第四十七話 『風塵の勇者』と戦闘 中盤
はい、どうぞ。
八重歯が見えるほどにニタァー、と笑顔を浮かべるガルム。
まさに、獲物を見付けた犬のようだった。
「見せてやるぜ! 俺の力をなっ!!」
ガルムが手を挙げると、鎧の破片が細かくなり、砂のようになって集まっていく。
ガルムは…………二つの球体を作り出したのだった。
「鎧が崩れて砂になったと思ったら、二つの球体を作り出すとは?」
「さぁー、これからこの球体はどうなるでしょうか?」
ガルムはクイズを出すような雰囲気でムートンに聞いていた。
「……この状況じゃ、武器だろ?」
「残念でした〜! これが武器に見えるの? 目を変えた方がいいじゃないの? アハハッ!!」
「く、このガキが……!」
馬鹿にするガルムに苛立ちを覚え、言葉を無視して攻撃しようと思ったら…………………………脚が動かなかった。
「なぁっ!?」
脚を見ると、脚に黒い砂のようなものに纏わり付かれていた。
「アハハッ! 答えはただの囮だったよ!!」
ガルムは目立つように、大きな球体を二つ作って、こっちに注目させて、その隙にムートンの脚に黒い砂を纏わり付かせたのだった。
「く、動けない? ただの砂じゃないな!?」
「ブブー! 砂じゃないよっ!」
「砂じゃない? 黒い、砂…………、砂鉄?」
その答えは当たっていたようで、パチパチと拍手していた。
「そうだよ〜。 俺の魔力から作り出した砂鉄だから、ただの砂鉄と違って強度もあるし、耐熱も備えているのさ!!」
「耐熱もだと? さっき、吹き飛ばされたのは…………」
「ワザとだよっ!! やったか? と思っちゃって、笑えるわ! アハハッ!!」
吹き飛ばされたのは、ワザとだったようだ。
さらに怒りを覚えるが、ムートンは『高速移動』を発動して動こうとしてもピクッも動かない。
「なんで、弾けない!?」
「あんな弱い魔力で弾けるわけないじゃん〜」
ガルムの力は、砂鉄を生み出し、操るのだ。
希少スキル『鉄人』と言うスキルを持っており、ガルムの生み出す砂鉄は耐物理、耐熱であり、魔力があるだけ操れる。
ちなみに、洞窟を破壊した時も、事前に砂鉄を仕込んで置いたのだ。
次に、弱い魔力で弾けないと言うのは、ガルムの砂鉄は完全に魔力から作成されており、それを越える魔力でないと弾けない。
これだけの砂鉄を操っても魔力が尽きないのは…………
「ククッ、ガルムの魔力量は私達の中でも桁外れなんですよ」
「あれが、全開の魔力ですか……」
「ククッ、それはどうでしょうかな〜。まだ力を隠しているかもしれませんよ?」
クロトは正直に教えるわけでもなく、剣とトランプが火花を散らす。
トランプが火花を? と思うけど、魔力で纏まっており、火花のようなのが散らばっている。
タケシは何とか隙を見付けて、ムートンを助けに行きたいが、クロトに隙が見付からなかった。
無理に助けに行こうとすると、クロトに背中を見せることになり、後ろから刺されてしまうだろう。
ムートンを捕まえたガルムは、先程の球体を分解し、細長い棒で穂先は鋭く尖っていて、杭の様な物を五本作り出した。
「アハハッ! まず手と足を貰うね?」
まず、四本で両手両足を刺した。
「がぁぁぁぁぁっ!!」
「痛いか? 痛いかぁ!? 痛いのね!! アハハッ!!」
どうやら、ガルムはすぐに殺さずにいたぶるようだ。
勇者と相対しているクロトから声が聞こえた。
「ククッ、楽しむのはいいですが、死体にあまり傷を残しては体内の魔力が逃げてしまいますよ?」
「…………あ、そうだったな。今回は出来るだけ綺麗に殺せと言っていたな」
今回のも死体を使うから、あまり傷を付けすぎてしまうと、死んでも残るはずの魔力も逃げてしまう。
これでは強いゾンビを作れないのだ。
「お前は運が良かったな? これ以上に痛みを味わうことがないからな…………お別れだ」
ガルムはそう言うと、残していた一本を頭に突き刺したのだった…………
「く、ムートン……」
助けに行けず、見届けるしか出来なかったタケシは悔しそうにクロトのトランプと打ち合っていた。
まだキメラと戦っていた聖騎士達から強かった隊長の死に慌てる者が出てきた。
「た、隊長がやられた!?」
「こんなの勝てるわけがねぇ!!」
「キメラもなかなか死なねぇしよ!!」
逃げたくても、勇者はまだ戦っており、逃げ道が塞がれている状況では、逃げることは出来ず、キメラと戦い続けるしかない。
キメラとの戦いで、すでに残り30名ぐらいに減っていた。
残っている者も回避を第一にしており、傷を付けられてもすぐに再生するキメラ相手に決定打を打てずにいたのだ。
「あ〜? キメラはまだ全滅させてねぇのか?」
思ったより減ってないなーとガルムはぼやき、ムートンは死んだか確認をしてから、キメラと聖騎士の方に向かっていた。
「多いと面倒くさいから、一瞬で終わらせるぜ!」
ガルムは砂鉄を聖騎士の足元に流し込んだ。
「なんだ!?」
「隊長を殺した魔法か?」
「邪魔だ!!」
何人かが、砂鉄を剣で振り払おうとするが、何も効果が無かった。
小さな砂鉄では、空気を振り払うのと変わらないのだ。
全員の聖騎士の足元に砂鉄が行き渡った所で…………
「させるか!! ”突風破”!!」
これからガルムが何をするか読めたようで、風魔法で、聖騎士達の足元に漂う砂鉄を振り払おうとするが、
「ククッ、そうさせません! ”方向音痴”!!」
タケシが魔法を発動しようとしたら、案の定に邪魔されたのだ。
タケシが魔法を発動する寸前に、タケシ自身の方向を変えられて、見当違う場所に向かって発動していた。
「なっ!?」
「ククッ、貴方の方向を変えさせて頂きました」
魔法は発動したが、目的は失敗した。
タケシが見当違いの方向に向いている所に、ガルムは発動した。
「串刺しになりな!! ”鉄槍地獄”!!」
砂鉄が一瞬で、槍のような形をした物が出来、聖騎士達の足元から突き刺されていた。
一人残らず、足元に砂鉄を蒔いたガルムは魔力を持つものに突き刺すようにしていたため、『魔力隠蔽』を持ってなかった聖騎士達は全滅していた。
「アハハッ! 一瞬で終わるなんて、国を守る勢力には見えないな!! 弱い弱い!!」
「ああ……、なんてなことを……」
方向を変えられていたタケシは、すぐに振り向いて見たが、もう聖騎士達は死体に成り果てていた後だった。
これで、残ったのは勇者タケシだけだ。
「ククッ、隙だらけですよ!」
「くぅっ!」
仲間が全滅したことに固まっていたタケシは、トランプで肩を浅く斬られていた。
「ククッ、よそ見なんて、余裕ですね?」
笑うクロトの前で、タケシは一つ、諦めるような顔を浮かべていた。
「……仕方がない、首謀者を倒すための技だったが、使わないと勝てそうはないからな」
勇者タケシは切り札を切ることにした。
これを使えば、連戦なんて出来ない程の疲労が出てしまうが、今になっては出し惜しみは出来ないとタケシは悟ったのだ。
「私の全力でお相手をしよう。『魔真強化』発動、”風装迅雷”!!」
タケシは希少スキル『魔真強化』を発動してから、”風装迅雷”を発現した。
『魔真強化』は、一回だけ魔法の効果を限界まで上げることが出来る。
その効果を”風装迅雷”に使い、タケシに風の羽衣が巻かれ、身体に風の装備が作られていた。
身体を強化し、攻撃、防御、素早さも上げる。
それが『魔真強化』によって、魔法の限界まで効果が上がっている。
まだ『魔真強化』には隠された効果があるが、のちにわかる。
「待たせたな?」
「ククッ、それが貴方の切り札ですか」
タケシを包んでいる魔力は素の時より格段に上がっている。
それを見たガルムはとっさにクロトの手助けに入る。
それほどに目の前の勇者タケシは危険だと、見ただけでガルムが認めたのだ。
「第二ラウンドだ!」
タケシはクロト、ガルムの二人相手に風の暴力を振るうのだった…………
感想と評価を待っています。




