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章間 第6話 ~関屋商店街 新しい装備と召喚~

~関屋商店街~


 僕のマイフィールドを一通り見まわった後、僕たちは関屋さんのマイフィールドである関屋商店街にやってきた。

 僕の所と同様に、アルベルトさん達に紹介するためだ。

 僕がここに来るのは、あの盗賊に襲撃されていた時以来になる。


「僕がここに来るのは、あの時以来ですけど、壊されていたり荒らされていたお店などもきれいになっていますね」

「そりゃ当たり前だ。うちの職人にかかれば、あの程度直ぐに直してみせらぁ」


 すっかりきれいになった職人街は、実ににぎやかだ。

 人の出が多いみたいだけど、これは関屋さんの所のNPCだけじゃないっぽいな。


「同盟間のマイフィールドの行き来を自由にしたら、うちの神殿の子たちもここに買い物に来るようになったのよね~」

「おう、客がくるようになってうちの職人も元気を取り戻してな? ありがてぇこった」

「もしかして、僕の所からも?」

「もちろんだ。贔屓にしてもらってるぜ?」


 よく見たら、店に出入りする客の中に、明らかに人化したモンスターも混ざっている。

 たぶん、うちのマイフィールドに配置したモンスターの中の一体だろう。

 そこまで考えて、ふと疑問が頭に浮かんだ。

 ……マイフィールド外での召喚にはコストが必要だったはずだけど、もしかしてモンスター本人が自発的に移動して他の場所へ行くのなら、その辺りは発生しないのか?

 考えてみると、そういった形で『外』の世界へモンスターを移動させたことはなかったように思う。

 ギガイアスにしても、パーティーメンバーとして登録してある状態で召喚の魔法陣を通じ移動していたから、その辺りを全く疑問に思っていなかった。

 だとするなら、召喚魔法で直接呼び出していない分直接指示は出来ないが、配置コストも維持コストも必要のない状態でモンスター達を活動させられることになる。


「ん? どうしたんだ、夜光さん。顔色変えてさ」

「ああ、いえ。ちょっと」


 アルベルトさんの訝し気な問いに何でもないと返してしまったが、実際これは大きな気づきだ。

 ゼルや鏡身魔の偽装がここまで見破られることなく活動できたことと、召喚のコスト問題を解決できる見込みを加味すると、僕の手札は一気に増えることになる。

 普段ガーゼルで情報収集に当たってもらっているマリィやリムも、配下の吸血鬼や淫魔に直接移動して代わってもらえばフリーに出来るのだ。

 もちろん人化の護符は必須だけど、それはここ関屋さんの商店街で安定して供給してもらえる。

 僕のマイフィールドの転移の魔法陣は、周囲を偽装してしまったから大型モンスターを出入りさせることは出来なくなってしまったけれど、それも人化の護符を使うなどしたら解決できるだろう。


「関屋さん、あとでちょっと相談が。割と大口の発注をしたくて」

「おう。わかった」


 実験も含めて、相応の数の人化の護符を確保しておこう。


 僕以外は、商店街のあちこちを見回っているようだ。

 そんな同盟メンバーを見ていると、近づいてくる人影があった。

 全身を覆うフルプレートアーマーに、大型のヒーターシールドを背負っている。

 腰には装飾で覆われた片手用のメイス。

 頭もフルフェイスタイプで、一見誰だかわからない。

 とはいえ僕にとっては見慣れた姿だ。


「装備新調したんですね、ホーリィさん」

「そ~なの。イイでしょこれ~」


 そう、かつてAEでよく見た重装タンクビルドのホーリィさんだ。

 中級:100まで位階を上げた今、以前のメインビルドにある程度近づけられるようになったという事なのだろう。

 神官服で楚々としているよりも、余程見慣れた姿で安心感すらある。


 ホーリィさんは、味方と自分に回復魔法を付与しながら前衛で攻撃を引き付けるという、回復タンクというビルドを本領としていた。

 相手からの注意を、全体回復や保護、蘇生で発生する敵意で引き付けるという構成だ。

 引き付けた攻撃は、厚い防御と自分への回復魔法で無効化する為生存性も高い。

 攻撃面がメイスでの直接攻撃が主でやや弱いのだけれど、そこはよく組んでいた僕が後衛火力としてフォローするのが定番だった。

 もう少し位階が上になると、鎧を更に頑丈なものに変え、武器を両手持ちの大型メイスにするスタイルになり、最後には巨大な鉄塊を振り回しながら全てを粉砕するようになる。

 AE最後の3か月で大暴れした姿が目に浮かぶようだ。


「前から頼んであったんだけど、丁度装備できるようになったから買ったのよ~」


 嬉しそうに新品のメイスを振り回す姿は、微笑ましいような恐ろしいような。

 ただ、気持ちは理解できる。

 僕も成長した位階に合った装備に替えたばかりで、具合を試したい気持ちがあるのだ。


「何なら、ちょいと試し切りがてら模擬戦でもするか? 丁度うちの新作を試したかったところだ」


 そういう関屋さんが示す先で、職人たちが何かを運んでいる。

 よく見ると、それは僕のマイフィールドのドワーフの職人街でも見たオートマタだ。

 無骨な金属製ゴーレムといった姿で、如何にも頑丈そうだ。

 ドワーフの職人街の者は見上げる様な大きさだったが、こちらは人間サイズの様子。


「今はうちの『門』を閉じちゃいるが、また盗賊みたいな糞どもが絶対に来ないとも限らねぇ。その備えに、ちょいとウチでも作ってみたのさ」

「横にいるドワーフの職人はうちのマイフィールドのですね」

「おう、基幹部の作り込みはかなりたよっちまった。まだ試作品だがな」


 華美さは無いけれど堅牢そうなつくりのオートマタは、確かに摸擬戦の相手としては良さそうだ。

 物理防御力は高そうに見えるけど、それ以外の耐性はどうなのだろう?


「魔法などの耐性は?」

「全属性で20%軽減って所だ。中級位階の魔法なら受けても修理可能な範疇に収まるだろうな。ホーリィ嬢ちゃんのガチ殴りでも……まぁ、持ってくれるのを期待してるんだが」

「あはは~、摸擬戦なら、出来るだけ丈夫そうなところに当てるから大丈夫よ~」


 にこやかなホーリィさん。

 だが僕は知っている。

 この笑顔のままで敵を撲殺していたのがかつてのAEのホーリィさんなのだ。

 実際、それは摸擬戦が始まって直ぐに起きた。


「あはは~ずど~ん!」


 先制とばかりに殴りかかってきたオートマタの攻撃をヒーターシールドで軽々と受け、返すメイスの一撃はオートマタの分厚い胸部装甲を一撃で歪めてしまっていた。

 そうなんだよな…ホーリィさんって素早さや器用さは投げ捨ててる代わりに、筋力を伸ばしまくってたんだった。

 その剛腕から放たれる一撃で、大地母神の試練の際には堅牢な城門をぶち抜いたこともある。

 片手用のメイスとはいえ、人間サイズの相手の装甲ならモノともしないパワーだ。

 とはいえ流石は関屋さんの所の職人たちが仕上げたオートマタ。

 一撃だけでは倒しきれず、依然ホーリィさんに向かってゆく。

 なら、今度は僕の現状を確かめよう。

 僕は呪文の斉唱を終え、そのモンスターを呼び出す。


「瞬間召喚<突撃猛牛>!」


 すると、オートマタの横合いに魔法陣が一瞬現れ、そこから巨大な猛牛が現れオートマタへと突撃をしかけたのだ。

 小型のバスほどもある猛牛の突撃は、交通事故であるかのようにオートマタを吹き飛ばす。

 そして突撃した猛牛は次の瞬間霞のように消えていく。

 瞬間召喚と言うのは、契約したモンスターを一瞬だけ呼び出して一撃だけ攻撃させたり、能力を使わせる召喚方法だ。

 継続的な召喚に比べて一瞬だけしか呼び出さない分、消費するコストも軽く手軽だ。

 ほぼ、そのモンスターの名前を冠する固有魔法のようなものだと考えればいいだろうか?

 中級位階になって呼び出す適正位階モンスターの範囲が広がったので、僕も出来る事の幅が広がったように思う。


 吹き飛ばされたオートマタは、頑丈なことにいまだ健在だった。

 それどころか、攻撃した僕を標的として、こちらに向かって来ようとさえしている。

 そこに、静かな詠唱と共にその軌跡が発現した。


「<大地の守護壁>よ~」


 ホーリィさんの祈りが、僕の前に光り輝く壁を作り出す。

 僕に攻撃しようとしたオートマタは、振り上げたこぶしをその壁に阻まれてしまう。

 そうなると、オートマタが狙えるのはホーリィさんだけだ。

 再度ホーリィさんに掴みかかったオートマタは、先ほどと同じように盾でさばかれ、痛烈なメイスの攻撃を受ける。

 これが、僕とホーリィさんが組む際の戦術だった。

 この流れに、パーティーモンスターのゼル達が前衛や補助をとして加わって、僕達のパーティーとしてのパターンになる。

 久々に、そしてこの身体を実際に動かしての状況では初めて行うフォーメーションだけれど、何ともしっくりくるものがあった。


「おっと、そこまでにしてくれ。これ以上装甲をぼこぼこにされると治すのに手間がかかり過ぎる」

「は~い」

「ありがとうございました、関屋さん」


 ひとしきりパターン化した戦闘を続けて、関屋さんからストップが入った。

 僕達は、結局一撃も貰わなかったが、オートマタも最後まで機能を損ねることなく稼働していたので、摸擬戦としては十分成功したと言えるだろう。


「う~ん、耐久性に問題は無いが、動きに応用力が無いのが難点だ。もう少し行動パターンを増やさなきゃあかんな」


 関屋さんはさっそくオートマタのチェックに入っている。

 彼の言うとおり、頑丈さは全く問題ないけれど、攻撃のパターンは限られていたため、ホーリィさんも対処には苦労していなかった。


「戦い慣れている相手だと、いまの行動の幅だとすぐに対処されてしまうでしょうね」

「その辺を増やすのは、お前さんの所のドワーフの職人に相談になるんだがなぁ」


 この後ライリーさん達と合流するまで、僕達は何度か摸擬戦を重ねて新しい装備を馴染ませていったのだった。

 

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