第百四十六話 大戦の始まり
今日は大戦が始まる。ルーディア帝国では200万人の聖騎士、竜騎士、勇者達が展開していた。何処から攻められても大丈夫のように、国の周りを囲む形になっている。
ルーディア帝国は山に囲まれた地形になっていて、入口は一つしかない。だが、相手は魔神と名乗っているから、普通ではないやり方で山を越えて来るかもしれないのだ。
だから、入口だけではなく、周りにも兵達を展開している。
その中、勇者カズトは城の中で待機していた。目覚めたのが、三日前で最高戦力である勇者カズトとその仲間達は皇帝の部屋にいた。
「…………と、作戦はこうなります。いいですか?」
「はい。僕もそれがいいと思います」
「その作戦だと、お前が一番危険だが、いいのか?」
作戦の内容に、マギルがカズトを心配して聞いている。
「ああ。危険は皆と変わらないじゃないか? 一緒に行くんだから」
「しかし、戦う相手がな……」
「わかっている。僕は魔神ゼロを倒さなければならないんだ」
作戦の内容だが、最終的には魔神ゼロは勇者カズトが相手をするのは決まっている。もし、手が空く勇者がいたら一緒に行かせたいが、ゼロの配下は未知数なのだ。
「幹部と呼ばれる者が前に出てきたら、頼むぞ」
「ああ、そいつらは俺らに任せとけ」
「腐腐腐っ、あのクロトと同等だったら足止めにならないけどね」
「足止めか、カズトが魔神ゼロを倒すまでは何とか止めてみせるさ」
「…………」
他の勇者であるタイキ、イリヤ、クスハ、ゴウダも一緒にいる。もし、幹部の足止めをする役がなければ魔神ゼロの元にカズトと一緒に行くなら四人の誰かだろう。ちなみに、マギル、テリーヌ、ガイウスは幹部の足止めの方に入る。
「で、いつ来るんだ? 大戦が始まるのは今日だよな?」
「あぁ、まだ影も見えないそうだ」
もし、現れたらすぐに兵士から連絡が来るのだが、まだ現れていない。今はまだ朝と言える時間であり、ゼロは時間を設定していない。だから、いつ来るかわからないからなのか、緊張をしている兵士が多い。
「まさか、200万人の大軍に恐れなしたとか……」
「ありえないな」
「ですよね……」
タイキが希望推測を言ってくるが、ガイウスによってバッサリと切り捨てられる。
「おそらく、数で圧倒する戦法は使えない可能性が高い。それに、質では向こうの方が上だ」
ガイウスは幽腐鬼のことを言っており、聖騎士でも一対一になると、勝てない。少なくとも三人で当たらないと、無駄な死が増えるだけである。
「しかし、どうやって来るつもりだ? 馬鹿正直に、入口正面から現れるとは思えん」
「確かに…………「現れました!!」来たか!?」
皆が待機していた部屋に一人の兵士が入ってきた。何処から? と聞くと、
「真っ正面からです!! い、いえ……、真っ正面というより……」
「は? 何が言いたいんだ?」
「直に見た方が早い。バルコニーに行くぞ」
「それもそうですね」
全員が外のバルコニーへ向かい、ドアを開けると…………
「なっ……!?」
「島が浮いているだと!?」
「一つの島……いえ、船に近いですね」
下部を見れば、船の形をしているのがわかる。
「まさか、あれが魔神ゼロの拠点……?」
「デカすぎ、浮いてるなんてどうすりゃいいんだよ!?」
「腐腐腐、撃ち落とそうとすると、下に被害が出るね。まぁ、撃ち落とせるとは思っていないけどね」
『天魔の方舟』は、ルーディア帝国の倍は広さがあり、もし堕ちたら近くにあるルーディア帝国は一たまりないだろう。
「まさか、島一つと変わらない飛ぶ船で攻めて来るとは…………」
「くっ! 制空権を奪われたな。ここで飛べる戦力は竜騎士と浮遊能力持ちだけか」
このまま、竜騎士達にあの船へ行かせるにはいかない。まだ船の戦力も未知数なのだから、迂闊に近づけない。
そう考えていたカズト達だったが、方舟の前方にこの前の映像と同じのようなモノが現れた。そこに映っているのは、勿論、ゼロの姿だった。
『さて、『天魔の方舟』に驚かれたかな? 言わなくてもわかるが、方舟に直接攻撃しても無駄だ。もし、落とせても巻き込まれるのは必須だな。それを理解した上で、戦おうな?ククッ……』
つまり、方舟に手を出しても、人間側に利はない。
『これから、大きく減らすことになるが、せいぜい生き残って見せよ』
「は? 何を言って…………」
マギルの言葉は続かなかった。何故なら、方舟の前方にある兵器を見たからだ。
一つの大砲。それだけ聞いても、大したことはないと思うが、あの大砲の大きさが桁外れだったからだ。
『これは一つの国を消し飛ばす『光輪凱旋砲』と言う。これをこれから50%の出力で撃つ。防いで見せよ』
ゼロは防いで見せろと言うが、あの大砲から発動される巨大な魔法陣を見て、防げるわけがないと思う兵士達が多かった。
『……発射』
ドオォォォォォォォッと、光の放流がルーディア帝国を飲み込むように撃ち出された。
この一撃が大戦の始まりだった…………