第百五十一話 一番手
一つ目の部屋にいたのは、メイガス王国を跡形も残さずに潰したゼロの妹、レイだった。カズトパーティの皆は出てくるならゼロと一緒かゼロの一つ前に出てくると思っていただけに衝撃だった。
「なぁなあ、お前達は知っているみたいだが、可愛い子は誰なん?紹介をしてくごふっ!?」
イリヤに脇腹を殴られて、地面にくすぶっていた。
「黙れ。タイキの言い方はどうかと思うんだが、カズト達が警戒するほどだ。何者か知っているなら話してくれ」
「腐腐腐っ…、私達と会う前に出会ったことがあるのね?」
もちろん、勇者達は会ったことがないから知らない。だから、警戒がカズト達より薄いのは仕方が無いだろう。
「あいつの名はレイ。前に話したメイガス王国を1人で跡形も無く消したゼロの妹だ」
「っ!?」
ガイウスが教えてやると、イリヤは警戒を高め、剣を構えた。ゼロの妹と聞けば、どれだけの敵なのか理解出来たようだ。もしかしたら、幹部の中で一番の実力を持つ化け物かもしれないからだ。
「え、君がゼロの妹?」
「……そうよ。ここで終わらせてあげる」
レイは手に持っていた分厚い本が光り、王者能力『禁咒王』が発動する。
「……”天地崩壊”」
いきなりの大技。メイガス王国を跡形も無くした技であり、広域の空間に歪みを生み出して暴力の嵐が吹き荒れる。それがカズト達を飲み込もうとするが、
「”蒼流星群塵撃”!!」
イリヤが先に動き、突きの壁を全位方向が放たれる。この技は体力と魔力の消費が凄いけど、放つ範囲を広過ぎなければ、問題はない。イリヤは仲間を守れる距離だけに展開している。
だが、その突き技では高質の魔力で作られた歪みを防ぐことは出来ない…………はずだったのだが、
「……消えていく?」
何故か、高質の魔力で作られた歪みが突きの壁に触れた瞬間に、レイの技の方が消えていくのだ。
レイはよーく観察してみると、イリヤの持つ剣に魔力が篭ってないことに気付いた。
「……魔剣だね」
「すぐに気付くか……」
「……魔力が篭っていないのに、魔剣と言い方は変だけど、魔力を消して、防いだ。それが、その魔剣の効果だね」
目の前で、効果を見せたのだから、すぐにわかったのはいいが、これで魔法は防がれてしまうだろう。
「……なら、剣に触れないように魔法を当てるだけ」
また本が光り、次の魔法を発動しようとする。前は本の紙を減らして、発動していたが、今は一枚も減っていなかった。これも、ヨハンとの研究成果であり、制限が易しくなっている。
「ここで足止めされている場合じゃねえな!ここは俺が抑える!!メイガス王国の仇もあるからな」
「私も残るわ」
ガイウスとイリヤが残って、他の人は先に行けと言っているようだ。2人だけで勝てるのか?とカズトは思ったが、次の”光輪凱旋砲”が発射されるまであと46分。早めにゼロの元に行かなければならないのもわかる。
「無理だけはしないで下さい!!」
カズトはすぐに決断した。ここは2人に任せようと。
「……無駄。簡単に行かせないよ」
だが、レイがそう簡単に行かせるつもりはなく、先に進む扉が結界によって塞がれたのだった。
「なっ!?」
「破壊して進むだけだ!”烈風斬”!!」
マギルが結界を壊そうと、技をぶつけるが、傷一つもなくて水の膜が揺れたような感じになっただけだった。
「……その結界は、私に勝たないと、消えないわよ。壊そうとするなら、100%の”光輪凱旋砲”級の破壊力が必要になる。その威力を出せても、間違いなく魔力がなくなるわね」
「くっ!」
カズトは聖救剣での破壊しようと思ったが、100%の”光輪凱旋砲”級となると、威力が足りるかわからない。結界を壊して進むより、レイを倒した方が消費が少ないと考えた。
「私に任せなさい!!」
イリヤが魔力を消す剣を結界に斬りつけると、嫌な音を出しながら結界はガラスのように割れたのだった…………
「危ない!!」
レイから高温のレーザーで背中を見せたイリヤを狙っていることに気付いたカズトが、聖救剣で弾く。
「……ちっ」
結界を作ったのは、カズト達を行かせないためではなく、解除しようとするイリヤの隙を作り出すためだった。だが、カズトが守ったため、無傷。
「すまない!では、行ってくれ!!」
「はい!!」
カズト達は次の扉を通り、ガイウスとイリヤがレイに向き合う。
「……行っちゃったか。少し時間を稼げたからいいかな?」
レイはカズト達を追うことはしなかった。残った2人に背中を見せたらやられると理解していたからだ。
「勝てなくても、先に行かせない」
「ふん、ワシは勝つつもりで行く」
「……お兄ぃの邪魔をする者は死ね」
一つ目の部屋では、レイ対ガイウス、イリヤとの戦いが始まるのだった。
発射するまで、あと41分…………