章間 第2話 ~同じ頃の蜂女達~
今回は少々短め
後で加筆すると思います。
かつての『Another Earth』において、野生のモンスターは大別して幾つかの傾向に分かれていた。
まず野生の動植物と変わらないモノ達。
これらは、現実に居るような動物そのままの姿をしており、その習性や能力もさほど変わらない。
倒して得られる素材もレベル差による強度の違い程度で、飛びぬけて奇妙なものは少なかった。
一応、現実の動植物が持つような毒など、扱いに注意が必要な素材もあるが、一応は常識の範疇にあると言えるだろう。
次に、様々な神話や物語で語られるような幻獣魔獣の類。
通常の動物が本来持っていない四肢や羽、多頭等、特異な姿を持つ魔物達だ。
所謂モンスターと言う表現が最も似合うこのカテゴリーは、時には神や神さえ滅ぼす最厄として崇められるほどの力を持つ。
これらの中には、動物種が力を持ってことで変化したモノも存在し、例えば夜光のパーティーモンスターである九乃葉が該当する。
ドラゴンといった真に力を持つモンスターも、大別するとこの枠の中と言う事になるのだ。
そして最後に、人型のモンスター。
これには、ほぼ人間と変わらない亜人種と言うべき存在から、魔獣の類に人の身体が混ざるような者まで多種多様な種が存在している。
極端な話を言えば、前の2種のモンスターの類を、程度の差こそありながらも擬人化しているという共通点があると言えるだろう。
この便宜上の体別では、多くの不死者、アンデットや、悪魔に精霊と言った、単に人の姿に近いだけのモノさえ含まれている。
これは、姿での分類と同時に、意思疎通が可能かどうかも重要だという面があった。
アンデットの内でも、位階が低く自意識を持たないようなモンスターは、ヒトに近い姿をしていても、大別としては魔獣や幻獣の側にされるのだ。
もっともこれらの分類は、『Another Earth』内のNPCの学者がまとめたモンスター解説書での大分類であり、実際にそういう大別でよいのかという意見は、プレイヤーも含めてよく語られていた事象である。
実際神話で語られるようなモンスターは高い知性を宿し会話すら可能なモノも多く、九乃葉の様に変化の術で普段は人間そのものの姿で過ごすモノも居るためややこしいのだ。
そして、これらを踏まえたうえで、夜光の本拠地、マイフィールド内の居城万魔殿には、人型のモンスターのみが配置されていた。
これは、万魔殿の基本構造が人間サイズの存在が暮らす前提で作られて居るからだ。
マイフィールドの拡張セットには様々な種類があるが、夜光の万魔殿のベースとなって居るのは、小島を覆うほどに建設された城塞である。
所謂有名なモンサンミッシェルを思わせる外見は、湖の中の居城と言ったロケーションに憧れるプレイヤーから高い支持を得ていたタイプだった。
モチーフが聖堂や教会であることから、広間と言ったスペースは部屋の高さもあり大型のモンスターでも過ごすことは可能だが、逆に言うと各通路や部屋は人間が使うことが前提のサイズになっている。
その為、夜光の各パーティーメンバーの配下は、本来の姿が大型化の能力を持っていようとも、人化の魔法や術などで人間サイズに大きさを押さえているのだ。
その中には、蟻女女王のターナや、蜂女女王のハーニャも混ざっている。
彼女たちは女王種と言う事で、本来は人型サイズの眷属を産む為大層な巨体を持ち合わせているのだ。
しかし拠点配置における都合上、彼女たちの本来の身体に合う部屋などは用意できず、彼女たちに変化の術を施すことにより、女中頭と近衛兵隊長の役を担わせているのだった。
そんな二人のうち、早々に自室で実戦の精神疲労の回復に努めるターナと真逆なのが、蜂女女王のハーニャだった。
「よし次! もっともっと厳しく行くわよ!!」
万魔殿の中庭、主に戦闘訓練用の区画で、多くの蜂女達が鍛錬に汗を流している。
主導するのは、彼女にとっての戦闘を終えたばかりのハーニャだった。
多くの蜂女の先頭に立って摸擬戦と言う名の訓練を配下の近衛である蜂女達に課していく。
ターナは元々内務や家事の統括をしている為か、本人が想定していなかった戦闘に巻き込まれ非常にダメージを受けてしまっている。
が、逆に普段夜光の近衛としての任務に物足りなさを感じていたハーニャにとって、先の戦闘は貴重な実戦経験だったのだ。
そもそも、万魔殿の近衛と言うのは、普段戦闘が起きるはずもない環境における戦闘要員警護官と言った存在と設定されている。
つまり、昼行燈に近い状態が長らく続いていたのである。
特に『Another Earth』終了間近に芽生えた意志は、そういう自分の状況も理解してしまったのだ。
自分の存在意義さえ見失いそうな状況の中、遂に体験したのが先の滅びの獣との戦いの序盤。
これにより、ハーニャは完全に目覚めてしまったのだった。
普段は簡単な警備と周辺の探索をやっているだけだったのが、自らが必要とされる状況に完全に覚醒してしまったと言うべきだろう。
蟻女達が別のデスマーチで過酷なローテを強いられる中、蜂女達も訓練と実戦に目覚めたハーニャによりブラックな状況下に突入していたのだった。
「次! 今度は一対多数の状況よ!! 各斑のリーダーと他の班のリーダー以外とで摸擬戦を総当たりね」
「ええー!? 女王様張り切り過ぎですよー!?」
「いきなり訓練を厳しくされても困ります!?」
蜂女の衛視たちが一対一の戦闘に慣れてきたと見たハーニャは、更に訓練を課していく。
しかしこれまでほぼ形だけの近衛であり、万魔殿周辺の素材集めの方が主となって居た蜂女達は、急な変化に全くついていけていなかった。
心持も戦闘者と言うより採集者としての方向に慣れ過ぎていたのもある。
ハードな訓練についてゆけず、脱落する者も現れていた。
とはいえ、ハーニャは容赦しない。
「いいこと? 実戦はこんなものじゃないのよ!? ご主人様はそういう世界でずっと命を張られていたの。私達が怠惰にこの城を守っている間、ずっと、外で。ここままだと、何時かご主人様が戻られない城を守ることになりかねないのよ…」
ハーニャ達蜂女の一族は、夜光が万魔殿を居城と定めて召喚された際に契約したモノ達だ。
この契約は、蜂女の一部族を丸々召し抱える行為であり、同時にデータとしてしか存在していなかった彼女達一族が世界に生まれ出でた瞬間でもある。
つまり、彼女達もまた夜光によって生み出された存在と言っていい。
それだけに、彼女たちの生みの親たる夜光がどんな戦いをしているかを知ったハーニャは、これまで安穏として過ごして来た反動もあり、燃え上がっているのだ。
とは言え、実感を得たハーニャと、そうではない他の蜂女とではどうしても意識に差が出るのは仕方がないと言えた。
そもそも、この万魔殿の魔物達は、かつてのアナザーアースの時代においても対外的な争いとは一切無縁の地であり、世界の終焉を迎えるにあたっても早くから救済が約束されていた場所でもある。
ずっとそこを住まいとしていた魔物では、危機感を急に抱けと言うのも無理な話ではあった。
今一やる気にならないというか、どうしても今までの平穏過ぎた空気を引きずってしまうのだ。
しかし、この万魔殿に住まう魔物の中には、そういう平穏に浸ってばかりではなかった者達も居た。
「おう、面白そうなことをやってるな!」
「近衛が訓練とは珍しい…ようやくやる気を出したようですね。喜ばしい事です」
「うちらも混ぜてくれへん? 最近実戦から間が空いて身体が鈍っていた所なんよ」
「貴方方は…」
物珍しさもあってかやって来たのは、ゲーゼルグやマリアベルら夜光がパーティーメンバーの配下たちだ。
伝説級位階のモンスターも混じる彼らは、ゲーゼルグらが呼び出せる軍勢の一員たちであり、そして万魔殿に共に住まう者たちとして設定されていた。
時に万単位の軍勢がぶつかり合うアナザーアースのレイドバトルの軍団や部隊単位の指揮官として設定された彼らは、かつてのアナザーアースにて夜光の戦いを支えた要因でもあったのだ。
トップの種族をなぞるように高位の竜人や不死者、上位悪魔に魔獣が人化した道士達が揃った彼らは、当然その戦闘能力や指揮統制能力は高い。
「いきなり訓練のペースを上げても無駄が多いぞ? やるならば個人の適性を見ながら綿密に訓練スケジュールを立てるところからであろうな」
「いやいや、この場合それ以前の問題でしょう。見たところ基礎体力からして不足しています。まずはそこからですね」
「近衛言うても術師も必要やろ? そっちの訓練は受け持ってあげるさかいにな」
急にやる気を出しただけのハーニャでは叶わないような手腕で、いつの間にか主導権は彼らの手に渡ってしまっていた。
こうして、蜂女達の訓練は万魔殿の主要なモンスター達を巻き込んだ大規模なレベリングにまで発展していくことになるのだが……それはまた別の機会に語られることになるだろう。
リアルデスマーチはあと一週間で目途がつきそうなので、それ以降は少しづつ更新ペース上げていきたいです…
3/23:少々追記 リアルデスマーチがようやく終わったので執筆再開しています。