第百三十九話 天聖龍
ルーディア帝国のある部屋では…………
「勇者カズトの様子はどうだ?」
「見た目ではわかりませんが、かなり傷付いています。他の人から聞く限りには、無理に能力を発現していたとか」
「強すぎる能力の弊害か……」
この場には、皇帝とセラティムと救護担当の数人が立っていて、カズトはベッドの上で寝ていた。他の勇者達、マギル達は別の部屋で休養中だ。
「勇者達が魔王の幹部を相手して、こんなにやられるとは、魔王ゼロはどれくらい強いのか想像出来ん」
皇帝は、勇者五人もいれば、魔王には苦戦しても幹部ぐらいなら力を合わせれば、確実に勝てると思っていたが、蓋を開けて見れば、幹部に苦戦し、殺されるかもしれなかったのだ。
もし、魔王ゼロもいたら勇者達は負けてしまったのは予想出来る。
「あの幹部クラスがまだ数人かいるとは信じられんな……」
まだ意識がある時に、セラティムに魔王ゼロの配下のことを話しており、それらの配下はクロトと同等の力を持っている可能性が高いと。
そうなると、早く勇者達を強くしなければ、魔王ゼロが攻めてきたら終わりだと頭の中によぎってしまう。
「……来たわね」
「え、何が……?」
「緊急事態です!! 何者か攻めてきました!!」
「何だと!?」
急に扉が開かれて、兵士が一人入ってきた。話によると、黒い角を持った化け物がルーディア帝国に向かっているのが見えたと。
「まさか、魔王ゼロのか!?」
「そうですね。おそらく、堕ちた聖獣の麒麟でしょうね。ここは私が行くわ」
セラティムが動く。セラティムが天界から降りてきた目的は、堕ちた聖獣を殺すか、浄化するのどちらかをするためにだ。
「何が!?」
「腐腐腐……、敵?」
休養していた勇者の四人もナルカミが出す威圧感に気付いて、こっちに来たようだ。カズトは強力な薬を使っていて、簡単に目覚めない。
「今回は私の目標が現れたので、私がやります。四人はここでカズトを守っていなさい」
「待て! まさか、一人でやるつもりなのか!?」
タイキは一人で行こうとするセラティムを止める。だが、セラティムの答えは決まっていた。
「はい。貴方達はまだ完全に回復していないのでしょう? 着いてこられては、足手まといなので来ないでください」
「くっ……」
セラティムの言う通りで、ダンジョンでの戦いから一日も経っていないのだ。まだ回復していないのはわかりきっていることで、出来ることは勇者全員で一つの部屋に固まってカズトを守るだけだ。
「それに、私は魔の相手なら余程の敵ではなければ、負けはありません」
セラティムはベランダから外に出て、本来の姿に変える。
光の鱗が、透き通るような透明度を見せ、白い瞳がもう戦場となった場所に向き合う。
セラティムの正体は、体長が20メートルを越える龍、『天聖龍』だった。
輝く光を放つ天聖龍に全員が見取れる程だった。
セラティムはベランダから飛び出し、戦場へ向かう…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ナルカミは、ルーディア帝国に着いており、向かって来る兵士達を空から雷を落としていた。
兵士達は剣や槍などの武器は届かないので、魔法で応戦するが…………
「くそぉっ!! 何だよ、あの球体は!!」
全ての魔法はナルカミが纏う球体によって防がれていた。この雷の球体は、メタトロンが使っていた『電磁結界』に似た技であり、ナルカミを護る盾となっている。
ナルカミは魔法を撃ってこようが、”雷遁落衝撃”で蹴散らし、電気を通さない鎧、盾で防ごうとする者がいるが、この技は電気を通さずとも、衝撃だけで敵を殺す。
当たった瞬間に、衝撃が身体を貫き、心臓を止めてしまう者、内蔵を破壊され、血を吐いて倒れる者が現れる。
この技は防御不可能であり、威力も高いため、当たったら死ぬという必殺である技だった。
「化け物が……」
ここにいるのはルーディア帝国の精鋭兵であり、魔王の軍隊とも戦った経験もある。魔王の幹部クラスとも戦い、勝ったことがあるのだ。なのに、今はナルカミに手足も出なかった。
これだけ攻撃しても一つの傷を与えられず、反対にこっちの兵が減っていく。
また大量の”雷遁落衝撃”を展開され、兵士達はもう駄目だ……と諦める者が現れ始めた。
だが、その攻撃が行われることはなかった。
「キャゥ!?」
「避けましたか……」
そう、天聖龍のこと、セラティムが現れ、ナルカミに攻撃をしたのだ。
兵士達は天聖龍がこっちの味方だとわかり、感激の叫びが上がる。
「もしかして、まだ話せないかしら?」
『これで通じるよね?』
『……ええ、聞こえています。貴方は私を殺すために天界から現れたで間違いないですね?』
『ええ、私の役目は堕ちた聖獣をなんとかすることですからね』
『私は魔王ゼロのために貴方を倒させてもらいます』
二人は念話で少し会話をし、戦いが始まった。今までの歴史にはない聖獣対堕聖獣。堕聖獣はナルカミが初めてだから、歴史にないのは当たり前だが…………
「私の力は魔を打ち消す。王者能力『聖望王』で、貴方に潜む魔を払って見せる!」
「キャウキャウ!!(そんなことはさせない!!)」
ナルカミは発動していた”雷遁落衝撃”の標的をセラティムに変えた。
大量の雷が撃ち出され、防御不可能の雷がセラティムに迫るが…………
「無駄です。”魔極防壁”」
ナルカミと同じような球体がセラティムを包み込み、”雷遁落衝撃”を防ぐ。
”魔極防壁”は魔力を使った攻撃の全てを無効する防壁である。
「きゃう!?(何!?)」
「これで貴方の攻撃を通しません」
「きゃぅ……(むぅ……)」
ナルカミの攻撃は殆どが魔力を使った攻撃ばかりなので、ナルカミにとっては”魔極防壁”は天敵だった。
二体の聖獣は街の空中で睨み合い、次の攻撃を出す隙を伺う。兵士達は戦いの邪魔にならないように、二体から距離を取っていく…………