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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第3章 ~皇都アウガスティア~
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第06話 ~かつて見た戦法~

(結局、僕もまんまと丸め込まれてしまった……)


 賑わう市場を歩きながら、僕は先刻までの事を思い出していた。

 レオナルドと名乗ったあの青年は、その名の通りにグラメシェル商会の会頭だった。

 <魔法の目>と<魔法の耳>の設置の囮に、ゼル達に人目を集めさせていたのだけれど、名目にしていた護衛の仕事をまさかそのまま依頼されるとは……

 それも、依頼内容が断りにくい内容だったのが、質が悪い。


(まさか、皇城へ大型の門内製品を運び込むための護衛だなんて……これを利用すれば、魔法で保護された皇城にも問題なくは入れるだけに、渡りに船なんだけど……)


 ここまでの皇都滞在中、中級位階で無理のない範囲の召喚モンスターで皇城への侵入を試していたのだけれど、結局上手く行かなかったのだ。

 特定の門から以外は一切の侵入は出来ず、無理に押し入ろうとしたら警報と魔法による攻勢防御が発動する堅牢な守りは、かつてのアナザーアースでもマイフィールド間戦争で活躍した防御機構のそれだ。

 拡張パックの王都セットに含まれていたそれは、余程の潜入特化ビルドのキャラでしか侵入は困難だった。

 下手に無理に押し入れば、大騒ぎになり僕らのような存在が明らかになってしまうだろう。

 ただ、この機構は許可を取って入場する分には働かず、また一度中に入ったならば、内部での召喚魔法の発動は可能だった。

 つまり、護衛名目で正式に皇城に入れたなら、そのまま情報収集用のモンスターを設置できるのだ。

 一応もともと、フェルン候が到着した際に、ゼルグスの協力で皇城へ入る算段だったけれど、別ルートが可能ならそれも有りだとも思う。


(だけど、ちょっとタイミングが良過ぎるかな……?)


 僕は、グラメシェル商会の会頭が語った言葉を思い出す。


『いやぁ、最近は物騒でね? 護衛はいくらいても足りないのだよ! そもそも今は御前会議で各地のお貴族様たちが皇都に集まっているだろう? 自前の兵だけではなく、傭兵も雇って兵を増やして、他のお貴族たちよりも優位に立って見せようって方々が多くってね。護衛が不足しすぎて大変なのさ! だから、君たちのような腕利きが現れたのは、家のとって幸運そのものなのさ!』


 レオナルドの言うとおり、皇都では御前会議に出席する貴族が連れてきた兵や傭兵であふれ返っている。

 僕が今歩いている市場でも、彼方此方に兵士や傭兵らしき姿が散見されている。

 更に言うなら、皇国は最近も他国との戦争に勝利したばかりだ。

 その際活躍した傭兵を、貴族たちは次の戦いに向けて囲い込もうとする動きもあるらしい。


(……囮とは言えそういう事情の中で護衛の押し売り名目は、悪手だったかな?)


 とはいえ、レオナルドから聞くまで、僕らはそう言った傭兵需要まで把握し切れていなかったのだから仕方ない。

 むしろ、傭兵の数が多い分、押し売りめいた行動も不自然ではないのではないかと考えていたのだ。

 せっかく作っている情報網も、得た情報を活かせなければ宝の持ち腐れと言うやつだ。


(やっぱり、素人考えじゃぁ上手く回らないなぁ……こっちの世界の事情はまだまだ手探りだし、いろいろ動くのにブレーンになってくれる仲間が欲しい)


 僕がこれまでこっちの世界と関わり始めて、今まで何とかやってこれたのは、仲間やモンスターの多彩で強力な力があったからだ。

 だけど、そう言った力を隠しながら国などと言った大きな組織と接触するのは、下手な動きもごり押しも出来ずに、難しい判断を迫られることになる。

 今更ながら、気が重い。


(悩んでいても仕方ないか。とりあえずは、グレメシェル商会の依頼を受けて、あとは御前会議の様子を見たら、近辺の門も確認して……)


 僕は今後の事を考えながら、市場を歩く。

 さっきまで仲間たちと一緒だったけれど、いまは、気分を晴らしたいから一人での散策だ。

 考え事をするときは、まず一人で熟考したいからだ。

 それに、市場の喧騒と言うのは良い。

 万が一考えが呟きになって口からこぼれても、喧騒にかき消されて誰にも聞こえないはずだ。


 そう、思っていた。


 こんなまかりなりにも日中の市場だ。

 それも小柄とはいえ術師系の傭兵に見える姿の僕に、変に絡んでくる相手も居ないだろう、そう思って仲間も連れずに一人で歩いていた。


 だから、ほんの一瞬前まで耳に響いていた喧騒が消えた時、混乱するしかなかった。



「っ!?」


 気が付くと周囲には、一切の人影が消えていた。

 喧騒に満ちていた筈の市場には、人影一つ無い。

 露店に並べられた商品はそのままに、だ。


「な、何が……!?」


 確かに、一瞬前までは僕は人ごみの中にいたはずだ。

 様々な商品を売り買いする商人、それらを買い求める様々な都の民に、同じように市場を眺め歩く傭兵たち。

 それらが一瞬にして掻き消えるなんて、いったい何があったんだ!?

 僕は慌てて辺りを見回した。

 何らかの魔法かと、術士特有の魔力に対する感覚を研ぎ澄ませようとする。

 多分それが功を奏した。


「くっ!」


 一瞬で満ちた魔力を感じその場を飛びのくと、僕の立っていた場所から無数の()が生えていた。

 何かを求める様に握りしめる動きをするその『腕』は、土塊でできている。


(土の精霊系の拘束魔法!? ……っつ!!)


 そう理解すると同時に、背中に熱を感じた。

 次いで弾けるような痛み。

 針のようなモノが背中に刺さったと思うと同時に振り向くと、剣を振りかぶり突っ込んでくる何者かの姿が見えた。


「くそっ、<絡みつく糸>!」

「ちっ、何だこりゃあ!?」


 僕はとっさに、魔法を放つ。

 <絡みつく糸>は、粘性の糸を大量に生み出し、相手に絡みつかせて行動を阻害する魔法だ。

 創造術師系の称号持ちなら下級位階の早い時期から覚えられる上、発動速度も早く、その上位階が上がった者が唱えれば移動と行動を一定時間完全に抑え込むこともできる。

 今の僕は中級:100まで位階が上がっているため、5秒ほどは相手の行動を止められる。

 目論見通り、襲い掛かって来た人影を拘束し、僕は更にその場を飛びのいた。


(この手口……これはまるで……)


 一瞬出来た空白の時間。

 背中に刺さったままの針のような物からの痛みが、かえって僕に冷静さを取り戻させてくれた。

 周辺には人込みは消えたまま。

 ただし、ほんの数人程度が物陰に隠れていたみたいだ。

 ぱっと見、ローブ姿の者、革鎧を着た者、そして切りかかって来た男の三人。

 精霊系の拘束魔法を仕掛けてきたのがローブ姿として、背中に刺さった針のようなものは革鎧姿の男がダーツでも投げてきたのだろうか。

 そして怯んだ僕を、最後の剣を持った男が仕留めようとした。


 この戦法、僕はかつてのMMORPG 『Another Earth』で体験したことが有る。

 PvP……プレイヤー同士の戦闘形式の一つとして、一定のエリア内でのみ可能だった行為。

 プレイヤーキラー、所謂PKのパーティーが、ソロプレイヤーを仕留めるのによく使われた戦法だったのだ。


 そこまで考えて、改めて襲ってきた者たちを見る。


「何だこりゃぁ、べとついて気味が悪いぜ……くそっ、精霊屋ぁ! てめぇがしっかり足を止めねぇから!」

「餓鬼だと思って気が抜けデモしたかぁ? 精霊屋よう」

「うるせぇぞ、急所外した馬鹿と反撃食らいやがった馬鹿が言うんじゃねぇよ」


 襲撃者同士で口汚く言い合いながら、それでもこっちの動きを見逃さないように目を配らせているあたり、この行為に手慣れている感がある。

 だけど、同時に感じることが有る。

 少なくとも、この三人は『プレイヤー』じゃない。

 手口こそかつてのアナザーアースのPKじみているけれど、本人たちの実力は、かつて戦った山賊達の頭目ほどもないだろう。

 あえて言うなら、こちらの世界の人物の精霊術の使い手は初めて見るし珍しいことくらいだろうか?

 はっきり言えば、裏仕事に慣れた、そこそこ腕の立つゴロツキだろうか?

 とはいえ、それはそれで疑問が生まれる。


(ただの強盗? それとも僕を狙った? 何より……この周囲の状況)


 僕が襲われた理由が、無差別だったのかそれとも狙われたのかは、この際一旦横に置く。

 問題は、この如何にもゴロツキ然とした襲撃者達に、この人混みが消えた状況を生み出せるようには見えないことだ。

 何らかの魔法のアイテムならば、この状況は可能だろうか?

 それとも別の要因が?

 答えを求めて襲撃者達を観察すると同時に、じりじりと後ろに下がる。

 浮かんだ疑問もそうだけれど、今は一人なのがネックだ。

 何か行動するにしても、問いただすにしても、このままだと多分に不利だ。

 ある程度の位階の成長と、更新した装備にとって、今の僕ならこの三人なら十分に倒して制圧できると思う。

 襲撃者達はまだ罵り合っているけれど、それは刺さった麻痺毒が効果を待っているのだろう。

 しかし、背中に刺さっていた針は、身に付けた<魔術師の守護服>が持つ自動回復効果で傷かふさがると同時に抜け落ち、塗られていた麻痺毒も中和されているのだ。

 如何にも麻痺させたように見せかけた後に不意を打てば、十分に逆襲可能のように見える。

 ただ、一人である以上確実性には欠ける。

 なら得意の召喚で数の差をひっくり返したいところだけれど、召喚魔法は唱えるのに時間がかかる。

 また、拘束魔法などを駆使して連携されると、切り捨てられる可能性も高いのだ。


(何とかして、状況の打開を……?)


「何をやっている、お前ら。こんな餓鬼、さっさと殺せ」

「!?………ゴフッ!」


 声と同時に灼熱が身体の中心を突き抜け、僕は溢れる熱を口から吐き出した。

 地面に真っ赤な花が咲く。

 それが、自分の吐いた血だと気づいた時には、手遅れだった。

 視界の下側に、長い刃が僕の胸元を貫いていた。

 急速に自由を失う身体をよじり、背後を見る。

 薄れて行く意識の中、辛うじて爛々と滾るような目だけが焼き付いて。

 そして、僕は殺された。

 即死である為、かつてのように<緊急召喚>で仲間を呼ぶこともできずに。


「やれやれ、手間取らせやがって……」


 僕の背後から刺したその男の声を最後に、僕の意識は暗闇に染まった。

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