章間 第5話 ~夜光のマイフィールド紹介 中央部・天界・魔界~
~中央部~
中央部は山岳だ。
天嶮の地という表現が似合う場所を、僕らはゼルの背に乗り進む。
「中央部はこのように山地ですね。リアルの地形と比べてもかなり標高があります。マイフィールドに入ってすぐアルベルトさんが見つけた飛竜の群れなどもこのエリアに巣があります」
主に高地に住まうモンスターや、風属性に類するモンスターがこのエリアに配置してある。
必然的に鳥類などが多くなるし、飛竜や獅子鷲などの幻獣もこのエリアになる。
一番標高の高い山には、風属性の伝説級竜王、飛翔竜の棲み処もある。
「えげつない地形してるな。中央がこんな風だと、地上の移動で通るには向かんだろう?」
「一応南北を結ぶ大トンネルが何か所かありますけど、基本はこのエリアは迂回するのが得策ですね」
関屋さんの言うとおり、このエリアを通るには飛行するのが必須なほど地上の様子は険しい。
切り立った山や深い崖、入り組んだ谷間など、到底人が踏破するには向かない地形だ。
南東部のように地下に大坑道はあるのだが、北部と南部を繋ぐための物が数ルートあるだけで、交通網というにはいささか物足りない。
それというのも、このエリアには幾つか重要なポイントが存在するからだ。
「ここには竜族の巣や、雲上の巨人族の里などがあります。あとは、天上門と冥府門がありますね。それぞれ天界と魔界につながっていますよ」
そう伝説級のモンスターばかりが住まう居住エリアがあるのだ。
彼らは余り活動的ではないものの、一度動き出せば天災に例えられるほどの力を発揮できる。
非常にデリケートな場所なのだ。
更に言うなら、いま僕のマイフィールドの管理運営を任せている七曜神と七大魔王の領域への門もある。
まさしくもっとも重要かつ危険な地域なのだ。
「では、まず竜族の巣に行ってみましょうか」
~竜族の巣~
まず向かったのは、大きな属性の偏りがない竜たちが住まう竜族の巣だ。
同じ竜族に類するゼルが同行しているため、竜たちは見知らぬ者が居ても気にせずに眠りについていた。
「ここは伝説級位階の竜族ばかりが住んでます。天界や魔界に匹敵する戦力と言えるでしょう」
「基本的に竜って何も無い時は寝てるものだけど、ここもそんな感じだな」
「下手に動き回られても困るだろう、こんな連中」
「実際その通りではありますね」
竜族は、一度動き出せば脅威であるものの、普段は眠っていることが多い。
この場所でも同様で、竜たちは各々お気に入りの巣を作ってはのんびりと寝そべっている。
「う~ん、これだけ竜が居ると、相棒に合わせたくなるな」
「アルベルトさんならこうして面通しも済んでいるので、何時でも来てくれていいですよ?」
僕のマイフィールドの竜たちも、別の同類に会うのは嬉しいだろうしね。
とはいえ、万が一の時にはゼルの号令で一斉に動き出して破壊の限りを尽くすだろう。
その猛威は、世界の運営に力を注いでいる七曜神や大魔王達よりも上かもしれない。
僕達は一通り竜の巣を見回り、ついでに脱皮した皮からいくらかの竜素材を確保した後、次の場所に向かうことにした。
「では次に巨人の里に行きましょうか。あちらもここと似た感じ出るけどね」
~巨人族の里~
リアルの四国では存在しない高さの高地に、その巨人の里はあった。
雲の上の住まうという巨人は、その強力な力から場所によっては神に例えられたという。
その彼らの一族とも契約していた僕は、苦労して彼らの住みかを作り上げた。
それがこの雲の合間に浮かぶ山頂の町、巨人族の里だ。
「ここは雲上の巨人族が住まう里ですね。こちらも伝説級ばかりでとんでもない戦力と言えます」
「30m級の巨人がぞろぞろ居やがる……」
そう、この雲間の里に居る巨人は、とにかく巨大だ。
僕の作り上げたギガイアスよりは小柄だけれど、その体躯で生身というのは十分に怪獣じみている。
さらに巨体に見合うパワーと見合わぬ素早さ、そして強大な魔力も併せ持っている。
彼らが炎の巨人族ほどの気性の荒さを持ち合わせていたら、世界は荒れに荒れていただろう。
「竜と巨人はお互いの抑えとなるように配置しているのと同時に、天界と魔界へと続く門の守護でもあります」
彼ら竜族と雲上の巨人族は、元のAEの設定でも天界や魔界へ続く門の守護者を担っていたりするので、秩序側の存在ともいえるのだけれど。
ちなみに、天界への扉はこの巨人族の里の外れに、魔界への扉は竜の巣にある洞穴の一つから続く地下道の先に在る。
僕達はとりあえず天界への扉へと足を踏み入れた。
~天界~
「見ての通り、ここが天界です。主に住まうのは光属性のモンスターや神々、そしてその眷属などですね」
見上げれば、天使や戦乙女と言った存在が上空を行き、彼方此方で聖霊が世界の運営にまつわる仕事に忙殺されている。
天界は古い天国のイメージを再現したような世界だ。
雲の上に様々な様式の神殿が鎮座し、神聖な光が辺りを包み込んでいる。
正直なところ、マイフィールドの中でも天界と魔界は造り込みが甘いのだ。
AE最後の三か月の時期に突貫工事で作り上げた為に、AEに実際にあった天界や天国のイメージを再現した位でしかない。
折角七曜神を直接招いたというのに、彼ら用の神殿などもほぼコピーしたものと言っていい。
とはいえ、そういうものに対して七曜神達は特に文句もなく、そして管理権限移譲後は自力でしっかりとした神殿を立て直してしまった様子なのだが
「おいおい、レベルキャップ開放クエで来た天界まるまるそのまま再現してるのかよ……」
「ちょっとそのまますぎねぇか?」
おかげで、関屋さんやライリーさんから半ば呆れの視線が飛んで来る。
ううむ、一応環境はともかく神殿は僕が改装したわけじゃないと伝えねば。
「住みやすさ優先なのと、亜神は自分で神殿調整できますからね……神殿都市に住人が僕の神殿を立てたようなものなので……」
「ああ、そういう事か。ってことは、一番奥の創造神の神殿もか?」
言われてよく見ると見慣れない神殿がある。
他の神殿と比べても、確かに大きい。
だけど、あの神殿も僕の記憶にないものだ。
ただ、地上の神殿都市のように、僕を崇める神殿と言うわけでもないようだ。
むしろ、元々のAEでの天界にあった神殿によく似ている。
ライリーさんの言うとおり、創造神の神殿だったか。
「やっぱり今回みたいにマイフィールドを一周しておくべきだなぁ……」
後で七曜神達を問いただす必要がありそうだった。
今回は同盟の皆へ紹介だけするつもりだったので天界の奥まで行くつもりはないけれど、僕だけでしっかり確認しておかないといけない場所が増えた気がする。
放置していた結果でもあるから仕方ない。
そんなことを思いながら、僕らは天界を後にした。
~魔界~
一旦地上に戻り、竜の巣から地下道を潜り抜け、巨大な漆黒の門をくぐる。
そこには、如何にもな地獄めいた風景が広がっていた。
暗黒の空、マグマの流れる川、瘴気漂う空気。
僕らや同盟メンバーには悪影響を及ぼさないが、ここは非常に危険な場所だった。
「見ての通り、ここが魔界です。AEの世界観も踏襲しているので、冥界も兼ねていますね」
此処では多くの悪魔族モンスターが、罪人の魂へ罰を与えていたり、また闇属性の力により世界へ刺激を与え停滞し切らないようにしているのだ。
各大罪要素を持つ大魔王達は、この魔界においては悪を為すというよりも地獄の獄卒や閻魔のような役割を担っているのだ。
これが召喚魔法によって呼び出されると悪に加担したりするのだから不思議だ。
もしかすると、ある種の監視や潜入捜査だったりするのかもしれないが。
「流石に殺風景だねぇ……いや、のどかな魔界ってのを期待してたわけじゃないけどさ」
「流石にそこは仕方ないかと……今日は寄りませんけど、七大魔王の居城の中なら整っているのですけどね」
例えば暴食の魔王の居城などは、見事な厨房と食堂に勢を尽くした料理に溢れているし、傲慢の魔王の居城であれば虚飾じみた圧倒的豪華さを誇る。
それらも僕が外で活動している間に大魔王達が自分好みに調整したらしい。
向こうも僕が外で情報収集する理由を理解していただろうから、苦情としては上がって来てはいなかったけれど……
なんとも、マイフィールドの主としては、釣った魚に餌もやらない状態だったと反省するべき状況だったようだ。
まぁ、それはそれとして……これで僕のマイフィールドに関して、同盟の皆に一通り見てもらったことになる。
魔界は危険な場所も多いので、ここで引き上げた方がいいだろうと思う。
「さて、魔界も奥まで行けば危険な場所がありますから、そろそろ戻りましょうか?」
「まぁ、そうだな。見るべきところは見たし、今後用のある所も分かった」
「オレッチは戻り次第ドワーフの坑道で素材掘りだな。まずは素材が無いと始まんねえし」
「俺はヴァレアスともう一度ここに来るぜ。相棒に色んな竜族と挨拶させてやりたいからな」
「わたしはさっきのあっくんの神殿をちょっと見に行きたいなぁ~」
「お願いですから止めてください」
帰りの道すがら口々に、今後の予定を口にする同盟のメンバーたち。
となると…
「僕はどうするかな」
足元を一通り確認したことだし、また外に眼を向けるか、もう少しマイフィールド内を確認しておくべきか。
頭に浮かんでいるプランは幾つかあった。
フェルン侯爵が皇都に招聘されるまでもう少し猶予がある。
この先に何があるか判らない以上、今の内にもう少し動いておいた方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら、僕らは魔界をあとにしたのだった。
マイフィールド内のエリア紹介はこれで終了。
もう少し章間が続きます。