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第11話 ~天空の戦い~

 その光景を、ナスルロン連合の諸侯の兵は見た。

 天幕の陰から怯えるように、成す術も無く立ちすくみながら、逃げ込むように飛び込んだエッツァー支流の流れの中から、この世の者とも思えぬ光景を、彼らは確かに見た。

 天空遥か高く、下弦の月に照らされて、共に炎を舞い散らせながらぶつかり合う二つの巨大な影を。


 片や竜。伝説の中だけのものと思われていた、そしてそれよりも尚恐ろしい三つ首の異形。

 先まで明確な脅威としてナスルロン連合の鎧兵を焼いていた巨竜は、天空に有るだけならば何故か神々しく、美しくさえあるようにも見えた。

 それは魔力を帯びた鱗が暗赤色から黄金色に変わったことも理由の一つであろう。

 もしくは雷光が近くならば脅威であるとしても遠方ならば光のきらめきとしか目に映らぬ事とも似ていたかもしれない。


 もう一方は、翼より炎を上げて翔ぶ巨人だ。

 こちらは黄金に変じた竜に対するように、白銀を月光で煌めかせる鎧で全身を覆っていた。

 信じられない事に、その背に広げられた翼は相対する竜のモノに似て、さらにはあちこちから炎を噴き上げている。

 体躯こそ竜の全長の半分ほどにとどまるだろうが、手にした剣のなんと恐ろしい事か。

 光そのものを打ち固めたかのようなそれは、唯一神教の坊主共が時に嘯く天罰の化身が持つ神剣とさえ思わせる。


「…神話か、これは」


 それは誰の声であったのだろうか?

 天空で繰り広げられる戦いは、地を這う者ではあまりに遠く、見守る事しか出来ない。

 自分たちが一体何に関わろうとしているのか?

 今更ながらにその問いを突き付けられたようで、多くの兵達は言い知れぬ不安に身を震わせた。



「だらっ! クソッ!! 爆榴鎧兵が居るなら作り手も居ることは判ってたけどさぁ!」


 白銀の巨人が繰り出す打ち込みを含んだ突撃を紙一重で軌道をそらし、竜王騎士アルベルトは悪態をついた。

 突如現れた脅威に対して口汚く悪態をつきつつ、自身の愛竜たるヴァレアスへ迫った巨像の一撃を手にした槍で辛うじて逸らしたのだから、アルベルトは誇っていいだろう。

 しかし当の本人は全く喜べる心境ではない。


神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)とかマジかよ! それも飛行型とか!!」


 目の前に現れた脅威である神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)は、全くもって厄介に過ぎたのだ。


 <創造術師(エンチャンター)>系のクラスで製作可能になるゴーレムは、その材質や組み込む魔法装置によって性能がそれぞれ全くの別モノになる。

 適当に土で作った土塊魔像クレイゴーレム等であれば精々丈夫さだけが取り柄の盾扱いだ。

 しかし材質に吟味を重ね、また使用量を重ねることで性能が飛躍的に高まるのだ。

 何処かの<万魔(マスター・オブ)の主(・パンデモニウム)>が作り上げた超合金(ハイブリッドメタル)魔像(ゴーレム)などは良い例であろう。

 かの魔像は、如意神珍鉄(オムニメタル)神鉄(オリハルコン)剛鋼(アダマンタイト)真銀(ミスリル)等のレア素材をふんだんに、かつ必要な部位に最適となるよう使用された逸品だ。

 複数の変形機構を持つ50m級の魔像と言うのは、かつてのAEにおいても理想値レベルのまず作ろうと思わないような代物であった。

 それは、神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)も同様と言える。

 何処かの<万魔(マスター・オブ)の主(・パンデモニウム)>とて、全身を神鉄(オリハルコン)のみで作り上げる魔像と言うのは何かの冗談として首を振るような代物である。

 如意神珍鉄(オムニメタル)神鉄(オリハルコン)と言うのは、特に強度が必要な部位に使用されるにとどまるレア素材の中でも特に希少なモノだ。

 当然それを20m級とは言え大型の魔像全てに使用するというのは常軌を逸した行いである。


 問題は、アルベルトの目の前にその常軌を逸した代物が居て、明確に敵対して来るという事実であった。

 その装甲は竜の爪や牙でも容易に傷つけられず、各種のブレスも効きにくい。おまけに機動性は同等と来て、相手の持つ光刃剣は特定の属性の防御以外は無視してくると来ている。

 さしもの竜王と竜王騎士にとってもやり難い相手だった。


「「「わが友よ! どうするか? あの手を使うのならば、我に否は無いぞ!」」」

「待ってくれよ相棒。ここでアレを使うと帰りが持たないだろ? 今夜は無しだ。何とかあいつを怯ませてて離脱しようぜ?」


 正直なところアルベルトと愛竜ヴァレアスに、神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)への対抗策が無い訳ではない。

 だがそれを行えば帰路は非常に苦労することになるだろう。

 できればこの場でそのカードを切るのは避けたかった。

 故に、彼らは別のカードを切る。


「あいつの打ち込みの軌道、大体わかってきたからな。アレ、やっちゃおうぜ?」

「「「お、あれか? 久しぶりだな!」」」

「おう、あいつとあいつを操ってる奴を、ちょっと驚かせてやろう!」

「「「応さ!!」」」


 再び轟音を上げて来襲する神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)に向けて、アルベルトは笑って見せる。

 悪戯を仕掛けようとする子供そのものの笑顔で。



「おお、やるねぇ。オレっちの伍式迅雷にあれだけ打ち込まれて無事とは大したもんだなぁ」

「途中乗り手が光刃剣を弾くのを確認しました。乗り手もかなりの使い手かと思われますわ」

「おお、良いねぇ。こんな風に敵味方に分かれてなければ、仲良くしておきたい位の腕前じゃんか。それだけに惜しいけどなぁ…」

「はい、マスター。契約は履行する必要がありますわ」


 地上からその戦いを見守っていたライリーとその女中(メイド)は、自慢の神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)相手に見事な立ち回りを見せる竜王とその相方を称賛していた。

 まさしく余裕の表れだ。

 神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)は強靭さからめったなことでは傷つかず、手にした剣は一度当たれば大ダメージは免れない。

 幾ら強化を重ねた竜王といえど、このままならば倒せるはずだ。

 一応早期決着の手段もあるのだが、その手は非常にコストがかかる。

 手持ちの各種精霊石が限られている以上、うかつに切れない手であった。

 同時に相手も倒されるまで何もしないわけが無い。

 適当なところで撤退を考えるはずで、それはライリーとしても依頼通りである為楽観していたのである。

 だがそれまでと同じくぶつかり合った二つの影は異常をきたす。


「あ? 何だ? 何をしてるんだ?」


 再び交差しそして今まではすれ違っていた二つの影は、重なったままなのだ。

 ライリーはその影の在り様に訝しげな声を上げる。

 次の瞬間、さらなる変化が起こった。

 重なり合ったままの影が回転したかと思うと、一転それまで無視していた大地の引く力に身をゆだねたかのように落下していくのだ。


「お、おい…何で落ちてるんだよ…何やってんだあいつら!?」

「確認いたします。少々お待ちを…あっ!」


 女中が目元に手を当て、不思議な音を立て始めたかと思うと目を見開く。

 そのまましばらく凝視していた女中は、驚愕の色を浮かべて主に振り返って告げた。


「マスター、()()()です!」

「…はぁ!?」

「竜の首が絡まって、迅雷の関節を極めてます!」

「…何やってんのあいつら!?」

「コブラツイストならぬドラゴンツイストです!!」

「いや、何か違うから!?」

「さらにそこから落下です! あれがマスターが言っていたプロレスというものなのですね!」

「訳わかんないよ!? ってか、メルティお前、何でそんなに楽しそうなんだい!?」


 マスターとメイドが想定外の状況に混乱する中、竜と巨人は落下していく。

 誰が思うだろう。

 襲い掛かる剣を竜騎士が渾身の力で弾き飛ばすと同時、竜王が三つの首を大蛇のように巨人に絡ませるなどと!

 更には大地めがけて落下してくなどと!

 重なり合った竜と巨人の姿に、呆然と戦いを眺めていたナスルロン連合軍の兵達は我に返ると同時に慌てふためく。

 あんなものが落ちた先に居たら、死体が残るかも怪しいだろう。


「ったく、正気かよあいつ!? ……あぁ? あの軌道は……そうか、そういう事か…やるじゃん」


 勿論天空の遥か彼方からの落下となれば、竜も巨人もただでは済まない。

 ライリーは相手の正気を疑ったが、その落下の先を改めて確認し、その意図を理解した。

 様々なことが起き過ぎ混乱していたホッゴネル家の家臣は、その様子に恐る恐る問う。


「…ど、どういう事ですかな!? ライリー殿!?」

「川だよ、川。えっちゃんだかエッツァーだかいう川。あいつ、あそこに落ちるつもりだ。考えやがったなぁ…」

「エッツァーですと!? あそこには補給物資を乗せた船が未だに…っ!?」

「もう遅いって、ほら、もう落ちるよ」


 ライリーが指摘すると同時に、螺旋さえ描いた二つの絡まり合った影は、エッツァー支流へと落下した。

 途端に立ち上る、皇都の尖塔をも超えかねない巨大な水柱。

 エッツァーは支流と言えども水深はかなりのものだ。

 衝撃は津波じみて水面を荒れさせ、補給物資を乗せたままの川船が次々に煽られ腹を上に向ける。

 更には岸近くの天幕までが波に洗われ、補給物資が水に浸かっていく。

 爆榴鎧兵への被害と併せて、ナスルロン連合の行軍に多大な影響が出るのは間違いない被害だった。


「なんという被害が…」

「おまけに竜王は属性次第で水中も行けるんだよなぁ…逆に、空戦仕様の伍式じゃあ水中は厳しい。まんまと逃げられたなぁ」

「素晴らしい関節技でした、マスター!」

「…メルティの好みは、作ったオレっちにもよくわかんない時があるなぁ」


 顔色が蒼白にまでなった家臣に比べ、手持ちの神鉄魔像(オリハルコンゴーレム)を退けられた主従の側は暢気なものだ。

 今頃悠然と帰路についているであろう竜王を思い、大波が次第に収まりつつある大河の支流を見やる。

 こうして、フェルンの動乱の一幕目である竜と巨人の戦いは幕を下ろしたのであった。


 実際のところこの戦いにより、ナスルロン側の行軍は大幅な計画見直しを余儀なくされる事となる。

 それは同時に、フェルン側にとっても言えた。

 空を行く戦力である竜王に拮抗しうる戦力が存在すると明らかになった為である。

 隠していた戦力を出さざるを得なかったナスルロン側にとって痛手ではあるが、フェルン側にとってもうかつに竜王と言う戦力を動かしにくくなったのもまた事実であった。

 両者ともに相手の切り札と言うべき戦力への対処に頭を悩ませることとなるのだが、それは今語られる内容ではなかった。

 今語られるべきは…


「おのれ…! フェルンの平地這いどもめ…! このような事で儂は負けぬ! 儂が! ホッゴネルこそが…っ! 奴らよりも…!」


 誰も近寄らぬ天幕の中。

 被害の大きさと屈辱に身を震わせ、るホッゴネル伯爵と、その手の内、ひどく濁った赤い光を帯びる指輪こそ。


 かくして、フェルンの動乱は次の幕へと移ってゆく。

 

しばらくは図鑑優先で更新していきたいと思います。

一応、新作も応援していただけると幸いです。


【1章 完】幻想世界のカードマスター ~元TCGプレイヤーは叡智の神のカード魔術のテスターに選ばれました~

https://ncode.syosetu.com/n8214hg/

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