第百二十一話 天通門
カズトは周りを見回すが、クロト以外の敵は見当たらない。
魔王ゼロも…………
「聞きたいが、魔王ゼロは? ここにはいないのか?」
「ククッ、ゼロ様は用事が出来たのでここにいません。さらにここには戻らないでしょうね」
教えても問題はないなのか、クロトは教えてやっている。
「ここは拠点じゃないのか?」
「ええ、拠点でしたがね……」
過去形? 新しい拠点に移ったということか?
「ここが拠点とかはどうでもいいんだよ! ゼロは何処にいるんだよ!!」
「やれやれ、気が短いお方ですな。まぁ、教えても構いませんが……」
「なら、何処だ!」
急かすマギル。ここにはゼロがいないなら他の街を襲っている可能性もある。なら、ここで足を止めてはいられない。
だから早く聞きたかったのだ。
だが、次の言葉は予想外だった。
「天界ですよ」
「…………は?」
天界? 天使がいる場所と言われている天界? と混乱してしまうマギル。
カズト達も驚愕の表情で固まっていた。
「て、天界……?」
「そうです。貴方達は場所を知っても、行く方法を知らないでしょう?」
なんとか声を出せたテリーヌだったが、クロトは何でもないように、教えた理由を話していた。
そう、人間の皆は天界に行く方法を知らない。今はセラティムがいるが、天界に行く方法を聞いても教えてくれなかった。
他の種族が天界に来ないようにするためとか。
だが、魔王ゼロが天界にいる。
「う、嘘だろ! 天界へ行く方法を知る術はないんだろ!」
「ククッ……、そうですね。確かに天界にいる者以外は知る術はありませんね。そう、天界にいる者だけね…………」
「な、何が言いたい?」
「わかりませんか? どうやら貴方達に大天使から天使使いが送られているみたいですが、こっちの状況を知らないみたいですね。それとも大天使から教えてもらってないだけなのか?」
「……? セラティムが知らない情報が?」
大天使がセラティムに教えていない? わからないカズトだったが、クロトが説明をし始めた。
「ゼロ様の元にも天使使いが来ていましたよ。そして、天界に招かれた。それだけですよ」
「なっ!?」
「……ククッ、成る程。セラティムと言っていましたか。命令した大天使が違うのですね」
「大天使が違う……?」
「やはり、知らなかったのですね。大天使は一人だけではありませんよ」
カズト達は初めて聞いた。大天使が一人ではないと…………
クロトの話では、大天使は六人いて、勇者達の元に送り出した天使使いの主、大天使と魔王ゼロの元に送り出した天使使いの主は別の大天使になると。
セラティムが知らなかったのは魔王ゼロの元に送った大天使とは違う所属だからなのだ。
クロトが言っていることに嘘がないなら、既に魔王ゼロは大天使に招かれてもう天界に…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今、ゼロ達は天界に繋がる『天通門』と言う門の前にいた。
ゼロ、フォネス、マリアの三人は天使について行き、ここにいる。
ナルカミ、ヨハン、ソナタ、シル等、ダンジョンにいた配下達はダンジョンから魔王ミディの隠れ家に移っている。
他に拠点がないから仕方がなく、魔王ミディに場所を借りたのだ。
魔王ミディは喜んで貸してくれた。だが、その代わりに魔王ミディとロドムもゼロと一緒にいる。
「はぁ、ここが天界に繋がる門ってことか」
「ホホッ、私も長く生きていましたが初めて見ますな!」
着いてきた二人は初めて見る物に興味を持っていた。
何故、ついてきたいのか聞いてみたら、「面白そうだから!」と言う理由だった。
天使使いも魔王ミディに困惑していたが、暴れないなら特別についてきてもいいと大天使から許可があったようだった。
「ここが天界への入口ってわけか」
「はい、この門の先は第四位大天使が造られた箱庭があります」
「……待て、それだと『この門』って他の門がある言い方になるが……」
「はい。それぞれの大天使に繋がる門が他にあります。私は第四位大天使の元にいますからここしか知りませんがね」
案内してくれている天使がそんなことを教えてくれた。
まさか、天界と言う所は一つの世界ではないとは思わなかったからだ。
天界とは、大天使が造った世界で、天使の中では『箱庭』と呼ばれている。
大天使は六人いると聞いているから天界と言う名の箱庭も全てで六個はあるということ。
さらに、大天使は協力体制はなく、それぞれが自分の考えを貫いているようだ。
だから、セラティアは魔王ゼロが他の大天使の箱庭に向かっている情報を知り得なかった。
「……で、また聞くが、何故俺を箱庭に招待するんだ?」
「それは知りません。ただ、連れて来いと命令を頂いただけなので」
「……そうか」
目の前の天使、少女のように小さくて口調と違ってぽわぽわとしたような雰囲気を持っている。
名前はリラと言うが覚えなくてもいいと言う。
おそらく、関係はこれだけだと思っているだろう。天使はあまり地上に降りて来ないのもあるから。
(箱庭か、天界は六個の箱庭のことだと思わなかったな)
『……うん、大天使は六人いるから箱庭も六個あるんだね。しかし、向こうから箱庭に来いと言われると思わなかった……』
(ああ、大天使は箱庭から出てこれないからって、殺されるために来いと誘われるとは誰にも予測出来ないだろ?)
『……お兄ぃは戦うことはわかっているし、罠の可能性も高いのに、行くんだね?』
(そうだな、この機会がなかったら天界に行く方法がわからなかったからな。そして、大天使って奴に興味がある)
『……私も興味がある。第四位大天使と呼ばれるぐらいだから、大天使の中では中堅程度の実力を持っているのはわかる。お兄ぃの力は通用するか気になるしね……』
(もし向こうの方が強いとわかったら逃げるのも考えないとな)
『……うん、大天使は地上に降りられないみたいだからね』
今回は天使側からの招待が来たため、ダンジョンはクロトに任せ、ゼロとフォネスとマリアだけで向かうことにしたのだ。オマケの二人も付いてきているが、見に来ただけで手を貸すのを期待はしない方がいいだろうとゼロは考える。
「そういえば、第四位大天使は名前はあるのか?」
「ありますが、私の口からは言えません。ご本人から聞いて下さい」
「あー、そうかい」
リラと言う天使は大天使の名前を言う権利を持たされていないとゼロは推測する。天使側は上下関係が厳しい社会かもしれない。
会社みたいだな……、と会社員になったことがないのにそう思うゼロであった…………
「門が開かれます。しばらく歩くことになりますが、私から離れることはないように……」
そう言って、天使は何かを呟くように詠唱をすると、固く閉じられていた天通門が開いていく。
天通門が開かれ、光が漏れ出て、腕で覆い隠してしまう程だった。
少しずつ目が慣れていくと…………
「……ほぉ」
「わぁっ」
「……凄い」
「……へぇっ」
「ホホッ……」
ゼロ、フォネス、マリア、ミディ、ロドムと声が漏れ、門の向こうにある景色に目が奪われていた。
門の向こうは、いくつかの浮き島が浮いており、一番大きな浮き島には大きな神殿が建っていた。
それぞれの浮き島には水場が滝のように落ちて行き、虹が架かっていて幻想的な世界を現していた。
「あの神殿で第四位大天使がお待ちになっております」
リラは立派な羽を持っているが、神殿の浮き島に繋がる道を歩いていく。その繋がっている道は地面ではなく、透明な階段の様なものだった。
ゼロ達はリラに遅れずに透明な階段を歩いて神殿がある浮き島に向かっていく…………