章間 第1話 ~夜光のマイフィールド紹介 北東部~東部~
章間は、夜光のマイフィールドの各地巡りをすることにしました。
大体ざっくりと…
21/12/01セリフのみはざっくりし過ぎていたので地の文追記
フェルン領内への侵攻など、ずっと慌ただしかった状況が、最近ようやく落ち着いてきた気がする。
そこでふと思うことがあった。
「改めて考えると、僕って放置しすぎですよね」
「何が?」
ユニオンルームで状況をまとめていた僕の不意のつぶやきに、ホーリィさんが首をかしげる。
「いえ、自分のマイフィールドを亜神などに任せて外をうろつき過ぎだなと」
「のんびり引きこもれてたら、確かに良かったかもねぇ。でも、色々あったし」
実際、この状況になってから色々あり過ぎた。
腰を落ち着けている間もないほどに。
でも、フェルン領を始めとする外の情報が安定して入るようになってきた今、そろそろ目先を変えてもいい頃かと思う。
「まぁ、そうなんですけどね。それで、一度マイフィールドを確認がてらひと回りしてみようかと。皇都に行くまで少し時間がとれそうですし…」
「あ、面白そう! じゃぁ、同盟のみんなと一緒にあっくんの所のわくわくモンスターランド巡りね!」
「その名称辞めません?」
とはいえ、ホーリィさんの言うとおり、新しく同盟に加わった二人のプレイヤーには、僕のマイフィールドの入場権も付与されるわけで、一度現状把握も含めてお披露目というのも悪くない。
そんなわけで、同盟メンバーへの僕のマイフィールドのお披露目会が決まったのだった。
~転移の魔法陣周辺~
早速集まってくれた同盟のメンバーを引き連れて、ユニオンルームから僕のマイフィールドにやって来た。
案内をするのは僕と完全に勝手を知ってるホーリィさんだ。
関屋さんは既に何度も訪れ、ドワーフの町などの職人と顔見知りの関係だ。
物珍しそうにしているのは、メルティさんを引き連れたライリーさんと、アルベルトさんだ。
アルベルトさんの相方の竜王は、留守番。今回ドワーフの坑道も通るため、あの巨体では通り様がないという判断だった。
僕は同盟の、特に二人の新しいメンバーへ告げる。
「僕のマイフィールドは、大まかな形状と大きさを現実の四国に置き換えてもらうと、想像しやすいです。ここは、僕のマイフィールドの起点、転移の魔法陣周辺ですね。現実の四国で言う、鳴門大橋がある付近と考えてもらえればいいかと」
リアルの四国だと、淡路島へとつながる橋のある辺りが僕のマイフィールドの転移の魔法陣の位置だ。
正確な地形は微妙に違うけれど、大体の形と位置は似通っている。
実際、マイフィールドの広げられる最大値が四国程度と聞いて、地形生成の参考にしたのは事実だ。
「へぇ、ここがお前さんのマイフィールドねえ……いや、マジで広いなっ!? どんだけ課金したんだよ…」
「うへぇ、あの山の方の群れの影、よく見たら飛竜じゃないか!?」
その広大さに、流石に驚きの色を隠せない二人。
遠くの山地上空を飛ぶのは実際飛竜の類だ。あの付近は風属性の竜族の巣がある。
とはいえ実際に見に行くのは先の話だ。島の中央部は順番としてかなり後の方になる。
「あはは、まぁその辺りは追々…実際の地形と違って、見ての通り海に突き出た岬は切り立った断崖になっていて、上部はなだらかに島中央に向かっていく草原になっています。今は転移の魔法陣周辺を偽装したせいで、監視拠点も作られていますけど、元は何もありませんでしたよ」
振り返った転移の魔法陣付近には、しっかりとした石造りの建物が建っている。
枯れたマイルームへの偽装と外からの侵入者の監視と防壁を担う砦だ。
常にゲーゼルグ配下の竜人や、幻覚などを駆使するリムスティア配下の上位悪魔や夢魔が詰める重要拠点になっている。
砦を見たライリーさんたちの反応は様々だ。
「オレっちのところも、早々に偽装できてりゃぁなぁ…」
「俺の所で偽装は無理だな。俺生産職じゃないし」
「お前さん等の所は、今更偽装しても無駄だろうしなぁ……まぁ、門は閉じてユニオンルーム経由ってのは結構便利だとは言っておく」
色々思うところがあるらしい二人に、関屋さんが告げる。
実際、下手に外とかかわりを持たなくても、ホーリィさんの所の神聖都市と僕のマイフィールドと、関屋さんの商店街とでつながっていれば、そう不自由はないだろう。
ライリーさんは軽く首を振り、気を取り直すように周囲を見回した。
「やはり初動が肝だったか……あん? 崖の下の方で何か跳ねたぞ?」
「ああ、付近の海にすむ水棲系のモンスターでしょうね。人魚や半魚人に、この辺りだと大渦海魔もですね。もう少し沖に行くと大蛸魔とかの類や魚類系モンスターも居たはずです」
マイフィールドの中核をなす島の周囲の海は、ティムした水棲モンスターの宝庫だ。
岬先端の直下には、常に大きな渦がいくつも渦巻いている。
ここ北東部には人魚の集落があり、南方の海底には水底宮という半漁人の町もある。
水属性の素材には事欠かないのは確かで、職人の関屋さんも気になるようだ。
「…そう聞くと釣りをしたくなるな」
「巨鮫魔なんかも居ますので、あくまで自己責任でお願いします」
まぁ、周囲の海を広範囲に泳ぎ回る肉食の上位モンスターも居るわけだけど。
その手で実際に経験のあるホーリィさんはあっけらかんと笑う。
「あはは~、私も前に釣りをさせてもらって、海坊主を釣り上げちゃったのよ~」
「何やってんだよ神官の姉さんは」
アルベルトさんがあきれ顔だ。
とはいえ、釣りをするとなると何が釣れるかわからないのは事実であったりする。
さて、この付近で立ち尽くしていても仕方ない。
先ずは転移の対象にしやすい最寄りの町に行こう。
「あはは……程々にお願いします。ともあれ、ここは本当に玄関みたいなものですよ。それじゃぁ、まずはこの先の町に行ってみましょうか」
岬から続く道の先にある町。
僕のマイフィールドの玄関町とも言えるアイワナの町に。
~NPC町アイワナ~
アイワナの町は、そこそこの活気がある。
位置としては、リアルの四国で言う徳島の中心部を思い描くといいだろう。
転移目標となる石碑を中心として、四方に主要路が伸び、かつてのAEを思わせる街並みが広がっている。
「ここが、僕のマイフィールド、の北東から東部にかけての地方の中心部、アイワナです。ここに住んでいるのは、PCで選択できる種族が主ですね。人間型で、なおかつティム出来るタイプのモンスターがここに住んでいます。とは言え、エルフやドワーフといった種族はもっと住みやすい場所で町を作っていますけど」
僕の説明に、ライリーさんが呆れたように周囲を見回す。
「……普通に町なんだが。ナスルロンの連中の町よりよっぽど栄えてるぞ……ん? よく見たら店は販売系NPCのデフォルトとかだな」
「ちょいと前に来て、一通り確認させてもらったが、強力なマジックアイテムは無いとはいえ、結構な品揃えだ。うちの商店街には負けるが、普段使いならそこそこだな」
ライリーさんの言うとおり、ここで売られているのはAEのマイフィールドに設置できるNPCから買える標準的なアイテムばかりだ。
主に通常の消耗品ばかりで、関屋さんの商店街で売られているような強力なマジックアイテムや装備はない。
とはいえ、戦闘が絡まないなら、ここにある品で十分やっていけると思う。
「この辺は雰囲気づくり重視ですね。現状だと全員僕のティムモンスターですけど、ずっと自由行動で放置してますから、割と状況を把握できていなくて……マイフィールドの様子をちょくちょく見に来るホーリィさんが言うには、たまに掘り出し物も売られているとか」
街並みを歩きながら、皆に説明する。
僕はNPC達が意思を持ち始めてからずっと外の世界に出ずっぱりだったので、正直なところこの町がどういう変化を遂げているのか全く把握してない。
ちょくちょく遊びに来ていたらしいホーリィさんの方が詳しいくらいだろう。
「お! 屋台もあるぜ! なぁ、夜光さん、ちょっと買ってきていいか?」
「あ、それなら全員分をお願いします。代金はあとで同盟口座から持って行ってください」
アルベルトさんが指示した屋台も、僕は全く記憶がない。
えっ、何でタコ焼きの屋台があるんだ? その奥にあるのは徳島ラーメン…? なにそれ!? そこまで四国化した記憶無いんだけど!?
辛うじて平静を保ちながらアルベルトさんに返答すると、彼は勢いよく屋台へ走っていった。
「了解!任せてくれ! おーい、そこのおっちゃん…!」
「飯屋も完備か……いや、都市系マイフィールドは突き抜けるとこうなるとは知ってたがなぁ…」
ライリーさんもどこか呆れ気味だ。
何に対して呆れているかは判らないけれど。
「割と設定大変だったんですよ? ここ以外にも町が多いですし…」
「そりゃそうだろうなぁ…」
町を作り上げた関屋さんやホーリィさんがしみじみ同意してくれる。
実際設定しなければいけない項目が多くて大変なのだ。
まぁ、苦労話は冗長になるので、ここまでにしよう。
僕は町の周辺に関しても話を広げる。
「ああ、そうそう。この近辺は主に平地で、平地型モンスターが放し飼いになってますね。特に草食動物系のモンスターが多いです。あと、この付近の山側の高地の方には山巨人や大鬼、丘巨人に妖鬼系の集落がありますよ。」
「手広くやってるなぁ、相変わらず」
傾向として、沿岸部から内陸に向かうほどに配置しているモンスターの位階が高くなるようにしている。
配置しているモンスターの多彩さに、関屋さんも舌を巻いていた。
そこに、アルベルトさんが戻って来た。
両手にはタコ焼き以外にも色んな屋台料理の包みが山盛りだ。
「お待たせ! 色々買って来たぜ! いや~、久々に食うものばかりで目移りしちまったぜ」
「あら美味しそう! うちの神殿は奇跡で聖餐を作れるから飢え知らずなんだけど、どうしても単調になっちゃうから、ここのご飯が有難いのよね~」
「それでいいんですか、女教皇の称号持ちが」
「今はそこまでの位階じゃないからイイのよ」
僕たちは屋台料理に舌鼓を打つ。うん、ここしばらく外の世界のいろいろと残念な料理で忘れかけていたけれど、元の世界の料理は旨い。
同盟の皆も喜んで食べている
「ちくしょう、うめぇじゃねぇか……ほれ、メルティ。お前も食え」
「いただきます、マスター」
「くそっ、見せびらかしやがって……俺もヴァレアスに土産を買っていかないとな」
仲睦まじいライリーさん達を羨ましげに見るアルベルトさん。
そこに、関屋さんが思い出したように護符を手渡した。
「おお、そうだ。お前さんに渡す物があった。<化身の護符>だ。お前さんの相棒に渡しとけ」
「あ~ヴァレアスにか……」
「外の世界では竜の姿は目立ちますし、人サイズの方が色々と動きやすいでしょうから、お勧めしておきます。ゼルの正体もバレなかったので、偽装面でも優秀ですよ?」
実際、ゼルが化けた傭兵ゼルグスは、全く外の世界の住人に正体を悟らせなかった。
その偽装効果は本物だ。
あの巨大な竜王にしても、うまく人化してくれることだろう。
「まぁ、しょうがないか……わかった。戻ったら相棒に渡しておく」
「ええ、お願いします。さて、この街ではかつてのAEの中堅クラスの拠点レベルの施設が揃って居るので、良ければ、利用してくださいね。同盟メンバーならフリー状態に開放しておきますから」
僕の言葉に、ライリーさん達は嬉しそうだ。
二人のマイルームはルームレベルなので、不便さはこれで解消されるだろう。
「そりゃ有難い。うちはラボ機能に特化しすぎてるからなぁ…」
「うちなんて俺の部屋と相棒の寝床ぐらいだぜ」
「まかりなりにも都市なうちの神聖都市と関屋さんの所はマシなのねぇ」
フィールドレベルのホーリィさんと関屋さんの所は、実際ある程度自給自足が可能だったことを考えると、各個人の格差はかなりのものだ。
まぁ、こんな状況になるとはだれも思わなかったんだし仕方ないけれど。
「ああ、そういえば墓地も併設して居まして、そこにはアンデッド系モンスターも配置していますけど…」
「見る気にはなれねぇよ。この辺のを見てるとわかるが、この近辺に居るモンスターは下級がメインだろ? 下級のアンデットは実体化したら匂いがヤバそうだ」
言われてみればその通りなので、あえての案内はしないでおこう。
スケルトンはともかく、死体系はライリーさんの言うとおりだ。
「ああ、確かに……まぁ、それはそれとしましょう。次は海岸にそって南下して南部エリアに向かいましょう。ご指摘の通り、そちらには中級位階のモンスターを配置していますので」
「よし来た、行こうぜ!」
ともあれ、一通り北東部から東部にかけての説明を終えた僕は、次に向かうエリアを告げる。
次は、南東部から南部。現実の四国では高知にあたるエリアだ。
~南東部へ~