第百四十三話 雷獣王(トール)
遅れてすいませんでした。
これからも更新が遅れてしまうと思うけど、必ず完結させてみせますので宜しくお願いします。
タカオは王者能力の『雷獣王』によって、獣人みたいな姿になっていた。立派な鬣があり、完全に、身体が雷そのものになっている。
そこは、ナルカミの”雷体化”と同じ能力である。
「……貴方は王者能力を持っていたのね」
「無駄話はなしだ」
武装能力である『虹糸』がタカオの武器で、七属性の魔法が糸そのものになっている。つまり、タカオ本人が雷魔法しか適性がなくても糸そのものが魔法自体に変わってくれる。
それが、七属性全てを備えていることは、全てを扱いきれるなら、弱点がない攻撃が出来ることだ。クロトが使っていた究極属性魔法、”七属彗星”のような技も使えるのだ。
通常のタカオだったら、七属性全てを操るのは無理だ。だが、『雷獣王』を発動していれば、魔法の順序を省略出来る。
「”虹斬”」
七本の糸が、それぞれ違った属性で攻撃している。レイもそのまま喰らうつもりはなく、”雷遁落衝撃”で応戦する。
空中で火花が飛び交う。一度に七撃の攻撃を放てるタカオだが、レイは纏めて相殺するように、さっきより威力を高めに放っている。
この攻撃は互角。次に、タカオはさっきの攻撃を七撃にバラバラにするのではなく、纏めた一撃で攻撃するが、レイは簡単に避ける。
一撃に纏めてしまえば、攻撃範囲が狭くなるのだから、簡単に避けられてしまった。
「……クロトと同じ魔法、使えるんだね。でも、何故……」
その気であれば、レイの本体なら究極属性魔法を使えるが、全ての属性を一度に一斉で発動するのと変わらないので、魔力の消費が多い。レイの持つ王者能力があれば、それと同等の効果を出せるから、自分から究極属性魔法を使おうとは思わない。
だが、タカオはガンガンと使っていても魔力が全然減っていないことに気付いた。
「……魔力が減ってない?」
「教えると思うか?」
タカオは体内で魔力を生み出すやり方があるため、魔力を使っても減ることはないが、それを教える理由はない。
その力こそが、王者能力『雷獣王』の真髄である。無限に生み出せる魔力で凄まじい威力を繰り出すのがタカオのやり方だ。
レイはこのままでは、こっちの魔力が先に切れて、負けてしまうので、決着を付けることに決める。
「……”雷瞬動廻”!」
角の一点に魔力を込め、身体を回転しながらタカオに雷ごとく、直線に突っ込む。他の者から見たら、一瞬で事が終わるのだが、タカオにしたら馬鹿正直に真っ直ぐに突っ込んでいる棒球のようなものだ。タカオはカウンターを選んだ。
「終わりだ!」
角を避け、横から殴り込む。ただの拳ではなく、魔力を乗せており、威力も倍増されているからナルカミの身体を突き抜けるが…………
「くっ、偽物か!?」
偽物だとすぐに気付き、本物を探したら、すぐに見付かった。本物は上にいて、さっきと同じように突っ込んでいた。
気付くのが遅れたから、さっきみたいに角を避けるなんて、無理だ。なら、タカオが取る手は一つしかない。
「うぉぉぉおおお!!」
「……ぐっ!?」
角はタカオの肩に刺さり、相打ちを覚悟して拳を首に狙ったタカオは、狙い通りに、首を貫いた。
「これで終わりだ………………ごふっ!?」
「……終わりなのは、君もだよ?」
タカオの胸から、一本の手が生えていた。その手の持ち主とは…………
「……まさか、この身体を使うことになるとは思わなかったよ」
タカオの後ろに潜んでいたのは、レイの身体である閻魔の帽子と服を着た姿だった。
レイは、一回目の偽物と二回目の本物は、どちらも囮にして、レイの本体をタカオの後ろから召喚したのだ。そして、今はタカオの胸を貫いたため、レイの勝ちが決まった瞬間だった。
「……この身体は決戦で使うから、もうここまでにしてあげるけど、貴方は誰を守りたかったのかな?」
「だ、誰が……おし……えるかよ……」
「……そう」
この身体は少しでも使うと、長い時間の休みが必要になる。メタトロンとの戦いでも使ったのだから、レイが言う決戦までに休ませたい。今はここまでと言うことで、足元に魔法陣が現れて、レイの姿が消えた。
首を貫かれたナルカミの身体はもう死んでおり、レイは文字通りに囮を完遂させたのだった。本当ならカズトを殺しておきたかったが、王者能力持ちのタカオをナルカミの犠牲だけで勝ったなら、良しとしたのだ。
「ぐ、がはっ、ま、まだ……」
タカオは普通の人間なら、死んでしまう傷を負ってもまだ生きていた。だが、それは時間の問題だろう。
タカオは少ない命を活用するために、動く。向かったのは、仲間の元へ…………ではなく、護りたいと思った者がいる場所へ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
勇者達がいる場所。
タカオはそこにいた。酷い怪我をしていて、他の勇者達が駆け寄ってきたが、スタンガンの応用で気絶させた。勇者達なら簡単に気絶をしないが、タカオは味方であり、そんなことをしないと判断して油断していたから、勇者達は気絶してしまった。
タカオは胸から血を流しつづけ、護りたかった者の前に立つ。
寝ているカズトの前まで。
タカオが護りたかったのは、カズトのことだ。
タカオは前からカズトのことを知っている。だが、カズトはタカオのことを知らない。
…………いや、知らないと言うより、忘れられているが正しいだろう。
タカオが何故、カズトのことを知っているのかは、親友だったからだ。
そう、前の世界ではタカオとカズトは親友である関係だったのだ。
だが、タカオが先にこの世界へ召喚されて、まだ前の世界にいたカズトの頭の中からはタカオの存在がいなくなった。
つまり、召喚されると前の世界では初めからいなかったことにされてしまうのだ。だから、カズトが頭の中からタカオの存在を忘れられたのは仕方がないだろう。
カズトが召喚されたと聞いたのは信じられない思いだった。
まさか、偶然にタカオの知っている者が召喚されるとは思っていなかったのだ。しかも、それが親友であったカズトなのだ。
そこから、タカオは決めた。親友であったカズトを見つけ出して、クソッタレな世界から守ろうと。
上司の命令を無視し、『問題児』と呼ばれようが、カズトを見つけ出すために旅へ出た。
そして、カズトが召喚されたルーディア帝国へ戻っている情報を掴んで、今に至ったのだ。
タカオはもうすぐで死んでしまうが、最後にカズトへ会えたのは嬉しいことだった。
「……もう、一緒にいられないのは……許してくれ。それに、テレサ、リンもすまねぇな……」
流した血が多すぎて、タカオは身体の感覚を無くしていっている。手に手を乗せる。
「……せめて、これくらいは……」
自分の魂はカズトに授ける。少しは助けになれば……と思いながら…………
タカオの身体が光粒になっていく中、見たのだ。カズトが寝ているのに、泣いていることに。
「た、タカオ……」
寝言なのか、その言葉をタカオは確実に聞いた。
完全に消える前に、タカオは小さな笑みを浮かべて、カズトの中へ消えて行ったのだった…………