第三十一話 勇者は決意する
はい、どうぞ。
ゼロ達が新しい拠点を見に行っている間、勇者の方では……
「勇者カズト・アンドウ、顔を上げよ」
「はっ!」
ここはメイガス王国の城の中であり、王様の前でカズトは跪ずいていた。
魔王ラディアを倒したということでご褒美をとらせるため、カズトは王の前に出ていた。
「勇者カズト・アンドウ、貴殿は勇気のある者だ。魔王に不意を取られ、守りが薄い所を攻められてしまった。
だが、貴殿は魔王と向き合い、討ち果たした。 我が国の民を守ってくれたことに御礼を言いたいと思う」
王様が話している時、カズトはゼロのことばかり考えていた。
本来の手柄はカズトではなく、ゼロ達の物なのだ。王様からの絶賛の言葉を貰っても嬉しくはなかった。
カズトと言う者は、真面目なのだ。普通なら手柄を貰えたら喜ぶだろうが、カズトは違った。
もし、ご褒美で武具を貰っても、次に会ったら返してやると考えていた。
長く続く王様の言葉をほぼ聞き流して考えてばかりだった…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ようやく、解放された勇者一行は、王様に準備された高級の宿屋に泊まっていた。
その三人が部屋に集まり、ゼロ達のことを話し合っていた。
「カズト、お疲れさん」
「ははっ……」
「ここの王様の話は長いと噂だったけど、本当だったわね」
始めは軽く雑談し、マギルから本題に入った。
「カズト、王様の話の途中はゼロのことばかり考えていただろ?」
「……え、顔に出ていました?」
「いんや、他の人はわかってないけど、私達だからね〜」
それは理由になってないと言いたかったが、本題はそこではない。
「……まぁ、この武具は使わないで本来の手柄を上げたゼロに渡そうと考えていたんだ」
「……カズトなら、そう言うと思ったよ」
「でも、受けとってくれると思う?」
「さぁ? これはいい武具だから大丈夫じゃないかな?」
ご褒美と渡されたのは、一本の剣だった。
魔王を倒して、これだけ? と思うかもしれないが、メイガス王国は前の襲撃と魔王が暴れたせいで、街の半分は半壊してしまっているのだ。
それを修繕にお金が必要になると、カズトは理解している。
「ここの街はついてないよな?」
「はい、そうですね。考えてみたのですが、始めに襲撃してきた化け物を操っていた犯人の目的はわかりませんでしたね」
「始めは魔王がやったことだと思ったが、おかしなとこが多いしな」
「ええ、あの化け物が暴れている内に、襲撃してきたら城を落とせた可能性が高かったわね」
そう、そこなのだ。もし、魔王がやらせていたなら、その隙に襲撃しないのはおかしいのだ。
魔王が襲撃してきた日よりは、可能性が高かったのだが、結局は化け物だけしか暴れてないのだ。
「……なら、化け物は魔王ラディアとは無関係?」
「かもしれないわね。でも証拠が残ってないからお手上げなんだよね」
「いや、あの化け物を操っていた奴は凄まじい実力を持っているはずだ」
あの大きな化け物を操るには、凄まじい魔力が必要だ。
死体を操る時、大きさと数によって使う魔力が違う。
あの化け物は50メートルぐらいの大きさだったら凄まじい魔力を必要するのだ。
「俺は魔王ラディアとは別の魔王がやったことじゃないかと、睨んでいるんだ」
「別の魔王……」
「しかも、魔王ラディアよりは強いと思う」
「それは……」
違うとは言えなかった。あの化け物は光魔法に弱かったといえ、一体入れば、小さな街だったら即座に潰せるほどの実力があった。
それを操術者は、簡単に捨駒にしていた。他の仲間がその場にはいなかったから捨駒なのは間違いないだろう。
「……俺は襲撃時期が気になったんだ」
「襲撃時期?」
「…………あ、確かに」
テリーヌはマギルの言いたいことがわかったようだが、カズトはまだわかってない。
「気になったこととは?」
「化け物が襲撃した時から魔王が攻めてきた時の日数が空いたよな?」
「ええと、三日間でした?」
「そうだ。その三日間があったから、近隣の街から聖騎士や竜騎士が援護出来たんだ」
「え、まさか……」
ここまで話せばカズトでも気付く。
つまり…………
「もしだが、化け物の襲撃は魔王ラディアが攻めて来ても大丈夫のように、わざと危機を知らせたんじゃないのかと思うんだ」
「……いや、もし俺達が来なかったらここは終わっていたんだぞ!?」
カズトの言う通りだ。もしカズトが化け物を倒さなかったらメイガス王国は地図から消えていただろう。
カズトが早く着いたから助かったが、
「そこらはどう考えているかわからないが、その空いた日数があったから近隣から助けが来れたのは間違いない」
「…………」
マギルの言う通りだ。もし、何も備え無しで魔王ラディアが攻めてきたら負けていた。
近隣からの聖騎士と竜騎士の助けがあったから、魔王の軍隊を食い止めることは出来たのだ。
「その操術者は魔王ラディアの襲撃を知るほどの情報力に、化け物を操る実力を持つ…………、それらが出来るのは魔王しか思い付かないんだ」
「確かに……」
「魔王と言えば、ゼロ達は何者なのよ?」
テリーヌが口を挟んできた。正体がわからない操術者より、ゼロ達の方が気になるようだ。
「あの魔法はただの新人冒険者が出来るわけがないわ!」
「さらに、魔王ラディアの攻撃を無傷で避けきったゼロの実力に……、魔王の配下達を瞬殺した二人の従者。あんなの、見たことがないぞ」
マギルの言葉に同意するように頷く二人。
「ゼロは強いとわかっていたが、あそこまでだと思わなかった」
「ええ、確実にただの聖騎士では相手にならないわ。あの国の聖騎士でも相手になるかは、怪しいけどね……」
「その様子を簡単に想像出来ますね……」
「まだ若いのに、魔王を一人で圧倒する実力を何処で身につけたんだろうな」
「従者もそれほどの実力を持っているのに、そのゼロに従っていたわね」
「ああ、命を賭けられるほどにな……」
マギルは少し話しただけで、二人はゼロを絶対主として従っているとわかったのだ。
「しかし、なんで手柄を受け取らないのかしら?」
「確か、従者が今は目立ちたくないと言っていたな」
「今は目立ちたくないと言っていましたが、何か目的があってなのかな?」
「うーん、始めは態度や従者で貴族だと思ったが、その実力では違うな」
「まさか、魔王になる! とかじゃないよね!」
テリーヌが珍しく冗談を言って笑っていた。
だが、二人は笑えなかった。
「おいおい……、それは想像したくねぇよ」
「そうだね……、間違いなく今の俺達じゃ、一分も持たない」
「そうだぜ! 出来れば敵対したくねぇ!!」
「よほど、あのメイドが怖いのね……」
マギルが怖がっているのは間違いなく、マリアの方だろう。
それは仕方がないと思う。短剣を首に添えて脅していたのだから。
「ブルブル……、メイドを見たら逃げそう……」
「あはは……」
「まぁ、それほどに脅されては仕方がないよね……」
身体を振るわせるマギル。他の人が振るえる姿を見て、筋肉質の男が怖がっている者はメイドの少女だとは思わないだろう。
とりあえず、会ったら武具は返すことで、他に話し合うことはないので解散することにした。
カズトはベッドに寝転がって考えている。
ゼロはどうして強いんだろうか? 何かの目的があって動いている? 何故、目立ちたくないのか? など…………
カズトはゼロの戦いを見て、羨ましいと思ったのだ。
魔王を圧倒的に倒す、その実力。
その実力に必ず追いついてやると、心の中で決意するカズト。
その決意が、称号の”勇者”が芽吹く瞬間となった…………
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