第百二十三話 蒼の剣技
ミーラに迫る蒼い瞳を持つ二人。蒼い瞳はイリヤの技、”双蒼眼”でタイキも一時的にイリヤと同様の能力を持たせることが出来る。
「あはっ、男の方はまだ慣れてないせいなのか、攻撃に上手く組み合わせられてないねっ!」
ミーラの言う通りだった。タイキは攻撃軌道を見るのは出来ているが、それを攻撃の組み合わせは単調になりがちだった。
まだ慣れてないからと言われれば、それまでだが…………
「……いえ、ただ女の方が凄いだけかもね」
ただイリヤが能力を使いこなして凄いだけかもしれない。
どちらにしても、ミーラはちょっとヤバいかなぁ……と思っていた。
さっきと同じようにイリヤが前に出てタイキは少し離れた場所から鞭を振るっていた。
タイキはミーラの動きを見て、鞭で行動を制限させている。そこに隙が出来たらイリヤが突っ込む戦術で攻めていた。
「……くっ!」
イリヤの攻撃が掠り始めた。すぐに治る掠り傷といえ、『聖剣使い』の効果で痛みが付加されていて、痛みに慣れていないミーラは時々、顔をしかめている。
「ああもう! 『防壁結界』展開!」
痛みにウザくなったミーラは普段から使わない結界を自分の周りに張った。この『防壁結界』は避けられない魔法などに対応するためにあるのだが、物理攻撃にもある程度は防げる。
だが、イリヤが放った”五突流撃”のような威力が高い技は防げない。
しかもずっと展開し続けると魔力が減っていく。死体集合体の中で一番魔力が少ないミーラはこれを出来るだけ使いたくなかったのだ。普段は痛みがないから使わなくても良かったが…………
「その防壁があっても私の剣を防げないわ」
イリヤはタイキに合図をし、また鞭で木を倒していく。
今度は木を直接ミーラに当てるのではなく、動きの制限のために、ミーラの周りに倒す。
ミーラはその場に止まったらまたイリヤに捕まってしまうのはわかっているから木に当たる覚悟で倒れていく木の中を通る。
「木に当たるなら痛みはないなら、そっちを選ぶわ!!」
ミーラは大槌を振り回さない。木に当たるのは仕方がないというように、肩、腕などに木が当たっていく。
この中ならイリヤは追ってこれないだろうと顔がわずかに緩むが…………
「えっ?」
イリヤがいる場所を見ると、先程の場所から動いていなくて、レイピアを持つ手が瞳と同様に蒼いオーラのようなのが纏まっていた。
「思った通りに、自分から動きが悪くなる場所に入ってくれたな」
「これは賭けだったんだがな!」
タイキの言う通りにミーラが安全位置にいたらイリヤの追撃があると思って安全位置から動いてくれるか賭けだった。もしミーラが安全位置に立ったままだったらイリヤは力を溜めるために動けない所を狙われたかもしれないのだ。
「さらに、周りの木が邪魔で次の攻撃から逃げられないだろ?」
「もう終わりよ」
イリヤはミーラがいる場所にレイピアを向ける。距離が離れているのに、イリヤは動かないまま、技を発動する…………
「”蒼流星群塵撃”!!」
先程と同じように剣がぶれる…………が、ぶれる剣の数、範囲がさっきのと桁違いに多く、広い。
見た目は沢山の突きによって壁とも言える。普通なら届かない距離にあった木だったが、塵になって消えていた。
「っ!?」
ミーラはこの攻撃がヤバいとわかったが、もう裂けられる距離ではないとわかったため、弱点だけは間に大槌を盾として使うが…………
「何ぃっ!?」
大槌も塵になって手までも崩れるように消えた。まだ突きの壁は迫ってきている。
「何者でも消え去る。究極の突き技。それが”蒼流星群塵撃”だ!」
これも『聖剣使い』としての剣技だが、この技は自分の残った体力、魔力を全て使いきって、発動するのだ。
残った体力と魔力の分だけ突きの壁の射程が伸びる。
全快のイリヤなら500メートル先まで全てを塵にすることが出来るが、今の状態では100メートルまでが限界だったが、タイキの援護によってミーラを100メートル以内に入れた上で、溜めが必要なこの技を発動することが出来たのだ。
「す、すいません……、ゼロ様ぁ……」
最後の言葉を残し、ミーラは突きの壁に呑まれて…………
何も残らなかった。
弱点である核も消え去ったから間違いなく、ミーラは消えたのだった。
「……ぐうっ」
「イリヤ!?」
「い、いや、大丈夫だ。体力と魔力を使いきっただけだ。少し休む……」
「そ、そうか」
イリヤは体力と魔力がすっからかんになり、仰向けになって倒れた。
この技があったため、周りの人からは、称号にある『聖剣使いの勇者』よりも『流星の勇者』と定着されている。
蒼く瞳を輝かせ、剣技も蒼くて流星のように綺麗なのもあるからそう呼ばれても仕方がないだろう。
これから少しだけ休もうと思ったが、下から強制転移の魔法陣が急に現れて、二人の姿が森の中から消えたのだった…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ガルム対勇者クスハと勇者ゴウダの方では…………
「……くっ、何処だ」
「腐腐腐……、まさか砂の中に隠れるとはね……」
二人は背中を合わせて周りを警戒している。何処にもガルムの姿はなく、クスハが言っていた通りに砂の中に潜ってしまっているのだ。
ガルムは『隠密』を持っており、魔力を察知することは出来ない。さらにガルムは死体集合体で息は必要ないからなかなか地上に出て来ない。
「……っ!」
二人が立っている場所から地鳴りが起きて砂鉄で出来た大きな腕が飛び出してきた。
「これは、砂鉄だけで本体ではないね。腐腐腐……、”砂豪腕”!」
クスハは目の前の砂鉄より二倍も大きい砂の腕を造った。
両方の技がぶつかり合い、結果は相打ちだった。
「腐腐腐っ、二倍の大きさはあったのに、さすがの硬さだね……」
「やはり、本体は出て来んか」
また砂鉄の手が現れ、今度は五本同時にだ。
「ここは任せます」
「……了解した」
ゴウダの能力が発動する。『煉獄者』、炎を操る能力を持つが、主には爆発の能力。
爆発の威力で蹴散らすと言う簡単な能力だが、その威力はトップクラスの魔法と同じかそれ以上で、『煉獄の勇者』と呼ばれるようになったのだ。
「蹴散らせ、”剛爆球”」
ボール型の爆弾が砂鉄の腕と同じ数、五個を宙に浮かし、それぞれの腕に放つ。
ガルムの砂鉄は、熱に対する耐性を持っていたが、ゴウダの技の前には木っ端みじんに散ったのだった。
ゴウダの『煉獄者』は炎属性だけではなく、爆風などに発生する風圧が風属性に入る。つまり、砂鉄の腕は爆風の風圧によって木っ端みじんになったのだ。
もちろん、砂鉄の腕ではなく、生身の腕なら近くにいただけで火傷の重傷を負うぐらいに熱の威力もある。
「ケケケッ、ただの砂鉄じゃ、そう簡単にやられてくれねぇか」
「お前は……いや、分身だな? 本体が出る理由がない」
「いんや、本体だよ?」
「…………」
ゴウダはそれが本当か嘘か判断するためにジッとガルムの表情を読む。
「腐腐腐……、なら何故? そのまま砂の中にいたら安全ではなくて?」
「ふっ、言っただろ? ただの砂鉄じゃ無理だと判断してんだよ。なら、俺が出るしかないだろうが」
ガルムは砂鉄を操り、ガルムの身体に付着させる。
「”砂鉄疾刃装牙”!!」
一瞬で、身体中に砂鉄を付着させたガルムは、人型ではなく、刃の翼を持った化け物のようだった。
しかも、その刃は翼だけではなく、爪、牙、身体中のあらゆる所に付いている。
その刃は先程、砂鉄の腕みたいに脆くはない。自分自身の膨大な魔力を常に砂鉄に力を込めているため、伝説の鉱石、オリハルコン並に硬くなっている。
「ハハハァァァ!! 殺し合いを楽しもうぜっ!!」
「……? さっきの砂鉄の腕と違う?」
クスハは見ただけで、ガルムが纏まっている砂鉄がさっきのと違うとすぐにわかった。
ガルムが突っ込み、その方向にはクスハがいる。前衛を受け持つゴウダは行かせるつもりはなく、再び”剛爆球”を放つ。
「シュッ!」
爪で”剛爆球”を一線し、爆発の弾を斬った。
「……な!?」
「”炎蜃気楼”!!」
クスハは迎撃ではなく、守りに入った。ガルムはそのままクスハを切り裂いたが、その手はすり抜けた。
幻影を造った後に、すぐに横へ逃れたから当たらずに済んだ。
「避けられたか、だが次は騙されない」
「腐腐腐……、その刃は普通の刃じゃないね。足元の砂が少し揺れているのが見えるわ」
「……つまり、振動も使って切れ味を上げているわけか」
「カカカッ! よくすぐに見破ったな!」
もう一つの能力、『磁能者』で磁力の細かい操作で振動を生み出している。刃の硬さだけでもヤバいのに、さらに振動も組み合わせられて切れ味も上がっている。
ガルムのそのものが、動く刃のようで攻撃も防御は他の死体集合体と比べて桁違いに上がっている。
「ネタぁがわかってもどうしようもないだろ?」
そう、ガルムはネタがばれたとしても破られるとは考えていない。
魔力も死体集合体の中ではトップで魔力切れを期待するのは酷だろう。
「さぁ、話は終わりにして、改めてやろうじゃないかぁ!!」
黒き刃の翼を広げ、威嚇するガルム…………
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