第百三十七話 最後の足掻き
天界では…………
ゼロ達はまだ神殿にいて、目覚ました少女の扱いに困っていた。
「お兄ちゃん〜」
お兄ちゃん〜と、ゼロの腰に抱き着く少女がいた。そう、その少女は元メタトロンであり、ゼロに解放されたのだ。
さっきまで気絶していたのだが、目が覚めたと思ったら、急にゼロに抱き着いたのだ。
ゼロと少女の身長差があり、腰に抱き着く形になっている。
しかし、お兄ちゃん〜と呼ばれるほどに懐かれた覚えがないゼロは困惑していた。
「目が覚めたのは良かったけど、どうして抱き着いているの?」
「好きだからっ!」
「……なんで、好きに? それ程に懐かれることをした覚えがないんだが……」
抱き着いた理由を聞いたら、告白された。メタトロンだった時の記憶があるなら怒ってもしょうがないのことをしてきたのだ。嘘と言え、悪口を言われては好きだと言ってこないだろう。
(……はぁ、訳がわからん)
『……困っている所、悪いけど、向こうも決着がついたみたい』
(お、向こうもか。どっちが勝った?)
『……勇者の方』
ゼロは顔に出さないが、内心では驚愕していた。クロトは王者能力を発現したのだから、圧倒的にクロトの方が上だと予測していたのだ。
(まさか、読みが外れるとはな。クロトは消えてしまったのか?)
『……まだ生きているけど、時間の問題』
(ふむ、成る程な。勝った勇者に悪いが、終わったな)
『……うん、生き残るには完全に消すしかなかった』
クロトはまだ生きている。そう、まだ生きているなら前に指示を出しておいたことをやれるということ。
(クロト、最後の仕事をしくじるなよ……)
ゼロは心の中でクロトに黙祷を送る…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カズト達はクロトの最大技を打ち破り、前のめりに倒れていた。他の三人も同様だった。
完全な魔力渇望であり、体力も使い切ったようで動けなかった。
「終わった……」
「キツイ……、魔力渇望なんて初めてだぞ……」
「完全にゼロですわ……」
「ガハハッ、完璧に吸い取られたな!」
三人も”聖救剣”に吸い取られて、まだ休まないと動けない状態だった。
「何、寝てんだよ?」
「そう、こっちも倒れそうなのよ。なのに、貴方達だけ倒れていて……」
「腐腐腐っ、疲れたわね」
「…………」
クロトを倒したおかげなのか、百足の化け物も光になって消えたのだった。
「それに、まだ幹部を倒しただけで、ラスボスはまだ生きているんだぞ? まだクロトのような幹部も他にいる可能性も高いからな」
「あぁ……、まだ従者達がいるね」
幹部と言うなら、カズト達が会ったことがある従者もそうだと予想出来た。
「うっ、小さなメイドとも戦わなければならないのか……」
「それに、狐の獣人と氷を扱う小さな子供もいるわよ」
「魔王ゼロの妹も忘れてはならんぞ」
パッと思い付くのはこの四人だった。
「……まだあれだけいるのか。いや、まだいそうな気がするな」
「そういえば、堕ちた聖獣もいたな」
「腐腐腐、今の私達じゃ力不足だね」
「……確かにな」
もし、魔王ゼロの全戦力でルーディア帝国に攻めて来られたら間違いなく、こっちが滅ぶと判断出来る。何せ、勇者五人もいて、クロトの相手に苦戦していたのだ。もし、カズトが神之能力を発現しなかったら、負けていた。
「さっさとルーディア帝国に戻…………っ!?」
「何事!?」
「地震……?」
今、この部屋が揺れ出して、地震が起きたのかと思ったが…………
「っ! 壁が動いている!?」
地震ではなく、壁が中心に向けてゆっくりと迫っており、天井もヒビが入っていき、いつか崩れてしまうのがわかった。
何故、そんなことに? と思った時、小さな笑い声が聞こえた。
「なっ……! まだ生きていたのか!?」
「ククッ……、ええ、完全に消えてはいませんよ」
笑い声がする方向には、下半身と左胸、左手がない状態のクロトがいた。核も半分ほど欠けているが、まだクロトは生きていた。右手には一つの仮面が握られており、ヒビが入っていた。
「消えるまでは時間の問題ですが、少しの時間があれば充分です」
右手に力を入れ、仮面にヒビが入る。
「この仮面は『創造者』のスキルが入っています。つまり、ダンジョンの核と同じです」
ピキピキピキッ…………
「な、まさか! 仮面にヒビが入っているから崩れてきているのか!?」
「ククッ、当たりです。私の『怨霊王』は弱体化しており、普段なら仮面が壊れても能力は私に戻りますが、今は壊れたら消えますね」
「させん!!」
イリヤがクロトに突っ込むが、右手に力を入れる方が速かった。
パキッ!!
仮面が完全に壊れた。そして、その揺れがさっきより大きくなり、天井が崩れはじめた。
「完全に崩れるには、5分。貴方達なら3分はあれば地上に戻れますが、疲労も溜まっており、ダンジョン内にはまだ魔物が沢山います。つまり、終わりなんです。ククッ…………」
「き、貴様……」
イリヤは剥き出しになっている欠けた核に攻撃を加える。核は完全に壊れ、クロトの身体は塵になっていく。
「我が神……、お先に行き、ま……す…………」
今ここ、クロトは完全に消えたのだった…………
「ヤバい! 早く地上に出ないと生き埋めになるぞ!!」
「タイキ! お前はカズトを運べ!」
「えっ! テリーヌの方がいいんだけど……」
イリヤはタイキの言うことを無視して、テリーヌを抱っこする。まだ動けないのはカズト、マギル、テリーヌ、ガイウスだ。マギルとガイウスは二人より小さいクスハでは運べないので、ゴウダが二人を肩に抱えて運ぶことに。タイキも渋々だが、カズトを抱っこし、全員は地上を目指すように階段を昇っていく。
「くそ、魔物かよ……」
階段を昇って、広い部屋に着いたと思ったら、大量の魔物が待ち構えていた。この魔物達は『創造者』から生まれた魔物であり、もし『創造者』を壊されたら、残った命がある限りは、この部屋を通る者の足止めを命令されている。命はたった10分しか残されていないが、5分でダンジョンが崩れるのだから、充分とも言える。
「下がって、私が消すわ。”雷瞬豪”」
何も抱えていないクスハが前に出て、魔法を放つ。
「今です!!」
全部を相手するつもりはないので、出口を防いでいた魔物だけを魔法で吹き飛ばしていく。魔法を使うたびに、魔力を回復する薬を飲んでいく。
「腐腐腐、まずいわね……」
「まぁ、魔力を回復出来るのはいいが、まずいよね……」
一つ目の部屋はクスハのおかげで抜けることが出来た。また階段があったが、脚を止めずに昇っていく。
「今度は虫なの!?」
蜘蛛型の魔物が階段に何体かいた。これでは、全てを倒さないと進めない。
「タイキ……」
「重っ!?」
ゴウダがマギルとガイウスをタイキに渡し、拳を構えて突撃する。
「”爆裂拳”!」
拳が触れた瞬間に、蜘蛛は爆発で吹き飛ばされていく。次々と蜘蛛を吹き飛ばしながら進んでいく。
三人も抱えているタイキはむぎぃぃぃーーと歯を噛み締めて階段を昇っていた。抱えられていた三人は申し訳ないような表情をしていた。
「……はぁはぁ、平原まで来たか!」
「腐腐腐っ、空から岩が落ちてきているね……」
「まぁ、空は偽物だからな」
「……急ぐぞ」
ようやく、知っている場所に着き、地上に近づいているのがわかる。だが、そう簡単に出られるわけはなかった。目の前を見れば、タイキのように悪態を付きたくなるだろう。
「ふざけんなよ……、ここまで来て、白い化け物かよっ!!」
「数が100を越えているとは……」
「腐腐腐、厳しいね」
「…………」
全快の状態ならともかく、今のタイキ達では厳しい。カズト達もようやく立てるようになったが、戦える状態になるまでは時間が必要だ。
さらに、ダンジョンももう時間がないだろう。さっきか落ちてくる岩の数が増えている。
「「「ふしゃぁーー!!」」」
幽腐鬼達が口を開けて、突っ込んでくる。
「クソッ! やるしかねぇ!!」
皆も限界に近いが、武器を構えて幽腐鬼を迎え撃つ体勢に入るが…………
「ぎ、ぎしゃぁぁぁぁぁーー!?」「ぎぐぅぅぅ!?」「がぁぁぁぁぁ…………」
と、幽腐鬼は苦しんでいた。その様子に呆気を取られる勇者達。幽腐鬼は次々と息が絶え、塵になって消えていく。
「……何が?」
『皆さん、急いで地上に上がってください。魔物達は全て浄化しました』
「っ!? この声は……セラティムなのか!?」
頭の中に語りかけてきた者は声でわかった。天使の使いとして、来た聖獣のセラティムだった。
『質問は後に。急いでください』
「助かった!!」
幽腐鬼は全滅しており、一階への階段を昇っていき、外への光が見えるようになった…………
「外だぁぁぁぁぁ!!」
「タイキ、叫ぶな」
「マジで叫びたくなるわ! 白い化け物が出てきた時は死を覚悟していたからなっ!」
「皆さん、運んでくれてありがとうございます……」
立つだけでせいっぱいのカズトはずっとタイキに抱えられていて、お礼を言っていた。
「構わないさ。お前はクロトと言う奴を倒したんだろ? 主役をこんな所で死なさせるにはいかねぇよ」
「ああ、胸を張るといい。カズトがいなかったら、私達は生きていなかったからな」
ダンジョンから生きて出られたから安心したのか、皆は座り込んで笑っていた。
「皆さん、楽しそうですね。私も混ざってもいいかしら?」
「セラティム! さっき、助かったぜ! ありがとうなっ!」
「でも、どうやって……?」
「私は魔を浄化することが出来ます。範囲は狭いので地下一階までしか届きませんが、威力は魔の者なら必殺に近いです」
「マジか……、魔王でも必殺で行ける?」
「いえ、強い魔王だったら防がれてしまうでしょう」
セラティムの能力は強いが、強い相手、力量が高い者には効かないのだ。
「それから、新たな情報が入りました。魔王ゼロのことです」
「あ! ゼロは天界に向かったって聞いたんだ!」
「はい。そのことで、話があります……」
皆はゴクッとセラティムの言葉を待つ。
「第四位大天使が討たれ、その第四位大天使の箱庭を乗っ取られたと情報がありました」
ゼロは次に動く。世界征服を、目的を、望みを、達するために…………