倒されたのは、実力の差ではなく、ただ相性が悪かっただけなのだ。

 実力で言えば、タケシはクロトと同等であり、魔力量もガルムの方が上だったが、『魔真強化エネルパワー』と”風装迅雷ウィズトール”のコンボが二人を圧倒していたのだ。

 クロトは二回目の奇術、”黒棺転換ブラックパンドラ”でタケシが放った風魔法を喰らう前に場所を入れ替えたのだが…………、今のタケシは風魔法を無効出来るようで、全くの無傷だったのだ。

 クロトの奇術は直接に攻撃は出来ないから反射やカウンターみたいな技になるが、相手が自分の攻撃が効かないのでは、大分使えないのだ。

 ガルムは魔力で作った砂鉄で攻撃する手段だが、ほとんどが風の鎧に阻まれて、攻撃が通じない。

 ただの”風装迅雷ウィズトール”だったら、通じたかもしれないが、『魔真強化エネルパワー』の効果で限界まで強化されているから弾かれてしまう。

 ということで、通じる技は妖気を使った技だけになるが、魔力と同様に妖気も無限ではない。

 妖気は、魔力ではない。

 なら、妖気とは何なのか? と思うかもしれない。

 妖気とは、生命力と同じだ。

 生命力と言っても、寿命を削るものではなく、一晩すれば、全回復するのだ。

 使うほどに体力が削られて、息切れをするのだ。

 もちろん、身体が幽霊でも死体でも同じだ。

 幽霊や死体が疲れるのはおかしいかもしれないが、どちらにも、人間と同じように、動くためのエネルギーが必要になる。

 そのエネルギーが、ゼロ達が言っている妖気の正体だ。




「ククッ、妖気の技も全て避けられてしまうとはね……」

「あ、その紫色の陽炎の奴は妖気と言うんだ?」


 そう、タケシには、妖気を防ぐことは出来ない。

 だから、全て避けることになるが…………、タケシは全ての攻撃を避けていたのだ。

 妖気での攻撃は魔力での攻撃と違って全て紫色だから、見分けやすいし、まだ使い慣れたばかりで、攻撃スピードも遅いのだ。

 普通の人から見たら充分、速いのだが、クロトやタケシにとっては遅いぐらいなのだ。




「クロト〜、動けないけどどうするの?」


 ガルムは動けなくても、呑気な声でクロトに話し掛ける。




「ククッ、ここが潮時ですね」

「主はこの結果を予想していたのかな?」

「おそらく、予想していたから言われたでしょう?」

「確かになー」

「おい、私を無視するなよ!? しかし、動けないのに余裕だな? で、教えてくれんの?」


 聞きたいことは当然、ゼロの居場所だ。

 それを聞くために、まだトドメをさしてないのだ。




「ククッ、今になってはもう必要はないですよ」

「……は? どういうことだ?」

「私達だけでは勝てないとわかりました。なので、後は任せることになります」

「だねー」


 任せる? まさか、他に援軍がいると言いたいのか!? しかし、『魔力察知』に反応がないんだが……?




「ククッ、まだお気づきになっておりませんか? 既にいますよ。我が神よ、私達では勇者タケシを倒すことが出来ませんでした! 後は任せてしまいますが、よろしいですか!?」

「っ!?」


 クロトが急に大声で上に向けて発して、タケシも釣られて上を見てみると…………






 上は大きくポッカリと開いた穴があり、そこは光が差し込んでいる。

 そこを見ると眩しいが、一つだけの影が見えていた。






「……まさか、『魔力察知』には何も反応がないのに!?」


 そう、今まで反応はなく、姿が見えても反応がないことに変わらなかった。






「やはり、二人では勝てなかったか」

「はい、すいません」

「ごめんなさい……」

「構わん。ちゃんと言い付けを守ったからな」


 上で穴に足をかけていた人物が下に飛び降りてきた。

 凄い勢いで落ちていくが、最後にはフワッと地面に足を付いていた。

 降りてきて姿が見えるようになった。

 もちろん、その姿は…………




「さて、待望の首謀者だぞ。会えて嬉しいか?」




 そう、ゼロだった。

 黒髪に黒目でこの世界では見ない服装を着ている。

 目元にはクマがあり、不健康な顔をしているが、眼には眼光が黒く濁っているように感じられた。

 その眼を見たタケシは心臓を掴まれたような心情になっていた。


 まさか、私が今まで気付かなかったとは!? 近くに来てわかったが、ありえない魔力量を持っていやがる!?


 近くに近付いたから『魔力察知』が反応したが、その魔力量がガルムよりも倍以上もあることにありえないと感じていたのだ。




「……ま、まさか、本当に日本人だったとはな」

「ん? やっぱりこの姿じゃ日本人にしか見えないしな」

「一体、どうやってこの世界に? 何処の国が召喚したのか?」

「召喚ねぇ……、違うぞ」

「違うだと?」

「あー、お前は勘違いしているぞ。俺は召喚されたわけじゃない」


 そう言って、ゼロの正体を教えてやる。

 身体を薄くして見せたら、案の定にタケシは驚いていた。




「今はファントムだが、俺はゴーストに転生した日本人なのさ」

「転生……、そんなの本当にあったとは……」

「そうだ。俺は人間の姿をしているが、本来は魔物だ。スッキリしたか?」

「ああ。スッキリしたよ。だが、何故人間と敵対しているんだ? 前は一応人間だったんだろ?」

「ここで成したいことを見付けたからだ。だから、俺は俺の道を進む。もう話はいいだろう?」

「……そうだな。お前はもういくつかの村と街を一つを潰したのだ。もう許すことは出来ない!」


 まだ風の鎧を纏まっているタケシは構える。




「構わん。お前に許しを貰おうとは思わん」


 ゼロは何も構えずに、魔力を解放して威圧するだけ。


 くっ、まだ膨れ上がるのか!? 魔力も大分減ってしまっているから、短期決戦だな。




「私の技を受けなさい!! ”風遁連弾エアロマジガン”!!」


 一メートルの大きさがある風の弾がいくつか打ち出された。




「これだけか? ”魔力喰い(ハウルドレイン)”」


 風の弾は全て、ゼロの手平に当たっただけで吸収されたのだった。




「なっ!?」


 簡単に防がれてしまったことに驚いたが、すぐに別の技を使おうとしたが…………




「遅い」

「ぐあっ!?」


 もう既にゼロはタケシの前に近付かれて、腹に衝撃音が響いたのだった。

 ゼロの手には紫色の陽炎のようなのが纏まっていた。

 妖気なら、魔力を纏うよりは簡単に攻撃が通るだろう。




「ぐぐぅ……」


 タケシはなんとか立て直し、後ろに逃れて距離をとったのだった。


 速い!! 全く見えなかったぞ!?  仕方がない、アレで決めるしかない!!


 さっきみたいに吸収されてしまっては、ほとんどの技は効かないだろう。

 だから…………




「終わりにしてやる!! ”滅風デッドクロン”!!」


 身体に纏まっていた風が全て前方だけに集中して、体当たりしてきた。

 近くに飛ばされていた葉っぱがその技に触れると細かく分解されていた。

 その技は先程、纏まっていた鎧と同じように触れたものを分解出来るが、その密度は違っていた。




「これで終わりだぁぁぁ!!」

「ふん、それがお前の切り札か?」


 ゼロはそれを見ても、不遜に笑うだけだ。




「”魔呪分解デュアルバッド”」


 ゼロはまた手を向けるだけ。

 それで止められると思ったのか、タケシはキレた。




「舐めるなぁぁぁ!!」


 ついに、手と”滅風デッドクロン”がぶつかった。

 第三者が見るとゼロが負けると予測するだろう。

 だが…………






「なっ、嘘だろ!?」


 手に触れた瞬間に風が弱くなっていき…………………………、最後には消えた。




「何をしやがった!?」

「教えると思うか?」


 もうタケシはこの一撃に賭けていたため、今は無装備だ。

 魔力も切れてしまい、魔法が使えないタケシは剣を抜こうとするが、もう遅かった。




「お前は強かったが、俺に会ったことが悪運だったな?」

「おま……」


 話は続かなかった。

 何故なら、首からの上が飛ばされていたのだからだ。




「これで一つの目的は達成したな」





 ゼロがタケシから”生命吸収ライフドレイン”を使うと、久しぶりに聞いた声が流れ込んだのだった…………







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