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章間 第7話 ~神聖都市 ホーリィ☆てんぷる もう一人のプレイヤー~

 新しい同盟のメンバーの皆を連れて最後にやって来たのは、ホーリィさんのマイフィールド、『神聖都市 ホーリィ☆てんぷる』だ。

 名前の印象とは裏腹に、ここは敬虔な大地母神を信仰する信徒と、彼らの中から鍛えられた神聖騎士団が住まう、清廉で見事に整備された正統派の宗教都市国家だ。

 中心にある神聖都市の周囲には広大な田園風景と幾つかの農村があり、僕のマイフィールドと同じくある程度の自給自足が可能。

 『外』との出入口こそ神聖都市の正門傍にあって、直ぐマイルームのある中心部へ行けるけれど、マイフィールド自体の広さは都市国家を名乗れる程度にある。

 中央の大神殿を始めとする幾つかの神殿にはステンドグラスにより彩られ、純白の建材との対比もあり見事の一言に尽きるのだ。


「でもあんまりうちって特徴無いのよね~。神殿都市と農村ってだけで片付いちゃうもの」

「これってアレだろ? AEの課金拡張の神殿都市セット。デフォルトで出来がいいって評判だったやつ」

「そうなのよね~。でも、大神殿に作った空中庭園は頑張ってカスタマイズしたの~」


 ホーリィと関屋さんが言うとおり、この神殿都市や王国タイプ等のベーシックな都市タイプは、課金で入手できる拡張のセットのアーキタイプの一つだった。

 他にも魔法都市や港湾都市などがあり、僕のマイフィールドに配置してある都市もこれらをカスタマイズしたものだ。

 ベースの出来がいいモノなので、あまり弄らなくても立派な都市になるし、弄れば完全に別物にも出来るという事で、かなり需要があったと覚えてる。

 ホーリィさんも田園部の拡張と大神殿に趣味のガーデニングを再現するための空中庭園を設置した以外はほぼデフォルトのままだったはずだ。


「っへ~、周りの畑とかもかなり拡大してんのな」

「そうよ~? うちは神聖騎士団が多めだし、維持コスト払うのには食料供給に余裕が欲しかったの~」


 ホーリィさんはかつて大規模戦闘では神聖騎士団をNPC軍ユニットとして呼び出すスタイルだった。

 聖騎士に率いられた信徒兵は士気の高さと窮地でも命令を順守するのが特徴で、攻勢守勢どちらでも活躍できる強力さが売りだった。

 ただし、宗教系称号が必須であり、幾つかの戒律にプレイヤーも縛られてしまうというのがデメリットとして存在した。

 大地母神の場合、戒律と言うか騎士団の維持コストに農村のマイフィールド内での配置が必須という設定があり、それも影響があるのだろう。

 神殿の尖塔から周囲を見回すと広がる周囲の広大な農地。


「そうなのか。なんかオタマさんのマイフィールドを思い出すんだよな~」


 それを見ながら、アルベルトさんは何かを思い出しだようだ。


「オタマさん……ああ、確かフェルン領の農村部に出た『門』の中に居るという?」

「ああ、俺たちと同じプレイヤーだよ。まぁ、あんまり戦いとか好きじゃないみたいで、マイフィールドからは出て来ないんだけどな」


 僕も、フェルン候の所に居るモンスターから情報は得ていた。

 確か、名前はオタマ・ナタマという、丘人種(ハーフリング)の女性プレイヤーと聞いている。

 戦闘職ではなく、生産職としてマイフィールドを広大な農村に仕立て上げているらしい。

 フェルン候の兵士と比較的穏便な接触から、最低限の交流を維持できていると聞いている。

 たしか戦闘力もさほど高くなくて、フェルン側も農村が沸いた程度に考えているとか何とか。


「あの人、見た目は可愛いロリなんだけど、中身は多分かなり年行ってる気がするんだよな。肝っ玉かあちゃんって感じで」

「リアルの話は止めませんか? いろいろと地雷になりかねません」


 こういう状況だからこそ、地雷になる話題は避けたい所だ。


「それはそれとして、アルベルトさんはそのオタマさんに会ったことが有るんですよね?」

「ああ。俺は相棒といろいろ飛び回れるからな。領都から言伝を頼まれた時があって、その時に会ったんだ」


 オタマさんのマイフィールドに入ると、一面の小麦畑であり、豊に実った穂が揺れていたのだとか。

 農道を進んだ先に農家があり、牛や豚などの家畜とともにオタマさんが畑仕事をしていたらしい。


「色々話をしてみたんだけど、『外』に出る気は一切無さそうだったな。一応同盟の話を持ち掛けても良いとは思うけど」

「農村ならば自給自足が十分できそうですしね。機会を見て接触してみましょう」


 話を聞く限り無害そうであり、同時に安定した食料共有を見込める以上僕達の同盟への勧誘はしておくべきだと思う。

 そんなことを考えていると、視界の隅でホーリィさんと僕のパーティーメンバーのモンスター達、そしてライリーさんの所のメルティさんが、連れ立って歩いているのが見える。


「あれ? 皆でどこへ…?」

「あ~、何か女子会とか言ってたぞ」

「女子会」


 行き先は、ホーリィさんご自慢の空中庭園のようだ。

 その中でも僕もよく足を延ばす東屋に行くのだろう。

 下手につつくと大爆発しそうな怖さのあるメンバーだけに、何も起きないことを祈りたい。

 彼女たちが何を話し合うのか気になるところだけれど、僕は内心戦々恐々としながら彼女たちを見送ったのだった。



~空中庭園 東屋~


 東屋に揃った女性陣、夜光のパーティーメンバーであるリムスティア、マリアベル、九乃葉、そしてホーリィは、残るもう一人の参加者メルティに詰め寄っていた。

 普通なら困惑する状況なのだろうが、完璧な女中人形(メイドール)であるメルティは全く動じない。


「はぁ、マスターとのお付き合いの経緯、ですか?」


 そう、同盟内で真っ当にプレイヤーである存在に<俺の嫁>とまで呼ばれている、その仲睦まじさに皆注目していたのだ。

 ホーリィらの気にしている相手、夜光は、未だに誰の身体も求めたことがない。

 以前ホーリィと3人の女性モンスター達が夜光との仲を如何に進めたらよいかと話し合ってから随分と断つ。

 その間胃から心をつかもうと慣れぬ料理で四苦八苦したり、こっそり同衾したりするなど涙ぐましい努力を彼女たちはしていた。

 しかし、一向に夜光が彼女たちに手を出す気配は無かったのだ。


 一応これには幾つか事情がある。

 夜光自身のアバターがそもそも年若く、性的衝動に身を任せるには幼かったという点が一つ。

 パーティーモンスター達の容姿を露骨に自分の好みに正直に設定してしまったため、むしろ直接目の前で相対すると自分の趣味を突き付けられてしまう気分になること。

 そして『門』の外の世界の情報不足と、マイフィールド内の命が全て自身の肩に背負っているという悪環境により、それどころではないと衝動に身を任せるのを良しとしなかったからである。


 とはいえ、そのような事情が有ろうとも、彼女たちが知らない以上どうしようもない。

 更には、夜光がマイフィールドを見回ったことにより、ライバルが増えたという事情もあった。

 東部のアイワナの町を始めとするNPCの町の長は皆妙齢の女性の秘書NPCで占められている。

 彼女たちは皆マリアベルたち同様の夜光の信奉者だ。

 南東部の氷の女王やエルフの里の巫女達、西部のイヨシスの町のファラオなど、夜光を懸想しているNPCやモンスターには事欠かない。

 そして、夜光のマイフィールド案内の初日に夜光のパーティーモンスターが不在だった理由はここにある。

 七大魔王の一人である色欲の大魔王ラスティリスが、夜光の居城である万魔殿に押しかけて情婦になろうとしたのだ。

 色々あってその目論見はマリアベルたちが抑え込んだのだが、結局の所この問題は大なり小なり今後も続いて行く。

 解決するには、夜光がそちらの方面にも力を入れる様に促すしかない。

 となれば、ホーリィ達もその辺りの知識を得る必要があり……結果有能メイドとご主人様の濃厚な愛欲生活の聞き取り企画となったのである。

 ライリーがホッゴネル伯に脅迫され望まぬ形で兵を生み出し、そのストレスをメルティに癒されていたのは周知の事実になってしまったのがその理由であった。

 何しろ、決闘の約束を取り決めた際にその顛末という名ののろけ話をメルティ自身から垂れ流されたのだ。

 そんなわけで、ホーリィ達は現在絶賛恋愛脳に傾いているのだった。

 そしてこの女子会でも延々のろけ話と言う名の猥談を事細かに聞かされた彼女たちは、この後色々と行動に移すのだが…

 それが語られるのは、また別の機会であった。

章間はここまでで、次話から3章になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夜光くん・・・ ラブコメがんばってねw
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