第百六十六話 邪神アバター
本日二話目。
「ふふふ、ふははははーーーーーー!!ついに、この身体を手に入れた!!長年待っていたかいがあったぜぇ!!」
邪神アバターは神であり、肉体がない存在である。だから、長年は肉体を見つけるべく探していたのだったが、神という存在の力がただの肉体ではすぐに壊れてしまう。魔王級でも同じだ。
なら、半神半人は?と考えるだろう。だが、それは昔に検証済みで、失敗に終わっている。大天使ほどの力を入れる器となれるは半人の身体でさえも、神の力は耐えられない。
そこで、邪神アバターは自分で作ることにしたのだ。まず、やったことは他の異世界から負の強い魂を見つけ出し、転生させることだ。
何故、わざわざゼロの魂を呼び込むのか?ここの世界にいる魂では駄目なのか?
それは、ここの世界にある人間の魂は邪神アバターとは別の神である女神ミトラスの管轄であり、手を出せないためだ。それから、魔人や魔物は全てが魔力から生まれているため、魂という概念はない。つまり、この世界では人間の肉体が魔物や魔人になることがあっても、人間の魂が魔物や魔人になるのはあり得ない。
そのような理由があり、邪神アバターは他の異世界から魂を引っ張るしかなかったのだ。
ゼロの魂から魔物を作り出し、邪神アバターはレイになりかわって、ここまで計画を進めたのだ。
次に、邪神アバターがそこまでして、肉体を得たいのか。それはーーーー
「女神ミトラスを消し、この世界を掌握する!!」
そういう事であり、邪神アバターは女神ミトラスからこの世界のシステムとも言える支配を得たいのだ。
それを達するためには、まず勇者と言う存在を消し、女神ミトラスの力を弱らせる必要がある。実際はゼロに全ての勇者を殺すように進めようとしたが、思ったより計画が進んでしまい、邪神アバターが自ら残った勇者をかたづけなければならないが、それは許容範囲である。
神である自分が勇者共に勝てるとは思っていないからだ。
魔神ゼロの身体には『神の資格』と神ノ能力『暗黒神』があり、邪神アバターの力を百パーセントで発揮出来る。それに耐える身体もあるから自滅も期待出来ない。
「まず、女神ミトラスのお気に入りのお前を先に殺してやろう!!」
「簡単にやられてたまるか!!」
邪神アバターは右手からこの世界では『未確認物質』である宇宙の物質を生み出す。その姿はまるで、ブラックホールのようだとカズトは思った。それが放たれたら、作り出した世界どころか、元の世界にも影響を受けてしまう。
邪神アバターのことは女神ミトラスから聞いており、この世界に存在するだけでも、滅びへの一端を撒き散らす。万が一に邪神アバターがこの世界に現れた場合は、この切り札を切るようにと言われている。
その切り札は女神ミトラスの力を使っており、一度しか発動出来ないが、カズトは今に切り札を切ることにした。
「女神ミトラスの名において展開し…………」
外にはカズトの仲間が戦っており、ゼロの仲間もいるのに、邪神アバターは気に留めず、この世界ごと周りへ被害を出そうとしている。
邪神アバターに隙があったからではなく、仲間を守るために使うことになってしまう切り札だが、カズトは今のタイミングが一番良いと本能で感じ取っていた。
「掻き消えろ!!”暗黒消滅”!!」
「終わらせろ、”終神剣”!!」
邪神アバターの右手から一つの宇宙が生まれようとしていた。それに触れただけでも塵になって掻き消える。
全てを無に帰す暗黒の物質がカズトに迫る。それに対して、カズトは先程までとは違う太陽の輝きが剣から放っていた。そして、向かってくる”暗黒消滅”と”終神剣”が激突する。
「ぐぎぃぃぃぃぃあぁぁぁぁーーーー!!」
「ははっ!!神の技を受け止めるとはな!!だが、力が足りなかったな!!」
邪神アバターの言う通りに、”暗黒消滅”が押していた。このままなら、カズトが押し負けるだろう。
そう、何かアクションがなければだったがーーーー
「む?」
二人が激突している内に、レイが邪神アバターの体内へ入っていった。いや、戻って行ったが正しいだろう。
レイは精神体であり、邪神アバターに傷を付けたり邪魔をするのは不可能だったため、邪神アバターは無視していた。中に入ってしまったら、もう出られなくなってしまうし、あとから封印したいと考えれば、邪神アバターにとったらこのまま入って貰った方が良いのだ。
「何をしようが、無駄だがな!!」
少しずつ闇が剣の放つ光を蝕んで行く。邪神アバターはこれで、勝てると確信していた時ーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
邪神アバターの中に入ったレイは、邪神アバターの邪魔をするためだけではなく、我が兄であるゼロを探すためだ。
その兄であるゼロはすぐに見つかった。
「……お兄ぃ……お兄ぃ!!」
ゼロは十字架に鎖で封印されていた。意識があるようだが、上の空でレイの姿は見えてないようだった。
先程のことがショックで何も考えられない状態になっていた。いや、邪神アバターによって手を加えられている可能性も捨てきれない。
だが、レイはお兄ぃと呼び続ける。何回も、何回も…………。
その声が届いたのか、
「…………レイ?」
「!?……お兄ぃ!!」
「……そうか、中に入ってきたのか……、そのまま邪神から……逃げて貰いたかったけどな……」
ゼロは薄く笑う。レイと会えたことの喜びか、全てを諦めたのか、どちらかはわからなかったが、レイのやることは止めない。
レイはゼロを助けに来たのだ。
「……お兄ぃがいないのは、いや!一緒がいい!!」
「……まだ俺のことをお兄さんと呼んでくれるのか?……俺はずっと、この世界に来てからレイのことを見破れなかった……それにレイを悲しませてしまった……」
カズトと話していた時、隣で悲しそうな顔をしていたことが頭から離れない。レイを悲しませてしまったので、お兄さんでいる資格はないと思っていた。だが、レイはゼロのことをお兄ぃと呼んでくれる。
「……お兄ぃはお兄ぃなの!お兄ぃがいないなら、逃げても生きても意味がないっ!!」
「レイ……」
涙目になりながらも、レイは声を張り上げる。ゼロはその涙を見て、また悲しませてしまっていると気付いた。
(また涙を流して、俺は何をやっているんだ……、何故、動かない!!もう悲しみの涙を流させるにはいかない!!)
ぎりぎりとゼロを絡みつける鎖から鈍い音が鳴る。ゼロは邪神アバターから奪われた力、心を奪い戻しつつあり、少しずつ鎖にヒビが入る。
それを見ているレイではなくーーーー
「お兄ぃ!!」
「ああ、一緒に邪神アバターを吹かしてやろう!!うお、ウオォォォォォアァァァァ!!」
レイの能力である王者能力『零式王』が顕現し、相棒である『白零剣』が右手に現れーーーー
「”虚黒零白斬”ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ゼロとレイの最大技がゼロに絡みつく鎖を壊し、ここを巻き込んで白く染めていく。
本来の”虚黒零白斬”は暗黒剣と白零剣の両剣があっての技だが、『暗黒神』は邪神アバターの能力であり、今のゼロには使えない。
だが、暗黒剣がなくとも技から放たれる効果が違えば発動出来る。
暗黒剣は破壊を目的とした能力であり、白零剣は情報を読んだり上書きさせる能力を持つ。
その能力を使い、ゼロは鎖がなくなった自由な身体でレイを左腕だけで抱き上げて、能力を発動する。
「身体を取り戻す。そしてーーーー」
白零剣を下に突き刺して、白くなった世界をさらに変えていく。変えるというより、上書きをして身体の支配を奪い返す。
「ついでに…………」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「なっ!?」
誰の声なのか、”暗黒消滅”が白くなって威力が弱まっていくことに驚いていた。
「白くなって……まさか!?」
『そうだぜ、このゼロがお前の邪魔をしてやる』
「貴様!?」
念話で邪神アバターだけではなく、カズトにも聞こえるようにゼロの言葉が響く。
「何故、動ける!!」
『我が愛する妹がやってくれたぜ。お前の目的がレイを泣かせることになるなら、やらせるつもりはねえ。おい、カズト!お前に頼みたいとは思わないが、この際は仕方がねえ。こっちはこっちで抑えてやるから、一太刀は受けてやる。やれ!!』
「っ、くぅ……偉そうに……!はぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
ゼロが邪神アバターの攻撃を弱らせ、檄を入られたお陰でカズトの力が押し始めた。
バシィィィィィぃぃぃぃぃ!!
”終神剣”が弱体化した”暗黒消滅”を打ち破った。
「クソが!!」
技を打ち破っただけに終わらず、カズトはそのまま邪神アバターに斬り付けようとする。邪神アバターはその一撃を受けたらヤバイと理解して、近付かせないように次の技を放とうとするが、
『無駄だ!!』
「貴様!」
ゼロとレイによって邪神アバターから左手の制御を奪って、技を放とうとしていた右手を掴んであと外れの場所へ放たれた。
「邪神アバターぁぁぁぁぁ!!消えろぉぉぉぉぉ!!」
「ち、畜生ガァァァ」
剣は確実に邪神アバターへ届き、身体に剣が通り抜けたように横へ振り抜かれた。身体には傷一つも無かったが…………
「グ、グァァァァァーーーーか、神のち、力がーーーー!?」
「この世界から消え去れ!!」
カズトが切ったのは邪神アバターの身体ではなく、本質である二つを壊したのだ。それは、『神の資格』と神ノ能力『暗黒神』の二つだ。
カズトの切り札とは、女神ミトラスから授けられた神殺しとも言える技。神に関するモノ、能力を壊すことが出来る効果があり、その『神の資格』と『暗黒神』が無くなった邪神アバターはこの世界にいられなくなる。
「ま、またとして…………あの女神に、負け……るのか…………アァァアァァァァァアァァアーーーーーーーーーーーー!!」
長年、計画を進めてきた邪神アバターは今ここ、破れることになり、ゼロから出て黒い光となって消えていった…………