第九十八話 悪魔王
今日ので、百話目になりました!!
今後もよろしくお願いします。
観客席で、ミディとロドムが信じられないような表情で、”悪魔王召喚”の禁忌魔法にして召喚された者を見る。
「ま、まさか……、魔界に七人しかいない、悪魔王を召喚するとは信じられない……」
「ほ、ホホッ、あの方は……」
ロドムはいつものように笑おうとして、失敗していた。顔が引き攣っていたからだ。
レイが召喚したのは、魔界で君臨する七人の悪魔王の一人なのだから。
悪魔族であるロドムにとっては、上司に当たるのだ。
その王がたった一人の少女によって召喚されたのだから、驚くのは仕方がないだろう…………
召喚された悪魔王の名をまだ驚愕で一杯のミディが零す。
「ベルフェゴール…………」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ミディにベルフェゴールと呼ばれている者は、まさに悪魔とわかるような姿をしていた。頭は山羊で立派な角があった。大きさは三メートルぐらいはあってレイとは二メートルは違う。
禁忌魔法で80枚分を使って悪魔王を召喚したレイは限界に近かったのだ。
何せ、メイガス王国を消した時の”天地崩壊”は40枚分だったのに、今は80枚分。
すでに身体はボロボロで、なんとか立っているという状況だった。
『我を呼んだのはお前か? ボロボロの少女よ』
「……ええ、……私が、召喚したわ……」
『で、お前は何を代価にし、何を望む?』
悪魔を召喚するということは、契約をすると言うことだ。
ただの悪魔だったらガンスロットでも勝てただろう。だが、悪魔王となると、話が変わる。
何せ、悪魔王の実力は魔王クラスと同等か、それ以上になる。
ガンスロットはこっちを消すために召喚したのもわかっているから、下手に手を出せなかった。悪魔王との契約を邪魔すれば、何が起こるかわからないからだ。
契約とは、代価が必要であり、ただの悪魔なら他人の遺体や魂を一人分は払えば、それなりには働いてくれる。
だが、悪魔王となると、敵を消すことを願うなら、召喚者の魂や肉体も含めて数十人分の遺体が必要になるだろう。
それらを知った上で、レイが願ったことは…………
「……私の心臓以外の肉体を先払いで……”動くな”」
『…………は?』
召喚されたベルフェゴールは呆けたような表情をしていた。戦いの途中で呼ばれたから、戦いに関することだと予想していたが、その願いは意外過ぎた。
ガンスロットと観戦席にいた人も同様だった。ゼロだけは黙って見ていたが…………
ベルフェゴールは驚愕した表情のままだったが、契約はなされた。
ただ、”動くな”だけなので、心臓以外の肉体は無事に代価として認められたようだ。
レイの身体は光の粒になってベルフェゴールに吸い込まれる。
ただ、心臓だけは光の膜に包まれて浮いていた。
『確かに、代価は貰ったが……』
ベルフェゴールは困っていた。動くなと願いだったが、いつまでそうすればいいかわからないからだ。
心臓だけ残っていても、肉体が無ければ、どうしようもないだろ? と皆は思ったが…………
『……契約完了ね。動いては駄目だよ?』
『な!? まだ生きていると言うのか……?』
レイはまだ生きていたと言ってもいいかわからないが、念話を使って話していたのだ。
だが、なんのために動くなと願ったのかわからないベルフェゴール。
だが、次の言葉で皆が驚くことになった…………
『……ベルフェゴール、貴方の身体、貰うね……』
『……っ!?』
レイの心臓が動いた。敵であるガンスロットにではなく、ベルフェゴールにだ…………
ガンスロットも訳がわからず、見ているしか出来なかった。
『貴様!?』
ベルフェゴールはレイの目的がわかり、手で向かって来る心臓を払いのけようとするが、契約のせいで、動けなかった。
その間に、レイの心臓はベルフェゴールの胸に吸い込まれ…………
『乗っ取らせてたまるかぁぁぁ!!』
『……勝負』
身体の所有権を奪い合う戦いが始まった。
さすが、悪魔王であり、簡単に奪えなかったがレイにはゼロが付いている。
「我が妹よ、俺がついているから食い尽くせっ!」
「ゼロ、一体何を……?」
観戦席では、ゼロがベルフェゴールがいる方に向き、豪語する。ミディはレイが何をするつもりなのか、全般に理解してなかった。
いや、理解してないというより、理解出来ないが正しいかもしれない。
戦いの途中に悪魔王を召喚したかと思ったら、契約が”動くな”だけで、さらに乗っ取ろうとしているのだ。
どれも普通じゃないから、すぐに理解出来ないだろう…………
『き、貴様、ぐぅっ、ぐぅぅぅ……』
ベルフェゴールが苦しそうに呻く。苦しそうな表情から、レイが優勢だとわかる。
では、何故レイが優勢に立てているのか? さらに、どうして乗っ取ることが出来るのか?
相手は長年、生きてきた悪魔王のベルフェゴールなのだ。まだ十数年しか生きていないレイが優勢なのかは、ゼロにあるのだ。
ゼロは悪魔王を召喚した瞬間に、新な能力をレイに授けていたのだ。
ゼロの『能力模倣』と言う能力で、『絶喰王』をコピーして、希少スキルに劣化した派遣能力の『魔喰者』を生み出し、『能力譲渡』でレイに譲渡したのだ。
それだけではなく、『信頼者』もだ。
だから、レイは悪魔であるベルフェゴールは王だろうが、ベルゴフェールの身体に入れたのだ。
ベルフェゴールの心である場所でレイは意識を乗っ取るために戦い始めた。そこで意志の強き者がベルフェゴールの身体を手に入るのだが、長年も生きている悪魔でもあるので、さすがの意志強さを持っていた。
レイ一人だったら負けていたかもしれないが、レイは一人ではなかった。
そこで、『信頼者』が役に立った。その能力のおかげで、ゼロもベルフェゴールとの意志の戦いに加わることができたのだ。
そして…………
『ぐ、ぐぅぅぅ、こ、の我がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
今までの比ではない叫びがベルフェゴールから上げられた。
つまり…………
「勝ったか……」
ゼロの言葉がそれらを物語っていた。
ベルフェゴールから黒い霧の様な障気が周りに纏まり、渦巻く。
そこで、ガンスロットはようやく危険を感じ取ったが、色々なことが起こりすぎて、頭の整理が追いついてなかった。
それが数秒のことだったが、レイはその数秒で変化を完了させることが出来たのだ。
もうベルフェゴール…………いや、レイの方は変化が終わり、黒い霧が晴れていく。
黒い霧が少しずつ消え…………、一つの影が見えはじめた。
ベルフェゴールは三メートルと大きかったが、今は一メートルぐらいにしか見えなかった。
さらに、前のレイとは姿が違い、服装も白いゴスロリではなかった。
着物であり、振袖も長くしており、『魔』と書かれた王冠ような形をしたものが頭に乗っていた。
着物の色は黒と赤が混じっており、派手のように見えて、地味でも判断出来る。
服装はどれも前と違っていたが、肉体の方では違う所が一つだけ。
それは、ゼロと同じような入れ墨が頬にあったこと。左右対象になっており、二人が並ぶとガッチリと噛み合ったような感じがするだろう。
誰が見てもあの姿を思い浮かんだだろう。そう、レイの姿は、まさに『閻魔大王』のような姿だった…………
「……ふふっ、終わらせよう。さて、地獄を見せてあげる」
悪魔王を乗っ取るより、喰ったに近いことをやってのけたレイは、黒い微笑みを浮かべて敵に向けるのだった…………