第百四十話 聖獣vs堕聖獣
ナルカミとセラティムは球体の護りを纏い、睨み合う。
「”天誅”!」
先に動いたのは、セラティムだった。天から落ちて来る光の放流がナルカミに襲う。
「キャウッ!(無駄っ!)」
ナルカミは動かずに、護りの球体、”電磁結界・改”に雷がほとばしる。
強化された”電磁結界・改”はメタトロンが使った『電磁結界』に似ているようで、全く違うのだ。
”電磁結界・改”は魔力で作られた雷を蓄えることで、護りの力が強くなる。ただ、攻撃されたら溜めた雷の力が減ってしまう。
その雷の力は生まれた時からずっと溜められており、膨大な総量がナルカミの魔臓器に蓄えられているから、ナルカミの魔力はゼロと変わらないぐらいに多い。ちなみに、溜めていなければ十分の一しかないが、今まで使っていない魔力を溜めに溜め込んだのだ。
さっきの浄化とは違い、光の魔法に近い技で威力は天使側では最強クラスだったが、ナルカミは防いでいた。
「硬いね……」
「キャウキャウ!(普通の攻撃は効かない!)」
ちなみに、話している言葉はアレだが、セラティムは念話でも同時に話しているから話は通じている。
「確かにそうね……、本気で行かせてもらうわ」
セラティムは『聖望王』を発動する。さっきの様な破壊の光ではなく、何かも透き通るような光がセラティムの身体から溢れる。
「『聖望王』、魔を浄化せよ…………、”聖流浄魔”!!」
先程と似たように天から光が落ちて来るが…………
「……!?」
ナルカミは全力でその光を避けていた。避け、他の場所に当たるが、特に変わったことはなかった。
だが、ナルカミには、その光が危険だと判断したところから何かあるだろう。
「やはり、避けましたね」
「キャウキャウ、キャウッ!!(あれから危険を感じた、なら避けた方がいいに決まっている!!)」
ナルカミはその光は何なのかまではわからないが、危険だと感じ、さらに”電磁結界・改”で防がない方がいいと判断したのだ。
「やはり、貴方は放って置けない存在だわ。確実に浄化してみせる!!」
セラティムは”聖流浄魔”を避けたことから舐めて掛かっていい相手ではないと判断する。実際にも、セラティムは当たれば確実に勝てるとわかっていたから、心の中のどこかでナルカミを舐めている節があった。
だが、たった今、その油断はなくなった。
今度は”聖流浄魔”を連発でナルカミを狙い撃つ。
ナルカミもやられっぱなしではなく、攻撃の隙を見つけて、雷の技を放っている。だが、セラティムには”魔極防壁”がある限りは、魔力での攻撃は効かない。
このままでは、防戦一方でいつか負けてしまう。それでは駄目だと、頭を働かせる。ナルカミは魔力が他の幹部よりも多く、強いが、妖気の扱いは下手でとても戦いでは使えない。
なら、聖気は? と考えるが、相手は聖気を知り尽くしている聖獣であり、聖気での攻撃が通るとは思えない。
メタトロンが使った魔力、聖気、妖気とは違う純粋なエネルギーは?
それはゼロから聞いているが、特別なスキルがないと扱えないのだ。
これでは、手のうちようがないと答えが出る。だが、自分から案を出してゼロから任されているので、撤退はするつもりはない。
ナルカミは知っている。全ての聖獣には、弱点があるのだ。聖獣だけが持っていて、心臓の様な役割を持つ臓器が。
だが、それを壊せたとしても死ぬわけでもない。ただ、魔力、聖気が使えなくなり身体がしばらく動けなくなる程度なのだ。
いや、動けなくなるのだから、大きな隙になってしまうのは確実で、後から追撃すれば”魔極防壁”を張れずに死ぬだろう。
(やはり、案を提案しておいて良かった)
ナルカミが提示した案は、これからすることが終わった後になるのだ。
まず、ナルカミが提示した案をやる(・・)ために、動く。
「あら? 破れかぶれで突っ込んでくるなんて」
今のナルカミは、角を突き出し、セラティムに向かっている。
ナルカミの角は魔力で出来ているわけでもないから、”魔極防壁”をすり抜けて身体に突き刺すのは可能だろう。
ナルカミにはセラティムの心臓と似た臓器はどこにあるかわかっている。同じ聖獣だったからなのか、ハッキリと感じ取れていた。
「成る程、あの角で『聖核』を壊そうとしてくるのね……」
ナルカミの狙いがわかったが、そう簡単に通すわけがない。
セラティムもナルカミがこっちに突っ込んでくるのはチャンスでもあったのだ。
「突っ込んでくるなら、終わりよ。”聖周浄化領域”!!」
セラティムの身体から透き通った光が全位方向に向けて放たれた。
範囲は狭いが、ナルカミから突っ込んできてくれたから光の中に飲み込むことが出来た。
その光は浄化。その浄化がナルカミに潜む魔を浄化してゆき、黒かった角や身体が剥がれるように白色になっていく。
こうなっては、ナルカミはもうゼロの仲間ではなくなってしまうだろう。
「……ふぅっ、終わったか」
セラティムは疲れていた。先程の技は”聖流浄魔”よりも効果の高い浄化であり、”電磁結界・改”さえも透き通って本体に当たってしまうのだ。
効果が高いだけにあって、範囲は狭くなっており、魔力と聖気の消費も激しい。
だが、ナルカミはそれを喰らっており、身体が完全に白くなっているのだから、セラティムの役目は終わっている。
「さぁ、麒麟の聖獣よ。天界に戻りましょう」
元からナルカミはセラティムと同じ大天使に遣う聖獣なのだ。もし、属する大天使が違ったらセラティムは地上に降りて来なかっただろう。
ナルカミは顔を上げる。セラティムは完全に浄化しきっているので、警戒はしてなかった。
だが…………
「えっ?」
ナルカミの角がセラティムの『聖核』に突き刺さっている。
「な、なんで……、浄化し、たはずぅぅぅぅぅ!!」
セラティムは『聖核』を壊されて、龍から人間の身体になってしまう。龍の体型になるには、魔力と聖気が必要になる。
そのセラティムは浄化したはずのナルカミから攻撃されたことに信じられない思いだった。
ナルカミが声を出す。今までは言葉を話せなかったはずなのに、今は…………
「……ナルカミの勝ちだよ」
その声はまるで、他の人がナルカミを褒めているようなものだった。
もし、カズト達がいたら、その声を聞いたことがあると思うだろう。
そう、今喋ったのはナルカミではなく、ゼロの妹であるレイだったのだ…………