第二十八話 ゼロと勇者
はい、どうぞ。
カズトが見た戦いは、ほとんど信じられないと思うほどだった。
懐かしい服を着た男が助けにきたと思えば、その男の従者と思える女性達が魔王の配下九人を一瞬で皆殺しにし、さらにその男は魔王ラディアの攻撃は全て避け、二連続の上位魔法を放ち、ラディアの膝を地につかせ、最後に貫手でトドメをさした。
どれも自分と同じ人間だと思えないほどだった。
マギルがゼロと呼んでいたことを思い出した。そのゼロだったら聖騎士に勧誘されてもおかしくない。
それどころか、聖騎士で上位の実力に入るのではないか?
魔王ラディア相手に傷一つもなく、苦戦せずに勝ってしまったのだから。
「ゼロ…………様、いいですか?」
マギルが呼び捨てするところに、マリアに睨まれて後から様付けしていた。
あんな少女といえ、先程、音も無く首に短剣を添えられたのだから、マギルが怖がっても仕方がないと思う。
「何だ? 短めにしろ」
「あ、はい。お礼を言わせてほしい。カズトを助けてくれてありがとう!」
マギルは顔を下げる。テリーヌはカズトの所に行って手を貸していた。
カズトは聞きたいことが色々あったのだから、テリーヌにゼロの元まで行かせて欲しいと頼んだ。
テリーヌも聞きたいことがあるようで、頷き、一緒に向かった。
「ありがとう……、助かったよ」
「気まぐれだから気にするな」
ゼロは気にしないように、持ったままだった魔王ラディアの死体を棄てていた。
「この手柄はお前らにやる。フォネス、マリア、ここから去るぞ!」
「「はっ!」」
「な、ちょっと待ってくれ! 手柄をやるってどういうことだ!?」
「主が手柄をやると言っているのだから、大人しく受けろ」
「ゼロ様はまだ目立ちたくないからね〜」
「というわけだ。受けないなら、目撃者のお前達を消してもいいんだぞ?」
マリアが殺気を放ちながら三人を睨む。
勇者達はその言葉に冷や汗をかく。もし本気でこっちを殺しにかかるなら、一分も持たないだろう。
「フォネス」
「はっ!」
フォネスは幻覚を使って三人の姿を消していく。周りには桜の花のようなのが出ていた。
「ま、待ってくれ! お前は何者なんだ!?」
勇者はゼロが何者なのか、気になったのだ。黒髪に黒目、日本にいた時の服。
それだけの証拠があれば、カズトと同じ日本人だとわかる。しかし、その口から聞きたかったのだ。
だが、それは叶わなかった…………
「…………」
声をかけられたゼロは、何も言わずにただ見るだけで、幻覚によって桜の花に混じって見えなくなった…………
その場には桜の花さえも、残らず、何も残っていなかった。
「しかし、ゼロは何者なんだ……?」
「あの強さで、手柄もいらないなんて……」
「…………」
カズトは何も言わずに、立っているだけだった。
その後に、反対側ならようやく聖騎士と竜騎士が来て、魔王を倒したのが勇者だとわかり、メイガス王国にいる人々は喜んだのだった…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
街を出たゼロ達は……
「急に人間の味方をすると言われて驚いたぁ」
「確かに、人間が不利だったといえ……」
二人がゼロから人間を助けると命令を出されて驚いたのだ。
それは、主であるゼロ様が善意で人間を助けるとは思えなかったからだ。
「ん、ああ……。話してなかったっけ? あれは勇者を助けるためもあるが、一番の理由は追っ手を絶つためだ」
「追っ手?」
「アリトスだったか? オズールを倒したのが俺だとわかっていた。その情報を魔王ラディアが知っていたら?」
「……あ、なるほど」
「そうだ、気付いたか?」
もし魔王に知られていたら、仲間に引き入れるか消そうとするだろう。
これからの旅先で邪魔されるとウザいからその根源を絶つために、魔王を消したのだ。
「でも、魔王はゼロ様だとわかっていませんでしたね」
「ああ、あの時は子供の姿だったし、まだ知られてなかったかもしれないな」
「アリトスはどうやって……?」
オズールを倒した時はまだ子供の姿だった。なのに、人間姿のゼロでも気付いた。
『……もしかして、フォネスがいたから?』
(それの可能性があるな。フォネスは尻尾しか変わっていないしな)
アリトスのことは気になるが、もう終わったことなので、話を変えることにした。
「終わったことはどうでもいいだろう。後、勇者を助けたのは気まぐれであり、もしかしたら後から新しいスキルを手に入れるかもしれないからな」
「それならわかります。勇者と言う称号には特別な物がありそうですね」
勇者は珍しいスキルを発現することが多い。
カズトと言う勇者のは、デメリットが大きいスキルだが、周りから見たら希少スキルを持っているだけでも、凄いことだろう。
「さらに、魔王じゃなくて偽魔王だったしな」
「「えっ?」」
「これも言ってなかったな。ラディアはただ勇者を殺しただけの魔人だったぞ」
「そ、そうだったんですか?」
「ああ、間違いない」
レイが解析したのだから、それは間違いないのだ。あと、解析をしたため、『知識者』に新しく解析が含まれるようになった。
さらに、偽魔王ラディアからもスキルは吸収できた。
希少スキルではなく、『闇魔法』を手に入れた。希少スキル『聖転闇符』は使い所が決まっているので、『闇魔法』を手に入れたのは良かったと思う。
『……魔法が多い……から統合、するね……』
うん、やっぱり。
いつも通りに手に入れたスキルをすぐに統合するレイだったのだ。
そして、出来たスキルは『魔導者』だった。これは希少スキルのような響きだが、まだ雷と光がないので通常スキルになっている。
「戦争は終わったし、次の街に行くか?」
「ここから近い街は北にあります」
「どんな街だ?」
「確か、新人冒険者が多いメイガス王国の次のステップになる街と聞いています」
つまり、新人冒険者がメイガス王国の周りで鍛えたら次に行く街らしい。
街の名は、ジガルド街と言う。ここら辺の魔物より強い魔物がいて、新しいスキルを手に入れるのにちょうどいいのでそこに向かうことに。
ついでに旅路の途中にいい拠点になる場所があったらいいんだが…………
「決まりだな。まずあそこを目標として、拠点も探さないとな」
そろそろ拠点が欲しいのだが、いい条件がそろった拠点がなかなか見付からないのだ。
一つ目は、人間が知らない場所。
二つ目は、沢山の配下が入る建物。
三つ目は、住み具合が良い場所。(水源の近く、餌狩場の近く等)
最低でも、これくらいは欲しいのだ。だが、そんな場所はあんまりないのだ。
『……あ、魔王ラディアの元の住家は?』
(お、それはいいかもな。だが、人間達は知らないよな……?)
『……わからない』
とりあえず、人間であるマリアに聞いてみる。
「魔王ラディアは何処に住んでいたかわかるか?」
「いえ、知らないです。おそらく、人間達は知らないと思いますよ?」
「第一条件は通っているな……、しかし誰も知らないんじゃ、何処にあるのかわからないな」
「魔王の配下を一人だけでも残しとけば良かったですね」
そうすれば、魔王ラディアの住家がわかったはずだった。
あの時は住家のことまでは考えていなかったのだから、仕方がないと思うのだが……
「では、生き残りでも探しますか?」
「生き残りか……、一人ぐらいはいるだろうな。よし、戦争が起こった森まで戻って探してみるか!」
次の方針は決まった。魔王ラディアの配下だった者を探す。
ゼロ達は戦争があった森に戻るのであった…………
感想と評価を待っています。




