第三十九話 勇者の行動
はい、どうぞ。
シルの音を取り戻して、拠点に戻ってから一週間経った。
勇者カズトの方では…………
「え、村人がいなくなった?」
ここはいつも勇者パーティがとっている宿。一つの部屋には三人の顔が揃っていた。
「ああ。旅人からの情報だが、ある村に行ったら誰もいなかったらしい」
「ふーん、またギルド長からの依頼?」
マギルがギルドに行ったらギルド長から依頼を頼まれたのだ。
「そうだ、ギルド長直々からの依頼だ。
話を聞くには、ここから一週間歩いた先に村があって、誰もいないらしい」
「単なる廃村じゃないの?」
「いや、廃村にしては、綺麗過ぎたんだよ。いや……、厳密に言えば何もなかったんだ」
「何も……?」
カズトにはマギルの言っている意味がわからなかった。
「え、家の物もなかったの? なら、山賊に襲われたってことじゃない」
「……いや、山賊に襲われていたなら、死体が残ったり村が荒れているはずだ」
「ち、ちょっと待って! 死体もなかったの?」
「死体? まさか……」
カズトが気付いて、マギルを見た。マギルもそれに頷く。
「気付いたか。あの化け物を生み出した奴がやったかもしれない」
「嘘でしょ……?」
「いや……、あの化け物は死体で作られていた。なら、その可能性は高いはずだ」
「僕もそう思います。その化け物を作った犯人がやったことだと」
カズトとマギルは化け物を作った者がやったことだと、推測出来た。
カズトはそんな者がこの辺りで活動しているなら、放って置けないと思ったのだ。
マギルはその依頼を請けたようで、三人は長旅の準備を始める。
ゼロ達と違って全員が人間であるので、きちんと準備をしていく。
ここから一週間もかかる村となると、往復で二週間の長旅になるのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
準備を終わらせ、勇者パーティはもうメイガス王国を出ていた。
そして、ある村に向かって歩きづづけて三日間が経った。
「はぁっ!」
「まだ後ろに二匹いるから気を抜くな!」
「私は魔法で目の前の魔物を吹き飛ばすので、後ろのは任せます!」
目の前には猿を大きくしたような魔物がいて、後ろに二匹の狼の形をした魔物がこっちに向かっていた。
テリーヌに猿の魔物を任せ、カズトとマギルで後ろの魔物と戦う。
「”輝剣”!!」
カズトは『正義者』を使わずに、光魔法だけで戦う。
剣に光魔法を纏わせて、威力を上げた。
「バウバウゥゥ!!」
剣が光ったことに、魔物は警戒する。
だが、その隙にマギルが突っ込んで大斧で一匹を切り裂いた。
『正義者』を使ってないカズトには、朧げにしか見えなかった。
マギルは大斧を使うが、スピードも聖騎士に負けないほどの実力を持っている。
カズトも見ていてばかりじゃ駄目だと思い、魔物を見ると、こっちよりマギルの方を警戒していた。
光っている剣よりマギルの方を警戒していた。
魔物にとっては一瞬で仲間がやられていたのだから、まだ何もしてこないカズトよりマギルを警戒するのは当たり前だった。
だが……、その警戒がカズトにとっては隙だったのだ。
その隙を見逃ずに、突っ込む。
マギルに比べたら遅いかもしれないが、隙をつかれた魔物は反応が遅れ、カズトの剣を腹に喰らっていた。
「ギァァァァァ!!」
「馬鹿! この隙なら首を狙えただろ!!」
マギルが叱責してくる。今、魔物が出した叫びで他の魔物が集まる可能性があるのだ。
隙を見せたなら、首を狙えと、そう教えられたがその通りに出来なかったから怒られていたのだ。
「っ、ゴメン」
「そぉらっ!」
カズトが魔物の腹から剣を引き抜くより、マギルが攻撃するのが早かった。
マギルの大斧は首に当たり、魔物の首は吹き飛ばされていた。
「ふぅ、終わったか」
「こっちも終わったよ」
後ろを見ると、テリーヌが手を振っていた。隣には傷が沢山出来た魔物が倒れていた。
テリーヌは風魔法で倒していたのだ。
「さて、カズト。俺が何を言いたいかわかるな?」
「はい……」
場所を移して、マギルから説教を喰らったのだった…………
「わかったか?」
「はい、すいません……」
カズトは落ち込んでいた。マギルが怒るのはカズトにとっては怖いことだったのだ。
心配だから、怒っているのはわかるし、怒ってくれる存在がいるのは嬉しいことだが…………
その怒る相手が、筋肉質で上から睨んで怒ってくるのだから、カズトは前の世界ではそんな人に怒られたことがなかったから、怖かったのだ。
「おーい、終わった?」
「ああ、待たせて済まないな」
「構わないよ。別に急いでいるわけでもないし」
テリーヌはカズトが怒られている時は終わるまで、黙って待っていたのだ。
そのことをカズトは済まないような気持ちになる。
「カズト、また済まないいような顔をしてるよ?」
どうやら、見破られていたようだ。
「いいの、気にしなくても。私が勝手に待っていただけだから」
「でも……」
「それより、説教は効いたみたいだね? マギルはカズトのことを想って怒っているから、あんまり落ち込まないでね」
「……はい! ありがとう」
説教されるために正座していたカズトはテリーヌの手を借りて立ち上がった。
まだ明るいので森の中を進んで行く。
「……あれは?」
「少女?」
カズト達が見付けたのは、目指していた村ではなく、一人の少女だった。
服はワンピースで、軽装だった。
その姿は魔物がうようよしている森で歩く姿ではないのだ。
近くにある村から来たなら一人では危険だと思い、声を掛けようとしたら…………
「後ろにいる者、何者なの?」
急に後ろ向きのはずが、こっちに気付いて声を掛けていたのだ。
「一体、君は……?」
「それを自分が先に聞いたのよ? 答えないの?」
後ろを向いていた少女がこっちを見た。
その少女は、銀色の髪で可愛らしい顔をしていた。
そう、その少女とは…………、シルだった。
「ああ……、僕達は冒険者をしているんだ。君は何故、ここに?」
「冒険者……」
シルは考える仕草をしていた。
すぐにそれを辞めて、シルは発言した。
「そうなんだ、ならここから離れるの」
「え、なんで?」
「それが主の命令だから」
ピクッと動きを止めた三人。
目の前の少女から最近に聞いた言葉が出ていたから、気になったのだ。
……主って、まさか?
三人とも同じようなことを考えたが、目の前の少女とは初めて会うし、見たことがないから違う人かもしれないのだ。
マギルは思いきって、聞いてみた。
「……まさかだと思うが、主ってゼロのことじゃないよな?」
「え、主のことを知っているの?」
「ゼロだったのか!?」
「こんな少女も……?」
知らない少女がまたゼロの部下? だとわかり、困惑したのだった。
「むぅ、ゼロ様の知り合いだったの……? でも、誰も近づかせるなと言われていますし……」
「え、向こうにはゼロがいるのか?」
「はい。でも、命令なのでここは通せないです。だから、帰ってくれない?」
頑として通らせないとシルは言う。
だが、カズトはちょうどいいのでゼロに会いたいと思っていた。
「そこを何とかしてくれないか?」
「駄目!!」
それでも、駄目らしい。どうやって説得するか考えていたら…………
「っ!?」
「なっ!?」
「えっ!?」
急に少女から殺気が出たのを感じて、三人は後ろに下がっていた。
「どうしても退かないなら、消してもいいと。
そう主から許可をもらっているのよ?」
「この子までかよ!?」
マギルは唸っていた。目の前の少女もゼロに従っている二人の従者と同じ殺気を持っていたのだから。
おそらく、目の前の少女は従者と同じぐらいの実力があると確信できた。
「待ってくれ! 戦いに来たわけじゃない!」
「だったら帰ればいいじゃないの?」
「話だけは……」
「しつこいですね!! もう終わりです。死んじゃえ!!」
カズトがなんとかゼロと話だけは! と頼んだが無理だったようで、少女が襲い掛かってきた。
「くっ、迎え撃つぞ!!」
「え、少女は武器を持ってないですよ!?」
「バカ! 実力がわからないのか!! 最低限でも、お前よりは強いぞ!!」
マギルは実力を見抜き、今のカズトでは勝てないと予測出来た。
だから、武器を持ってないといえ、油断してはいけないのだ。
「テリーヌ! 後ろで魔法を! カズトは早く剣を抜け!!」
「くっ……」
ただの少女にしか見えないのに、剣を抜くのは辛いことだった。
だが、目の前の少女は主がゼロなのだから、見た目通りではないと予測できる。
「死ぬの! ”凍拳”!!」
「くっ!」
まず、狙われたのは一番前にいたマギルだった。
凄まじいスピードだが、初めから警戒していたのでギリギリ避けることが出来た。
避けられた攻撃は木に当たって急激に凍って砕けた。
「何だと!?」
「氷魔法……? そんなの見たことがないわ……」
見たことがない技に驚いたが、それ所ではないのだ。
目の前の少女は、確実にこっちを殺しに来ているのだ。
本気でやらないと死ぬことになる。
「くそ、今日は厄日だな!! カズト、今のままじゃ勝てない!!」
「わ、わかった!」
カズトもその攻撃を見て切り替えた。
目の前の少女は舐めて掛かってもいい存在ではないと気付いたのだ。
横でマギルは大斧を構えて、後ろでテリーヌは魔法を唱えていた。
カズトも本気で戦える様に…………
「『正義者』発動!」
たった今、勇者パーティは本気でシルに対抗することに…………
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