第百話 決闘の終わり
ガンスロットは身体が爆発したように散らばり、死んだ。
一週間の間だけで傷を付けた分がガンスロット自身に返ったのだが、多過ぎて跡形も残らなかったのだ。
これでは、死体を有効活用出来ないじゃないか。とゼロは思ったが、レイの身体は悪魔王のベルゴフェールを喰ったため、完成されているのでいいか、と納得するのだった。
勝者であるレイはゼロがいる観戦席に戻っており、今はゼロの膝に座っていた。
「……お兄ぃ、どうだった?」
「お疲れ。ガンスロットの身体は手に入らなかったが、お前の身体が完成されているならいいさ。良くやったな」
そう言って撫でるゼロ。ちなみに被り物は外しており、さらさらとしている銀色の髪を撫でている。
「凄かったです!」
「ゼロ様と同様に、魔王を倒してしまうとはね……」
「グルゥ!(凄い!)」
配下達からも賞賛をもらい、レイは……ふふん♪と胸を張って、ご機嫌だった。
決闘の結果は言わずともわかるだろう。
魔王ガンスロットとその仲間は全員、死亡しているのだ。
しかも、こっち側の被害は無し。
ミディとロドムはさっきまでの衝撃なことが起こりすぎて、口をポカーンと開けていたが、ゼロに声を掛けられて、気付いた。
「おい、ミディ? いつまでアホ面をしているんだ?」
「…………は!? あ、アホ面はしとらんわ!!
さっき、悪魔王を呼び出したと思ったら、乗っ取ってパワーアップするなんて聞いたことがないぞ!?」
「……大丈夫?」
「大丈夫に見えるのか……? まだ混乱しっぱなしだぞ……、オジィもまだアホ面をして固まっているんだぞ……」
まだ頭の整理が終わってないようだ。
落ち着くまでしばらくの時間を要したが、普通に話せるようになったから良しとした。
「……はぁ、乱してすまなかったな。しかし、パワーアップをしようとしても、アレはないと思うんだが……」
「ホホッ、七人しかいなかった悪魔王が六人に減ってしまいましたがねっ!」
「それは駄目なことだったのか?」
「イヤ、駄目じゃないんだが……」
「ホホッ、ミディ様は貴方達の心配をしているのですよ。他の悪魔王から悪意のアクションをね……」
「オジィ!? それは言わんでいい!!」
「心配ねぇ……」
一応、友達だからか? ただゼロを倒すのは私だと言いたいだけかもしれないが…………
「俺らも魔界のことを詳しくは知らないから、教えてくれるか? 悪魔王のこともな」
「…………知らないで召喚をしおったのか?」
「……いるのはわかっていたけど、強い悪魔としか知らない」
「はぁ、オジィ、説明してやれ」
「ホホッ、お任せを!」
悪魔のことで詳しいロドムが説明することに。
ロドムの説明は魔界が生まれたことから始まった。
昔昔、人間が生まれた同時に、創造神は色々な神を生み出した。
人間を生み出した神は創造神になるが、天使と悪魔を生み出した神は別々なのだ。
天使は聖神と呼ばれ、光の神と祭られている神が生み出し、対極である悪魔は邪神と呼ばれ、闇の神と恐れる神が生み出したのだ。
二つの種族は対極な存在であり、手が重なることはない。
時間が経つつれに、天使側は聖獣を生み出し、悪魔は魔物を生み出すことになった。
そして、その両者に、上に立つ者が現れた。
それが、大天使と悪魔王と呼ばれるようになり、上に立つのに相応しい実力を持っていると伝われている…………
「ということになりますな。私が知っているのは悪魔側であり、悪魔王は七人です。天使側はどうかわかりませんが……」
「やっぱり、悪魔がいるなら、天使もいるんだな……」
ゼロは変な所で納得していた。
神の歴史を聞かされても、どうでもいいとしか思えなかったからだ。
「ホホッ、変なところに食いつきますな。悪魔王の実力は、魔王と同等か、それ以上です。先程のベルゴフェールは七人の中では一番下です」
「ほぉ? 他に強い奴が六人もいるんだな?」
「ホホッ、若い者は好戦的でいいですな。ええ、悪魔王といえ、ほぼ同じ実力ではありません」
「……つまり、実力の差が大きいと?」
「レイ様の言う通りです。もし、他の悪魔王が襲ってきても、ベルゴフェールと同等だと思っていたらやられてしまいますからね?」
「……了解」
ベルゴフェールと同等だと考えていたら、こっちがやられてしまうと、注意してくる。確かに、ベルゴフェールと身体の奪い合いをした時、呆気ないな? と思ったりしたが、油断はしない方がいいだろう。
もし、悪魔王の方に仲間意識があったらこっちに敵対してくる可能性があるのだから。
「ふむ、その注意を心に留めておく」
「ホホッ、ミディ様が悲しむので簡単にやられないで下さいね?」
「オジィ!? 何を言っているんだ!?」
ミディは頬を赤くして騒ぐ。その姿は、恥ずかしがる子供のようにしか見えなかった。
まぁ、子供のような姿だから仕方がないと思うが…………
しばらく話をしていたら、ミディ側にいる結界を張っていた女性が話し掛けてきた。
「あ、あの、ゼロ様と呼んでもいいですか……?」
「ん? お前は……ノエルと呼ばれていたな」
名前を呼ばれ、背筋を伸ばして返事をするノエル。
「は、はい!」
「緊張しているのか? ミディとは友達だから、名前は好きに呼んでも構わないさ。で、何か?」
「あ、まずお礼を言わせて下さい。ありがとうございます!」
「…………へ?」
急に御礼を言われて、何のことかわからないような顔をするゼロ。
その顔に気付いたのか、理由を教えてくれた。
「あ、あの子が攻撃した時、私の結界では防げなかったの。そこで強化して、ミディ様を守ってくれてありがとうございます!」
「いや、こっち側の攻撃で巻き込まれそうになったから、御礼じゃなくて文句を言われることじゃないのか?」
「い、いえ! ゼロ様に文句なんてとんでもないです! まぁ…………、あの子には言いたいことがありますが……」
「あるじゃねぇか」
すかさずに、ツッコミを入れるゼロ。
つまり、ノエルはレイには文句はあるが、ゼロには文句はなく、御礼を言いたかったようだ。
「まぁ、御礼は受け止めておくよ。お前も今までお疲れ様だったな。結界を張りっぱなしで疲れただろう?」
「い、いえ!」
ノエルは顔を赤くして俯く。その様子から、フォネスとマリアが何かを感じ取ったのかゼロを庇うように、前に出ていた。
「……まさか」
「ゼロ様に……?」
その言葉で、ミディもわかったようだ。ロドムもホホッと微笑みを浮かべていた。
「ちょっと、ノエル。こっちに来い」
「は、はい?」
ミディはノエルを呼び寄せて、誰にも聞こえないように小さな声で話す。
「……まさか、惚れたのか?」
「ななな、なんのことですかな?」
その反応で充分だった。ミディは悪戯っ子みたいな顔をしていた。
「……オジィ」
「お任せを……」
「な、何をするおつもりですか!?」
嫌な予感をし、ノエルは止めようとしたが、遅かった。
「ホホッ、ゼロ様。その後は時間ありますか? 良ければ屋敷で食事はどうですか?」
「食事?」
「ええ、二人目の魔王を倒したお祝いみたいなものです」
何かあるのか? と疑うような目でロドムの瞳を見るが、ロドムの瞳は輝いていた。キラキラと…………
「……はぁ、食事ぐらいはいいか」
「ゼロ様?」
「大丈夫なんですか……? 何か企んでいるように見えますが……」
さっきのミディ達が何か話していたことに、何かがあると思われる。
だが、あのミディが戦う前に、こっちに危険を晒すとは思えなかったから、ゼロは了承したのだ。
「……私は休むから、身体を回収しておいて。あ、後は『魔王の証』を忘れないで……」
「わかった。休め」
「……うん」
レイは魂が抜けたように倒れる。
実際は魂ではなく、意識をゼロの元に戻しただけなのだ。
レイが死んだと察知したミディ達はギョッとしたが、知っているゼロ達は普段通りだった。
ゼロは『収納』でレイの脱いだ死体を回収してから、ガンスロットの元に向かって浮いている『魔王の証』をゼロが吸収したのだった。
「ぜ、ゼロ? 今、思い出したのだが、レイと言う者はゾンビじゃないよな? 心臓のままで生きているとは聞いたことがないんだが……」
「秘密……と言いたいが、そっちから情報を貰ったから、それぐらいは話してやる。だから、すぐに屋敷に向かうぞ」
「そうか!」
ミディはゼロの秘密を少しは知ることが出来ることに喜んでいた。
ここでやることは終わり、今まで黙っていたナガレが転移の準備をし、ミディの屋敷に向かうことになった…………