第三十六話 村捜し
はい、どうぞ。
翌日、ゼロ達は拠点から出発し、小さな村を探していた。
「ここら辺は探索し終わったんだよな?」
「はい、大体は探しましたので、もう少し遠くに行かないとないかと思います」
フォネスがそう答えた。
洞窟やダンジョンを見付けるために、ここら辺を探しまくっていたのだ。
「じゃ、行ったことがない場所に向かうか」
「はい。その方が良いと思います」
「水場を見付けたらその辺りを捜すのもありですね」
「自分はゼロ様に着いていくだけなの!」
フォネスはゼロの意見に同調し、マリアは意見を言い、シルはゼロ様に着いていくだけと。
拠点にはまだ物がなく、寂しい状態だ。
そのために、村を襲って奪うと決めたのだ。
レイからは山賊みたい……と突っ込まれたが、確かにその通りかもしれない。
これは世界征服への道だと、ゼロは心の中で無理矢理納得させ、歩きはじめたのだった。
「人間が火でも起こしてくれば、すぐに見付かるけど、そうそう簡単にいかないね……」
「今は、燃えても煙があまり出ない材料を使っていますよ? だから、煙に期待しない方がいいと思うよ」
「え、そうなの?」
フォネスは上空を見て、煙がないか探していた。
だが、マリアの話では、人間は煙があまり出ない木材を見付けており、活用しているから煙を捜しても無駄らしい。
煙が出ると好奇心な魔物が寄ってくる可能性が高いから、煙が出ない木材を使うようになっているのだ。
「なので、水場を見付けてその周りを探すのがいいんですよ。農民などは畑に水が必要ですからね」
「なるほど。水の匂いを探して見ますねっ!」
「え? 匂いって……」
「フォネスは狐じゃなくて犬なの?」
鼻をフンフンと鳴らして探す姿にマリアとシルは呆れていた。
ゼロはこれで見付かるなら楽になるので、止めない。
『……フォネスって、面白いね』
(狐は水を見付けるほどに嗅覚が凄かったっけ?)
『……さぁ?』
さすがに、レイもそこまで知らないようだ。レイは何でも知っているが、それは本を読み、インターネットで調べたりした知識を全て覚えているだけで、知らないことがないと言うわけでもないのだ。
と、フォネスが「見付けました! 水の匂いがします!!」とこっちを呼んでいた。
(まさか、匂いで見付けるとはな……)
『……フォネスは、侮れない子ッ……!』
戦慄したような言葉を出すレイ。
わざとらしい演技だけどね…………
とにかく、本当に見付けたらしく、フォネスは一直線に向かっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……本当に見付けるなんて、フォネスは狐じゃなくて犬じゃないですか?」
「狐だよ! …………一応!」
「一応!?」
なんてなことをカミングアウトするの!? 狐じゃないなら何だと言うんだ?
「あ♪ またツッコミをもらいましたっ!」
「…………」
「ふぉ、フォネス……、もしかして今のはボケですか?」
「はいっ! まさか、先にゼロ様からツッコミを貰うとは思いませんでしたがね」
フォネスはなんだか、いつもよりテンションが高いようだ。
とにかく、お仕置きを決行するゼロ。
「え、ゼロさ、い、イタタタタタ!! 痛い痛い痛い〜〜〜〜!!」
今、ゼロはお仕置きとして、フォネスの顔にアイアンクローを喰らわしている。
フォネスは痛そうに掴んでいる手にタップをしていた。声に出してないが、ギブアップ〜〜〜と聞こえそうな姿だった。
「うわぁっ、痛そうに……」
「フォネスがおかしくなっているから治しているの?」
「やっぱり、シルから見てもいつより違っているようですね」
後ろでは二人はフォネスの心配なんかしてないで会話をしていた。
可哀相なフォネスだが、今は仕方がないと思う。
ようやくアイアンクローから解放されたフォネスは正座と命令しておいた。
「……フォネス、一体どうしたんだ? 何故、いつもよりテンションが高くてウザくなっているのか、説明しろ」
「あぅっ……、ウザい……」
ウザいと言われて、フォネスは落ち込んでいた。だが、説明を求められたので、話をし始めた。
「えぇと、今はみんなとピクニックをしているような気分になっちゃって……」
「ピクニック? 今から山賊みたいなことをしに行くのに?」
「うん……、変かな?」
変だ! と思ったが、あることを思い出した。
(フォネスは確か、まだ10年しか生きていなかったか?)
『……そういえば、まだ子供だったよね』
(さらに友達がいなかったとも聞いたな。つまり、初めて友達とピクニックに来た気分になっていたということか?)
『……だね。……でも、これから山賊みたいなことをやるのに、ピクニック気分って……大分、歪んできたね』
(確かに、初めて会った時はまだ戦いも知らないガキだったよな……)
そう、フォネスは初めに会った時から大分、歪んできているのだ。
戦争をしたり、人や魔物を殺してきたのだから、当たり前なんだが慣れるのが早いと感じたのだ。
理由はわからないが、ゼロにとっては喜ばしいことなので、そのことについては問い詰める必要はないのだ。
「忘れていたが、フォネスはまだ10歳だったな……」
「え、10歳!?」
「自分と同じぐらい……?」
マリアとシルはフォネスの歳を知らなかったのか、驚いていた。
見た目でマリアは12歳で、フォネスが10歳だと、予測出来ないのも仕方がないと思う。
名前を付けた後、フォネスの身体は戦闘しやすいように、見た目は人間の歳で言うと16、17歳に見えるのだ。
発育も良いし、胸も年上であるマリアに勝っているのだ。
マリアもそのことに気付いたのか、自分の胸とフォネスの胸を見て、落ち込んでしまった。
後ろにガーンとわかりやすいほどの落ち込みようだった。
シルの方は、マリアに似た体型だが、まだ10歳に近いのだから、体型のことは気にしてないと思う。
「どうして……」
マリアはまだ落ち込んでおり、ぶつぶつと呟いでいた。
(そこまで気にすることなのか?)
『……わかんない。大きい胸は、邪魔だけなのにねぇ……』
(うむ、レイはそう思うか……。人によって考えが違うんだな)
何故か、フォネスのことから胸の話になってしまったが、それは打ち切り、正座しているフォネスの前に片膝を地に付いて向き合った。
「フォネス、確かに普通なら変だな」
「そうですか……」
フォネスはシュンと、顔を俯いている。
だが、続きの言葉があった。
「何故、落ち込む? 俺らは元から普通じゃないだろ。それに、俺にとっては普通じゃないことが望ましいと思っているぞ?」
「普通じゃないことが望ましいですか……?」
「ああ。俺達の最終目的はなんだ?」
「そ、それは世界征服です!」
そう、ゼロ達の最終目的は、世界征服だ。
それを目指している俺達は既に普通の者達にとっては異端なのだ。
普通なら目指さないことだから。
普通の者がゼロの仲間になってもその最終目的は理解されないだろう。
だからこそだ! 普通ではなく、異端であり、歪んでいる者ではないと駄目だとゼロは思っている。
フォネスと初めて会った時は、普通の少女にしか見えなかった。
だが、今は歪んできて、今から村を襲いに行くのに、ピクニックに行くような気分だ。まるで、殺しなんて、いつものことだと言うように…………
どう考えても異端であり、ゼロにとっては喜ばしいことなのだ。
「フォネス、今のフォネスが好きだと俺は思うぞ?」
「ふえっ!?」
急速に、フォネスの顔が赤くなる。
「……? 顔が赤いが、大丈夫か?」
「あぅ……、だ、大丈夫です!!」
フォネスが大丈夫だと言うので、そうかと言い残して立ち上がった。
フォネスは「あんなことを言ったのに、ゼロ様は何故、普通なの…………」と小さく呟いでいたが、誰にも聞こえてなかった。
大分、時間を取られたが、水場はもう見付けたのでそろそろ村ももうすぐで見付かるだろう。
上流に向かって探すことにするゼロ達…………
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