第百五十二話 レイVSガイウス&イリヤ
カズト達は、長い階段を昇っていた。螺旋状になっており、次の扉は見えない。
「2人だけで大丈夫なんか!?」
「わかりません。でも、時間に制限があり、まだ他の幹部達がいますから……」
タイキが聞いてきたことにカズトが答える。もしかしたら、あの2人が殺される可能性が高いかもしれない。だが、カズトが言っていた通りに時間に制限があり、他に敵がいるというなら、2人に任せて、自分達は先に行くのは間違っていないはずだ。
「腐腐腐っ…、2人を信じるしかないわね」
「…………ああ」
(ガイウスとイリヤ……、死ぬなよ)
カズトは仲間が倒れようが、前を見るしかない。カズトの肩には、人間の未来を抱えているのだから…………
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残ったガイウス、イリヤの方では…………
「くっ!多い!?」
「近付けねぇ!!」
今の2人は様々な属性を持つ大量の鞭に襲われていた。これでは、イリヤの持つ魔力を消す『無月』で全ての攻撃を当てて防ぐのは難しい。一本一本の鞭は纏まった一つの魔法ではなく、それぞれに別の魔力を込めて発動されているから、一本だけ触れたら全てが消えるということにならない。帝国の国宝で、イリヤに与えられた無月はゼロがやったように、一つの魔法に触れただけで周りの魔法ごと消す”虚空絶無”程の効果はないようだ。
先程に放った”蒼流星群塵撃”なら、全てを消すことが出来るが、その技は体力と魔力を物凄く消費するため、やすやすと使えない。
だが、この鞭が邪魔でレイの元へ行けないままやられることになりそうなので、仕方が無く”蒼流星群塵撃”を発動しようとしたが、
「ワシに任せろ!!」
ガイウスの手が光った。これは聖気を纏まっており、それを…………
「うらあああああああぁぁぁぁぁ!!」
光弾のように飛ばして、一つだけでなく、次々と撃ち出していた。それが魔法の鞭に当たり、鞭が破裂した。イリヤとレイの目には、吹き飛ばしたのではなく、自分から爆発したように見えた。
「……ただの聖気ではない?」
「教えるか!!うらあああああぁぁぁぁぁ!!」
次々と鞭が爆発して消えていく。それは、ガイウスの持つ『闘喧者』の効果であり、内部を狂わせて自爆させることが出来、今のは聖気の光弾にそれを込めて撃ち出していたのだ。
「……ふむ、これ以上は無駄かな?」
レイはあっさりと新たな鞭を生み出すの止めた。この鞭はイリヤに効果的だったが、ガイウスには無駄だとわかったので別の魔法を出すことにしたのだ。
「……これなら、どう?”混沌炎龍”……」
今度は炎の龍を生み出し、部屋の中を動き回って熱を発生させる。2人からは離れており、動きも早い。イリヤの剣に触れず、ガイウスの光弾が当たっても当たった部分を切り離すことが出来る。
「くっ、今度は熱で殺そうとするか!!」
「動きが早い!」
イリヤは放置するのは危険だと判断して無月で斬ろうとするが、今回の”混沌炎龍は小型であり、一メートル程の大きさはない。ただ、龍の体内に秘められた熱は凄まじいもので、少しすれば、部屋の温度は人が生きられないほどになってしまう。その前に、酸素不足で死ぬかもしれない。
先程の魔法の鞭がそのまま振るわれていたら、炎の龍をも巻き込む可能性があったから発動を止め、炎の龍を出してから別の魔法に切り替えるレイ。
「……これだけじゃない。”魔喰蟲”!」
次は魔力から作られた蟲を生み出し、羽音を出しながらガイウスとイリヤに向かう。その蟲は蜂の姿をしており、厳密に生き物ではないので、炎の龍による熱では死なない。
「敵を増やすか。吹き飛ばしてやる!!おらっ!!」
ガイウスは光弾を出し、一番前にいた蟲を吹き飛ばすつもりだったが…………
「なっ!吸収されるだと!?」
「危ない!」
イリヤが倒せなかった蟲を腰に差していたナイフを投げて止めようとする。
バァン!!
ナイフが刺さったら、蟲は爆発を起こし、爆風が肌を撫でる。
「があっ!?」
「むっ!?」
ガイウスはとっさに聖気を纏まっていて、イリヤは距離があったから2人は無傷だが、威力は結構高かった。
「なにぃ、俺の技で爆発したとしても、こんな爆発はしねぇ……」
「また蟲が出てきます!!」
「くっ、ワシの光弾を吸収して、ナイフが刺さると爆発する?魔法はどうだ?」
「やってみます!」
イリヤが水魔法で何体かの蟲を水圧で潰そうとしたが、また吸収されてダメージはなかった。
「ダメです!魔法も吸収されます!」
「殴っても、爆発に巻き込まれるだろうな。一体、どうやって爆発させているんだ?まさか、吸収した魔法をエネルギーにしているのか?」
「なら、その蟲は私の剣でやるしかありませんね……」
ガイウスの攻撃が効かない蟲、熱を放出させ、イリヤの剣を避け続ける炎の龍。少しずつ2人の方が不利になっていく。
「初めにあの龍を倒さなければ、駄目ですね。ガイウスさん、私が蟲を抑えますので、炎の龍を消してください。”双蒼眼”!!」
イリヤは仲間に先知の瞳を使えるようにすることが出来る。ガイウスの左眼は先読みが出来る蒼い瞳となった。ガイウスは前からイリヤの先読みができる瞳のことを聞いていたので、未来が見えても驚かない。
「……へぇ、魔眼だね」
「行かせてもらうぞ。イリヤ、頼んだぞ」
ガイウスは蟲を避け、炎の龍へ向かう。イリヤは蟲とレイを抑える役目に回り、蟲を切り裂いて行く。
「……蟲は敵の魔法や聖気を吸収出来なくても……」
レイが蟲を操作して、イリヤの足元に体当たりさせると、
バアッン!!
「くっ!」
「……避けたかぁ」
イリヤは先読み出来たため、脚に身体強化を掛けて、スピードをあげて爆発を避けたのだ。
「……わざわざ敵の攻撃を吸収しなくても、熱があればエネルギーになりえるの」
そう言って、新たな蟲を生み出して、イリヤに向かう。生み出すスピードは鞭の時より遅いが、蟲を倒す方法が無月しかないイリヤにしたら、厄介な敵だった。
レイの”魔喰蟲”は、吸収した熱、魔力、聖気をエネルギーにして自爆する魔法であり、大量の蟲を自由に操作し、生み出し続けるなら、レイでも動きを止めなければならない。
「……行け」
次々と触れたら爆発する蟲がイリヤに牙を向く。
「止めると言ったのは私だ。行かせるにはいかない!!」
イリヤは剣を鞘に戻して、居合の構えを取る。『聖剣使い』は多数の敵に対する効果は薄いが、攻撃方法がないというわけでもない。魔力と聖気を使わない純粋なる技で、イリヤは向かってくる敵を斬る。
「”断空”!!」