第18話 ~巨神の舞踏~
リアル系VSスーパー系
一言で大規模戦闘用の魔像と言っても、作り手によりその特徴は大きく変わる。
ライリーの作り上げた伍式迅雷は、頑強な神鉄による竜の牙爪にさえ耐えうる装甲と、背面の炎と風の精霊石を消費しての圧倒的な機動力が特徴だ。
攻撃の面では、先の夜襲においても使用した陽属性の光刃剣。そして今展開している各魔法装置による遠隔攻撃。
誰でもない今向かい合っている超合金魔像の乗り手の夜光から融通された精霊石により、その全てが全力稼働可能な状態となっていた。
ライリーは噴煙を上げながら迅雷を突進させながら、手始めに遠距離用武装を起動させる。
「まずは挨拶代わりだ! メルティ、噴進爆槍全弾発射!」
「了解しました。目標ロック。発射します」
展開していた肩の装甲の下からむき出しになった無数の槍、それが噴煙を上げて巨大な魔像へと突き進む。
巨体だけに狙いをつけるのは簡単だ。そこを更にオペレーターのメルティが修正し、的確に関節部などの要所へと集中させる。
ライリーの目には、あのギガイアスの関節部にも神鉄が使用されていると見抜いている。
しかし、可動部は幾ら強化しようが魔像全般の急所である。
当たれば相応のダメージがあるはずだ。
特に負担の多い脚部の関節各部に殺到する噴進爆槍。
命中を確信したライリーは、次の瞬間眼を剥いた。
「なっ!? ウッソだろオイ!?」
無数の噴進爆槍が突き刺さったのは、大地にだった。
あの魔像があのタイミングで噴進爆槍を回避した、それは良い。問題はその避け方だ。
肩口から突如吹きあがった爆炎が、あの巨体を横殴りにズラしたのだ。
それどころか、一瞬位置をズラしたのち、猛然とライリーへと突っ込んできた。
「あのデカブツをあれだけ横にぶっ飛ばせるとか、どんだけ炎と風の精霊石積んでんだ!? 馬鹿じゃねぇのか!?」
相手の余りのお大尽戦法に罵るも、相手は待ってくれない。
横跳びに動くよりも更に勢いのある突進は、容易く彼我の距離を0に縮める。
「くそったれぇっ!」
外界表示いっぱいに広がった巨大な拳を、こちらも側方噴射で軌道をずらし、避ける。
避けたはずだった。
「マスター!」
「どうなってやがるッ!??」
次の瞬間再度外界表示に広がった巨大な腕部に、ライリーはとっさに下方への噴射で飛び上がり、難を逃れた。
そこで、ようやく今何が起きたのか、ライリーは理解する。
あの巨大な魔像は、突進し繰り出した拳を躱わされたと見るや、瞬時に身をひねって裏拳を叩きつけてきたのだ。
「有り得ねぇ…身軽過ぎだぞ。もしかしてあのデカブツ、格闘系の称号持ちか!?」
上空から見下ろす超合金魔像は、裏拳がかわされたれたと見るや、既に大地を踏みしめ勢いを殺し、上空のライリーたちを見据えている。
あの巨体にして、恐るべき機動性と敏捷性であった。
だとしてもと、ライリーは笑う。
同時に、ズズン…と巨大な重々しい音が響いた。
裏拳として振るった巨像の左手、それが大地へと落下したのだ。
神鉄魔像は、巨大な裏拳を飛びあがりかわす間に、光刃剣の振り上げを以てしてその手を切り落としたのだ。
見る者が見れば、切断されたのはそのほとんどが使用素材として比較的強度の落ちる真銀が使われた箇所だとわかるだろう。
恐るべき切れ味と、同時に相手の各部の材質を見極めたライリーの技量であった。
「どうだい、この切れ味。やっぱりオレっちの迅雷シリーズは出来が違うってな」
「流石です、マスター!」
「もっと褒めろよメルティ! …あん?あいつ何やってる?」
勝ち誇るライリーとメルティだが、巨像が大地に落ちた手を拾い上げるのを見て、いぶかしげな声を上げる。
更に巨像が切り落とされた部位を繋ぎ合わせるのを見るに至り、焦りの声を上げた。
「はぁ!? 何で繋がる!?」
「マスター、対象のスキルの発現を確認しました。格闘系称号が扱える自己治癒スキルと、内部からの回復魔法、同時に創造術師系のスキルによる物品への回復魔法可能化の併用のようです」
「めんどくせぇやり方やってんなぁ!?」
ライリーは、自身の作ったものなら材料さえあればその場で即座に魔像の修復を成せるスキルを持ち合わせている。
その分他の多少迂遠な方法は忘れがちであり、この場合まさしくそれが該当した。
「つまり、あれか? 下手なダメージは回復スキルで無効化されるのか? 詐欺くせぇな!?」
「解析します。予想回復不能分岐点は……半壊程度の損害が必要のようです」
「あのデカブツを半殺しにしろってか!」
中々に無茶な条件を言い出すパートナーに思わず天を仰ぎたくなるライリーだが、相手は待ってくれない。
「マスター!」
「アブねぇっ!?」
相方の悲鳴に、とっさの回避行動が間に合った。
ほんの数舜前まで繋げた手の様子を確かめていたらしき相手の魔像が、予備動作無しに飛びあがると、突き上げるようなアッパーを放ったのだ。
これにはカウンターの光刃剣も間に合わず、慌てて距離を取ろうとするライリー。
だがまだ超合金魔像の動きは止まっていなかった。
空振りした腕の逆の側、引き絞られた拳が突き出されると同時に、炎を上げて突き進んできたのだ。
「噴進鉄拳かよ!」
何故か大型の魔像の定番とされる武装がうなりを上げて襲い来る。ご丁寧に拳と腕が逆回転に稼働する螺旋仕様だ。
「舐めるなっ! グォッ!?」
「きゃぁっ!!」
伍式迅雷の上半身に匹敵する大きさの飛ぶ拳を迎え撃とうと光刃剣で切りかかるが、猛烈な回転により弾き飛ばされ、姿勢の制御を失う。
荒れ狂う外界表示の一瞬に、アッパーを空振りした方の腕をもう片方と同様に突き出そうとする姿を確認したライリーは、とっさに命令を下した。
「子機分離だ! 時間を稼がせろ!」
「りょ、了解!!」
主の声にメルティが応えると同時に、伍式迅雷の背中に生えた翼が本体より分離した。
今まで折りたたまれていた各部を展開した翼は、左右別個の鳥を模した魔像となって超合金魔像に飛来する。
良く見れば、その嘴は光刃剣と同種の光を帯びている。
装甲の薄い場所などに突き立てれば被害は必至に思われた。
小回りの利く子機の飛来に、振りかぶった拳を魔像は取りやめる。
代わりに為したのは、戻って来た拳の接続。
更には、揃った両腕を胸の前で向かい合わせる奇妙な構え。
「マスター! 対象の放射エネルギー、急速上昇!」
「やべっ! 子機も守備に回せ!」
意図を理解するが早いか、ライリーは防御機構でもある子機を慌てて呼び寄せた。
しかし間に合わない。
瞬間、衝撃が仮想世界に走る。
巨大魔像の両腕に仕込まれた衝撃発生装置<破軍衝>を打ち合わせることによる全包囲攻撃が、放たれたのだ。
近距離に居た子機は衝撃で可変部分がばらばらになり、崩壊。
迅雷も吹き飛ばされ、少なく無いダメージを受けていた。
「各部チェック完了しました。関節部への負荷が2割ほど。子機自動復旧まで1時間は必要です」
「やってくれるなぁ……とはいえあんな衝撃を自分の前の前で発生させたんだ。奴も無事じゃぁねぇだろ?」
「……回復スキル等で再び修理されているようですが」
「ああ、そうだったな! 忘れてたよ!!」
メルティの言うとおり、相手は発生させた衝撃波により自身にも被害を及ぼしていたが、同時に防御魔法と使用後の回復魔法などで完全に回復していた。
「まずいな。このままだと流石にじり貧だぞ」
事ここに至り、ライリーは覚悟を決める。
あの魔像は強敵だ。
多少のダメージではものともせず、あの巨体に反して身軽かつ機敏であり、圧倒的な質量からくる攻撃は神鉄魔像の防御すら衝撃で貫いてくる。
生半可な攻撃をしていれば、遠からず擦り潰されてしまうだろう。
ならば、どうするか?
「メルティ。超過駆動だ。あいつの目にも止まらない速度で一気に飛び込んで勝負を決めるぞ」
「畏まりました、マスター。超過駆動モード、起動します。強制排出までカウントダウン開始します」
「さぁて、博打と行きますかねぇ!!」
意を決した作り手の声に応え、伍式迅雷は魔法装置の過剰駆動による方向を上げる。
白銀の鎧は溢れるエネルギーから赤熱し、真紅に染まった。
そして、その姿が掻き消える。
恐るべき、高速機動が為されたのだ。
「ギガイアス、防御態勢!! 止めろ!!!」
僕は、外界表示に写された真紅の神鉄魔像をみて、瞬時に叫んでいた。
瞬間、目の前に輝く刃があった。
「ご主人様!?」
「大丈夫だよ、マリィ。ギガイアスが止めてくれた」
ギガイアスの装甲を突き破り、僕の目の前にまで突き入れられた光る剣にマリィが悲鳴を上げる。
今の一瞬で接近し、僕が居るこの席めがけて陽属性の大型剣が突き入れられたのだ。
とっさに防御を命じていなければ、僕はギガイアスの中心諸共、貫かれて絶命していたかもしれない。
恐るべき切れ味だった。
僕はもとより白い肌を更に蒼褪めさせるマリィに微笑みかけて安心させる。
実際内心では心臓が止まるかと思うくらいに怖かった。
あの一瞬で相応の間合いがあったのを0距離まで詰められるなんて、なんて機動だろう。
とっさにギガイアスが白羽取りに受けてなお、ここまで剣を突き入れられてしまった。
だけど、とおもう。
「焦り過ぎたんじゃないですか? ライリーさん」
折角の高速機動が、突き一回で止められてしまっている。
更には白羽取りに刃を受けているので、逃げようにも逃げられない。
あの神鉄魔像は何時もこの剣を持ち歩いていた。
傭兵として潜入している際にもそれは確認した。
つまりこの光刃剣の切れ味の秘密は、本体一体型であり常時本体からの力の供給を受けていることにある。
こうやって剣を止めてしまえば、必然的に本体も捕らえたことになる。
もし焦った結果の突きではなく、高速機動を維持したままの無数の斬撃だったら、さしものギガイアスも回復が追い付かずにボロボロにされていたかもしれない。
だけど、ここまでだ。
「ギガイアス、<破軍衝>膝! マリィ、破損個所全力回復!」
「判りましたわ、ご主人様!」
命じられるままに、マリアベルは一瞬で貫かれた各部の回復にかかり、超合金魔像は足を振り上げる。
離脱せんと足掻く赤熱の魔像へ、巨大なメイスの如き膝が叩き込まれ、同時に両膝にも仕込まれた衝撃波発生機構<破軍衝>が、うなりを上げた!
結果神鉄魔像は上方へ吹き飛ばされ、未だ固定されたままであった光る剣は、頑強なる腕から余りの負荷にねじ切られたのだ。
破断個所から火花さえ散らして宙を舞うライリーさんの伍式迅雷。
だが武器を失っても搭乗者の闘志は消えてはいない様だ。
展開され、未だ使われていなかった内蔵武装が僕達に狙いを定めるのを感じる。
だから、僕はギガイアスに命じた。
「ギガイアス! 捕縛だ! 巨人圧壊!!」
ライリーさんが最後の力を振り絞る前に、ギガイアスが神鉄魔像を追って天へと舞い上がる。
逃げようとするライリーさんの機体を捕まえ諸手で抱えると、全力で締め上げ始めた。
この距離で内臓魔法装置を起動させようものなら、ライリーさんも共倒れだ。
そして、頑強な神鉄であろうとも、単純なそして圧倒的な質量と圧力にはそうそう耐えきれるものじゃない。
今は何とか耐えているけれど、徐々にその装甲が歪み始めている。
こちらも向こうの赤熱化の影響で各部に被害が出ているけれども、そこはマリィの回復に頼るしかない。
ここは根競べになるか……そう思っていると、ユニオンリングから声が聞こえた。
「あ~、もう、やめだ! 降参! もう十分だっての!!」
「あ、もう良いんですか? こっちもちょっときついので粘られるとどうなるか判らないのですけど」
あ、降参してくれるんだ。有難い。
正直に言うと、ギガイアスの前面を剣で貫かれたせいで、ライリーさんの機体の赤熱化の余波が熱くて仕方ない。
マリィが回復と同時に炎熱防御の魔法も併用して居なかったら、こっちから降参を言い出してもおかしくなかったくらいに熱かったのだ。
同時にちょっとだけ声に焦りのあるライリーさんの声に僕は首を傾げる。
「こっちもヤバイんだよ! オーバーロードは機体内部にも熱がこもるからこっちも地獄だ、焼け死んじまう! おまけにそっちに締め上げられてるせいで強制排出も出来そうもないときた。オレっちはいいがメルティを蒸し焼きにはしたくないんだよ!」
そういう事かと納得する。
僕はギガイアスに命じて、締め上げを解かせた。
するとあの迅雷という魔像から勢いよくライリーさんとメルティさんが飛び出してきた。
「あちっ熱っ! 誰だこんな設計したやつは!」
「マスターですわ…」
「そうだよオレッチだよ! 何考えてやがったオレ!?」
余程熱かったのか、イベントリから飲み物を出しては頭からかぶっている。
…勝負がついた以上、ここは同盟メンバーとしてマリィに回復を頼むべきだろう。
ふと視線を感じ振り返ると、ゼルやここの、そしてアルベルトさん達が上空から降りてきていた。
こうして僕たちは、二人のプレイヤーに勝利を収めたのだった。