第百三十話 不可視の攻撃
神殿もとい、闘技場から出られなくなったゼロは不利を強いられていた。
魔力は一切も使えず、『自己再生』は出来ないので全ての攻撃は避けなければならない。
武装能力『冥王布装』で防ぐのも考えたが、メタトロンは純粋なエネルギーで攻撃していて、そのエネルギーがどれくらいの威力を持つのか予測出来ないため、受けることは出来ない。
ゼロが『自己再生』を使えないならメタトロンも同じだろうと思って攻撃するが、飛行する機械、それをゼロはビットと呼んでいるモノが邪魔をして近付けないでいた。
「目標、逃げるしか出来ない。このまま、追い詰める」
「この、能面天使が……、魔力がない相手を追い詰めて楽しいのかよっ!! 正々堂々と勝負をしろぉ!!」
「ま、また能面天使と……」
ゼロの言葉に、今までゼロがやってきたことと矛盾していて、レイ達はツッコミを入れたくなったが、そんな場合ではないので口を閉ざしていた。
「私は能面天使じゃない」
攻撃を止めてそんなことを言ってくる。
「あ? だったら、表情を変えてみやがれ」
「わかった、見せてあげる。能面天使じゃないというのを……」
そう言って、見せた表情は…………
両手で口元を吊り上げる姿のメタトロン。
「にやぁー」
その表情は無表情のまま、にやぁーと言って笑っているように見せているが…………
「キモッ!?」
「酷い!?」
ゼロはドン引きしていた。酷いと言う声には感情が込められているのに、無表情のままだった。
「キモッと言うのは仕方がないだろっ!? 皆もドン引きしてんぞ!!」
メタトロンは他の人がいる所に目を向けるが、ゼロの言う通りに皆もドン引きしていた。ロドムだけはいつも通りにホホッと笑っていたが…………
「わかったか? お前は能面天使…………いや、鉄能面天使だな」
「前より酷くなった……」
ガッカリしているが、目が死んでいて無表情のまま。まるで人形の相手しているようで、気持ちが悪かった。顔の作りは良い方なのに、勿体ないと思うゼロだった。
「皆、生きて帰さない……」
「ありゃ、本当のことを言われただけで怒るとか、お前はガキかよっ?」
「まず、お前から……」
ビームセイバーを構えて突っ込もうとするメタトロンだったが、すぐに動きを止めた。
「いつの間に……」
「ペラペラと喋っている間にだ」
メタトロンの周りには、妖気で作った大量のナイフがあり、囲まれていた。
メタトロンにとって、妖気は避けられるスピードでしかないが、これだけの数では、撃ち落とそうが、避けようと思っても、数の暴力によって何発か当たるだろう。当たれば、勝ち目が出てくる。メタトロンも『自己再生』が使えないのだから。
「キモッとか言ってすまなかったな。あれは嘘なんだ」
「……えっ」
ゼロが謝る姿に、驚いてしまうメタトロン。そして、話は続く。
「念話は使えたから俺の仲間にもふりをしてもらったんだ。これだけのナイフを作るには、時間が必要だったからな」
大量のナイフを作るには、時間が必要だったから、『信頼者』でフォネス達に演技をするように頼んだのだ。出来るだけ時間を稼げるように…………
「本当は可愛いと思ったんだよ」
「え、何で今言うの! 戦っているのよ!?」
「だから、今なんだよ。良かったら俺の仲間にならねぇ? お前の力、殺すのは勿体ない。それにお前は可愛いしな」
「……っ!?」
声には驚きの響きがあった。まさか、殺しに掛かっている敵、大天使であるメタトロンを仲間にしたいと言われ…………、さらに可愛いと褒められて動揺していた。
言ったと思うが、メタトロンにも感情がある。ということは、無表情なだけで、心はちゃんとあるのだ。
「…………」
メタトロンはその心に動揺が生まれた。だが、それは一瞬だけだった。
大天使である本来の目的がメタトロンと言う心を支配している。故に…………
「ごめんなさい…………、大天使の目的、魔族の根絶。お互いは相容れない、目標、撃破する」
最初の言葉は感情が篭っていた。だが、だんだんと感情がなくなっているとゼロには、そう感じられた。
「っ!?」
ゼロは今のメタトロンはやばいと感じたのか、ずっと浮かせていた妖気のナイフをメタトロンに集結させた。
「『電磁結界』展開」
メタトロンがそう呟くと、メタトロンを守るように周りに電磁のバリアのようなモノが現れて、妖気のナイフを防いでいた。
(なっ!? 妖気の攻撃を妖気以外で防ぐとは……)
『……! 成る程……、純粋なエネルギーとは何なのかわかった……!』
(マジか、解析なしで出来たのか? で、何だった?)
『……自然なエネルギーそのものだったんだ。ここら辺……いえ、どこにもある光、熱、水、風、雷などを純粋なエネルギーと呼んでいたみたい』
(成る程、レーザーは光エネルギー、浮いているのは風エネルギーと言ったものか?)
『……うん。というより、それしか浮かばない。妖気は物理の物だったら当たるよね? 人間達に刺さることが出来たし、純粋なエネルギーにも防ぐ要素が含まれていたから、防げた……』
(それって、ヤバいよな……?)
『……うん、結構ヤバい』
まだ魔力は外に出せないから妖気を使って攻撃していたが、たった今、妖気も防がれてしまうとわかり、決定打になる手がないのだ。
近付いて殴ったり蹴ったりは出来ても、近づけないと意味がないし、メタトロンにはあの『電磁結界』がある。
「目標、ただの純粋なエネルギー、不当。切り換える、粒子、発射する」
メタトロンの片言で理解するまで時間がかかったが、その意味はわかった。
ただの純粋なエネルギーでは当たらないから、別の攻撃に切り替えたと言う。
それが粒子? と思った時は既に…………撃たれていた。
「「ゼロ様!?」」
ゼロの肩に穴が一つ空いていて、フォネスとマリアから声が上がっていた。いつ、撃たれたのかはわからなかった。メタトロンは何も動作をしてなかったからだ。
ただ、発射すると言っただけで、肩を撃ち抜かれたのだ。
「発射する」
「ぐぁ!?」
今度は脚を撃ち抜かれて、痛みが広がる。ゼロは痛みを感じないはずなのに、痛みを感じていた。おそらく、攻撃に何かの作用が含まれているだろう。
(ちっ! 見えねぇ!!)
『……何も感じ取れない!!』
ゼロとレイは攻撃が見えず、何も感じ取れない。メタトロンは撃つ前に、粒子と言っていたが、まだ詳細はわからない状態だった。
何も掴めない攻撃が出来るメタトロンはさっきと違って感情がないままだった。
「くっ、不可視の攻撃って奴か……」
ここでクロトが王者能力を手に入れたと伝わったが、ゼロはそんな場合ではないと思っていた。
見えない、感じ取れない攻撃をどう捌くか考えるゼロとレイ…………