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第12話 ~創造者への誘い~

「っふぃ~…やれやれ、一晩で1万ちょいも削られるたぁやってくれたよな…補充するにも一苦労だっての」

「お疲れ様ですわ、マスター」


 竜王の襲撃から一夜明けたナスルロンの陣地では、片眼鏡の男ライリーが眠そうにしながら爆榴鎧兵(グレネード・ゴーレム)の補充にいそしんでいた。

 爆榴鎧兵は神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)のような手塩にかけて作り上げる魔像ではない。

 <創造術師>系列の称号持ちが行使できる大規模戦闘専用魔法の産物だ。

 材料になる鉱石から金属へ精錬する過程が必要になるが、一度の<爆榴鎧兵創造>の魔法で一定数まとめて作成できる。

 さらにライリーは<創造術師>系列の最上位称号<創造者(ザ・クリエイター)>を持ち合わせているため、一度に数百は作成でき、更に月単位で維持することが可能なのだ。


 昨夜の襲撃で数を減らした爆榴鎧兵は、ゆっくりとしかし確実に補充されていく。

 ナスルロン連合は昨夜の襲撃で物資に多大な被害を受けているため、当面は進軍できない。

 その関係上、ライリーの補充作業もゆっくりしたものだ。

 どの道、爆榴鎧兵の素材となる鉱石の多くも先の襲撃で川底に沈むなりしていたため、急いだところで作れないのだから。


「とはいえ、見世物じゃぁ無いんだよなぁ…」

「彼らにとってはマスターの行いは驚愕するしかないでしょうから、注目されるのも無理は無いかと」

「わかってるけど、鬱陶しいじゃんか」


 面倒そうにつぶやくライリーの様子に、遠目から窺っていたナスルロンの諸侯の兵や傭兵たちが視線を外す。

 元々ライリーが爆榴鎧兵の作り手と言う事実は、情報隠蔽の面もあり明らかにされていなかったのだが、昨夜の一戦とこの修復作業で連合軍内での知名度を一気に高めていた。

 今も爆榴鎧兵を一度に数百体一気に生み出すのを見られていたのである。

 しかし同時に彼に近づく者は居ない。

 重要人物である為万が一が起こらぬよう不用意な接近を禁じられているのと、その恐るべき異能に畏怖されているのだ。

 ライリーに近づこうとする者など、彼の世話をする女中姿の者と、連絡役のホッゴネル家の者位だ。

 故にライリーは、休憩とばかりに自分の天幕に戻るとすぐに異常に気が付いた。

 連絡役以外に誰も近寄らないはずの天幕の傍に何者かが居ると。


「マスター、敵意の判定はありませんが、お下がりを」

「ああ、万が一の時は頼むよ…出て来いよ、用があるんだろ?」


 自身の護衛でもある女中(メイド)への信頼は厚い。

 彼女を頼りに声をかけると、傭兵らしき姿の者たちが現れた。


「そうねぇ。ちょっとお話したいと思ってるわよぉ?」

「そのためにここに来たんですからね」


 見たところ子供の体格の魔術師風と、メイス使いの女戦士。

 他にもそれらしく偽装した連中が後方に何人か。

 ライリーは、自慢の自作解析用マジックアイテムである片眼鏡からの情報を見るまでもなく、彼らの正体に気付く。


「って、お仲間か!? あ~そりゃ傭兵やるやつもいるよなぁ…」


 装備からして、判る者には判る純正AE仕様だ。

 この世界の職人が真似て作った品とは明らかに違う。

 ライリーは仮にも<創造者(ザ・クリエイター)>をやっているのだ。その程度は容易く見通せる。

 女子供の姿も、かつてのAEのアバターなら珍しくもない。


「初めまして、夜光と言います。こっちはホーリィさん」

「よろしくね~」


 友好的に見える御同輩に、ライリーは内心警戒しながら名乗り返した。



「オレッチはライリーだ。ま、よろしくな! こっちは俺の嫁のメルティだ」

「メルティで御座いますわ、皆様」


 僕達の前には、片眼鏡とツナギに似た装備を身に着けた<創造者(ザ・クリエイター)>が居る。


【名称】ライリー

【種族】人間/英雄/超人/半神

【位階】伝説級:100

【称号】<創造者(ザ・クリエイター)


 当然のように伝説級:100のカンスト勢だ。

 ライリーと名乗った彼と、嫁と紹介されたメイド服の女性。

 でもまぁ、判る。凄いな。かなり徹底的にカスタマイズされてるけど、この女性、魔像(ゴーレム)の一種だ。

 多分ホムンクルス系の半生体素材まで使ってるから、このライリーって人は<錬金術師>の最高峰<三重至高錬金師(トリスメギストス)>の称号まで持ってると見たぞ?

 でもちょっと待ってほしい。この意識に浮かぶ情報表示は何だ?


【名称】メルティ

【種族】人形(ドール)/女中人形(メイドール)/生体女中人形(リビングメイドール)/俺の嫁(マイラブ)

【位階】伝説級(レジェンド):100

【称号】<完璧女中(パーフェクトメイド)


俺の嫁(マイラブ)!?」

「いいだろ、オレっちが手塩にかけて仕上げたパーフェクトなメイドロボ! 俺の嫁(マイラブ)と呼ばずに何て呼べばいいんだ?」

「ご紹介の通り、私メルティは、マスターの嫁です」


 誇らしげにメルティと呼ばれた彼女はそう名乗る。

 これは中々に濃い二人組のようだ。

 とはいえ、何となくライリーさんのノリには好感が持てる。

 僕だって、リムやマリィにここのを嫁と言えるレベルで手をかけてきた。

 照れや実際に生身同士で直面すると、自分の好みや性癖を突き付けられているようで対応に困るけれど。

 そういう意味で、臆面もなく自分が徹底的にカスタマイズした存在を誇示できるというのは、ある意味羨ましい。

 ふと視線を感じて振り返ると、僕の仲魔それも女性陣が何処か羨ましそうな、自分たちも紹介してほしそうな視線を送ってきている。

 もちろん、そのあからさまな視線は目の前のライリーさんにはバレバレだ。


「アンタの仲魔も中々の造形じゃねぇの…へぇ、吸血鬼に淫魔の魔王に九尾の狐たぁ判ってるな」

「そうやってつぶさに皆を見られるのは、なんだか恥ずかしい気もしますが…」

「いやいや、わかるぜ~男のロマンってやつだよな!」


 ライリーさんはなんだか妙になれなれし気に僕の肩に手を乗せて、全部わかっているとでも言いたげだ。

 僕は仕方なく仲魔たちを紹介する。

 まぁ実際筒抜けなのは確かなのだが、何か負けた気がするのは気のせいだろうか?

 いや? 負けたのか? 負けでいいのか、これは?


「もう、やっくんってば! そう言うお話に来たわけじゃないでしょ~?」

「あっと、そうだった。今回は仲魔談議に来たわけじゃ訳じゃなくてですね…」


 いかん、完全に流れを持っていかれていた。

 僕は居住まいを正すと、ライリーさんを見据える。


「単刀直入に言います。僕達の同盟(ユニオン)に加わりませんか?」

「んん? 同盟って、ユニオンリングはオレっちも持ってるが機能してないが?」

「この状況で新たに同盟を作ったら使えるようになりまして…」


 僕はライリーさんに事情を説明する。

 今日来たのは、もしこの連合軍に僕たちと同じプレイヤーが居るのだとしたら、僕たちの同盟(ユニオン)に参加してもらおうと考えたからだ。

 この見知らぬ世界では、同じ元プレイヤー同士で連携する方が安全だ。

 個々の方針などは色々あるだろうけど、例えば外の世界に関わらないとしても各マイルームだけでは現状自給自足は困難だ。

 だけど僕のマイフィールドはそう言った要素を補って余りある。

 広大な島では今でもAE由来の素材を安定供給できるし、食料の調達も十分可能だ。

 今僕達の同盟:迷子達(ロスト・チルドレン)は、僕のマイフィールドの素材で関屋さんの商店街がアイテムを作り、また救急要員としてホーリィさんの聖騎士団が動くという連携関係を構築できている。

 そしてその協力関係を今後新たに見つけたプレイヤーと共有して広げていきたいと僕は考えていた。

 しかし、ライリーさんは首を横に振る。


「ああ? こっちにも事情があるっての。あんたら、今の話を聞くとフェルンとかいう連中とつながりがあるんだろう? 今オレっち達は、あのオッサンを裏切れねえんだよ」

「…何か人質にでも取られているとか?」

「似たようなもんだ。オレっちのマイルームの工房のかなり深くまで抑えられちまってな…この戦争に手を貸せば、兵を引くんだってさ。あそこにはまだ作りかけの魔像とか色々あるから荒らされるわけにはいかないのさ。だから今は従ってる訳だ」


 割と深刻な状況だった。なんでもライリーさんは、この世界に来た当初アバターが肉体となった事に驚いていたそうだけれど、直ぐにメルティさんと会えた事で気をとり直したらしい。

 幸い一種の生産職だったため各種素材の在庫は十分。

 飢えの心配もなかった彼は、とりあえずAE2への移行に向けて製作中だったメルティさんの妹に当たる女中人形(メイドール)の調整をしていたらしい。

 だが、そこで外からホッゴネル伯爵の兵が大量に押し寄せて、彼の工房を占拠されてしまったのだと。

 メルティさんが応戦したなら撃退も可能だったはずが、運の悪いことに此方も魂を得たことによる影響の調査の為に停止していたようだ。

 そうやって工房を抑えられたライリーさんは、ホッゴネル伯爵への協力を約束されてしまったと。


「でもこの先、いつまでもそうしていられないでしょう? それに、ホッゴネルっていう人が、戦争が終わったからって大人しくライリーさんの工房を開放するかと言えば…」

「くそっ、嫌なところ突きやがって……じゃぁオレっちにどうしろっていうんだ?」


 そう返してくるライリーさんに、僕は提案する。


「とりあえず、この戦争は終わらせましょう。ちょっと小耳にはさんでいる情報もありますし、案外直ぐに終わると思いますよ?」

「ああ? どういうことだ?」


 僕は、将軍をしているゲーゼルグ、そして遺憾ながらも傲慢(アロガンス)から仕入れた情報をライリーさんに伝えた。

 目を見開くライリーさん。


「そういう事なら、確かにこの戦いはすぐに終わるな。とは言っても、ホッゴネルの連中はそれでも侵攻を強行するかもしれないぜ? そしたらオレっちも動かなきゃいけねぇ」

「でもライリーさんが次に動くのは、あの竜王を抑える役目になるでしょう? それなら、コレを使ってうまく言い逃れができると思いますけど?」


 僕が取り出したのは、『任意の空間で大規模戦闘を可能とする』効果を持つ<見果てぬ戦場>。

 ライリーさんはそれを見て、僕の意図をおおよそ察したようだ。


「ははぁ…<見果てぬ戦場>ねぇ…まぁオレっち達プレイヤーがガチでドンパチしたら、フェルンだかの連中もナスルロンの連中も皆ミンチになってもっとヤバイことになるだけか…わかったぜ。その話には載ってやるさ」


 とは言え竜王騎士の側には、まだこの話は通していない。

 彼はフェルン側に居るという事で何時でも接触が可能なだけに後回しにしていたのだ。


「竜王の彼にはまだ状況を話していないので、ことによると大規模戦闘専用空間(ウォーフィールド)で戦いになってしまうかもしれませんけど…」

「アンタだって俺の伍式迅雷を見ただろ? あいつが居れば俺は負けねぇよ」


 自信ありげなライリーさん。

 確かに、あの神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)は凄い。

 でも、と僕は思う。

 僕のギガイアスだって負けてない。

 そして僕はつい口を滑らせてしまったのだ。


「確かに凄いですよね、あの神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)。僕も手持ちに50m級の超合金(ハイブリッドメタル)魔像(ゴーレム)が居ますよ…どっちが強いのかなぁ?」

「そりゃあオレっちのに決まってるだろぉ? ……いや待て、超合金魔像!? それも50m級!? オイオイ待ってくれ、そりゃ面白そうじゃねぇの!」


 うん? ライリーさんが食いついてきた。

 いや待ってほしい。

 ほら、ホーリィさんだって、ここは穏便にね? って顔でこっち見てるし。

 それに…


「そりゃあ、実際戦ったら僕のギガイアスの方が強いに決まっていますし、言うまでもないと思うんですけど?」


 僕は自信をもって宣言する。

 ちなみに、他の僕の仲魔達とメルティさんは、何故かいつの間にか女子会を始めていた。

 ちゃっかりホーリィさんもそこに参加している。いつの間に。

 ゼルだけは女子会に参加できずに手持無沙汰にしているのはちょっと哀れだ。

 たまにこっちに生暖かい視線が飛んできているような気がするけど、ここは引けないのだ。


「言いやがったなこの野郎! よっし気が変わった、その挑発乗ってやるよ! そのギガイアスってのがオレっちの伍式迅雷に勝ったら同盟だろうと何でも入ってやらぁ!!」

「言ったなコイツ! 僕のギガイアスの方が強いに決まっているだろ! じゃぁ僕のギガイアスが負けたら、盟主の座を差し上げますよ! 僕は貴方の下につきます!!」

「応! 決まりだ!! それでいいぜ!! …ううん? ちょっと待て、今なんつった?」


 一瞬あっけに取られた顔をしたライリーさんは、しばらく僕を見つめる。

 僕は笑顔で返すだけだ。


「言質は取りましたよ? 僕が勝ったら、ライリーさんが僕達の同盟に参加する、ライリーさんが勝ったら、同盟の盟主になる、そうでしょう?」


 いやぁ、勢いって怖いね。

 僕もこんな話の流れにする気は無かったんだけどなぁ…魔像(ゴーレム)使いとして、どうにも引けなかったのだ。

 当たり前だ。自分の仲魔を最強と信じられないならテイマー職なんてやってない。それはそれとして、現状の同盟のリーダーとして保険は必要なのだ。

 


「くっ…ははっ、ははは! メルティとずっと二人で生きて行ければいいと思ってたが…どうやら面白くなってきやがった!」


 そんな僕をまじまじと見続けたライリーさん何処か晴れ晴れとした表情で笑い出した。

 こうして、僕は一人目の新たなプレイヤーとの交渉を、何とか形にしたのだった。

しばらくは図鑑優先で更新していきたいと思います。

一応、新作も応援していただけると幸いです。


【1章 完】幻想世界のカードマスター ~元TCGプレイヤーは叡智の神のカード魔術のテスターに選ばれました~

https://ncode.syosetu.com/n8214hg/

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